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きやべつ

2009年05月07日 08:07



以前友人だったひとから電話があり
出産したから見に来てくれと言う
以前友人だったひとは
遠くに住んでいて
遠くに住むようになったから
疎遠になってしまって
それで友人ではなくなったのだけど
それでもともかく縁故のあることには変わりないので
電車を三回とバスを二回乗り継ぎ
彼女の家まではるばる出かけて行った

彼女は山奥の古い借家に住んでいる
隙間だらけのように見えるその家の戸を叩くと
桃色のワンピースを着た彼女が出迎えてくれた

彼女のほかに
人の気配はまるでなかった

ご主人だとかおしゅうとめさんだとか
そういう人はいないのかと聞くと
彼女は首を三十度ほど傾けて
いないわと答えた
それきり彼女は黙り
わたしも黙った

おもたせのシュークリームを
彼女の入れてくれた煎茶で
残らず食べてしまうと
わたしたちは
すっかり手持無沙汰になった
空は晴れ渡っていて
何かわからない鳥が高く囀っていた

ふと彼女は思い出したように手を打ち
襖をあけて隣の部屋へ入っていった
襖の隙間から埃のにおいが濃厚に漂ってくる

わたしは鞄から煙草の箱を取り出して
つぴっとした角のところを
指の腹で撫でさすったり
煎茶がまだ一センチほど残っている湯呑を
色々な角度から眺めたりして待っていた

ようやく出てきた彼女の腕には
赤ん坊をくるむ布が
どっしりとした質感で抱かれていた
さあ坊や
かあさまのお友達にお顔を見せておあげ
言いながら彼女は
おくるみをわたしに見えるように傾けた

そこにおさまっていたのは
つやつやと張り詰めたさみどり色の
血管のように走行する繊維の

見事に丸いきやべつであった

満面の笑みの彼女に合わせて
わたしは仕方なく曖昧に笑い
渡されたので抱いてもみたが
やはりそれは紛れもなく
冷たい
するするとした手触りの
ころんとした只のきやべつであった

何かわからない鳥が空高く囀り
一瞬時間が止まった気がした

それからわたしは
行きとは逆の道順で
バスを二回と電車を三回
乗り継いで帰ってきたのである

それからというもの
わたしは
葉からにじみ出す透明な液が
なんだが体液みたいに思われるから
きやべつをあまり食べられなくなってしまった

彼女とはあれ以来連絡が取れない
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