2008年11月28日 02:16
・
夫と結婚したのは
簡単に言うと
隣に夫しか居なかったからである
いつどうしてわれわれが出会ったのか
詳細はわたしも覚えてはいないが
夫はいつの間にかわたしの正面に座り
カシミヤの重いコートを翻して
わたしの手を引いていた
としの割によく転ぶわたしの為に
夫はいつでもコートのポケットに
消毒薬を入れていた
・
夫は
何年も前から
何をしているのかよく分からない人だった
外へ出ると知らない人たちに
違う名前で呼ばれていた
その一々に丁寧に応対する夫の後ろで
わたしはいつでも寝そべって
つげ義春なんかを読んでいた
としをとるごとに
直立するのが難しくなってゆく
わたしの体は
重力というものに
耐えられるようには
出来ていないのだと思う
・
部屋での夫は
大体裸で
それはセックスをするためではなく
ただその方が
自然な感じがするからだと言っていた
夫はよく
同じように裸のわたしの胸に
耳を当てて音をきき
生きてる
と驚いたように言った
眼前の人が
生きてるのか死んでるのか
よく分からないらしかった
・
わたしが夫の傍から離れて
電車で二時間もかかる
生地へ引っ越したとき
夫はすぐに荷物をまとめて
後からついて引っ越してきた
行動を起こす時は
いつも唐突な人だった
持ち物はほとんどなくて
ただ大量の古本と
カシミヤのコートだけを持ってきた
しかしあまり嬉しそうではなかった
夫が嬉しそうにすることは殆どなかった
ちょうど今くらいの時季だったと思う
同棲するにあたって
わたしの両親は忠告めいたことを
呪詛のように永遠に吐き散らしていたが
夫の両親は何も言わなかった
会ったことすらなかった
両親はおれにとっくに興味を失っている
星の綺麗な夜
散歩した帰り道で
ぼそっと呟いた夫の顔は
街灯に照らされて
他人のようだった
・
夫が
眠ると透明になる体質だということを
一緒に暮らすようになって初めて知った
すうっと呼吸が寝息に変わる時
いつの間にか消えてしまう
夜という大きなものを
受け入れかねるというような感じだ
夫はいつでも
わからないことはきっぱりと拒否した
朝になると
寝るときよりわずかに傾いた姿勢で
いつの間にか横にあらわれている
・
夫が何を好きで何を嫌いか
はっきりしたことはわたしも知らない
ただ夫がそこに居て
わたしと一緒に暮らしている
そのことだけは
他の誰よりも知っている
今
こうしてこれを書きながら
背後で消えていく夫の気配を
なんとなく感じている
夫と結婚したのは
簡単に言うと
隣に夫しか居なかったからである
いつどうしてわれわれが出会ったのか
詳細はわたしも覚えてはいないが
夫はいつの間にかわたしの正面に座り
カシミヤの重いコートを翻して
わたしの手を引いていた
としの割によく転ぶわたしの為に
夫はいつでもコートのポケットに
消毒薬を入れていた
・
夫は
何年も前から
何をしているのかよく分からない人だった
外へ出ると知らない人たちに
違う名前で呼ばれていた
その一々に丁寧に応対する夫の後ろで
わたしはいつでも寝そべって
つげ義春なんかを読んでいた
としをとるごとに
直立するのが難しくなってゆく
わたしの体は
重力というものに
耐えられるようには
出来ていないのだと思う
・
部屋での夫は
大体裸で
それはセックスをするためではなく
ただその方が
自然な感じがするからだと言っていた
夫はよく
同じように裸のわたしの胸に
耳を当てて音をきき
生きてる
と驚いたように言った
眼前の人が
生きてるのか死んでるのか
よく分からないらしかった
・
わたしが夫の傍から離れて
電車で二時間もかかる
生地へ引っ越したとき
夫はすぐに荷物をまとめて
後からついて引っ越してきた
行動を起こす時は
いつも唐突な人だった
持ち物はほとんどなくて
ただ大量の古本と
カシミヤのコートだけを持ってきた
しかしあまり嬉しそうではなかった
夫が嬉しそうにすることは殆どなかった
ちょうど今くらいの時季だったと思う
同棲するにあたって
わたしの両親は忠告めいたことを
呪詛のように永遠に吐き散らしていたが
夫の両親は何も言わなかった
会ったことすらなかった
両親はおれにとっくに興味を失っている
星の綺麗な夜
散歩した帰り道で
ぼそっと呟いた夫の顔は
街灯に照らされて
他人のようだった
・
夫が
眠ると透明になる体質だということを
一緒に暮らすようになって初めて知った
すうっと呼吸が寝息に変わる時
いつの間にか消えてしまう
夜という大きなものを
受け入れかねるというような感じだ
夫はいつでも
わからないことはきっぱりと拒否した
朝になると
寝るときよりわずかに傾いた姿勢で
いつの間にか横にあらわれている
・
夫が何を好きで何を嫌いか
はっきりしたことはわたしも知らない
ただ夫がそこに居て
わたしと一緒に暮らしている
そのことだけは
他の誰よりも知っている
今
こうしてこれを書きながら
背後で消えていく夫の気配を
なんとなく感じている


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