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生病老死

2008年10月02日 08:12

祖母が浴室で昏倒した時
裸足で踏み込んでいって
その鍾乳石のような裸を見ながら
抱き起こしたのはわたしである
足裏にぬるい湯の感触があった
根拠はないのだけど
それは祖母の体から
流れ出たもののように思った

ものごころついたときから
祖母は祖母と云う生き物であった
彼女は生まれたときからああいう風に
年老いていたのじゃないか
と思っていたけれども
全然違くて
体には若かったころの名残があった
まだつるつるしている箇所もあった
人間なのだとはっきり感じた
当たり前のことなのに
どうしてだか
背筋を ぎっ と
電流が走ったようだった

体をふいてやって服を着せ
浴室から引き摺るようにして
居間まで運んだ
騒ぎを聞きつけて来た父は
怒っていて
自分の母親が老いていくということに
耐えられない息子なのだろうか
そんなになるんだったらふろなんか入るな
と怒鳴りつけた
こいつマザコンだなと思った
父のことを

みんなが寝付いてから
風呂に入るのがわたしの癖だった
汚れきっていろいろ浮いているお湯を
しげしげ観察して
この浮いている垢やなんかを
全部あつめたら一人の人間になるだろうか
とか馬鹿なことを考えて
遊ぶように湯に浸かるのが常であった

そこへ祖母が
這うようにしてやって来て
ドアを開けて
濡れているわたしの手に
千円札を握らせた
有難うなと言って
寝巻の前がびしょびしょだ
ずっと起きて待っていたのだろうか

なんでこんなことを
繰り返さなくてはならないんだろうか
これではあまりに辛すぎる
人と人とが一緒に暮らしていたら
必ず誰かが死ぬのである

人が一人では生きていけないように
設計して組み立てたのは誰だろうか
人が必ず死ぬような数式を
細胞に刻み込んだのは誰であろうか

もうわたしはいま死んでもいいんだ
うううと唸ってうつむいたら
髪が一本抜け落ちた
まっしろなまっしろな白髪であった
ああわたしも老いているのだ
少なくともこの点に関しては
人間は平等なんだとわかる

汗だか涙だか
流しながら顔をあげると
祖母が湯けむりの向こうで笑っている
歯が一本もないので
口腔内に闇が広がり
宇宙のように美しい



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