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からだ

2008年12月24日 16:00


考えてみると
ずいぶん幼い頃から
わたくしの心の奥には
厚い混凝土の壁が
つめたくそびえ立っていたようなのです
ときどき
隙間から入ってこようとするひとびとを
入口で押し止め
押し止めしているうちに
こんなに成長してしまいました
それで最近
少し勇気を出して
その壁をどうにか取り払ったのですが

もう
わたしの心に入ってくる人は
誰一人としていないのでした

すん、と冷たい気分です
西へ陽が沈みます


唇を失くして
一週間が経ちました
言葉がうまく話せないことにも
だんだん慣れてまいりました

近所の
角を曲がってすぐにある
文房具屋の店先には
花の咲く樹が植わっています

そのつぼみのうちの一つが
どうもわたしの唇にそっくりなのですが
これはどうしたものでしょうか

だまって取ってきてはわるいから
何か断わりを言おうと思うのですが
店に入るとなんだかもじもじしてしまって
ぴかぴか光る鉛筆ばかり買ってしまいます
先日
その店先で
ぼんやりつぼみを見上げておりますと
それはこぶしという樹だよ

通りすがりの方が教えて下さいました
春になれば咲くのでしょうか
ポッケットの中の
尖った鉛筆の芯を撫ぜながら
ますますぼんやりしてしまいます


右腕にいつも時計を嵌めています
何か重しを付けていないと
浮き上がってしまって
そのまま二度と
戻れないような気がするからです
その時計は
よほど前から止まっていて
ずっと三時を指したままなのですが
そのせいでしょうか
周囲の世界が
一日中ひるの三時のまま
暮れないようになりました
わたしはおやつも食べ飽きて
部屋で足を投げ出して座っております
粉っぽい陽光が射していて
とても静かです
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十七・十八・十九の空

2008年12月19日 04:32


十七のとき
いつもめまいがすると言っては
授業を抜け出し
校門の前にぼんやり座っていた
学校の前には駄菓子屋があって
駄菓子屋のおばあさんが
外に椅子を出して
同じようにぼんやり座っていた
太陽は蛍光灯みたいに遠く光って
冬だったと思う

くらくらしていたのは本当だった

教室じゅうに漂うニスのにおいや
休み時間のたびに消費される無数のティッシュ
机の隅に何気なく書かれた落書きや
恋していた男子が
子供ができたからという理由で
急に退学してしまったこと
その他にも色々

物凄い速さで
軋みながら
駆け抜けてゆく現実は
わたしの最も敏感な箇所を刺激し続け
わたしはひくひくと反応し続け
きっとめまいの原因は
それだったのだろうと思う

制服のポケットには
いつもお守りとして
いっぽんだけ煙草を入れていた
取り出してゆっくりとくわえてみる
火はつけない
つけてしまうと
なくなるから

見上げると
誰が窓から飛ばしたのだろう
不格好な紙飛行機が
わたしの頭上を
なめらかに飛んでゆくのが見えた


十八のとき
人形を捨てた
それはたしか
十のときだったろうか
誕生日に買ってもらったものだった
ほんとうの女の人みたいに
ちゃんとパンツを履いていて
そこがひどく気に入った

姉がほしいと思っていたわたしは
随分長い間その人形を
おねえちゃん代わりにしたものだ
カバンやポケットへ入れていつも持ち歩き
ふとさびしくなった夜なんかに
さわりながら
おねえちゃん
と呼ぶと
急速に心が落ち着いた

その人形を捨てた
正確に云えば捨てたんではなく
川へ流したのだったが
何があったというわけでもない
ただ何となく
もういいかな と思ったのだ

人形はずいぶん薄汚れて
合成樹脂の肌はもう黒ずんで
なんだかみっともなく見えた

取り出して川へ流すと
すぐに沈んで見えなくなって
それはあっという間だった
これまでの人生も
そう云えばあっという間だったし
そういうものなのかもしれない

川原は夕焼けがしていて
赤とも青ともつかない曖昧な空である

多分わたしは今も昔も
どうしようもなく一人なのだ
寂しがりつつも自分から
一人を選んできたのだから
この先もきっと一人のままで
苦しみながら生きるしかない
学生時代に習ったどんな公式よりも
単純明快な理論である


