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手品のおっさん

2008年11月25日 02:07

子供のころ
いつも近所に来る
手品のおっさん
という人がいた

名字や名前は誰も知らなかった
大人たちでさえ
手品のおっさんは
どこに住んでるんだべな
と噂し合っていて
だけどそれはおっさんに聞いても
けして教えてくれないのだ
おっさんはいつもシルクハットに白手袋
びろうどのようなマントをなびかせて
ふらりとその辺の路上にあらわれた
そして
よってらっしゃいみてらっしゃあい
と気の抜けたように言うのだ
わたしたち子供はいち早くそれを聞きつけて
手品のおっさんに
お金を出してよとかお菓子を出してよとか
いろいろなものをせがんで
あらゆるものを出してもらった
おっさんのシルクハットからは
本当にみんなの言うものが
いつでもぽかぽか出てくるのだった
おっさんの芸はそれ一つだった
人体切断とかテレポーテーションとカ
そういう派手なことはできないみたいだった

或る日
いつものようにシルクハットから
飴だのひよこだの出すおっさんに向かって
ひとりの子供が
よう おっさんの帽子かぶしてくろよ
と言った
おっさんは始めのうち困ったように笑っていたが
あんまりその子がせがむので
しまいには怒ったような顔になって
ほら
と言いながらその子に
すぽっとシルクハットをかぶせてしまった
子供がひとりすっぽりと入ったのだから
ずいぶん大きいシルクハットだったんだと思う

次におっさんがシルクハットを持ち上げた時
その子は消えてしまっていた
それを見た瞬間
あの子はこの世界から永遠に
跡形もなく消えてしまったんだ
ということが
何故だかすごくよくわかって

一斉に泣いて逃げ出すわたしたちに向かって
手品のおっさんは
手品はこれでおしまい
と怒鳴るように叫んで
くるっとマントを翻して消えた
それきり
手品のおっさんを見ることはなかった

あのおっさんは何だったんだろう
大人たちに聞いても誰も覚えていない
人間ではなかったのだろうか

確かおっさんからわたしは
ひとつだけ手品を教えてもらったことがあって
それはハンカチから牛乳が出てくる手品なんだけど
いつまで練習しても
一度も成功したことはない


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