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名残

2007年09月09日 09:34



秋になると
せみやとんぼが透明になって
空気をとろとろに掻き回す

秋の昼間に深呼吸すると
どことなく淋しくなるのはきっと
知らず知らず吸い込む酸素に
そういう類の小さないのちが
たくさん含まれているからだろう

昨日吸い込んだ透明の蜩が
さっきから肺で鳴いている

だからわたしの体内はまだ
夏の夕暮れのままで暮れない



歓声の中
高く打ち上げられた球
それを捕球しようと駆けてゆく
若い選手のユニフォームは
奇妙なほど眼に白かった
見たことのない鳥のように
或いは
絶滅した生き物のように

彼はまるで踊るように
軽やかに上向いて飛び上がり

それきり着地してこなかった

静まり返ったマウンドには
硬球と少しばかりの芝生の切れ端
それから彼の汗と思しき水滴が
ぽたりと落ちてきただけで

野球選手がどことなく哀しく見えるのは
そういうことがあるからかもしれない

ぱらぱらとマウンドに散った彼らは
よく冷えたビールの泡のようで

美しいけれども
どのみち最後は消えてしまう
そんなもののように見えるのだ



ふと気配を感じて振り返ると
一分前のわたしが
部屋の隅で膝を抱えていた

蹴り倒すと
不器用な子供みたいに
横倒しに倒れて消えていった

こうしてたびたび始末しないと
部屋中が
わたしだらけになってしまうので困る

それで有能ならばいいが
わたしはどちらかと言えば
愚鈍で要領を得ない性質なので
いくらたくさんいたとしても
一人も使えないのである

また振り返ると
今度は反対側に
三十秒前のわたしが
背を向けて座っていた

自分の後頭部というものは
なんだかずいぶん
貧弱に見えるなあ
と思いながら
わたしはわたしを始末してゆく

多分生きてる限り
ずっと

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コメント

  1. 倉田良成 | URL | -

    「未詳」から辿ってここに来ました。そこでの作品が気になったのですが、このお作「名残」には、ちかごろの若い人にはあまり類を見ない、非常に高い作品的な達成があると思います。この感度と技倆を大切にしていってくださるよう、希います。

  2. | URL | 6moyDOY6

    後半部分の、『わたしを始末してゆく』というのが物凄く衝撃的です。物凄いインパクトです。その上、何だかサラサラ感があります。砂のような。(誉め言葉です)

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