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家事をするけだもの

2010年05月24日 10:38


衣替えが近いので
冬服を夏服に入れ替えることにした
天袋の奥にしまいこんでおいた段ボール箱をおろし
夏服を一枚ずつ箪笥の引出しにおさめてゆく
最後に
去年の夏によく着ていた
さくらんぼ柄のワンピースを広げると
茶色く干からびたさくらんぼの実が
ばらばら落ちてきて
あっという間に
ワンピースは無地になってしまった
安物だったからだろうか

しばらく考えた末
アパートの敷地内に咲いていた
シロツメクサを何輪か摘んできて
ワンピースにくるみ
一晩置いておくことにした
うまくいけば明日には
シロツメクサ柄のワンピースになっていることだろう


浅蜊のお味噌汁を作る
春に産卵を終えた浅蜊の殻の中には
身が入っていない
代わりにどういうわけか
薄桃色の女のくちびるが
折りたたまれて入っていることが多い
あまいあじがするから
それはそれでいいのだが

その他にもこの時期は
秋刀魚を捌くと
はらわたの代わりに
夕暮れ色の花がごっそり入っていたり
路傍の雑草を引き抜くと
根の代わりに
手首がずるっとついてきたり
どうもおかしなことが多い


数日前から
喉がいがいがしている
イソジンで嗽をしても
のどあめをなめてもちっとも治らない

口を可能な限りあけて
鏡で確認すると
食道に
柔らかい毛がびっしりと生えてきていた
心なしか
八重歯も随分とがっているようだ
ひょっとしたらわたし
体の内側から
けだものに戻りたがっているのかもしれない

そうと気づいてからは
コーンフレーク
ハムバーガー
毒々しい色のメロンソーダ
ゼリービーンズ
などの
なるべく文明的なものを
努めて食べるようにしている
怖いのだ
服の畳み方も包丁の握り方も
いつの間にか忘れてしまった

夜半
我に返ると
鏡に映る自分の顔に向かって
必死で爪を立てている

咳き込むと
灰色の毛のかたまりが
ごろごろと
いくらでも湧き出てきて止まらない

わたしこのまま
人間じゃなくなってしまうのでしょうか



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季節ごとに近しくなるものもの

2010年05月21日 15:56

(春)

伝線したストッキング、国語辞書、スケッチブック、埃、先のまるまった鉛筆、花柄の布団カバー、キオスク、アルミフォイル、たまごサンド、青い軽自動車、浴室のタイル、制服、文房具屋、バス停、スーパーのレジの人のピンクのマニキュア、そらまめ、上野動物園、人家の隙間からとろとろ流れ出てくるカレーのにおい、闇の向こうに立って手招きしている桜、

(夏)

ゴム長靴、西武百貨店、無数の二の腕、ビニール傘、風呂上がりの濡れたくるぶし、ルーズリーフ、ゴールデンレトリバー、バターデニッシュ、プラスチックの釦、深夜の信号、レースのカーテン、サーカス、大量の海月、ドラッグストア、階段、マクドナルドで喧嘩するカップル、生乾きのデニムスカート、遠くから聞こえてくる踏切の音、階段、影法師、神社、

(秋)

公園のベンチ、カーディガン、読みかけの本、煮干し、証明写真、新宿紀伊国屋、庭の錆びた三輪車、住宅街、携帯電話、罫線の細いキャンパスノート、一瞬の寂しさ、アクリル毛布、ベレー帽、さびれたスナック、悪夢、電車の時刻表、死に遅れた蝉、緑色の公衆電話、2Hの濃さのシャーペンの芯、鞄の底から出てくる印字のうすくなったレシート、おさまらない空腹感、

(冬)

画数の多い漢字、黒髪、煙突、東京タワー、肋骨、アスファルト、かけうどん、パイプ椅子、東京メトロ、放課後、夕暮れのコンビニ、映画館、学生証、インスタントラーメン、スターバックスコーヒーの紙袋、温泉に猿が浸かっているニュース映像、二階建てのアパート、ふと感じる気配、視線、深呼吸、静謐、サイレン、書き終らない手紙。