十九のとき
野良犬を拾った
雑種で
餌もあげないのに妙になついてきたから
アパートの部屋に連れて帰った

鳴かない犬だった

残飯やペットフードは食べず
米をやると少し食べたので
台所の床へ直に座って
犬と米を分け合った
直に座るときの床はいつも
子供のころの心もとない気分を
思いださせるようにひんやりしている

犬を散歩へ連れていくことはなかった
わたしは滅多に
部屋から出なかったから
外へ出るとしたら平日の深夜
なるべく人のいない通りを選んだ
いつもまっすぐ歩けなかったのは
世界を怖がっていた為であろう
世界は大きすぎるし広すぎる
あまり長く外にいると
家へ帰る道を忘れそうだった

拾ってきて二年も経つと
犬は日によって色や姿を変えた
わたしはいつの間にかその犬が
ほんとうの犬でないことに気づいていた

部屋を引き払う頃には
犬はもう擦り切れて
ごみくずみたいなものに変わり
部屋の隅っこで崩れていた
窓を開け放して掃除をすると
米粒がいろんなところから
ぱらぱらぱらぱら無数に出てきて

ああせめて
名前をつけてやればよかったかも知れない

こうして後悔ばかりしている
わたしは
きっと
大人になんかなれっこない

部屋の掃除はすぐに終わった
それがなんだか悲しかった
外は晴れていて
ただ真っ青な空
すこし眩しい

穴を掘る

2008年12月17日 10:06

穴を深く掘ると
昨日につきあたる
とわたしに教えたのは
いったい誰だったのだろう
それからわたしは幼少期から今まで
ずっと
穴を掘り続ける羽目になった
公園の
砂場の砂はさらさらとして
時折にごった水が湧き出してくる
使っているシャベルは
家の車庫にあったもので
人を殺した後のように錆びついている

朝から夕方まで掘り続けると
穴は結構な深さになるが
暗くなってくると
なんだか怖くて
いつもも元通り埋めてしまう
闇が満ちてきて
それが穴の中に溜まって
何か大きなものとなり
襲いかかってきそうな気がするんだ

おまえはほんとうにこわがりだよ
何もかも知っているような顔をして
通りすがりの老人が呟く
公園はもうあらかた掘り返してしまって
至る所に積み上げてあるのは
わたしが地中から掘り出した
数多のがらくたどもである

遠くから学校のチャイムが聞こえてくるのは
いつも決まって午後五時だ
それを聞くと自動的に
わたしの足は家へ向かって動きだす

今日も昨日は見つからなかった
明日も今日は見つからないだろう
何年も前から
同じところで同じことをしているわたしは
ちっとも背が伸びず
今でも童女のような姿をしている
周囲ばかりが老いてゆく
わたしを置いてきぼりにして

玄関の引き戸を開けると
誰もいない家の中は
ひっそりと静まり返っていた
両親も兄弟も
とっくの昔に死んだのだ
それでも一応
ただいま は
忘れず言うようにしているけれど

何百年も前から狂わない
居間の振子時計が
あわてたように午後七時を打った



ひとびととわたくし

2008年12月15日 03:43


背後で かちん と
金属質の音がした
振り返ると人が倒れていた
背中の真ん中からぜんまいが生えている
それが切れたのだろう
自分では巻けないのかもしれない
手を伸ばして
いっぱいまで巻き切ってやった
ゆっくりと起き上がるぜんまいの人
鼻の形が大変素敵だ

それから
ぜんまいの人は
刷り込まれたように
何をするにも
わたしのあとをついてくるようになった

それが今の
わたしの夫である
くすぐると
いつでも悦んで
鉄くさい油をぼたぼた垂らす
そこがとてもいいと思う


真夜中
閉店した洋品店の前を通りかかると
暗いウインドウの中にマネキンが立っていて
それがどうも妹のようだった
洋品店だから
すごくシックな服を着せられていて
童顔の妹には
まるで似合っていない

こんこん
とノックしてみたのだが
知らん顔で
動くことすらしないのだ


それから
夜じゅうノックをし続けていたので
今朝はひどい寝不足で
だからあの
仕事やすんでいいですか
と上司に電話をしてみたら
嘘をつくなと怒られてしまった
ほんとうのことなのに

