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変な子供だとよく言われた

2009年02月21日 12:06


いちたすいちはに
にたすにはよん
よんたすよんは

小さくつぶやきながら足し算をしていると
頭蓋のなかに
小さな泡がどんどん増殖してくる
それらは
しまいには嫌なにおいをたてて
口から一気に溢れ出してくるのだ

そこいらじゅうべたべたになった畳の上で
だけど逃げ出すわけにもいかずに
膝をきちんと折り畳んで座り
ごたすごはじゅう
などと
相変わらず呟いている

少し埃っぽい冬の陽射しが
硝子のように鋭角に砕けて
ひいやりした台所の床に
幾何学模様をつくっている



あのころ
母親は小さな妹を生んだばかりで
始終いらいらしていた
母親の周囲の空気は
電気を帯びていてうす青く
不用意に触れるとぱちぱち云うのだった

妹はまだ林檎くらいの大きさで
何もしゃべらずに
お布団の上でころんとしていた
しめっぽい
血みたいなにおいがしていた

母親が抱いてくれないので
わたしは
いつも父親に抱かれていたのだが
父親の肌は古い紙とマイルドセブンのにおいがして
なんだか妙にすべすべで
わたしとは違う生き物みたい
遠い国からやってきた名も知らぬ動物みたいだった

晴れた日曜日
よく二人でカメラを持って
近所の公園へユーフォーを撮りにいったことを覚えている
その不思議な円盤が
わたしたちの前に現れたことは
一度もなかったから

ぼんやりと上を見上げながら
ただ座っていた

世界中に
わたしたち二人しかいなくなっちゃったみたいな気持ちで



留守番をたのまれたけど暇なときは
縁側に
子供用の赤いおざぶとんを敷いて
陽に当たりながら鉛筆を削った
わたしはきちんと鞘に入った小刀を持っていて
鉛筆を削るときだけそれを使った
陽が傾くまで夢中で削って
おなかが空くと
削りかすを食べた
おなかが空くと淋しくなるから
手当たり次第にいろんなものを食べた
満たされればなんだってよかったんだ
その頃から
今までずっと

陽が暮れて
薄ぐらい縁側に
さくさく云う音だけが響く

誰も帰ってこないから
赤いおざぶとんに乗って
不格好に尖った鉛筆とよく光る小刀だけ持ったわたし

眼を閉じて
遠いところまで一人で
漂流してゆく
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マックは世界中に支店があるところがいいと思う

2009年02月19日 23:36


コンビニで公共料金を支払った帰り
マックの
おもちゃみたいな椅子に座って
アイスコーヒーを飲む
マックのコーヒーはアルミホイルみたいなあじがして
一口ごとにどんどんさびしくなるから好きだ
胸のなかに
ジャングルが生い茂って
名も知らない大きな花が
勝手にどんどん咲いてゆくみたいな気持だ

さんさんと陽が差し込んでいて
昼下がり
アルバイトの店員が暇そうに笑っていて
あぶらのにおいがする
斜め後ろに座っている外国人が
懐かしむみたいに無言でポテトを食べている


ドライブというものには 本当は 目的などないのだ

2009年02月16日 02:14



忠実な番人のようにまっすぐに
立ち並んで道路を照らしている
街灯を幾百も幾千も幾万も越えて
車を走らせる
朝がどこから始まるのか
見に行くために

夜の中を走るということは
しらない町の映画館に
たったひとり座って
いちばん初めの宣伝が始まるのを
待っている時間のように
そわそわして静かで心細い


自動販売機の前に車を止めて
缶コーヒーを買った
ひゃくにじゅうえん入れて釦を押す
出てきた缶コーヒーは
たったひとりの友達みたいだ
丸くて優しくてあたたかくて

それが少ししか続かなくて
そのうちつめたく冷えてしまうところも


窓を開けてもう少し走る
ひらいた隙間から
風に乗ってやってきた恋人が
うまく入ってきて
助手席におさまり
エフエム放送を聴き始める
エフエム放送はいつも背後に
小雨が降っている気配がするから好きだ
ディージェイが押しつけがましくないところもいい

恋人は
しばらく電波に乗って聞こえてくる音を
首をかしげて聞いていたが
やがて飽きたのかまたすぐに
窓の隙間から風に乗ってどこかへ行った
目的地を聞くのを忘れてしまったが
たぶん同じところに行くんだと思う

恋人に限らず
わたしたち生きているものはみんな
同じ場所を目指して
進み続けているんだと思う

もう少しだ
と思う
何がもう少しなのか
はじまるのか終わるのか
それすらちっともわからないままに


夜が明ける頃に
どこかの海に着いた
車を停めて砂浜に座り
昇ってくる太陽をしばらく見つめる
朝は下からやってくるんだ
だから
夕暮れや真夜中
さみしくてしょうがないときは
足の下を掘れば朝があると思う
大変満足して車に乗り込んだ
スコップを買わなければならない
と思いながら

ずいぶん遠くまで来たと思ったのに
帰りつくまでには
一時間とかからなかった


台所

2009年02月11日 03:06


裸足のままで
冷たいフローリングにしゃがみこむ
冷気が下着の中に入り込んできて
その感触は幼い頃に抱いていた
とても親しい秘密のようだ
ぶおーんと鳴いている冷蔵庫の前で
四角い紙パックにくちをつけ
冷たいのにぬるいような味の牛乳をのむ
風呂上がり
シャンプーのにおい
半乾きの髪を揺らすのは風
どこから吹いてくるのだろうと

