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鳥類図鑑

2011年01月13日 04:40


夕暮れ
夜の仕事へ向かう女の人たちとすれ違う
彼女たちは
首から上は
すべすべと真っ白く化粧をした女の顔で
首から下は
色とりどりの
南国の鳥の姿をしている
通りは
羽根をばたつかせる音や
ギャアギャアと
威嚇するように鳴き交わす声
むんむんと甘い
果物の香りなどが充満して
いっときとても騒がしく
だけど妙に美しく
夢の中にいるようだった


友達の山田に会いに家まで行った
山田は相変わらず狭い鶏小屋の中で
羽根をばさばさ云わせていたが
僕を見るなり嘴を動かして

もうすぐ死ぬんだ
と枯れた声を出した
一時期よりもずいぶん痩せたようだ
とさかもなんだか色褪せている
あまり可愛がってもらってないのかもしれない
持ってきたイナゴをつまみいれる
山田はゲッゲッと鳴きながら啄んだあと
主人がさ
俺が死んだらクジャク飼うってさ
俺 クジャクにうまれたかったよ
じゃなかったらメスでもよかった
なんでオスにうまれたんだろ
と言った
僕は何と答えたらいいか分からなくて
むやみにイナゴをつまみいれた後
極力いつもと同じ感じで
さよならを言った
山田は
へっ
と吐き捨てるように笑った

後日
山田の家の前を通りかかえると
鶏小屋は空っぽで
唐揚げみたいなにおいがしてて
ああ山田は死んだんだってわかった
あれ以来あの家には行かないから
クジャクを飼っているかどうかは知らない


いやに明るい蛍光灯が店内を照らしている
僕はレジスターの前に立って
いらっしゃいませえ
とやけのような声を張り上げている
隣に立っている先輩は
オウムの姿で
制服の袖からはみだした羽根を
くちばしでせわしく噛んでいる
そのうち首ごとこちらを向いて
オイ休憩入ッテイイゾ
と甲高い声で言った
先輩はいつもそればかり言う
無数に繰り返した同じ台詞の中で
それひとつしか覚えていないのかもしれない

自動ドアが開き入店音が流れ
僕は何百回目かの
いらっしゃいませえ
を言う
さっきから鳥肌が立っていて
身の内からぞわりぞわりと
羽根がせり出してきている
そんな気がする

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新年の陽射しは蛍光灯に似ている

2011年01月07日 18:43


大晦日の夜
ひとりで背を丸め
眼鏡のレンズを拭いてゆく
両の硝子レンズには
この一年
わたしの見た光景が記録され
何層もの薄い膜となって
貼りついているから
去年や一昨年と同じように
こんなこともあったと思い返しつつ
上から順々に拭き取ってゆく
すべて拭き取り終えたころ
ちょうど年があらたまった
透明に戻った眼鏡をかけて
あらたまった世界をすみずみまで眺める

ちなみに去年みたもののなかで
もっとも多く
レンズに貼りついていた光景は
夫の背中でも部屋の壁でもなく
ただ音もなく澄みわたった
一面の青い空であった


元日の路地裏を歩く
わんわんと子供たちの声が
色とりどりのごむまりのように
あちらからもこちらからも跳ねてくるが
子供も大人もひとりもいない
いやにがらんとして見える
ふとうつむくと路上には
わたしの影のほかにも
たくさんの人影が落ちていて
それが走ったり立ち止まったり
そこいらじゅうを
せわしなく動き回っていた


遅い初詣へ出かける
閑散とした境内で願い事をして
おみくじをひいた
商売や恋愛や出産のところは
よろしいが用心せよ
と書いてあるのに
待ち人のところだけが
来ず
といやにきっぱり書いてある
思い返せば去年ひいたおみくじにも
待ち人が来ないと書いてあった気がする
無意識のうちにわたしが待っているひとは
いまどの辺にいるのだろう
顔がわからないから探すこともできない
遠い遠いところから
夜のようにじわじわと
それでもこちらへ
向かって来てはいるのだろうか
マフラーを巻き直して帰途につく
三が日を過ぎた町内は美しく暮れ始め
カレーのにおいが漂っている

dissimilation.