今日もあのウインドウで
妹が立ち続けていると思うと
かわいそうでたまらない
だいいち春の服なんて寒いだろう
まだ十二月じゃないか


コンビニのレジ横にある募金箱へ
いくらかお金を入れようと思い
ポケットをさぐると
プラスティック製の釦がひとつ出てきた
それっきり
あとは何も入っていなくて
虚しい

それしかないので仕方ない
プラスティック製の釦を
募金箱へ入れる
しゃかん と軽い音がして
それを見ていたアルバイトの青年が
顔を赤らめながら
制服の釦をちぎりとり
同じように募金箱へ入れた
危うく
恋をしてしまうところだった


路上を歩くひとの胸から
青い鳥が音もなく飛びたつのを見た
いろんなひとびとがあのように
青い鳥たちを逃がすから
空というのはどこまでも
かなしいくらいに青いのかも知れない
それにしても
無意識のうちに
何かをのがしてゆくひとの口は
何故あんなにも黒々と開いて
びゅうびゅうと音を立てるのだろう
わからない
息を吐くと
びゅうと音がして
は、と見上げると
ちょうどわたしの胸からも一羽
青い鳥が飛び立ってゆくところだった






※作者コメント
またやってしまいました。ポケットに釦。無意識に書いてしまいます。ポケットに釦が入っていて、なんやかんやという展開が書きたいのだろうと思います。書き飽きるまで書いてみよう。
このネット詩集は、スケッチブックのようなもので、書けたものはとりあえずアップしています。
読みにくいものも多々ありますが、今後ともよろしくお願い致します。ちゃんと書いたことがなかったので書いてみました。では。

12/15 吉田 群青

蛤の蜃気楼を見たときの話

2008年12月11日 09:02

スーパーで蛤が安かったので
一つ買ってみた
掌に載せて握ると
少し濡れていて
磯のにおいがする
撫ぜまわしてみると
犬の鼻に似て案外つめたい
蛤は蜃気楼を吐くらしいが本当だろうか
時計の針が ぢっ と動く
夕暮れの気配が
台所じゅうに漂って
いい匂いがする
まばたきをすると


いつしかわたしは
ボストン・バッグを膝に載せて
夜行列車の車内にきちんと座っていた
健康サンダルを履いて
エプロンをつけたままだ
たたんたたん
と揺れる車内は薄暗くて
見上げると
天井の灯りに一匹の蛾が
遊ぶようにまとわりついていた


窓に額をつけてみる
真っ暗で何も見えない
ただ四方から
水を掻くような音がする


車内には他に誰も乗っていなかった
そのうち天井に舞っていた蛾が
ぱたりと足もとに落ちてきた
拾い上げると
それは本物そっくりの
ぜんまい仕掛けのおもちゃである
ブリキで出来ているみたいだ
掌でもてあそんでいると
しゅっ
と燃えるような音を立てて消えた


列車が大きく横に揺れたとき
膝に乗っていたバッグが
足もとへ落ちた
そのはずみでぱちんと留め金が開く
バッグからは服飾釦が
かろんとひとつ転がり出てきて

それだけしか入っていないみたいだ
なんだか
核心を突かれたようにぎくっとした


先ほどから列車は
斜め下を向いていて
窓外には
銀色のものがちらつき始めた
なんだか
海底を目指しているような気がするのだが
それは困るのだ
まないたの上に豆腐を
切りっぱなしで置いてきてしまったし
ガスの元栓も閉めずに来てしまった気がする


そのうち急に列車が停まった
ぷしゅうとドアが開く
開いた先は闇である
どうしよう
降りなければならないのだろうか
ふるえながら
瞬きをすると


突如としてわたしは台所にいた
背後のまないたには
豆腐がまだ瑞々しいまま載っていて
時計を見ると五分も経っていない
掌を開くと
すっかり口を開いた蛤がそこにあった
ずいぶん遠くまで行って帰ってきたように
ぐったりと疲れている
エプロンのポケットに手を突っ込むと
あのとき拾ったものだろうか
プラスティックの服飾釦が
爪に当たってかろんと云った


