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だんちぐらし(仮)

2010年01月29日 15:03


わたしの住んでいる部屋は
旧い団地の中にある

1から50までの番号をつけた号棟が
灰色ががった外壁を見せて
規則正しく並んでいる
そのうちのひとつ
右上に21という番号のついた棟の
小さな孔から入って
うす暗い急な階段を上がった五階
そこがわたしの居室である

何しろ棟はみんな同じかたちで
しかも無数に建っているので
引っ越してきた当初は一晩中迷って
とうとう部屋まで辿り着けなかったこともあったが
それからは帰宅するたび部屋のドアに
背中をこすりつけて
自分のにおいをつけるようにしたので
今では目を閉じていても自分の部屋へ
帰ることができるようになった


初めてこの部屋に案内されたのは
去年の冬のことだった
不動産屋は
うさぎみたいに無表情な人で
いや
もしかしたらうさぎだったのかもしれない
発達した前歯でしきりにガムを噛みながら
ぴょんぴょん跳ねて
イマ キメナイト ホカノヒトガ ハイッチャウヨ
トッテモ ニンキノ ブッケンナンダヨ
ホカノヒトガ ハイッチャッテモ シラナイヨ
ときいきい言っていた

明るい部屋はがらんとして
前の持ち主がのこしていったという電灯が
天井から下がり
なぜか女の裸がプリントされたシールばかりが
柱にべたべたと貼られていた
なんだかぼんやりする部屋だったが
ぼんやりするところがいいと思った

少し間を置いて
じゃあここに決めます
と言ったら
不動産屋は喜んで喜んで
ふああと息を吐き出しながら更に飛び跳ねた
ブルーベリーのにおいが
鼻先にかおった


引っ越してきてすぐに
シールを剥がす作業にかかったのだが
トイレに貼ってある女のシールだけが
どうしてもはがれない
女は挑発的なポーズをとっているし
ちょうど目線の高さに貼ってあるし
気になって仕方がない
用を足しに来るたびに
爪で引っ掻いてばかりいる


真夜中
カーテンをあけて
台所に腰掛けて星を見る
だけどここは
街灯やビルの灯や他の家の灯がまぶしくて
いくら眼を凝らしても
殆ど星は見えない
仕方がないから
窓に油性インキで星を描いてみた

 ☆

 ★

なんだか馬鹿みたいになってしまったが
ほんの少しだけ満足した


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元日

2010年01月01日 20:13

(朝)

まぶたの裏が
一面塗りつぶされたように青く
ときおり光がちらちら反射する
ああ海の夢を見ている
これ以上見ていたら溺れてしまう
と思って目が覚ましたが
目が覚めても相変わらず辺りは真っ青で
あれえ
わたしもうとっくに
溺れてしまっていたんだろうか
と思ったが
それは違って
部屋に掛けてある青いカーテンをすかして
陽光が差し込むために
そこいらじゅうむやみに青いのだった
カーテンを開けると
夜のうちに誰かがいっしょうけんめい
雑巾と洗剤でぬぐったみたいな
ぴかぴかの太陽が出ていた
元日である

蕎麦の切れ端が浮いている
昨夜のおつゆの残りに
餅をいれて火にかけた
ちょっと考えて
暮れから大切に食べていた卵の
最後のひとつをぽっと落とした

(昼)
裸になって
やわらかい陽射しが射し込む浴室に入る
足裏にタイルはひんやりとして
世界中にわたししかいなくなっちゃったみたいな
そんな感触がする
お湯を張った浴槽にとぷりと浸かると
去年までの垢がお湯の表面に浮かんでくる
それらは何故かみな
二等辺三角形のかたちをしているから
皮膚にびしびしと突き刺さる
痛い
ああわたし
去年一年間は
こんなにも張りつめて生きていたんだ
薄く血のにじむ皮膚を眺めながら
すこし咳き込んだ

(夕)
外出をしようとドアを開けると
挟まっていたものが玄関に落ちた

と書かれたおみくじだった
待ち人待てども来ず
とかなんとか書かれていて
読んでいるうちに手が震えてくる
待ち人待てども来ず
黒々と明朝体で印刷された文字は
呪いのように眼の中にしみてゆく

ひとしきり震えて気が済んだので
おみくじを適当に折りたたみ
ジャケツのポッケットへしまって
靴を履いて家を出たが
小さな生き物が騒ぐみたいに
ポッケットで
始終かさかさ鳴るのには閉口した

(夜)
近所の寂れた神社へ行った
騒がしいのが厭なので
ここ数年
初詣は必ず元日の夜に行くことにしている
おみくじを木に結んでしまってから
そむそむと苔を踏みつけて歩き
結び付けられている絵馬を
そうっと裏返して読んでみる

家内安全無病息災
子供が無事に育ちますように
今年こそ結婚できますように
東大合格
夫の病が治りますように

無数の願いが書かれた
まっさらな絵馬からは
祈る声が囁きとなって立ち上り
そこいらじゅうに
ざわ、ざわと満ちている

もう片づけを始めている販売所で
わたしもひとつ絵馬を買った
フェルトペンを握りながら
さて何を書こうかと
しばらく考えて
結局

時計の電池替えるの忘れないこと(単三)

と書いた
なんだか間違っているような気がするのだけれども
仕方ない
そのままぶらさげる
不器用なわたしの手で結ばれた
不格好な結び目の絵馬は
しばらく揺れて
そのうち
他のものと見分けがつかなくなってしまった
ふ、と笑う
わたしきっとこんなふうに
今年も生きていくのだろう

空の遠くには月が
笑った口のかたちで貼りついていて




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