モーニング・モーニング

2010年05月17日 06:53


からだじゅうの隙間という隙間に
硝子の欠片を
ぎりぎりと押し込まれているような気がして
目が覚めた
いつの季節でも
朝の光は鋭く皮膚を切り裂いてくる
光が当たって切れてしまったところに
絆創膏を貼った
夜にきちんとカーテンを閉めることを
忘れがちなわたしは
いつだって
どこもかしこも絆創膏だらけだ

まばたきをすると
眼の中に入ってしまった
光のかけらがいくつか
かろかろと畳の上へ落ちた


窓を開けて空をながめる
注意して眼を凝らすと
朝の空の上のほうには
夜色をした
重たそうな幕が上がっているのが見える
きっと朝になったらあの幕を上げ
夜になったら幕を下げる
そういう仕事をするひとがいるに違いないと思う


今日は燃えるごみの日だ
ということを思い出したので
ごみの袋を手に提げ
サンダルを突っかけて
ぼんやりと階段を下りる

路上へ出ると
夜の役目を終えた幽霊たちが
透けた体でぞろぞろと
あちら側へ帰ってゆくところだった

ぼんやりしていると連れて行かれてしまうので
そそくさとごみを捨てて部屋へ戻る
ドアを閉める前に背後を確認すると
知らないうちに
小さい女の子の幽霊がついてきていたので
懇々と説得して帰ってもらった


着替えるために服を脱ぐ
胸のところに
包丁がつきたてられている
ああそういえば夕べは
刺し殺される夢を見たんだっけな
と思いながら包丁を抜き
台所で洗って拭いてから
食器棚の引き出しへおさめる

殺される夢を見ることが多いので
ここの引き出しには
包丁をはじめ
何種類もの凶器が放り込まれている

血が止まらないがいつものことだ
晩までには治るだろう



女子トイレについて

2010年05月17日 06:21


女子トイレの汚物入れの中には
真っ赤な色をした肉厚の花が
ふかりふかりと入っている



駅のホームのトイレには
いろいろのものが
置き忘れられていることが多いのだが
このあいだ
個室へ入ったら
トイレの便器のふたの上に
くしゃくしゃに丸められた
おそらく前に入った女の人の
恋人だか夫だかが
忘れられていたときには驚いた

あわわ
と思い
拾い上げて皺を伸ばしてあげたのだが
薄っぺらなその男性は
かたく眼を閉じたまま
二度と動かなかった
気弱そうな
青白い肌をしていた

駅員さんに一応
そのことを伝えてから電車へ乗ったのだが
電車に揺られているうちに
あの人は忘れられたのではなくて
捨てられたのではないか
とふと思った
確証はないが
なんとなくそれが正解のような気がした



ぺろんと性器を丸出しにして
洋式便座に腰掛けると

わたしこんなところで何してるのかな
とぽかんとしてしまうことが多い
タイル張りのひんやりとしたトイレは
日常に不意にぽっかり口をあけた
どこでもない空間のように思える

トイレから出ると
それまで見ていたはずの景色が
なんだか
懐かしいような感じで眼に映るから不思議だ
まるでほんの束の間
旅に出て戻ってきたみたいな気がする

特にわたしは

よく晴れた日に外出して
そこいらのトイレに入ることが好きだ
用を足して手を洗って外へ出たときに見る
ざあっと一面に咲き零れた
無数の花、花、花は
奇跡のように美しい

そこでようやく深く息をつける気がする



おこめ

2010年05月17日 05:03


初夏
水田には勢いよく稲が育ち
あんまりどこも緑色なので
じっと見つめていると
眼が緑色に染まってしまいそうだ
実際
おこめを育てている農家の人は
緑色の瞳を持っている人が多い
青々とした稲を見すぎている為だろう
よく見えないんじゃないか
と思うような真緑のその眼で
笑いながらすいすいと水田を行き来したり
じっと立って空を眺めていたりする
さあさあと水田の上を吹き渡る風は
どこか遠くの雨のにおいを運んでくる


