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火事と半鐘のこと

2008年10月13日 20:25

火の見櫓
という高い櫓の上に
ぽつんとぶら下がる
半鐘
という名の鐘が在った

それは
火事のときに鳴らすもので
普段は
青銅色の粉をふき
黙ってじっと動かずにいた
出来損ないの怪物みたいに
死んだふりをするかのように

小さい小さい村だった
わたしの育ったのは

小さくて
でも
季節はちゃんと移り変わるような
そんな村だった

叱られたときも
褒められたときも
いじめられたときも
半鐘は変わらずそこに在った
無いもののようにそこに在った
村は春を越え盆を過ぎ
秋祭りを終え冬を迎えた
花は枯れ風は冷たく
呼吸すらも惜しい
誰も彼もが倦んでいた

そんな
ある凍てつく冬の日のこと
星が
流れることもできぬほど
かちこちに凍った
夜空の下だった
一軒の家に火がついた
すぐ近所の家だった

じゃんじゃんじゃんじゃん
鐘が鳴る
誰が鳴らしているものか
非常に不吉な音だった

冬になるとここいらは
放火が多くなるのだ
娯楽も何もない貧しい村だから
苛々している人が多いんだ
火はあっというまに
床をなめ回し
天井へと駆け上がったらしい

跳び起きて駆けつける父の後について
わたしも火事を見に行った
誰か死んだ
と叫ぶ人があった
そこは同級生の家であった

火を見る人達の顔は
赤鬼のようだ
真っ赤に顰められて
口をかっとあいている

月が熱にひび割れて

ごぎゃっ

と割れた 確かに見た
この眼にしかと焼き付けたのだから

わたしは
がたがた震えながら
おしっこをもらしてしまったと思う
しかしわたしの体から出る水は
何も消し止めはしなかったのだ

その翌日
登校してこなかった同級生のために
クラスみんなで
百円ずつ出した

クラス三十人で三千円
三千円じゃ家は直せないだろうなあ
でも十円のガムは三百個買える
思った途端に
同級生が
つまらなそうな顔で
山盛りのガムを三百個噛む想像をしてしまった

教室の窓からは
同級生の家が見える
家全体が空と同じ色の
青いビニールシートにくるまれて
はたはたと風に吹かれていた

ひび割れたみたいな
冬の太陽が
たっぷり射し込む教室で
心臓がじゃんじゃん鳴っていた

なんだか妙に不安で
わたしは
静かに
おしっこをもらす
身の内にある恐怖を
解き放ってゆく

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