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美術用品のある日常

2011年02月19日 20:05


午後四時
青の上から
橙や赤や紅色が
塗り重ねられてゆくのを見ながら
大急ぎでベランダのシーツを取り込む
あのうつくしい仕事をしている人が
どんな人だかは知らないが
時折
ゆるめに絵の具を溶いてしまうことがあるようだ
油断していると
ぽとりぽとりと鮮やかな
夕暮れいろの雨が降る


夜空を一直線に貫いてゆく飛行機を見ながら
あの中にいる
どこにも辿り着いていない乗客たちのこと
高度何千メートルという寄る辺ない場所で
ひそやかに前を向いて座っている
孤独なひとたちのことについて考える
飛行機に乗ったことがないためか
わたしの頭の中に浮かぶ
飛行機の機内というのは
決まって
座席の上に
無数の真っ白な石膏像が
整然と置かれている光景である


戯れにデッサンでも始めてみようかと
ステッドラーの鉛筆と
額縁とを買って帰宅した午後
少しまどろむと
いやに濃い白黒の
こわいものばかりが出てくる夢を見た
はっと目覚める
鉛筆を握りしめていた
鋭利に削ったはずの芯は随分と摩耗し
指や手首が鉛の粉で真っ黒になっていた
呆然とする
石鹸で手を洗ってから
改めて同じ鉛筆で自画像を描いてみたが
完成したものは惨憺たる出来で
顔と言うよりむしろ
腫瘍と言った方が正しいぐらいで
こういうものが
また夢に出てきてはたまらないので
デッサンを始めるのはやめにしたのだ
もしうまい絵が描けたら
飾ろうと思っていた額縁には
入れるものが無いからしかたなく
茶箪笥から
自分のへその緒を出してきて入れた
奮発して買ったいい額縁なので
意外としっくりおさまった
以来へその緒は
わたしの部屋の壁で
かつてわたしが
存在しなかった日々について
回想しているかのように
ぽつんと沈黙を守り通している



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2011/2/17

2011年02月18日 20:01



テーブルの上に置いてある
覚えのない手紙を焼き捨ててから
ごみを出しに階下へゆく
ぬるい雨が降っている
わざと傘をささずに出て
優しく突き刺される感触をあじわう
路傍の濡れた土からは
いつか誰かが遠い日に埋めたもの
花の芽や手や髪の毛やねこのしっぽなどが
だんだんと萌してきているから
春がもうそこに来ているとわかる



金魚店で金魚の餌を買う
いつからだか忘れたが
わたしの心臓の辺りは
硝子のように透け
向こう側を
金魚が泳ぐようになってしまった
誰のせいでもないのだろう
店を出てすぐしゃがみこみ
授乳するように胸をひらく
最初
可憐な金魚だと思っていたものは
このごろ急に大きくなり
醜い深海魚の姿に似てきた
進化しているのか退化しているのか分からない
これ以上おおきくならないでくれよ
餌をやりながら言うと
わたしそっくりの声で
おまえが望んだんじゃないか
と笑う
胸の奥が泡立つのを感じる
否定できないから
悲しい



君の体を蛍光灯の下で
すみずみまで眺め
細部のかたちまで憶えようと努める
何かの拍子に君がばらばらになってしまっても
すぐに組み立て直してやれるように
或いは君の存在が
爪いちまい
指いっぽん
耳ひとつしか
残らなくても
必ず君だと気づけるように


深夜
だれ宛でもない手紙を書き
四つ折りにしてテーブルの上に置く
このごろのわたしは
眠ると何もかも忘れてしまうから
どうか覚えていますようにと
祈るようにそれだけ念じて目を閉じる
瞼の裏に浮かぶ模様は鮮やかだ
見惚れているうちに眠りがやってきて
おやすみ、も言い終わらないうちに
わたしはあっさり沈んでしまう

