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夫の浮気

2009年06月19日 08:35


夜九時
知らない香水のにおいをさせて
夫が帰宅した
なんだか疲弊している様子である
立ったままコップ一杯の水道水を飲みほして
すぐさま寝床へ行って横になってしまった
脱ぎ捨てられたシャツをたたんでいるときに
汚れが付着しているのに気づいた
よく見るとそれは汚れではなく
小さな楕円形の卵である
何匹か死んでもいいように
大量にうみつけてあった
なんとなく女の仕業だなと思う
連なった卵のうちのひとつを
爪で削ぎ取ると潰れて
嫌な色の汁が
執着しているみたいに染みを作った


昼間
夫が出勤したあとに部屋の掃除をしていると
夫の使っている部屋から
虫の脚がたくさん出てきた
ちりとりで集めて灰皿の中で燃やした
あの人は何に騙されているのだろう
そういえば最近夫からのメールには
いやに句読点が多くて
文章全体が虫に喰われたように見えるのである
考えすぎかもしれない
と思いながら
殺虫剤を部屋中に散布した


夫が蜘蛛に抱かれている夢を見て
はっと目を覚ました
手を伸ばすと夫の体はそこにあるのだが
いやにねばねばする
電灯をつけると
夫の体全体が繭につつまれているのだった
そのなかで幸せそうに眠っているのだった
ああ夫は守られている
わたしが守るよりも完璧に


その翌日から夫は家に帰らなくなってしまった
電話をすると出るのだが
話している向こう側から
かさかさと
無数の虫の歩きまわる音が聞こえるのである
だんだん人間の言葉も忘れているようで
問いかけると意味のない音を発したり
奇声をあげたりする
子供ができた
と夫は言う
だからもう帰れない

うん
とだけ言って電話を切った
そのあと
愛していたのにな
と思ってちょっと泣いた


それから
一人でいることにも慣れた
ある雨の降る晩
乱暴にドアーが開けられて
唐突に夫が帰ってきた
無精ひげを生やして
憔悴しきった顔で
玄関口に座った夫は
けっこう好きだったんだけど
やっぱりあれはただの虫だったよ
おれは人間だし
あれは虫だし
なんかもうどうしようもなかった
とつぶやいた
そうか
と答えて黙った
静かに雨が降りしきっている

でもこのまま許すのも癪なので
こんどはわたしが
蝶々とでも浮気をしてやろうと思っている
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コメント

  1. 相葉 | URL | -

    相変わらず完成度が高いです。吉田さんらしからぬ主観的な詩で新鮮です。

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