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くだもの

2008年06月27日 11:36

・れもん

薄暗い台所に
ころんと転がって
存在を主張している
忘れられた子供の玩具みたいな

悲しんでいるようだったから
撫でてやった
指先から
体液を漲らせた生き物の
硬い感触が伝わってくる

存分にいつくしんだあとに
半分に切って絞った
台所は清涼なにおいでいっぱいになって
強い陽射しにも似た酸性の果汁が
あとからあとからあふれ出して溜まる

その中に手を浸してみると
爪の先から溶けていった
やがて右手は使えなくなり
これでもう何も書けないと思うと
さみしいような嬉しいような気分である


・もも

霧雨のように
繊毛が生えている
物憂げにごろりと寝転がっているさまは
果物じゃなくて生き物みたいだ

そういえば小学生の頃
同級生に母親を亡くした子がいた
その子の机やランドセルやロッカーには
これと同じものがきちきちに詰められていたっけ
暑くなると教室じゅう腐敗臭が立ち込めて大変だった

でも先生もクラスのみんなも
それを全部捨てろとはとても言えなくて
あの子にとってあの重くぼってりとした果実は
母親そのものだったろうから

休み時間にはいつも満足げににおいを嗅いでいた
どろどろに変色した果肉は滴り落ちて
床にいくつも染みをつくった
窓から差し込む陽は逆光で
何故だか強烈に覚えている

窓から差し込む陽は逆光で


・ばなな

陽気な色と形をして
永遠に変わらないもののように見えるけれど
実は 案外 冒されやすい
何日もかまわずに放置していると
水玉模様が浮き出して
ついには真っ黒になってしまう

耳を澄ますとざわざわと
遠い島の波音が聞こえるようだ
誰とも会わず従って誰とも話さない雨の日などは
房からちぎりとった一本を
電話のように
耳に当てて過ごしたりもする

すべらかな皮を剥くと
一直線に降りてゆくところが心地よい
でもあまり好きではないから
思う存分 皮を剥いたら
中身は 飼っている 透明な猿にやる
透明な猿は やさしいから
食べる振りだけしてくれた





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