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愛とは

2009年07月31日 02:10


愛してる
と誰かが呟いたので
ふと思った
愛とは する ものなんだろうか
だとしたら
動詞なんだろうか
いやそれとも形容詞かな

調べてみたけれど
動詞とも
助動詞とも
形容詞とも
名詞とも
なんとも書いていないから
ますますわからなくなってしまう

花が咲くみたいなもんだろうか
それともお砂糖に似ているか知ら
深夜の台所でいろいろ想像する
愛してる
と呟いたひとの名前は
どうしても
思い出せない


アルバイトの面接へ行くことになった
履歴書を持ってくるよう言われたので
ひとつひとつの欄を
ゲルインキのボールペンで丁寧に記入してゆく
資格の欄が少し寂しかったので
恋愛マスター準一級
と書いておいた

翌日
履歴書を見た面接官は
少し黙って
恋愛マスターって何ですか
とようやくそれだけ訊いてきた
恋愛のなんたるかを学ぶ資格です
一級になると恋愛に悩む女の子に
的確なアドヴァイスを与えられます
超すごい資格ですよ
まあ恋愛マスターを取得する会には
わたし一人しかいませんけど

成るべくはきはきと明るく答えた

面接は五分とたたずに終了し
引き攣った微笑みを浮かべた面接官に見送られ
電車に揺られて帰ってきた

その翌日
不採用の通知が速達で届いた
何がいけなかったのだろう
やっぱり 超 がまずかったのかな


君がしあわせならばよいのだ
わたしではなくほかの女と一緒にいたって
笑ってさえいればよいのだ
地球がかちりと割れてしまっても
君だけは生き残っていて欲しい
わたしが死んで腐り果てても
君だけは永遠に死なないでほしい

孵化してゆく感情
これが愛というものですか
それなら愛って
なんて憎しみに似ているんだろう

苦しむ顔が
見たいよ



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こっくろーち

2009年07月29日 23:34

ごきぶりと昼夜たたかっています
遠い国のトーチカみたいな形のあの虫は
わたしの髪の毛一本
皮膚ひとかけらすら逃すまいと
小雨にも似た足音をたてて
夜中の台所を這い回っています

もちろん
たかだか二十五年生きただけのわたしが
三億年も前から
死にたいなんて一度も思わずに
進化し続けてきたごきぶりに
勝てるわけはありません
たとえ一対一であっても
逃げたくなるのはわたしのほうです
泣きたくなるのはわたしのほうです

それでも殺すとき
一瞬だけためらいます
もしかしたらこの虫は
永遠を知っているのではないだろうか


ファミリア

2009年07月29日 15:14


夕飯のあと
残した刺身を生姜醤油に漬けて冷蔵庫へしまう
こうしておいて翌日に
焼いて食べると美味しいというのは
母に教わったことだ
そういえば結婚して引っ越す当日に
母がお餞別と言ってわたしにくれたのは
蟹缶だった
昔から実家に置いてあったもので
父が出張帰りにお土産で買ってきてくれて
だけどもったいなくてずっと食べなかったやつだ
ところどころ錆びついていた
どうしようもなくさびしくなった夜中に
ひとりで泣きながら食べた
あの時笑った母に手を振ったまま
もう一年くらい帰省していない
刺身を漬け込んだ人差し指を舐めてみる
同じ材料同じ分量で作っても
どうしたって生姜醤油は
母の味に近づきすらしない


雨の降るうすぐらい昼さがり
こわいものが入ってこないように
窓もドアもすべて施錠して
安心して横たわり目を閉じる
もう誰も守ってくれる人はいないから
この身はじぶんで守らねばならないんだ

だけど
こわいものはいつだって
どこからだってやってくる

血の沢山出てくる悪夢を見て
あ、おかあさん おとうさん たすけて
と言って目覚めた
午後七時の闇が
親しげに部屋全体を覆っている
しいんとした台所には
炊飯器が静かに湯気をあげているだけで
誰もいない
そうだ
わたしから捨てたんだ


