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幸せな誕生日をわたしに

2007年10月08日 18:09


誕生日に
枯れない花と
食べられないケーキを貰った

花はアクリル樹脂で
ケーキはボール紙だった

その二つを抱えて
町をとぼとぼ歩いていると
眼前でいきなり
クラッカーを破裂させられたり
馬鹿げたぺなぺなの
三角帽子を被らされたり
幸せな誕生日を君に
というような意味の歌を
混声二部合唱で聞かされたりと

どうにも油断がならない

おめでとうと言われるほどに
わたしの背中は曲がってゆき
ありがとうと答える口元の笑みは
どんどん曖昧になってゆく

歳をとることに
希望など見いだせなかった



人のいない方を選って歩いていくと
細い知らない路地に着いた

わたしは三角帽子を被ったまま
立ち止まる

どこかからピアノの音が
聞こえてきていた



路傍には
ビールを飲んでいる若い女と
泣いている子供がいた

子供はかつてのわたしのように
ちいちゃくてきたなくて
みすぼらしかった

子供があんまりにも泣き止まないから
女はうるさがって
子供をポケットに押し込んでしまった

きゅむ
という音がして泣き声は止んだが

一瞬ののちに女の股からは
新しい子供がぽとりと出てきた

女は忌ま忌ましそうな顔をして

新しいビールの缶を開けた



ちゃぶ台で
忙しそうにしている主婦がいた
雑多なお茶碗や何かを
くるくるっと楽しげに並べて
そのうえに大根をおろしている

見ているうちに
お茶碗や醤油さしは
ちゃぶ台の上で家やビルになり
大根おろしは雪になった

小さな町に冬がくる

主婦は自分の作り出した世界で
静かに遊んでいるのだった



そのずっと向こうの方に
ピアノを弾いている老婆がいた

老婆は居眠りをしていたが
手は鮮やかに動き続けている

よく見ると老婆の手首は
勝手に動いて
鍵盤を叩き続けているのだった

それは
とても美しい旋律で

こんなことが出来るようになるのなら
年をとるのもそんなに悪くないと思った



路地を抜けるとき
一度だけ振り返った

そのとき初めて
若い女も主婦も老婆も
わたしの顔をしていることに気付いたのだが
さりとて何を
どうしようもない

わたしはぺなぺなの三角帽子と
食べられないケーキと
枯れない花を
路地の出口にそっと置いて

自分の為に歌をうたった

幸せな誕生日をわたしに
という意味の歌

それは細い頼りない声と共に

秋のつめたい空へと消えた

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コメント

  1. | URL | .R6HY82k

    ぺ、ぺな……!

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