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バーバーキタザワ

2010年10月14日 20:21

物心ついたころから
髪型はずっとおかっぱだった
少し伸びて毛先が不揃いになると
学校帰りに近所の床屋へ寄る
そうすると顔見知りの理容師さんが
銀色の鋏でざきんざきんと切り揃えてくれた
レイヤーとか段とか重めとか軽めとか
そういうことは一切聞かれなかった
その容赦のなさに安心していた

待合室には
頁の黄ばんだ少年漫画や青年漫画が
全巻揃っていて
散髪が終ったあとも
なんのかんのと理由をつけて
待合室のソファに座らしてもらい
それらを読み耽ったものだ
うちでは
漫画は頭が悪くなると言われて
買ってもらえなかったから

夕暮れ
外は茜色に染まり
読んでいる漫画の巻は
いつも一番いいところで終わる
店内にはトニックのにおいがしていて
分厚い硝子を通していろいろな音が聞こえてきていた
小さな女の子たちの嬌声
原付の通り過ぎる音は
大きな昆虫が飛び去っていく音に似ている
午後五時に遠くから波紋のように響いてくる学校のチャイム
床屋の扉が開くたび
お客さんと一緒に
近所の肉屋で揚げているコロッケのにおいが入ってきた
剃ってもらいたての襟足がすうすうして
なんだかたまらない気持ちになった
スラムダンクを読みながら
このまま死んでしまいたいとさえ思った

あれから
故郷を離れ
大人になったわたしは
床屋ではなく
お洒落な美容室で髪を切るようになったけれど
あそこで感じたような
圧倒的な甘い幸福感を感じたことは二度とない

なんとなくだけど
わたしは
人生で大切なことの
三分の一ぐらいは
あのちっぽけな床屋で学んだと信じている

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