お中元を実家へ持っていくのがこわい
例外なく老いた
母と兄と父と祖母の待っている家を
夫と二人で訪ねてゆくのがこわい
お中元を持って行って帰ったあと
わたしのいない家で
みんながどれどれとか言いながら
まるで宝物を触るみたいにそうっと
わたしの持って行ったキャノーラ油三点セットとか
永谷園お茶漬けセットとかを
あけるかもしれない
と想像するのがこわい
二つ折りの携帯電話を開けたり閉じたりしながら
わたしの細胞にまで深くしみ込んでいる
市外局番からの電話番号を
押そうとしてでもやっぱり押さない
子供のままの甲高い声で
わたしや兄や妹が出たらどうしよう
と思ってしまうのだ

かぜごゑ

2009年07月28日 23:15

風邪 いちにちめ

体のなかはあついのに
皮膚の表面はつめたい
俗に云う風邪なのだと気づいてからは
ずっと布団の中でグレープフルーツを齧っていた
昇ってくる陽にそっくりな果実は
わたくしの爪で容易く破られ
はしたなく果汁を空気中にばらまく
息もつかずに三つ四つたべれば十分なのだけど
爪で果皮を破るのがおもしろくて
床へじかに座り込んで
へたの少し凹んだところに
親指を差し入れて破りつづけた

親指がひりひりしてくる頃には
うちじゅうのグレープフルーツを
すべて破り終えたあとで

そのまま横倒しに倒れたら
グレープフルーツばかり盗む
泥棒になる夢を見た


風邪 ふつかめ

おかあさんおかあさん
と呼ぶ声で目をさました
あれ わたしには子供がいたのだっけ
と思って目を開ける
子供は
ちょうど陰になっていて見えない貌で
おなかがすいたよう
とひいひい泣いた
おまえにはなにもしてやれないよ
と言ってはっと気がついた

少し口を開いた子供の口元には
ぞろりと揃った鋭い犬歯が
ぴかぴか光っていて
その奥に拡がる闇ときたら
何かいろいろのものを内包して
天井の四隅と同じ色をしているのだ
ああそうか
わたしはこの子に食われるのか
どんな死に方をするものか
ずっと考え続けてきたんだ
妙に安堵して少しねむった


風邪 みっかめ

窓の外を見ると
空が黄色かった
クレオンで厚く塗ったくったような
黄色い空の下で
道行く人たちはなんでもない顔をして
笑ったり
乳母車を押したりしている
油で素揚げされているみたいな
蝉の声が降りしきる
きっと熱の所為もあるんだろうけれど
この世界はなんて異様なんだろう


風邪よっかめ

ようやく起き上がれるようになったので
トローチを買いに行った
背骨が変に湾曲している
身体がふたふたと頼りなくやわらかい
どうもこのまま猫になりそうな予感だ
確認のために爪を見てみる
人間のままのやさしい形の爪だったので
ほっとした


風邪よっかめ・午後

帰宅してトローチを舐めようと封を破ると
それはトローチではなくて笛ラムネだった
所在ないので
口をとんがらかして咥えて
ぴゅうぴゅうと音を出してみる
それは
高層ビルの路地裏を吹き抜けてゆくような音で
窓の外では
風邪に罹る前に干した洗濯物が
曇り空にひるがえっていて

ああなんだかさみしいなあ
布団の中からは汗と垢のまじりあった
野蛮なにおいがする

誰かやさしい人が来て
抱いてくれやしないだろうか



ドア、閉まります

2009年07月28日 00:10


夜の間
やわらかく曲がりくねって
遠いお伽の国へと繋がっていたレールは
朝の光を浴びた時にはもう
冷たく冷えて
駅と駅とを繋ぐ
当り前の鉄の路へと戻っている
包装紙から出したての
きゃらめるのような形の電車には
几帳面な女子たちが折り紙で
きちっと折ったような
白いワイシャツを着たひとたちが
絶望したような顔で
どこかへ運ばれてゆく

みんな完全に
起きているわけではないので
車内にいるひとたちのなかには
昨夜夢で見たのだろう
おそろしい怪物をつれているひともあるし
理想の女の子にひざまくらをしてもらって
うっとりと眼を閉じているひともある