おこめには一粒に一人ずつ
神様がついている
と言われて育ってきた
神様かどうかは知らないが
確かに
不意に米びつを開けると
無数の小さいものが
いっせいに逃げていくところをよく見る
どうにも気になったので或る日
その小さいものをひとつを捕まえてみた
掌の上に載せてよく見てみる
人のかたちをしていた
透き通るような五本の指の手と
芥子粒ほどの眼を持ったそれは
どうやら小さな女のように見えた
何語かわからない言葉をわめいている
どうしていいかわからなかったので
口の中へ含んで噛み砕いた

ひどく甘い味がした


米を異常なほどに好きな女の子を一人知っている
小学校のときに隣の席に座っていた子だ
華奢な体をした彼女は
給食の米飯を何度もおかわりして
おかずは食べずに米ばかり
むしむしといっしんに食べていた
そんなに仲良くもなかったけれど
なんだか異様だったのでよく覚えている

そんな彼女が最近死んだという噂を聞いた
昔のように米飯ばかりを大量に食べたあと
満足そうに微笑んで
ころりと死んでしまったそうだ
死因がよくわからなかったので
解剖してみたところ
体中の骨という骨の間に
米飯がびっしりと詰まっていたそうである

そういえば
おこめは骨と同じ色をしている


掃除をして
部屋の隅から出てきたおこめは
一粒ずつ拾って掌に集め
庭へ埋めてやることにしている
そうしないとなんとなく怖い
おこめを粗末にすると眼がつぶれるとも言うし
食べなくてもせめて埋葬してやろうと思うのだ
庭へしゃべるで浅い穴を掘って
その中に拾ったおこめを落とす
土をかぶせて足で踏みしめる
そうして埋めたおこめが
芽を出したことは一度もないが

先日の夕暮れ時
庭一面に無数の稲が
青々と生えているのを見た
眼の錯覚かも知れないが
日が落ちきってしまうまで
ずっと見えていた
分け入っていこうとしたら
消えてしまった

このごろよく思うのだが
わたしは死んだら
あんな風に
青々と稲の繁った
水田の中へ行くような気がする




月刊 未詳24 2010年5月第38号投稿

体温をわかちあって死んでいこう

2010年05月13日 10:06


18の頃
わたしたちは双子だった
心拍数もまばたきの回数も歩幅も
すべてがそっくりおんなじで
毎晩おなじ夢を見た

君が持っていたのは
右腕と右足 右心室と右心房
わたしが持っていたのは
左腕 左足 左心室と左心房
わたしたち
これまでどうしてあんなに
不安定にしか生きられなかったのか
ようやくその理由が分かった
君には左側を
わたしには右側を
補うものがなかったからだったんだ
それはとても簡単なことで
だから尚更
いままで気づくことが出来なかった

気が狂ったみたいに笑い合った
空一面に星がちりばめられていたあの夜
居酒屋からの帰り道
そうして生きていけるものだと思っていた
永遠に


結婚してから
君は背が伸びて
年のとりかたがほんの少し早くなった
わたしは背が縮んで
年のとりかたが遅くなった
そして
君は大人の男性へ
わたしは大人の女性へと進化して
もう
あんなに笑い合うこともない
朝から晩まで青ざめた顔で仕事をする君と
朝から晩まで頬を紅潮させて家事をするわたし

ふと
指輪をしたまま
皿洗いをしていたことに気付いて
銀に光るそれを抜く
勢いあまって薬指ごと取れてしまう
ごとり
という感触がして
さびしい


毎晩
眠っている君の横にそっと滑りこむ
何をするわけでもない
君の肩のくぼみに顔をうずめて
君の体臭を嗅ぐ
君の寝息に合わせて呼吸をしてみる
つめたい君のわき腹に
自分のおなかをくっつける

わたしたち
双子に戻ることが無理ならば
せめて
体温をわかちあって死んでいこう
こんなふうに

く、と君が深い息を吐く
その息はわたしが夕飯に作った
塩さばとお味噌汁のにおいがして
いま君は何の夢を見ているんだろう

わからない

眼をつぶっても二度と
同じ夢を見ることはできない






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