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Night dreams

2009年05月29日 05:28




駅の前を通りかかると
ちょうど始発の着いたところだった
まだ薄暗い町にはぽつんぽつんと灯りがともってさみしい
がらっと列車のドアーが開くと
無数の革靴が降りてきて
ビーズをこぼしたような足音が
ざらざらざらとホームに響いた
革靴は次々改札を抜けて
帰るべき場所を目指し歩いてゆく
電車がごうんと動き出したあと
乗り遅れたのだろうか一足の革靴が
所在なさげに立ち尽くしていた


恋人が銀色の冷たいメスで
背骨に沿ってわたしの体を開いてゆく
月に一度そうしてほしい とお願いしている
わたしはなんでも食べてしまうので
たまに変なものが体内に入り込んでいる時があるのだ
いま恋人の使っているメスも
いつかわたしの体内から恋人が細い節くれだった指で
そっとつまみだしたものなのだ
ため息をつく
すっかり開かれて
むき出しになった脊椎に風が当たって涼しい
恋人は人差し指を入れて
静かにわたしの中をかき回していたが
やがて小さなきたない石を取り出した
どうもこれは星らしいぞ
そう言いながら硝子瓶の中に入れてキルクでふたをした
わたしから出てきたもののほとんどは
そうして恋人がコレクションしている
星は窓際に置くことにした
昼間はただのきたない石だが
夜になると硝子瓶の中でわずかに光って
はかなげでとても美しいから


現実から逃げたくて
夜の道をどんどん走ってゆく
息が切れて苦しくなってだけどそんな苦しさなんて
現実に比べたら遠く及ばない
そのうち吉野家もファミリーマートも
はるか後ろに過ぎ去って
まだまだ道は続いているように見えるところで
こちんと壁に行き当たった
そこが夜の果てだった
壁面をたどって横へ移動する
小さなドアノブがあったのでそれを回して
夜の向こう側へ行こうとしたのだが
押しても引いてもひらかない

鍵が要るのかもしれない
と気付いたときにはもう夜明けで
既にわたしは逃げ場を無くして
また一日が始まってしまう
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某日

2009年05月16日 02:13

某日
土手に咲いている花が
なんだか痩せた女のように見える
風が吹くとくすくす笑いながら揺れる
女というのは笑っているときが一番きれいだ
見とれているうちに陽が暮れた

某日
今日
確かにスーパーで魚を購ってから
帰宅した覚えがあるのだが
焼こうとしたら無くなっていた
ぼんやり生きているからなのだろうか
だから
切り身の魚にさえ逃げられてしまうのだろうか

某日
魚が見つかった
読みかけの文庫本の間に挟まっていた

某日
最近やたらにのどが渇く
欲するままに水を飲んでいるのだが
数日前からなんだか
体が透き通ってきたような感じがする

某日
小指に
ほそうい赤い色が結ばれてあった
期待しつつたどっていくとその先は
行き止まり
という標識につながっていた
これではあんまりではないか
さめざめと泣いてから帰宅して
ご飯を二膳くらって眠った

某日
手紙が届いたので
わくわくしながら封を切った
中にはA4サイズのコピー用紙に
たった一字だけ

と書いてあるものが入っていた
どうやらわたしは
何かを誤っているようなのだが
何を誤っているのだろう
自慢じゃないが
生まれてからこっち
誤りだらけの人生を送ってきたのだ
負けるかよ
と呟いて笑ってみたのだが
その日からこっち
どうも気になって眠れない
元来小心者なのである

おはなのおはなし

2009年05月14日 03:10



残業をして帰りが遅くなった夜
路上に大きな花が落ちていた
見たところ向日葵なのだけど
ここいらに向日葵なんて植えているうちはないし
花屋はすでに閉まっているし
だいいちまだ向日葵の季節じゃないし
だけど路上の向日葵はたった今しがた咲いたところを
無残にも花だけ切り落とされました
そういうような顔をして
しっとりとした露をふくんで
明るい照明のようにひとつだけ
ほとりと落ちているのだった