遠くに高層ビルがかすんで見える
あのひとたちはどこへゆくのだろう
ころされにゆくのかもしれないな


あのころのわたしは
最終列車へ乗るのが好きだった
うすぐらい車内はどこかしらものがなしく
乗っているひとびとはみんなうつむいていた
窓外には街灯が
ぽたりぽたりと滲んで流れてゆく
わたしもふくめて
みんな幽霊みたいだった
それでもひとびとは
帰るべき場所へ帰ってゆく
わたしはうとうとしながら
みんなすごいんだなあ
なんて考えていた

わたしには帰る家はあったけれど
帰るべき家はなかったから

だからしばしば乗り過ごして
眼を覚ますとそこは鵠沼だった
とか
眼を覚ますとそこは江ノ島だった
なんてことはしょっちゅうであった
半ば自暴自棄になっていたのだと思う
そういうときは改札を抜けて
明るくなるまでひたすら歩いた
海のほうへ行けば
安らかに眠れる気がしたから
潮のにおいをたどっていったのだけど
江の島も鵠沼も
どんなに歩いても
なかなか海にはつかなかった


電車に乗ると窓の方を向いて
立ち膝で座る癖がある
流れてゆく窓外の景色はどうにも広大で
きっとわたしは世界のすべてを見られない侭
死んでゆくんだろうなと思う
脱ぎ捨てた靴は不揃いに散らばって
向かいに座っている高校生が
荒々しい息をしながらシンナーを吸っている

車内は静かで
みんなねむっているんだろうか
大人のひとたちが
わたしたちの起きているときはねむっていて
わたしたちのねむっているときに
起きているのはなぜなのだろうか
考えるべきことはたくさんあるのに
わたしはどんどん大人になってしまう
自分が子供だったということも
そのうちわすれてしまうんだろう
少し寒い
とっておいた冷凍ミカンをはんかちから出して
大切に食べる
長い旅になりそうだ

電車はおもちゃのようにかたかた揺れながら
青空も星空も切り裂いて
わたしたちを
まだ誰も知らない
どこか遠い場所へと運んでゆく

幻獣・女子

2009年07月23日 04:29


女子たるもの匂いに気を配るべし
という記事を立ち読みしていた週刊誌で読んだ
コンビニを出てから肩のあたりを嗅いでみたのだが
なんだか汗じみた獣くさいにおいがした
おおこれはいけない
女子というものは幻想の生物である
自らを美しく見せるのが義務である

急いでコンビニに戻り
コスメコーナーとかいうところに並んでいる
しゃらくさいような小さな瓶を手当たり次第に買い込んで
家へ戻った
そしてインターネットで
薔薇のにおいのするという枕を注文した
これで万全である
わたくしは幻獣・女子としてこれから生きてゆける
コスメグッズの封を破り
顔に塗りたくって眠った

三日ほどで薔薇の枕は届いた
乏しい金を払って受取り
ついでに
宅配業者のお兄さんにウィンクなどしてみたのだが
お兄さんは わあ化け物 などと叫んで
ドアを乱暴に閉めて逃げてしまった
失礼千万である
薔薇の枕は確かに薔薇のにおいがした
と言っても
わたくしは本物の薔薇の香りを嗅いだ事はない
香水や化粧品に配合されている
ローズエキスの香りなら知っているが
野薔薇が初夏の風にそよぐとき
大輪の薔薇が早朝の空気のなかで
打ち震えて花開くときの香りは知らない
まあ大した問題ではないだろう
うきうきしながらその日は薔薇の枕で眠った
いいにおいの怪獣に殺される夢を見た

一週間ほど経って
薔薇の枕から厭なにおいがし始めた
陽に干しても抜けない
何かが朽ちてゆくようなにおいである

それでもそれから一週間程度は耐えて
その枕で寝ていたのだが
どうにも酷いので棄てることにした
枕はどうして棄てるものやら分らぬので
裁ち鋏を出してきて
じょりじょり
と切り裂いてゆく

すると中からは腐って変色した薔薇の花弁が
あとからあとから無数に出てきたのであった
花弁はすでに乾ききって
畳の上でかさかさと虚しい音を立て
思わずひいと声を上げた
コスメグッズを塗りたくった顔は吹き出物で
よけいに酷くなり

