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絶望町一丁目さなぎ荘

2006年09月06日 16:42


ふと引っ越しをしようと思い立ったので
不動産屋へ行った
そこは猫が沢山いる裏路地に建つ
非常に怪しげな店なのだが
近辺には他に不動産屋が無いのだ
わたしは
路地で絡み付いてきた猫を
そのままにして店の前に立った
脚にくっついていた三毛がぼとりと落ちた

不動産屋の主人は
とても狡猾そうな顔をした男だった
引っ越しをしたい旨を伝えると
では幾つかご案内しましょう
と言ってリヤカーを持ってきた

今はギャソリンが高いですからね
これを使いましょう

厭ですよ
だったら歩いていきましょうよ

駄目です
私は足が悪いんです

あなたが乗るんですか

そうですよ

わたしが牽くんですか

そうですよ

わたしは客ですよ

しょうがないじゃありませんか

やはり狡猾な男である
仕方なくリヤカーを引っ張ると存外重かった
まったくやりきれない

主人はうまそうに煙草をふかしている

しばらくうんうん唸りながら
リヤカーを引っ張っていくと
急に町並みが変わった
変わったというか
まるきり違う世界になった
砂漠に入ったのだ
舞い上がる砂埃に顔をしかめていたら
主人が一軒のぼろい建物の前で
ストップストップ
ここです
と言った
何がストップだ
気取りやがって

そこは「さなぎ荘」と書かれた
鉄筋の小さなアパートだった
不動産屋の主人は
なぜか急に悲しそうな顔になって
ここで待っていてください
家主さんを呼んできますから

とぼとぼ歩いていった
実を言うとわたしも先程から
なんとなく沈鬱な気分になっていたのだが

不動産と一緒に来た家主は
老婦人で
これもまた悲しそうな顔をしていた
そして
二階が空いているのです
空き部屋なのです
と言うなり泣き出してしまった

ど どうしたのですか
問うと
不動産屋が
もらい泣きしながら
ここは絶望町といって
来た人はみな悲しくなってしまう場所なのです
と答えて鼻をかんだ
その横で家主は
泣きに泣いて

一時間ほどそうしていただろうか
家主は
どうしてか縮み始めていた
体内の水分がうしなわれてゆくんだろうか

考えているうちに
みるみる目視出来ない大きさになり
ついには砂の上に
小さな染みを残して消え去ってしまった

呆然としていると
不動産屋も縮み始めている
何とか食い止めようと
しっかりしてください
空は青いですよ
あなたは元気ですよ
等と慰めてみたのだが
不動産屋はいちいち
メランコリックな返答をするばかりで
たとえば
しっかりしてなくてごめんなさい
とか
空の青は悲しい色です
とか
わたしはきっと死ぬんです
とか

次第に欝陶しくなってきたので
いつまでもそうして
泣いているがいいよ
と邪険に言うと
不動産屋も消えてしまった
不動産屋の涙は瑠璃色で
砂の上には幾つか
瑠璃色が凝固したものが落ちていた
拾い上げたら指が染まった
そこいらにあった水道で洗ったのだが
色素沈着したのだろうか
全く落ちなかった
どうしようもなく悲しい気持ちだった

リヤカーに戻ると
少し気分が晴れたので
荷台に置いてあった不動産屋の煙草
それはキャビンで
わたしは一度も吸ったことが無かったが
ともかく一本くわえて火を付けた

そうして瑠璃色の涙に
持っていた紐をとおし
首にかけた

暮夜がせまっていた

リヤカーを置き去りにして家に帰った

不動産屋があのあとどうなったかは知らない
ギャソリンは日々値上がりしているから
リヤカーが無いと
困るかも知れない

何度か探しに出掛けたのだが
どうしてだろう
二度と
絶望町には辿り着けなかった

瑠璃色のペンダントはその年の暮れ
大掃除のあとに失くしてしまった
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コメント

  1. しょーたろー | URL | -

    良いです

    このイメージ大好きです。寂しくて綺麗、ギリギリで踏みとどまっているような感覚を味わいました。

  2. 水月晶 | URL | mQop/nM.

    not subject

    なんだか宮澤賢治を思い出します。
    美しいけれど哀しくて、なんというか風刺というのか批判というのか。
    長い詩を、長いまま読みたいです。
    携帯から打つのは大変でしょうが。
    応援しています。

  3. こぬぅ | URL | ogaFTjQM

    とっても絵的。素敵です。

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