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父親と犬

2007年09月22日 19:57



日に日に
父親に言葉が通じなくなっていく
母親は
遠い眼をして
おくすりのせいよ
と言う

そればかり言う


父親は
わたしのにおいを嫌う
人間くさいから
側に来るな
と唸る

だからわたしは
一人でご飯を食べる
食卓から三メートル以上離れて
家族の団欒を眺めながら

すこし寂しくなるときもあるが
大丈夫
もう慣れた


父親は
色やにおいの強いものを
あまり食べられなくなった
お豆腐とすうどんと
あと蒸しぱんか何か
そんなようなものを
ほんのすこうしだけ食べて
あとは体を丸めて寝てしまう

父親は以前より格段に小さくなり
捨てられた犬みたいな形になってきた

母親が
丸まった父親の背中に
おくすりを注射する

誰も何も言わないが
みんな

父親には長生きしてほしい
という思いと
そんなになるくらいなら
早く死んでほしい
という思いと
両方を胸のうちに抱いている

居間のテレビはいつもついているが
誰も観てなんかいないのだ

だって
さっきからCMばかりなのに
チャンネルを替えようとする気配すらない

陽気な音楽が
居間に蔓延してゆくばかりで



母親が父親を
部屋につないでしまった

わたしが鎖を外してやろうとすると
おとうさんは外にでると
だめになるびょうきだから
と言って制止する

父親は悲しげな眼で外を見ている
そして
救急車が通ると吠える

こわがっているのか
連れていって欲しいのかわからない

わたしがたまに
木綿豆腐を掌に載せて近づけると
ほんの少しだけ嘗めてくれる

父親は
つながれてから随分と
優しくなったと思う



今日は風が強く
開け放った窓から
薄墨色の悲しみが
ばたばたとひるがえるような日だ

父親は部屋で
おとなしく眠っている
さっき母親が注射をしに行った

母親の手の中にある注射器は
毒物みたいな色をしている

わたしはスニーカーを履いて
玄関から走り出す

一度も振り返らずに駆け続け
立ち止まったその地点で
一生暮らそうと思うのだ

そう思いながら家を出るのだが
結局は帰ってきてしまう

毎日がそうして過ぎてゆく

わたしも気付かないうちに
犬になってしまうのかも知れない
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コメント

  1. | URL | 6moyDOY6

    うわぁ…すごいです。
    読み進めるうちに心にわぁっと沸き上がるこう、何か熱いものが、来ます。
    いいです。とても。

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