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桜桃が実る頃の日記

2009年06月26日 05:25


6月×日
すれ違う女子の肌の露出具合に夏を感じる。
中でも白く細く長く、全く以ってすばらしい脚をした女子に暫時つきまとってみる。通報されそうになりやめる。
そのあとふらふら歩いていたら、さっきのすばらしい脚の子がぺとんと転んでいるのが見えた。
あ、と思って眺めていると、すばらしい脚の子は、どこからかわらわら駆け寄って来た男子たちに、脚から何から全部持っていかれてあっという間になくなってしまった。

あとにはその子がつけていた、蝶の形の髪留めが落ちていて、風に吹かれてかろかろ云っている。

男子たちはあれをどうするのだろう。夢中になって食べるのかも知れない。あれはたしかにすばらしい脚で、お菓子みたいにおいしそうだったものなあ。


6月〇日
サンショウウオから電話がかかってきた。
電話が鳴ったので、受話器をとって耳に当てたら、
わたくし、サンショウウオと申します。
と言ったのだ。本物かどうかはわからないけれど、とてもいい声をしていた。
何の御用でしょうかと尋ねると、どうかわたくしの棲みかに来てほしいのです。あなたはまったく魅力的な雌の顔をしております。と言う。
はあ、わたくしは人間でありますが、と言うと、ええええ、まあそうでしょうとも、大概はね、と言う。わたくしは泳げませんので、水の中には行かれませんと言うと、私は陸の上にあがることもできます。わずかな時間ですが。と、どうも諦める様子がない。
とにかくわたくしは異種と交際するつもりはありませんので、ときっぱりと断わりの口上を言って電話を切った。
以来、サンショウウオからは、三日に一度の頻度で電話がかかってくる。わたしに交際する気が全然ないのを知ってか、今日はいいお天気で大変結構でございました、とか、池の水は澄んでおります、とか、当たり障りのない世間話を、いい声で少し喋って、電話を切るのである。
国語辞書で調べたら、サンショウウオは一般には百年生きると云われているらしい。困った。もしそうだとしたら、死ぬまで見守られてしまう。
電話が鳴る。どきんとする。
この頃では、サンショウウオの棲みかに行って、あのぬめりとした肌を触ってみたいような気もするのである。
全く以て、世知にたけているなあ。さすがは両生類である。暑い日だ。空を見上げる。池の水は澄んでいるらしい。


6月△日
すっかり熟したトマトやはち切れそうに水を含んだ胡瓜やつぶつぶと骨の色をした玉蜀黍など、この頃の野菜類はむっちりとした人の手足のような形をしている。
気持ちの凶悪な夜などに、台所に立ち、すこんすこんと切り刻むと、切り口から透明な液がたくさんにじみだしてきて、包丁もまないたも指も、みんな濡れてしまう。まるでひどいことをしているような気持ちになる。ふ、ふ、と息を荒げながら続ける。気持ちが穏やかになるまで続ける。
そのあと、切り刻んだ野菜をぶきぶきと噛み砕く。青臭いにおいがくちいっぱいに拡がる。塩もドレッシングもかけずに、これはあのひと、これはあのひと、と呟きながら、そのまま全部食べてしまう。
台所の薄暗い灯りの中で、歯がいつもよりとがったわたしは、獣の顔をしているに違いない。
どうせならそのまま獣になれたらどんなにか楽だろう。溜息をつく。
月が蒼い。夜明けはまだ遠いらしい。


月刊 未詳24 2009年7月第28号 投稿
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