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台所

2009年02月11日 03:06


裸足のままで
冷たいフローリングにしゃがみこむ
冷気が下着の中に入り込んできて
その感触は幼い頃に抱いていた
とても親しい秘密のようだ
ぶおーんと鳴いている冷蔵庫の前で
四角い紙パックにくちをつけ
冷たいのにぬるいような味の牛乳をのむ
風呂上がり
シャンプーのにおい
半乾きの髪を揺らすのは風
どこから吹いてくるのだろうと

振り返るといちめんの草原だった

掌で口元をぬぐいつつ立ち上がる
これはきっと
一リットル分の牛乳に閉じ込められた
無数の牛たちの記憶だろう

日差しが眩しくて
初夏の草原だ
わたしはいつの間にか裸になっていて
足元の草をちぎって食べる
ひどく苦い味がした

とても懐かしいにおいの
風が吹いている
何世紀も昔から
わたしはここにいたんだろうか


真っ白い卵が
冷蔵庫にひとつだけ残っていた
なんだかさみしそうに見えたので
うずくまって腹の下に入れてやった
丸い感触がして
なんだか嬉しい

それから
どのくらい経ったのだろう
何日も眠ったような気もするが

とにかくはっと目を覚まして体を起こすと
卵はすでに割れていて
妙な色の液体が流れ出していた
罪悪感を抱きながら
破られた手紙にも似ている破片を
拾い集めてごみ箱へ捨てた

液体の広がっているあたりからは
ものすごくいやなにおいがして

いのちとはこんなふうに汚くてどろどろで
それでもきっと夢のように儚い
そんなようなものなんだろう
確証はないけれども
考え出したらきりがないので
そういうことにしておこうと思う


煌々と電灯の灯った台所に真夜中
背筋を曲げて
ぼんやりと座っているのが好きだ
なんだか台所だけが独立して
隣の部屋からも
部屋のあるアパートからも
近所のスーパーからも
それらの集合した町からすらも
遠く遠く何億光年も離れた
宇宙に一人で漂っているみたい
誰ともつながらずに
冷えたコーヒーと読みかけの本だけ携えて

地球の皆さんこんにちは
わたしはもう少しで冥王星に着くところ
息が少し苦しくて
とても寒いんだけども
今つま先の辺りを流れた星を捕まえたので
封筒に入れてそっちへ送るよ
あと少しで戻るので
それまで元気で
また会おう

瞼の奥から薄青い色がだんだんせりあがってきて
ゆうべのにんにくのにおいがする
そのうち
幻も夢も掻き分けて
わたしの上に朝がくる


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