2011年01月06日 03:11


夫があまり鋭く見つめるから
わたしはしだいに削れてゆく
夫と婚姻関係を結んでからのわたしは
もう余程うすっぺらくなったらしい
強く手を握られると
きしゃり と指ごと潰れるから
かなしい


眠る夫の口から
糸がはみ出ていた
引っ張るとそれにくっついて
汚いどろどろしたものがどんどん出てくる
もう何も出てこなくなるまで
三十分ほど引っ張っただろうか
洗面器いっぱいに取れたどろどろは
死にたてみたいに温かだった
庭の隅に埋葬した

翌朝
起きてきた夫は
つやつやとよい顔色で
愚痴も言わずにきびきび動く
清らかなひとになっていた
青ざめるほどに後悔した
わたしは夫の悪いところをこそ
受け入れて許さねばならなかったのに
受け入れることも許すこともできずに
わたしたち
どうやって暮らしてけばいいんだろう


誕生日には
自分の部屋に鍵をかけ
既にそこで待っている
一歳年上の自分と交代するつもりだ
交代した後は押し入れに横たわり
もう二度と目覚めない
わたしはいつでもこうしてきた
そういう風に出来ているのだ
二十七人目のわたしは
二十八人目のわたしと交代し
二十六人目のわたしの隣に横たわる
そして短く息をつき
静かに眼を閉じるだろう
そのときはすぐにやってくる
だから今のうちにさりげなく
あいしていたと伝えておこう




※dissimilation…異化。ある程度違う二つの性質や分量を接近させることで互いの区別が際立つこと。

One year of us.

2011年01月01日 12:15

★一月

一月の寒さが床にさざ波を立ててわたしのくるぶし濡らす

元朝にぼくらは羽化しあたらしくやさしく強く生き直してく

★二月

目をすすぎ夢の断片流し去る悪夢ばかりを見ている二月

如月のまだ濡れている太陽はチャーミーグリーンのにおいがしてる

★三月

三月の明るい土手で夢想する世界が終わるときの光景

公園の隅で逆上がりする子らがくるりくるりと青空を踏む

★四月

毛羽立った四月の陽射しが眼球を優しい爪のように引っ掻く

たくさんの金魚を埋めたあの場所に菜の花びっしり咲いてる卯月

★五月

思春期の少年に似て新緑は五月の夜にぎしりと伸びる

体内で芽吹いた言葉が花ひらき口からはみ出す初夏の教室

★六月

雨という透明な檻にとらわれて僕らどこへも行けないみたい

六月の躰は海を恋しがりだんだん魚に退化してゆく

★七月

七月の放課後だれかの歌声が涼風りょうふうとして青田あおたを渡る

太陽が七月を荼毘に付している日暮れの空がすこし焦げてる

★八月

八月の陽射しがとても鋭くて僕たちみんな傷だらけだね

いらいらと消費されてく制汗剤のように消費される唇

★九月

合唱部の混声練習きこえてる金木犀の香が満ちている

封筒に九月の銀河を閉じ込めて遠くで生きてる君へ送ろう

★十月

ただ聞いてほしいだけだとダイドーの自販機に話しかけてみる秋

ためらい傷に似た飛行機雲が伸び十月の空はしみじみ高い

★十一月

切れかけて点滅してる街灯に合わせ点滅してみる(さびしい)

部屋の隅の闇に名前を付けて呼ぶ十一月の夜は静かで

★十二月

前を行く男女のコンビニ袋からコンドームの箱はみ出している

クリスマスケーキの砂糖人形は夢みせ終えたサンタの遺骨








追記
【新春企画 - diary 2011】にて、一月の歌を詠ませていただきました。素晴らしい企画に参加できたこと、とても光栄に思っています。今回の作品は、十二ヶ月分の歌を自分一人で詠んだらどうなるのかという興味から書いたものです。diary 2011と併せてお楽しみいただければ嬉しいです。

2011年1月1日 吉田群青



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