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夏の話

2009年05月14日 02:26



空色のTシャツを着ているおんなのこの
胸のあたりから海鳴りが聞こえる
すれ違うと確かに海のにおいがした
それは
海草や海月や皮膚や毛や
その他いろんなものが混ざりこんで
遠い水平線から喧騒とともに押し寄せてくる
少しぬるまった海のにおいだった


夕立のときに
空を見ているのが好きだ
ばりんばりんと雷が鳴るたび空にひびが入って
簡単に世界が壊れそうな気がするから
やがて不吉な色の雲が去って
嘘みたいに晴れ上がった空をよく見ると
確かに夕立前よりも
ほんのすこうしずれている


暑がりの妹はあんまり汗をかきすぎて
いつかの夏に溶けてしまった
液状化した妹を冷凍庫に入れて
一晩冷やしてもとに戻したのはわたしだ
妹はあのときあんまり小さすぎたから
何も覚えていないと思うが
成長した妹と一緒にお風呂に入ったとき
やわらかいからだの隅っこのほうに
あの時わたしが気づかずに落とした
一本の髪の毛が混ざりこんでいるのを見た


夏の日
怠惰で退屈で何もすることがなくて
家族もみんな出かけていて
家に一人でいるときは
スプンを空に向けて少し削ると
透明なしゃりしゃりしたものが取れる
それは食べても埃の味しかしないような
あまりおいしいものではなかったから
スチール製の菓子箱に少しずつ溜めていた
雨の日に蓋をあけると
暗い部屋の中に夏の陽射しが満ちる
大切にしていたのだけど
或る日
小さい姪が駄々をこねるので
箱ごとあげてしまった

あれからいくらがんばっても
しゃりしゃりしたものは取れないし
たまに取れてもすぐに消えてしまう

大きくなった姪が遊びに来た時に
箱ごと持ってきてくれたことがあったのだけど
箱の中には陽射しなんてなくて
ただあの頃の姪の宝物
たとえばねりけしとかいろえんぴつの芯とか
瓶に入った紙石鹸とか
かたっぽだけの人形の靴が
雑然と入っているだけだった




月刊未詳24/2009年5月第26号投稿
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