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ミコ

2009年08月04日 03:10




お提灯のあかりって魂みたいだわ
長いことミコはそう思っていた
ミコの両親はずいぶん前に死んだ
死因がなんであったか
ミコは覚えていない
覚えているのは
うちの中が黒い服を着た
影法師みたいなひとびとでいっぱいになって
そのときもお提灯はともされていたことと
長く長く続くその儀式の間中
台所の薄暗い隅っこに
しゃがんでいたことだけである


夏祭りのときに
ミコは山車の上で踊るひょっとことおかめを
長い間じっと見つめていた
どういうわけか
それが両親のように思えて仕方なかったからだ

あのお面を外してくれないものかしら
もし外してくれたら
ミコの両親かどうかすぐわかるのだけど
しかしひょっとこもおかめも
けしてお面を外さないので
あれが両親かどうか
ミコにはついぞわからないのだった

夏祭りにくるひとたちの中には
もうとっくに死んでいるひともいた
そういうひとは
誰とも並んで歩かずに
ただ悲しそうに宙を見つめているのだった
生きているときよりも少しだけ
褪せたような色で


ミコはおもちゃのらっぱを持っていた
それは両親が存命中
唯一ミコに買い与えたもので
プラスティック製のそれは
ばかみたいな黄色をしていた
類推するに
ミコはあまり両親に愛されていなかったのだろう

夕暮れ
ミコは道をあるきながら
時々らっぱをぷうぷう吹く
らっぱには音を調節するような
バルブもレバーもついていないので
ミコの鳴らす音はいつも一定だった
冬の日の木枯らしにも似たその音は
いつだってかなしげなラの♯だった


ミコはいなくなってしまった
いなくなったというよりは
失われたと言ったほうがいいだろうか
ある日
青い車に跳ね飛ばされて
あっけなく死んでしまったのである

ミコが最期に見たものは
走り去ってゆく青空の色の車で
あの車はきっと空へのぼってゆくのね
わたしを連れにきたんだわ
とそれだけ思ってミコは死んだ

蜜柑箱ほどの大きさの棺には
黄色いらっぱと
ミコのいつも着ていた
紺色のジャンパースカートが入れられた
それを
あまり好きではなかったかもしれないのに
あまり好きではないと言わないままミコは死んだ
棺の中の顔は
ほんの少し口をあいていた
びっくりした時の口元だった

ミコは今頃
地中ですっかり腐りはてているだろう
そうしてその横には
いつまで経っても腐らない
黄色いらっぱが埋まっていることだろう

夏祭りの祭りばやしが
どこか遠いところから聞こえてくる
ミコはもういないのだけれど
お提灯のあかりはやっぱり
魂のようにぼうぼうとともっているのだった
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