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或る傍観者の記録

2008年10月02日 01:26


早朝
たくさんの赤ん坊が
一定の間隔をおいて
路傍に置かれているのを見た
色とりどりの布でくるまれて
まるで
プラスティックのおもちゃのようだ
町はとても静かである
赤ん坊は一人も泣いていない
小さい猿のように
黒眼がちの瞳で
しいんとちぢこまっている

それを端から拾ってゆく男がいた
ぴかぴかの尖った靴を履いて
顔は黒く塗り込められたよう
広げた腕は鳥のよう

わたしは
あれがどこの誰か
なんとなく知っているような気がする
生まれる前
やはりあの男にあんな風に抱かれて
泣いていたような気がする

どこかで季節外れの風鈴が
ちいちいと鳴った
別の場所へ誘うような音であった


眼鏡を掛けた少年が
数種類の死んだ虫を分解して
羽を付け替えたり
脚を付け替えたり
熱中した眼で指を動かして
まったく新しい昆虫を
作り出そうとしていた

失敗すると
カッターナイフで
ざくざくに切り裂いて捨ててしまう

かわいそうだ
と ふと思った

少年と死んだ昆虫と
どちらに対してかは解らない
或いは
両方に対してなのかも知れない


りんぷんのようなものを撒き散らしながら
少女が一人で歩いてゆく
まだ人形のように小さくて
びい玉のような
何も映らない眼をしている
レースのスカートから覗く
からかうみたいな形のいい脚
噛みしめたら淡い塩の味がするような

あんなに小さくても
もう女なのだなあ
少女の髪からは
市販の安いシャンプーのにおいと
あと何か
世界のきらきら光るものを
混じり合わせたような
やさしい気配が立ち上っている

くるくる回りながら進んでいた彼女は
暗い煉瓦の路地に消えた
あんまりすうっと消えたから
もう帰ってこないみたいな気がした
二度と

かたかた
笑うみたいに
風が吹いてる


わたしは徹底的に
傍観者の姿勢をとっているから
皆より少し色がうすく
霧で出来ているかのように
体全体がぼやけている
存在感というものがないらしい
油断すると浮いてしまう

話しかけても
誰も答えてくれぬので
こうして壁に寄り掛かり
見たもの聞いたことを書いている
雨も降っていないのに
どうしてだろう
帳面も鉛筆も濡れている

胴体を縦に切り裂くように
人々がわたしの中を通り過ぎてゆく
街灯が見開いた瞳のように
煌々として

いつか中国の思想家が言っていたように
これはわたしの夢なのか
それとも
わたしが誰かの夢なのか
さっぱりわからないのだが
わからなくていいと思う
わからない方がいいと思う
自分がなにものかわかってしまったら
その時点で何かが
終わってしまうような気がしている



月刊未詳24 10月号投稿作
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