himawari000713-2.jpg


雨の日に散歩をしていると
ふと大勢の視線を感じた
振り返ったけど誰もいない
目を凝らしても誰もいない
おかしいなと思って俯くと
丁度わたしの足もとに
クロッカスが群生していた
開いた花は残らずこちらを向いている
なんだかぞっとして
逃げるように立ち去ると
背後からどっと笑う声が聞こえた

kurokkasu-w.jpg



近所に
花をたくさん植え過ぎて
家が花で
見えなくなっているようなうちがあるのだけど
わたしはいつもそのうちを
直視できずに俯いたり目を閉じたりして通りすぎる
何しろあんまり花が咲きすぎているのだ
さまざまなかたちの女の人が
足を開いて中身を見せているみたいで
ひどく乱れたような感じがするし
風にいっせいに揺れてざわざわしているところなんかは
なんだかとても怖いのだ
取り込まれそうで怖いのだ


9825.jpg

夏の話

2009年05月14日 02:26



空色のTシャツを着ているおんなのこの
胸のあたりから海鳴りが聞こえる
すれ違うと確かに海のにおいがした
それは
海草や海月や皮膚や毛や
その他いろんなものが混ざりこんで
遠い水平線から喧騒とともに押し寄せてくる
少しぬるまった海のにおいだった


夕立のときに
空を見ているのが好きだ
ばりんばりんと雷が鳴るたび空にひびが入って
簡単に世界が壊れそうな気がするから
やがて不吉な色の雲が去って
嘘みたいに晴れ上がった空をよく見ると
確かに夕立前よりも
ほんのすこうしずれている


暑がりの妹はあんまり汗をかきすぎて
いつかの夏に溶けてしまった
液状化した妹を冷凍庫に入れて
一晩冷やしてもとに戻したのはわたしだ
妹はあのときあんまり小さすぎたから
何も覚えていないと思うが
成長した妹と一緒にお風呂に入ったとき
やわらかいからだの隅っこのほうに
あの時わたしが気づかずに落とした
一本の髪の毛が混ざりこんでいるのを見た


夏の日
怠惰で退屈で何もすることがなくて
家族もみんな出かけていて
家に一人でいるときは
スプンを空に向けて少し削ると
透明なしゃりしゃりしたものが取れる
それは食べても埃の味しかしないような
あまりおいしいものではなかったから
スチール製の菓子箱に少しずつ溜めていた
雨の日に蓋をあけると
暗い部屋の中に夏の陽射しが満ちる
大切にしていたのだけど
或る日
小さい姪が駄々をこねるので
箱ごとあげてしまった

あれからいくらがんばっても
しゃりしゃりしたものは取れないし
たまに取れてもすぐに消えてしまう

大きくなった姪が遊びに来た時に
箱ごと持ってきてくれたことがあったのだけど
箱の中には陽射しなんてなくて
ただあの頃の姪の宝物
たとえばねりけしとかいろえんぴつの芯とか
瓶に入った紙石鹸とか
かたっぽだけの人形の靴が
雑然と入っているだけだった




月刊未詳24/2009年5月第26号投稿

よる

2009年05月14日 01:39


夜はくろねこのように
足音も立てずに背後からやってきて
あっという間にそこいらじゅうをまっくろにしてしまう
あとには笑った口の形の三日月が
煌々と光っているだけだ


真夜中になると植物は
残らず青白い腕に変わって
通りかかる人々を手招いたり
その服の端をちょっとつまんだりする
慌てて振り向くと笑い声だけ残して
ちゃんと植物のかたちに戻ったりして
それでも月の出ている夜はいいが
新月の夜だと始末が悪い
誰も見ていないのをいいことに
隅の暗いほうからそろりそろりと
数多の腕を長く伸ばして
ふらふら歩いている人を
向こう側の世界に引き込んでしまう


夜に窓を開けて眠ると
遠くのほうからひたひたと幻が押し寄せてきて
開いた隙間からすっかり部屋の中に入り込んでしまう
そういう日はやけに色鮮やかな夢をたくさん見たり
枕元にバクが正座していたり
体が歪んでWやUの形になってしまったり
なんだか色々なことがあるのだが
先日窓を開けてねむった日から
わたしは大きなオウムになってしまって
それきりもとに戻らない
所在なさげに台所の椅子の背につかまって
明けても暮れても
おはようおはよう
と繰り返しているしかなくてさびしい


