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おこめ

2010年05月17日 05:03


初夏
水田には勢いよく稲が育ち
あんまりどこも緑色なので
じっと見つめていると
眼が緑色に染まってしまいそうだ
実際
おこめを育てている農家の人は
緑色の瞳を持っている人が多い
青々とした稲を見すぎている為だろう
よく見えないんじゃないか
と思うような真緑のその眼で
笑いながらすいすいと水田を行き来したり
じっと立って空を眺めていたりする
さあさあと水田の上を吹き渡る風は
どこか遠くの雨のにおいを運んでくる


おこめには一粒に一人ずつ
神様がついている
と言われて育ってきた
神様かどうかは知らないが
確かに
不意に米びつを開けると
無数の小さいものが
いっせいに逃げていくところをよく見る
どうにも気になったので或る日
その小さいものをひとつを捕まえてみた
掌の上に載せてよく見てみる
人のかたちをしていた
透き通るような五本の指の手と
芥子粒ほどの眼を持ったそれは
どうやら小さな女のように見えた
何語かわからない言葉をわめいている
どうしていいかわからなかったので
口の中へ含んで噛み砕いた

ひどく甘い味がした


米を異常なほどに好きな女の子を一人知っている
小学校のときに隣の席に座っていた子だ
華奢な体をした彼女は
給食の米飯を何度もおかわりして
おかずは食べずに米ばかり
むしむしといっしんに食べていた
そんなに仲良くもなかったけれど
なんだか異様だったのでよく覚えている

そんな彼女が最近死んだという噂を聞いた
昔のように米飯ばかりを大量に食べたあと
満足そうに微笑んで
ころりと死んでしまったそうだ
死因がよくわからなかったので
解剖してみたところ
体中の骨という骨の間に
米飯がびっしりと詰まっていたそうである

そういえば
おこめは骨と同じ色をしている


掃除をして
部屋の隅から出てきたおこめは
一粒ずつ拾って掌に集め
庭へ埋めてやることにしている
そうしないとなんとなく怖い
おこめを粗末にすると眼がつぶれるとも言うし
食べなくてもせめて埋葬してやろうと思うのだ
庭へしゃべるで浅い穴を掘って
その中に拾ったおこめを落とす
土をかぶせて足で踏みしめる
そうして埋めたおこめが
芽を出したことは一度もないが

先日の夕暮れ時
庭一面に無数の稲が
青々と生えているのを見た
眼の錯覚かも知れないが
日が落ちきってしまうまで
ずっと見えていた
分け入っていこうとしたら
消えてしまった

このごろよく思うのだが
わたしは死んだら
あんな風に
青々と稲の繁った
水田の中へ行くような気がする




月刊 未詳24 2010年5月第38号投稿
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