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ワーカホリック

2009年07月05日 07:39


夜道を歩いていると
ギターを背負った作曲家らしき人が
しゃべるで土を掘っているのに出くわした
掘られた穴は
周囲に花弁のように無数に散乱し
いずれもくろぐろと口をあいていた
ねえ どうしてそんなに穴を掘るのですか
と聞いてみると
作曲家はにやにやしながら振り返り
実はこの下にまだ誰も知らない旋律が
埋まっているはずなのです
僕はどうしてもそれが必要なので
掘り当てねばならんのです
と言う
背負ったギターはよく見ると
弦がすべて切れていて
しかもところどころひびが入っていて
二度とつかいものにはならなさそうだったが
作曲家は夢中で掘り続けている
柄を握り締める手は爪がところどころ剥がれていて
それももう乾いてがさがさだ
きっとずいぶん前からこうしているのだろう
なんだか
ひどい嵐にいためつけられた
植物を見るような心持ちである
しばらく眺めているうちに
作曲家は背中をふるわして
低い笑いを洩らしはじめた
その笑い声は
まるでそれ自体が一つの旋律であるかのように
暗闇に美しく響いたのだった


何年か前に
探検家になるんだと真新しい背嚢を背負って
ふらりとどこかへ行ってしまった友人に
偶然駅で再会した
おうと手を挙げる友人は
出発前よりもずいぶん陽に焼けて
眼を
まるで熱に浮かされたかのように
終始ぎらぎら光らしている
あのときは真新しかった背嚢は
ずいぶん使い込まれてくたくただ
ようと返事をして立ち止まり
少しその場で立ち話をした
友人は手にしおれかけた熱帯の花を握っていた
それは何か と尋ねると 妻だ と答える

だってそれ花じゃないか

いや妻だよ
かわいいだろう

にこにこしながら言う
どうやらあまりに自然ばかり見すぎたため
少しく混乱しているようなのだ
別れ際
土産だと言って
紙に包まれた何かの塊を渡してきた友人は
もうすぐ家に着くからね
とあやすように花に言いながら
振り返りもせずにふらふらと群衆に紛れて行ってしまった

帰宅してから電燈をともした机の上で
もらった紙包みをひらいてみると
箱に詰められた大量の虫の死骸が出てきた
几帳面な友人らしくどの死骸も
尻をまっすぐ下に向け足をそろえた格好になっている
きれいな色のものばかり選んだのだろう
電燈に照らされたそれはまるで
絵画のようにさえ見えたのだ
ああ あいつはもうこっちには戻ってこないんだろうな
わたしは死骸を箱ごと燃えるゴミの袋に投げ入れて
深いため息をついたのであった


わたくしはメイドであります
古いお屋敷にご主人さまと二人だけで暮らしております
ご主人さまはとてもお優しい方で
わたくしはお掃除やお料理が下手くそなのに
叱ったりせずに笑って見守ってくださいます
お庭も大変広くて
さまざまなお花がいつでも咲いております
ご主人さまが自らお世話をされるのです
ぽってりと開いた大輪のお花は
色濃くかぐわしく美しいです

わたくしはメイドであります
ご主人さまは何もおっしゃいません
もうずいぶん前から黙りっきりでいらっしゃいます
お料理をお部屋へお持ちしても召し上がりません
あまりお味が悪いので召し上がれないのでしょうか
お料理のそのまま残されたお皿を下げるとき
いつも悲しい気持ちでございます
ほこりまみれのお屋敷はとても広くて
いくらお掃除をしても追い付きません

わたくしはメイドであります
ご主人さまのお部屋からは
ことりとも音がいたしません
ベッドに横たわっていらっしゃるご主人さまは
随分とお瘠せになられたようです
お肌も真っ白になっていらっしゃいます
何かのご病気なのでしょうか
お呼びしても何もお答えになりません
触れてみるとご主人さまのお体には
厚く埃が積もっておりました

わたくしはメイドであります
メイドでありますので
ご主人さまのお赦しがない限り
ここから去ることはできません
わたくしは花咲き乱れるお庭のある
大きいお屋敷で
毎日お掃除とお料理をしながら
お優しいご主人さまと二人きりで
大変幸せに暮らしております




※ワーカホリック―仕事中毒。生活の糧である筈の職業に、私生活の多くを犠牲にして打ち込んでいる状態を指す言葉
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