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蟹と水仙(両親のこと)

2008年10月06日 02:12

庭の片隅で
しゃんと背筋を伸ばしている
あれは水仙という花である
植えっぱなしでも勝手に殖えていくそうだ
なんだか化け物じみている
風が吹くと
女の含み笑いのような音を立てて
しなしなしなしな一斉に揺れる
この世のものではないみたいだ
気性の激しい女みたいだ

母は水仙が好きであった
自宅の庭に何本も植えて
春になったら咲くのよと
歌うように何度も言った
母が突如として園芸に夢中になったのは
あれはわたしが家を出る頃だったか
あたかも現実を見まいとするように
うつむいて土ばかりいじっていた
白髪染めが間に合わないくらいに
次々生えてくる白髪は
なにか異質なもののように
つむじのあたりでぴんぴんはねていた
切なくて切なくてどうしようもない
胸の空洞をびうびう風が吹き通る
水仙が咲く頃にはもう
わたしは家を飛び出していた


帰郷したのは
父が倒れたという報せを受けたからだ
それは春のころだったから
庭には水仙が
鋼鉄で出来た刃物のように
びしりびしりと突き立っていた
ただいまと言って庭を覗くと
母はおおきな鋏を持って
ざくりざくりと根元から
父のやまいを
やっつけようとするかのように
必死に水仙を伐っていた
敵とたたかう蟹みたいだ
それは既に母ではなかった
恐ろしさといとおしさに胸を突かれて
見ていることしか出来ないわたし
ちっぽけなちっぽけな子供に戻って
ぶるぶるぶるぶる震えている

父は一年わずらって
病状が落ち着いたので退院した
退院してからは何することもなく
家の縁側にへたりと座って
揺れる水仙を見つめていた
おとうさん水仙きれいだねえ
お茶を運んでわたしは言った
父はふっふと含み笑って
おかあさんみたいだなあ
と言った
本当にねえ
無能な子供のようにそう答えて
あとは二人で黙っていた

空を突き刺すように
黄色く咲いている水仙は
事実母に似ていたのだ
土にしがみついている
その
みれん
のような在り方すらも

おせんべいをばりんと齧る
生きているなああ
と変にしんみりする

二階から母親が
くしゃみをする音が聞こえて

すうすう吹き抜けてゆくのは
風ばっかりだった

※福井県越前町主催「蟹と水仙の文学コンクール」没作品

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