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聖ウァレンティヌスの日

2010年02月16日 09:34


父親に似て武骨な掌をしているわたしは
繊細な作業には生来向いていない
折り紙を折ろうとすれば
指の中で次第に湿り
くちゅくちゅの臓物のように歪んでゆくし
絵を描けば木々はむっくらと空高く
無数の人影が伸びあがっていくような
不気味な仕上がりになってしまう
だから
バレンタインデーに
見目よいお菓子を作るなんて
ましてや誰かにあげるなんて
一度もしなかったのだけど

あるとき何を間違えたのか
本を見ながら一度だけ
トリュフなるものを作ってみたことがある
仕上がりは勿論さんざんで
チョコレートと生クリームしか入れていないのに
何か尖ったものが
棘のように突き出しているし
ぞめりとした質感は腐葉土のよう
どうしたって丸めるときに
爪や髪の毛や他のもろもろが
入り込んでしまったとしか思われない
自分で食べる気にもならなかったから
粉々に砕いて深く埋めたのだ
やはり壊す方がよっぽど楽だ
埋めた上を固く踏みつける
何かが芽生えてしまわないように
7歳のわたし
いつまでもいつまでもそうしていたんだ


何年か前に付き合っていたひとに
バレンタインには子供が欲しいと言われた
別に結婚するつもりじゃない
ただいつくしむものが欲しいんだと
それで一ヶ月前から
一生懸命子宮を動かして
何か作りだそうと頑張ったのだけど
不完全なわたしのからだに
完全な子供が宿るわけもなくて
バレンタインデーの前日
ころりと生まれたものは
赤い車輪のついたアヒルの人形だった
よく見ると小さな歯型が付いていた
それはおそらく昔もっていたけど
いつの間にか失くしてしまった
わたしのお気に入りの玩具だったのだろう

付き合っていた人とは
それから間もなく別れてしまったのだけど
あのとき産んだ人形は
歯型のついたままハンカチに包んで
大事に引き出しにしまってある
夜中こっそりいつくしんでみる
さびしい夜には殊更つよく
体液と唾液のにおいが漂う
いつくしむものが欲しいんだと
言ったあの人の気持が今なら少しだけ
ほんの少しだけ
分かるような気がする


女の子から唐突に
手作りのチョコレートを貰ったことがある
彼女のことはあまりよく知らない
携帯カメラを構えて写真を撮って
あとで画像を見返すと隅の方に
ちんまりと俯いて写っているような
そんな子だった

アルミ箔でベコベコに包まれたそれは
思いのほか重く
帰宅してから開封したら
ぼろりと崩れた真っ黒な塊が出てきた
割れた面からはところどころ
わたしの吸っていた煙草が飛び出していて
丸文字で
煙草好きなんですよね?
と書かれた
ぴんくいろの便箋が添えられていた

びっくりしてすぐに裏庭で燃したけど
それは血のようなにおいをまき散らし
いつまでもぶすぶすと燻っていた

今頃あの子なにしているんだろう
先日画像ファイルの整理をしたときに
隅の方にあの子が写っている写真が残っていて
深く煙草の煙を吸い込む
いまごろあのこなにしてるんだろう
あれからすぐ変えた煙草の煙は
窓の隙間から細く細く逃げて
前よりもずっと軽やかに空に溶けてく




月刊 未詳24/2010年2月第35号 投稿
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