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くま夫人

2008年11月03日 00:36

とてもよく晴れたある日
わたしは隣家のくま夫人を誘って森へ出かけた
くま夫人はその名の通り茶色い熊で
彼女によればコディアックヒグマという種類である
夫は日本人の青白い男で
もと動物園の飼育係だったそうだ
飼育し飼育されているうちに
恋愛感情が芽生えたらしい

ちなみにくま夫妻の間には
ブルーベリーのようなつぶらな瞳と
ふさふさした茶色の髪の毛を持つ
かわいい坊やが一人いる
半分くまだからだろうか
血の滴るような生肉を好んで食べるそうだ
あまり生肉ばかり食べさせると
夫が生野菜も食べさせるようにと怒るのが
目下 喧嘩の火種となっているそうである
―あたしは生肉ばかり食べてきたけどこんなに健康よ
或る日くま夫人の家でお茶を飲んでいた時
紅茶と豚バラ肉(生)を食べながら
憤慨したようにくま夫人は言った
くま夫人のいれるお茶はとても美味しい
イギリスから檻に入れられて日本へ輸送されてきたそうだから
イギリス仕込みなのだろう

その日
くま夫人と森へ行ったのは
鮭を獲るためであった
それと家の蛇口から出る水道水が
古いなま海老のような味がして不愉快だから
水を汲みに行くつもりでもあった
道中くま夫人は
―人間って水を殺菌する技術を持っているのに
わざわざ雑菌だらけの水を遠くから汲んできて
おいしいって飲むのね
と不思議そうに言った
くま夫人は牛乳しか飲まないそうだ
―それはわたしもそう思うけれど
と言葉を濁すと
―けれど何
と追及してくる
何事も明確に結論付けるのがくま夫人の癖だ

やがて森の奥深くに流れる細い川に着いた
ここは鮭の産卵する場所であり
おいしい水の汲めるところでもある
わたしとくま夫人はまずお弁当にした
くま夫人はサンドイッチ
わたしはおにぎりである
きちんと座って
鋭いかぎ爪と牙を駆使し
パンを噛み砕くくま夫人をふと眺めて
くまって美味しいのかな
と思った
くま夫人はわたしを食べようともしないのに
わたしはくま夫人の味を想像している
動物より人間の方がよっぽど野蛮だと思った

食事を終えるとくま夫人は川に入り
わたしは釣竿を垂れて釣りをした
銀に輝く鮭が四尾も獲れた
二尾ずつ分けたのち
くま夫人に背を向けて
わたしは水筒に水を汲む
その時うっかりしていたのだが
夫人がくまであることを忘れていたのだ
わたしは容易く背中から襲われて
そのまま失神してしまった

気がついた時
くま夫人は四つん這いになって
わたしの顔や傷口を舐めてくれていた
―気にしなくていいよ 本能だから
と言うとくま夫人は
―ごめんなさいね
と申し訳なさそうに答え
―少し頭を冷やしてくるわ
と森の奥にのしのし歩いて行ってしまった

その日以来くま夫人を見ない

くま夫人の夫は
冬ごもりでも始めているんでしょう
と極めてのん気に言いながら
坊やに生野菜を食べさせている
坊やは成長が人より早くて
生まれて三年だというのに
もう大人のようになってしまっている

このところ毎日夜になると
森の遠くから咆哮が聞こえる
それがくま夫人の声ではないかと思うと
わたしはなんだか悲しくなる
もうくま夫人には二度と
会えないような気がしてならないのだ

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