振り返るといちめんの草原だった

掌で口元をぬぐいつつ立ち上がる
これはきっと
一リットル分の牛乳に閉じ込められた
無数の牛たちの記憶だろう

日差しが眩しくて
初夏の草原だ
わたしはいつの間にか裸になっていて
足元の草をちぎって食べる
ひどく苦い味がした

とても懐かしいにおいの
風が吹いている
何世紀も昔から
わたしはここにいたんだろうか


真っ白い卵が
冷蔵庫にひとつだけ残っていた
なんだかさみしそうに見えたので
うずくまって腹の下に入れてやった
丸い感触がして
なんだか嬉しい

それから
どのくらい経ったのだろう
何日も眠ったような気もするが

とにかくはっと目を覚まして体を起こすと
卵はすでに割れていて
妙な色の液体が流れ出していた
罪悪感を抱きながら
破られた手紙にも似ている破片を
拾い集めてごみ箱へ捨てた

液体の広がっているあたりからは
ものすごくいやなにおいがして

いのちとはこんなふうに汚くてどろどろで
それでもきっと夢のように儚い
そんなようなものなんだろう
確証はないけれども
考え出したらきりがないので
そういうことにしておこうと思う


煌々と電灯の灯った台所に真夜中
背筋を曲げて
ぼんやりと座っているのが好きだ
なんだか台所だけが独立して
隣の部屋からも
部屋のあるアパートからも
近所のスーパーからも
それらの集合した町からすらも
遠く遠く何億光年も離れた
宇宙に一人で漂っているみたい
誰ともつながらずに
冷えたコーヒーと読みかけの本だけ携えて

地球の皆さんこんにちは
わたしはもう少しで冥王星に着くところ
息が少し苦しくて
とても寒いんだけども
今つま先の辺りを流れた星を捕まえたので
封筒に入れてそっちへ送るよ
あと少しで戻るので
それまで元気で
また会おう

瞼の奥から薄青い色がだんだんせりあがってきて
ゆうべのにんにくのにおいがする
そのうち
幻も夢も掻き分けて
わたしの上に朝がくる


失われつつあるものの、美しさ

2009年02月07日 17:27


夕暮れ前
遠くにかすむネオンの灯は
空想の世界の動物のようだ
泣いてるみたいに点滅して
消えそうなくらい風に揺られて

幼いころ空想で作り出した王国が
地平線の果てで滅んでゆくところを
否応なく見せられているみたいだ

なんて静かなのだろう

なんとなく
世界の終わりというものも
これと似ているような気がする

真っ暗になって
なんにも見えなくなって
さよならをいう暇すら
きっと与えられなくて


バレンタイン用に包装されたチヨコレイトを
買って胸に抱きながら帰った
わくわくしながら箱を開けると
腐乱死体みたいになっていた
心臓を模したというハートの形は
すでにどこにも見当たらない

せつながりながらも
でろりとしたそれを
指につけてしゃぶってみる
遠い昔だれもがそこで
泥遊びをしていたであろう
母の体内みたいな感触だ

食べ切れなくて捨てるとき
ものすごく痛々しい気持ちになった
わたしは臆病者だから
きつく眼をつぶって
見ないふりをした

がさり
と音がして
たぶんわたしも含めて
この世のものはきっと全て
こんなにもたやすく捨てられてゆく


君の声が
わたしの耳に届く途中の地点で
鳥の形に変わって
空へ羽ばたいてゆくのを見た
だからわたしには
君の声はぜんぜん聞こえないんだけど
次々に飛び立ってゆく
その鳥の色や並び方や羽ばたきの回数で
何を言いたいのかはだいたいわかるよ
言おうとしたわたしの声も
小鳥になって羽ばたいてしまう

もうずいぶん前からこんな風だ
君の声の高低や波長はとうの昔に忘れてしまった

微笑むと同時に唇を噛む
苦い血の味
現実の重み
せつないいたみと空の青さ

歯と同じような白さの雲が
頭上をゆっくり通り過ぎる

君が手を振って
鳥が空でくるっと回って
交尾をしてて
その光景はずいぶんと美しい

まったく
馬鹿みたいなほどに美しい

帰らない夫

2009年02月04日 22:14


いつも帰宅する時刻を
三時間も過ぎているのに
夫が帰らない
電話をしてもメールをしても
さっぱり返信がないのである
迎えに行ってもみたけれど
通勤路にも見当たらないし
いったいどこに行ったのだろうか
死んで天に昇りでもしたか
しかしどうにも解せないのだ
家に帰ってからも
檻の中の狂った動物のように
わたしは家じゅうをぐるぐる歩く

何度目かのぐるぐるで
ふと何かにぶつかって転んだのだが
何度見直しても
めがねを掛けて見ても
そこには何も見当たらない

首をかしげつつ
何も見えない眼前を
人差指でつついてみると
あたたかでやわらかな感触がした
鼻を動かしてその辺りを嗅いでみる
夫の体臭が漂っている

ああそうか
帰ってきていたんだね
見えないだけで
ちゃんとここにいたんだね
ずっと前からいたのか知ら
あなたはいつから人ではなくなったの

ねえ
暗いほら穴に
呼び掛けているような気分だよ
確かなものなどなんにもないね

面接を終えたばかりの昼間

2009年02月02日 13:10

真っ白に晴れた空だった
空を背にして微笑めば
そのまま証明写真になってしまうような
きっちりと四角く切り取られた
コピー用紙と同じような
ああ
陽のよく当たる駅前だ
わたしはどこか遠くへ行きたい
真っ黒いスーツを脱ぎ捨てて
裸になって走っていきたい
そしてそのままのスピードで
世界の果てにぶち当たり
トマトケチャップみたいに潰れて

終わらせてしまいたいよ全て

小石を蹴る
面接を終えたばかりの昼間
革靴が踵を擦り付けて
虹のようなものが流れ出してる



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