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父と煙草

2009年08月01日 20:31




父は煙草のみだった
階段の二段目にいつも
暗赤色のパッケージのチェリーを置いていた
わたしの幼い頃の記憶は
チェリーの甘いにおいと
母に叱咤されながら
背中を強く叩かれているところから
始まる


小学校低学年の図工の時間
紙粘土と絵の具とニスで
何か作りなさいと言われた
他のみんなは
指輪だのパトカーだのきりんだのを作っている中で
わたしは一人だけ灰皿を作った
どっしりとした硝子の
探偵事務所とかによく置いてあるような
そんな灰皿を真似たつもりだったが
どういうわけか赤と黒とで色をつけてしまったので
硝子の灰皿というよりかは
消火器に似てしまった

父はその珍妙な灰皿をしずしずと
二階の母の箪笥の上に置いた
そして
けしてそこから動かさなかった

長じてから
そっとそれを持ち上げてみたとき
裏面に
父の達筆な文字で
1990年.長女.6歳
と書かれた
小さなラベルが貼ってあるのを見つけた



中学生のとき
父の煙草を裏庭で焼いた
父はワンカートンの煙草を買ってきて
書斎机の端に
一箱ずつ
まるでタワーのように積み上げる癖があったので
そこから数個持ち出してきて
チャッカマンで火をつけた

裏庭はものすごいにおいと煙とで
ぼんやりと白くけぶった

夏の終わりだった
薄ぐらい裏庭は土と猫の小便のにおいがして
父は二階で
眠っているのか死んでいるのかわからないくらい
静かに眠っていた

わたしは
腹立たしいような悲しいような
凶悪なようなうすあおい気分で
燃え盛る炎を眺めていたのだった

あの感情に
未だ名前をつけることができない



月刊 未詳24/2009年8月第29号投稿
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