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十七・十八・十九の空

2008年12月19日 04:32


十七のとき
いつもめまいがすると言っては
授業を抜け出し
校門の前にぼんやり座っていた
学校の前には駄菓子屋があって
駄菓子屋のおばあさんが
外に椅子を出して
同じようにぼんやり座っていた
太陽は蛍光灯みたいに遠く光って
冬だったと思う

くらくらしていたのは本当だった

教室じゅうに漂うニスのにおいや
休み時間のたびに消費される無数のティッシュ
机の隅に何気なく書かれた落書きや
恋していた男子が
子供ができたからという理由で
急に退学してしまったこと
その他にも色々

物凄い速さで
軋みながら
駆け抜けてゆく現実は
わたしの最も敏感な箇所を刺激し続け
わたしはひくひくと反応し続け
きっとめまいの原因は
それだったのだろうと思う

制服のポケットには
いつもお守りとして
いっぽんだけ煙草を入れていた
取り出してゆっくりとくわえてみる
火はつけない
つけてしまうと
なくなるから

見上げると
誰が窓から飛ばしたのだろう
不格好な紙飛行機が
わたしの頭上を
なめらかに飛んでゆくのが見えた


十八のとき
人形を捨てた
それはたしか
十のときだったろうか
誕生日に買ってもらったものだった
ほんとうの女の人みたいに
ちゃんとパンツを履いていて
そこがひどく気に入った

姉がほしいと思っていたわたしは
随分長い間その人形を
おねえちゃん代わりにしたものだ
カバンやポケットへ入れていつも持ち歩き
ふとさびしくなった夜なんかに
さわりながら
おねえちゃん
と呼ぶと
急速に心が落ち着いた

その人形を捨てた
正確に云えば捨てたんではなく
川へ流したのだったが
何があったというわけでもない
ただ何となく
もういいかな と思ったのだ

人形はずいぶん薄汚れて
合成樹脂の肌はもう黒ずんで
なんだかみっともなく見えた

取り出して川へ流すと
すぐに沈んで見えなくなって
それはあっという間だった
これまでの人生も
そう云えばあっという間だったし
そういうものなのかもしれない

川原は夕焼けがしていて
赤とも青ともつかない曖昧な空である

多分わたしは今も昔も
どうしようもなく一人なのだ
寂しがりつつも自分から
一人を選んできたのだから
この先もきっと一人のままで
苦しみながら生きるしかない
学生時代に習ったどんな公式よりも
単純明快な理論である


十九のとき
野良犬を拾った
雑種で
餌もあげないのに妙になついてきたから
アパートの部屋に連れて帰った

鳴かない犬だった

残飯やペットフードは食べず
米をやると少し食べたので
台所の床へ直に座って
犬と米を分け合った
直に座るときの床はいつも
子供のころの心もとない気分を
思いださせるようにひんやりしている

犬を散歩へ連れていくことはなかった
わたしは滅多に
部屋から出なかったから
外へ出るとしたら平日の深夜
なるべく人のいない通りを選んだ
いつもまっすぐ歩けなかったのは
世界を怖がっていた為であろう
世界は大きすぎるし広すぎる
あまり長く外にいると
家へ帰る道を忘れそうだった

拾ってきて二年も経つと
犬は日によって色や姿を変えた
わたしはいつの間にかその犬が
ほんとうの犬でないことに気づいていた

部屋を引き払う頃には
犬はもう擦り切れて
ごみくずみたいなものに変わり
部屋の隅っこで崩れていた
窓を開け放して掃除をすると
米粒がいろんなところから
ぱらぱらぱらぱら無数に出てきて

ああせめて
名前をつけてやればよかったかも知れない

こうして後悔ばかりしている
わたしは
きっと
大人になんかなれっこない

部屋の掃除はすぐに終わった
それがなんだか悲しかった
外は晴れていて
ただ真っ青な空
すこし眩しい

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