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電車

2009年01月17日 03:39


早朝
地下鉄のホームにて
始発を待っている
上の方には群青色の空気の
明けかかった世界がある
わたくしどもはその底に沈み
なんとなく漂い続けている
迷子の幽霊のように
或いは退化しすぎた深海魚のように

昨晩少し呑みすぎたためだろうか
立ち止まっているはずなのに
ホーム全体がゆっくり後ろへ動いてゆく
錯覚なのだろうか
それとも
わたくしどもはこうして
切り取られて
漂流してゆくのだろうか
真っ暗闇の
誰も知らないその先へと

やがて始発列車がやってくる
早朝の気配を車体に漂わせて
わたくしどもを現実の世界へ引き戻すために

轟音をたてて滑り込んでくる
その風を浴びて
わたくしども
途端に人間のかたちに戻ってゆく


ぼんやりしていると
いつの間にか駅にいることが多かった
あの頃
わたしはまだほんの少女で
床屋と小さなコロッケ屋しかない村に住んでいた
セーラー服は生地が重くて
ハイソックスが脚を締め付ける

街灯がぽつぽつ灯り始める時間帯が
もっともそわそわするのだった
他に行くところがあるような
わたしを待っているひとがいるような

しかし電車に乗ることはけして無かった
それよりも
薄暗い灯りの中に
不安そうに乗っている人々が
揺れながら遠くへ行くのを見るのが好きだった

何本も電車を見送って
すっかり満足すると
もう周囲は真っ暗だ
歩いているひとびとは
いつしか空っぽの影法師になって
コロッケ屋の脂のにおいがしている
自販機の灯りが妙にさみしい


終電にひとりで乗り込むとき
いつも緊張してしまう
ホームとドアの間の隙間が
奈落の底のように見えて
落ちたらきっともう這いあがれない
そんな気がするのである
そうっと乗り込んでから
ああ今日も無事だったと安堵する
窓から
四角く切り取られた闇が見えて
町の灯りが修正液みたいだ

きっと最期もわたしたち
こういうふうにひとりで
行かねばならないのだろう

そう思うと心がすうんと
薄青いような色になる

電車はおもちゃのように
かたかた揺れながら
残像を残して
闇を駆け抜ける
どこへ向かっているのだろう
途中で分からなくなってしまって
見回すと周囲の人々が
少しずつ透明になってゆくのが分かる
そのうちみんな消えてしまう
そのうちわたしも消えてしまう

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