なんだかおそろしかったのだ

とてもおそろしかったのだ

ワーカホリック

2009年07月05日 07:39


夜道を歩いていると
ギターを背負った作曲家らしき人が
しゃべるで土を掘っているのに出くわした
掘られた穴は
周囲に花弁のように無数に散乱し
いずれもくろぐろと口をあいていた
ねえ どうしてそんなに穴を掘るのですか
と聞いてみると
作曲家はにやにやしながら振り返り
実はこの下にまだ誰も知らない旋律が
埋まっているはずなのです
僕はどうしてもそれが必要なので
掘り当てねばならんのです
と言う
背負ったギターはよく見ると
弦がすべて切れていて
しかもところどころひびが入っていて
二度とつかいものにはならなさそうだったが
作曲家は夢中で掘り続けている
柄を握り締める手は爪がところどころ剥がれていて
それももう乾いてがさがさだ
きっとずいぶん前からこうしているのだろう
なんだか
ひどい嵐にいためつけられた
植物を見るような心持ちである
しばらく眺めているうちに
作曲家は背中をふるわして
低い笑いを洩らしはじめた
その笑い声は
まるでそれ自体が一つの旋律であるかのように
暗闇に美しく響いたのだった


何年か前に
探検家になるんだと真新しい背嚢を背負って
ふらりとどこかへ行ってしまった友人に
偶然駅で再会した
おうと手を挙げる友人は
出発前よりもずいぶん陽に焼けて
眼を
まるで熱に浮かされたかのように
終始ぎらぎら光らしている
あのときは真新しかった背嚢は
ずいぶん使い込まれてくたくただ
ようと返事をして立ち止まり
少しその場で立ち話をした
友人は手にしおれかけた熱帯の花を握っていた
それは何か と尋ねると 妻だ と答える

だってそれ花じゃないか

いや妻だよ
かわいいだろう

にこにこしながら言う
どうやらあまりに自然ばかり見すぎたため
少しく混乱しているようなのだ
別れ際
土産だと言って
紙に包まれた何かの塊を渡してきた友人は
もうすぐ家に着くからね
とあやすように花に言いながら
振り返りもせずにふらふらと群衆に紛れて行ってしまった

帰宅してから電燈をともした机の上で
もらった紙包みをひらいてみると
箱に詰められた大量の虫の死骸が出てきた
几帳面な友人らしくどの死骸も
尻をまっすぐ下に向け足をそろえた格好になっている
きれいな色のものばかり選んだのだろう
電燈に照らされたそれはまるで
絵画のようにさえ見えたのだ
ああ あいつはもうこっちには戻ってこないんだろうな
わたしは死骸を箱ごと燃えるゴミの袋に投げ入れて
深いため息をついたのであった


わたくしはメイドであります
古いお屋敷にご主人さまと二人だけで暮らしております
ご主人さまはとてもお優しい方で
わたくしはお掃除やお料理が下手くそなのに
叱ったりせずに笑って見守ってくださいます
お庭も大変広くて
さまざまなお花がいつでも咲いております
ご主人さまが自らお世話をされるのです
ぽってりと開いた大輪のお花は
色濃くかぐわしく美しいです

わたくしはメイドであります
ご主人さまは何もおっしゃいません
もうずいぶん前から黙りっきりでいらっしゃいます
お料理をお部屋へお持ちしても召し上がりません
あまりお味が悪いので召し上がれないのでしょうか
お料理のそのまま残されたお皿を下げるとき
いつも悲しい気持ちでございます
ほこりまみれのお屋敷はとても広くて
いくらお掃除をしても追い付きません

わたくしはメイドであります
ご主人さまのお部屋からは
ことりとも音がいたしません
ベッドに横たわっていらっしゃるご主人さまは
随分とお瘠せになられたようです
お肌も真っ白になっていらっしゃいます
何かのご病気なのでしょうか
お呼びしても何もお答えになりません
触れてみるとご主人さまのお体には
厚く埃が積もっておりました

わたくしはメイドであります
メイドでありますので
ご主人さまのお赦しがない限り
ここから去ることはできません
わたくしは花咲き乱れるお庭のある
大きいお屋敷で
毎日お掃除とお料理をしながら
お優しいご主人さまと二人きりで
大変幸せに暮らしております




※ワーカホリック―仕事中毒。生活の糧である筈の職業に、私生活の多くを犠牲にして打ち込んでいる状態を指す言葉



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