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(また)見えない人の話

2008年07月28日 06:13

わたしの生まれ育った村には
鮮やかな花が咲いていて
広大な田地が広がっている
野良犬がそこらじゅうにべとっと寝ていて
曖昧な微笑みを浮かべる村人と
いないはずの人たちが生きていた

たとえば幼稚園生だった頃に
ご飯だよ と毎日公園まで呼びに来る
灰色の服を着た男の人は
家族でも親戚でも友達のお父さんでもなかった

いつも素直についていったけれど
家の前を過ぎてもまだ歩こうとするので
ここが家だからと言って手を振り払っていた
手を振り払わなかったら
いったいどこへつれていかれただろうか
でも悪い人ではなかったように思う
かすんだような記憶の彼方に
そういう類の思い出が幾つがあるのだが
泣くわたしをおろおろしながら背負ってくれたり
手のひらから動物ヨーチを出して食べさせてくれたりした
顔を思い出そうとしても
いつも逆光で黒く塗りつぶされたようになっていて
わからないのだが

思い出すといつも泣きそうになる
夕暮れと毛羽立った灰色のセーター
夏でもつめたかった背中であった

小学校のときには
いつも家まで迎えに来て
学校まで手を引いて行ってくれる女の子がいた
わたしは生来ぼんやりとした子供で
脇道や路傍に何かの死骸や木の実が見えると
それを触ろうとして道を逸れるような性質だったが
その子はそれを正そうとするかのように
強く手を引いて戻してくれた

その子の机はいつも無かった
教室の後ろで立ち尽くし
切望するような眼で黒板を見ていた

卒業してから不思議に思った
わたしはその子の名前を知らない
一緒だったのは毎朝の登校時だけ

卒業アルバムを見れば
わかるだろうと思ってめくってみたが
そんな子は居なかった
家族も覚えていないと言うし
なんだか切ない
切れ長の眼をしたおかっぱの女の子だった

ある時何かのはずみで
あたしは必要の無い子供だから
と言ったあの子の横顔を思い出す
そんなことなかった

少なくともわたしだけは今も昔も
寄り道から引き戻してくれるあの子が必要だった
もう言えない
たぶん二度と会えないし

それでもこんなにやさしい人々がいたと
誰かに伝えたくて一心に指を動かしている

濃い青空の広がる夏
道端で雑草を摘んでいたわたし
地平線まで続く土を踏んで
半透明の人が手を振っている
涼しい風が吹いて
麦藁帽子が飛んだ
それを笑って追いかけた日々

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