からだ

2009年05月14日 01:08



かさぶたを剥いたら
その下に暗闇が広がっていたので
慌てて元に戻した
それからなぜかわからないけど
悲しくなって一晩中泣いた


このところ耳がよく聞こえない
頭を振ると硬質なものがぶつかり合うような
からからという音がするし
耳掃除をしても奥のほうでからからという音がするし
耳鼻科へ行って耳掃除をしてもらった
耳鼻科医が先の細いピンセットで
幾つも幾つもつまみだしてくれたのは
プラスティックだったり象牙だったり木だったり
様々な素材のまるい釦だった
耳鼻科医があまり驚かなかったところをみると
ほかにもいろいろなものを
耳に隠し持った人がいるに違いない
こないだは枯葉ばかり出てくる患者さんが来ましたよ
くぐもった声で耳鼻科医は笑った


小学校のとき
急に後ろから驚かされて
心臓がぼろんと落ちてしまったことがある
心臓の落ちたあとの胸にはくろぐろと穴があいていて
みんなはざわついてわたしの周りに輪をつくった
初夏の教室で
なんだか置き去りにされたような気持だった
心臓は床の上で孤独な動物みたいに
所在なくびくびく動いていた
ぽかんと立ち尽くしていたらやがて先生が来て
アラビックヤマトでうまくくっつけてくれたからよかったけど
それでもやっぱり今でも
おどろいたときや切ないときなんかに
くっつけたあとがはがれてしまいそうになるのだ
もう何年も前の糊はすっかり乾いてしまって
鼓動が速くなるとぱりぱりと音を立てる



きやべつ

2009年05月07日 08:07



以前友人だったひとから電話があり
出産したから見に来てくれと言う
以前友人だったひとは
遠くに住んでいて
遠くに住むようになったから
疎遠になってしまって
それで友人ではなくなったのだけど
それでもともかく縁故のあることには変わりないので
電車を三回とバスを二回乗り継ぎ
彼女の家まではるばる出かけて行った

彼女は山奥の古い借家に住んでいる
隙間だらけのように見えるその家の戸を叩くと
桃色のワンピースを着た彼女が出迎えてくれた

彼女のほかに
人の気配はまるでなかった

ご主人だとかおしゅうとめさんだとか
そういう人はいないのかと聞くと
彼女は首を三十度ほど傾けて
いないわと答えた
それきり彼女は黙り
わたしも黙った

おもたせのシュークリームを
彼女の入れてくれた煎茶で
残らず食べてしまうと
わたしたちは
すっかり手持無沙汰になった
空は晴れ渡っていて
何かわからない鳥が高く囀っていた

ふと彼女は思い出したように手を打ち
襖をあけて隣の部屋へ入っていった
襖の隙間から埃のにおいが濃厚に漂ってくる

わたしは鞄から煙草の箱を取り出して
つぴっとした角のところを
指の腹で撫でさすったり
煎茶がまだ一センチほど残っている湯呑を
色々な角度から眺めたりして待っていた

ようやく出てきた彼女の腕には
赤ん坊をくるむ布が
どっしりとした質感で抱かれていた
さあ坊や
かあさまのお友達にお顔を見せておあげ
言いながら彼女は
おくるみをわたしに見えるように傾けた

そこにおさまっていたのは
つやつやと張り詰めたさみどり色の
血管のように走行する繊維の

見事に丸いきやべつであった

満面の笑みの彼女に合わせて
わたしは仕方なく曖昧に笑い
渡されたので抱いてもみたが
やはりそれは紛れもなく
冷たい
するするとした手触りの
ころんとした只のきやべつであった

何かわからない鳥が空高く囀り
一瞬時間が止まった気がした

それからわたしは
行きとは逆の道順で
バスを二回と電車を三回
乗り継いで帰ってきたのである

それからというもの
わたしは
葉からにじみ出す透明な液が
なんだが体液みたいに思われるから
きやべつをあまり食べられなくなってしまった

彼女とはあれ以来連絡が取れない



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