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借りたものを返さない主義

2007年10月26日 18:00



人混みのなかにいるとき
急に誰かを抱きしめて
接吻したくなるときがある

それはどうしようもなく強力な欲求であるので
抑えるのに大変苦労する
という相談をしたら
君がくちびるを貸してくれた

僕は元来無口であるし
それに君の接吻で
誰かが窒息したら可哀相だろう
と言って

以来わたしはポケットに
君のくちびるを必ず入れて
歩き回るようにしている

君は今頃くちの無い顔で
あの鋭い眼ばかりぎょろぎょろさせて
どうしているんだろう
仕事をしたり
セックスしたり
何か色々してるんだろうか

考えたら何だかむかむかしたので
ぐみのような君のくちびるを
指でつまみ
三回ほど接吻を繰り返してみた

君のくちびるは
君を離れてなお
あたたかくて限りなくやわらかで
三回めの接吻のときに
一度だけやさしく息を吐いた



朝どうしても起きられないわたしに
友人が蝉を貸してくれた
なんでも
夏に死ななかった蝉は
寒くなるほど焦って鳴くから
ちょうど今くらいの季節は
目覚まし時計の何倍もうるさいそうだ

貸してもらった蝉はあぶらぜみで
セーターの中程に前肢を引っ掛けてやると
鳴きも逃げもしないで
ただぼんやりとくっついてきた
なんにも解らないみたいに

その晩は
あぶらぜみを枕元に置いて
一応おやすみを言ってから寝た

翌日の明け方に一瞬だけ
ものすごく大きな音を聞いたように思ったのだが

起きるといつものように昼過ぎで
わたしはこぶしを握っていた

いやな予感がしてこぶしを開くと
多分昨日まであぶらぜみだったものが
さらさらさらと畳に落ちた

わたしはほうきとちりとりで粉を集め
裏の畑に埋めてやった

少しばかり泣きながら



高校のときの同級生が
とつぜん家に訪ねてきて
勇気を貸してください
と言った

その子は確か
わたしの席の斜め前に座っていた子で
あまり仲良くなかったのだけど

断るのも酷なので
わたしの中の少ない勇気を
ありったけ持たせてやった

何ヶ月かあとになって
その子は川の下流で発見された
わたしの勇気をしっかり持って
あおじろく膨れ上がって

以来わたしは極端に臆病になり
何をするにもおどおどしている

思えば
あの子に貸してやった勇気が
わたしの全てだったのだ

そういうわけで
今日もわたしはうろうろと
服屋の店員から逃げ出したり
街のアンケートを断りきれなかったり
何十回も振り返りながら夜道を歩いたりと
なかなかに難儀をしながら生きてる

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