すとん



月刊 未詳24/2011年1月・2月合併/第46号 投稿

ちぐはくな三十一文字たち・2

2011年02月15日 03:22

☆Twitterに投稿した短歌たちです。訂正・編集した歌の下には投稿当時の歌を付記しました。



薄い翅ふるわす虫に似て辞書が風に捲れる或る晴れた午後

「60日分」と書かれたくすり見て60日後は春だと気付く
― 「60日分」と書かれたくすり見て2ヵ月あとは春だと気付く

暖かな息を吐きつつ昨晩の悪夢を空へと放つ早暁
― 早暁の空へ向かってにぎった手ひらいて放つ昨晩の夢

森の香の入浴剤をいれた湯に浸かるわたしは森をしらない

言の葉に色の付くのが厭だから口紅だけは塗らないでいる
― くちべには塗らない無色透明なことばをそっと発したいから

あおざめた少年少女が大人には見えぬ秘密の場所へ飛んでく

ひっそりと下着を洗う湯とともに君の目や手も流れ去ってく
― 付着した無数の眼や手をぬるま湯で流す下着を洗う真夜中

緊張と雨の気配と「ナボナ」抱き夜行バス待つ、夕暮れ、トーキョー

制服に似た傘の裏にやはらかな襞を隠して春子は伸びる

微酔いの夜 街灯もない道を指に火ともし独りで帰る

寄る辺なく途方に暮れるまっぴるま想像上の鳥になりたい

空色のゴミ収集車みおくった曇天の朝あおが見たくて

自販機で体温と同じぬくこさの缶コーヒー買う、じき春がくる

銀行のロビーで通帳ながめてる(出来れば僕は失踪したい)

おとなしい家畜を棄ててゆくように期限の切れたお菓子を捨てる
― 期限切れの菓子を棄ててるおとなしい家畜の死骸 棄てる気持ちで

はてしないこの世に句読点を打つようにぽつぽつ梅が咲いてる

うつくしい夢ばかり見る僕まるで心臓のないなまこみたいに

攻撃の術を持たずにうずくまり唇を噛むわたしはなまこ

「誰です?」と祖母に問われた窓際のベッド、西陽が射し込んでいた
― 未だ見ぬ古代生物みる顔で祖母がわたしにお辞儀をした日

履歴書の空欄うめる虫ピンで蝶の死骸を留めてくように

盛装のばかで可愛い女の子みたいにチョコが消費された日

愛という定理を証明するように板チョコ刻む午前二時半

まっしろいものにまみれて浮上する世界を見てたなすすべもなく

新雪に確かな足跡つけてゆくわたし必ず帰りますから



春子…春椎茸。春に収穫される椎茸は「春子」と呼ばれる。

ちぐはぐな三十一文字たち

2011年02月01日 09:04

※twitterにて詠んだ短歌たちです。時系列やジャンルはバラバラです



からっぽの午前零時の通学路つばきの首がぽたりと落ちる

凍てついてみしりと軋む骨の音ただ聴いている深夜二時半

教室の隅でひっそり角砂糖かじる孤独な砂糖病シュガー・ブルース

原っぱの廃車に乗ればいつだって宇宙へ飛べたあの頃ぼくらは

忠実なともだちみたいだ真夜中の静寂やぶるケトルの笛の音

昼下がり総ての音を吸いあつめ海月ぺったり空に冷えてる

変声期むかえた君が忘れゆく「少年」という澄んだ旋律

夏の陽を浴びて自転車こぐ君の月白いろした背骨が透けてる

恋をしようポテトチップスひとふくろ食べるくらいの罪悪感で

「どこからでも切れます」みたいなひとだった優しい嘘だけついていた君

100均のハンコ売り場で君の名を探す化石を掘り出すように

ローソンの看板みたいなあの青にまぎれて僕は空になりたい

夕暮れに屹立してる電波塔、標本みたいに途方に暮れて

まっしろな大根を剥く妹をさわるみたいに躊躇いがちに

元気か?と誰かに電話する兄の部屋から時報の声がきこえる

たいせつに布団のなかの闇たちを抱えて眠る君はやさしい

夕暮れの野原で夜のけものらが春を待ちつつ輪になり踊る

迫りくる夜のけものを追い払うために燐寸をすり続けてる

透明な朝のひかりに融けてゆく遊び疲れた夜のけものら



『連奏十七夜~600首の言の葉たち~』にて詠んだ歌

二一三 間違えたぼくを訂正するように飛行機雲が空に伸びてく

二三八 浴室で化粧を落とす今日というひとつの童話を終わらせるため

二六三 ガラス器にとぷりと陽射しを汲んで飲むわたしのなかも晴天であれ 

三八七 夏草のにおいがしてた男子らの身体検査後の保健室

五一九 くち開き虚空の青でのど満たすもう長いこと雪を見てない 



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