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元日

2010年01月01日 20:13

(朝)

まぶたの裏が
一面塗りつぶされたように青く
ときおり光がちらちら反射する
ああ海の夢を見ている
これ以上見ていたら溺れてしまう
と思って目が覚ましたが
目が覚めても相変わらず辺りは真っ青で
あれえ
わたしもうとっくに
溺れてしまっていたんだろうか
と思ったが
それは違って
部屋に掛けてある青いカーテンをすかして
陽光が差し込むために
そこいらじゅうむやみに青いのだった
カーテンを開けると
夜のうちに誰かがいっしょうけんめい
雑巾と洗剤でぬぐったみたいな
ぴかぴかの太陽が出ていた
元日である

蕎麦の切れ端が浮いている
昨夜のおつゆの残りに
餅をいれて火にかけた
ちょっと考えて
暮れから大切に食べていた卵の
最後のひとつをぽっと落とした

(昼)
裸になって
やわらかい陽射しが射し込む浴室に入る
足裏にタイルはひんやりとして
世界中にわたししかいなくなっちゃったみたいな
そんな感触がする
お湯を張った浴槽にとぷりと浸かると
去年までの垢がお湯の表面に浮かんでくる
それらは何故かみな
二等辺三角形のかたちをしているから
皮膚にびしびしと突き刺さる
痛い
ああわたし
去年一年間は
こんなにも張りつめて生きていたんだ
薄く血のにじむ皮膚を眺めながら
すこし咳き込んだ

(夕)
外出をしようとドアを開けると
挟まっていたものが玄関に落ちた

と書かれたおみくじだった
待ち人待てども来ず
とかなんとか書かれていて
読んでいるうちに手が震えてくる
待ち人待てども来ず
黒々と明朝体で印刷された文字は
呪いのように眼の中にしみてゆく

ひとしきり震えて気が済んだので
おみくじを適当に折りたたみ
ジャケツのポッケットへしまって
靴を履いて家を出たが
小さな生き物が騒ぐみたいに
ポッケットで
始終かさかさ鳴るのには閉口した

(夜)
近所の寂れた神社へ行った
騒がしいのが厭なので
ここ数年
初詣は必ず元日の夜に行くことにしている
おみくじを木に結んでしまってから
そむそむと苔を踏みつけて歩き
結び付けられている絵馬を
そうっと裏返して読んでみる

家内安全無病息災
子供が無事に育ちますように
今年こそ結婚できますように
東大合格
夫の病が治りますように

無数の願いが書かれた
まっさらな絵馬からは
祈る声が囁きとなって立ち上り
そこいらじゅうに
ざわ、ざわと満ちている

もう片づけを始めている販売所で
わたしもひとつ絵馬を買った
フェルトペンを握りながら
さて何を書こうかと
しばらく考えて
結局

時計の電池替えるの忘れないこと(単三)

と書いた
なんだか間違っているような気がするのだけれども
仕方ない
そのままぶらさげる
不器用なわたしの手で結ばれた
不格好な結び目の絵馬は
しばらく揺れて
そのうち
他のものと見分けがつかなくなってしまった
ふ、と笑う
わたしきっとこんなふうに
今年も生きていくのだろう

空の遠くには月が
笑った口のかたちで貼りついていて

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