日々の泡

2008年12月07日 04:20



走る列車を踏切から眺めている
始発から終電まで
同じ路傍でしゃがんだり立ったりして

動体視力を鍛えるためだ
と自分には言い聞かせていたけれども
いま思い出すとはっきりわかる
わたしはただ動くものを
見ていたかっただけなんだ
静止している眼前を
何もかもがすぐに通り過ぎてしまうから

終電の列車の四角い窓の内側で
みかん色の灯に揺られてる人々は
なぜかみんな眼を見開いて
物言いたげに
こちらを見つめていた気がする


深夜
顔に手を這わせると
かなりの高確率で
吹き出物が指先に引っ掛かる
それは熱を帯びていて硬く
まるで種子のようにも思える

人差指のつめで ぎっ と掻きとると
少し血が出たようだ

掻きとったものを見ると
それは紛う方なくわたしの一部で
そのまま土にまけば
やがて寸分たがわぬわたし自身が
土から発芽するであろうが
いつもそれをせぬままに
つい口に入れてしまう
すこししょっぱいような
淡い鉄の味がする
そういう風にして
かさぶたでもなんでも
口に入れて
飲み込んでしまうのがわたしの癖だ
体から出たものを
きちんと体へかえさないと
損なわれ続けて擦り減って
そのうち無くなってしまいそうでこわい

ファンデーションに塗り込められた皮膚は
いつまでもどこまでもするするで
砂漠のようなさわり心地だ


タップ・ダンスをかっこよく踊りたくて
時間が空くとどこででも
おかまいなしにステップを踏む
しかしあの踵の音が素晴らしく響く靴は
五千円以上するので買えないのだ
だからいつも
想像上の自分に履かせることにしている
想像上での自分は
舞台のスポット・ライトに照らされて
残像をまき散らしつつ誇らしげに踊る
ぴかぴかに光るとんがった革靴で
しかし実際は
路上ではスニーカーだし
家ならばスリッパだ
てててぱたたん
とつま先を上げ踵を打ちならし
以前よりはだいぶ上手になったと思うけれども
アパートの階下の部屋からの苦情もだいぶ減ったし
この頃は駐車場で踊っていると
階下の部屋に住む子供たちが
わたしの周りで一緒に踊ってくれるようになった
風になびく子供の髪は
男の子でも女の子でも
とても清潔で壊れやすいもののにおいがする

タップ・ダンスは
他のダンスよりも
孤独な感じがするから好きだ
踵を高速で鳴らし続けるところも
誰かを呼んでいるようでいいと思う
もしこの音を聞きつけて
誰かがそばへ来てくれれば
たぶんもうさみしくないだろう

アパートの駐車場には月光がさして
影もずいぶん長く伸びた
そんな場所でひとり踊るわたしは
何か非常に大きなものと
たたかっているように見えるかもしれない
たたたぱたたん

ベランダに干してある洗濯物が
手を振ってるみたいにゆっくり揺れてた

じゅぎょうのじかん

2008年12月05日 05:37



算数の時間
たろうくんは時速5キロメートルで
3キロはなれた隣町まで
りんごを買いに行きました
という問題を読んだとき
手を挙げて先生に質問をした
たろうくんは寄り道をしないですか
たろうくんは疲れて休んだりしないですか
先生は
たろうくんは同じ速さでいつまでも進みます
と答えたと思う
それを聞いてわたしは
機械の体を持ったたろうくんが
がしんがしんと一定の速度で
同じ方向へ進み続ける光景を想像した
それからというもの
どうも算数や数学を解こうとすると
たろうくんががしんがしんと頭の中に現れるので
気が散って問題の答えを出すことが出来ない
想像の中のたろうくんは
りんごをひとつだけ買うために
いつまで経ってもつかない隣町を目指して
がしんがしんと進んでいる
教科書と同じ
縦丸の真っ黒な眼と笑った口を持って
誰とも出会わず
えいえんに


いくつのときだったか
家庭科の教科書を読んで絶望したことがある
図解付きで
汚れを落とす洗い方が載ったページだった
つまみ洗いや
こすり洗いなど
様々な洗い方をしている写真の一番端に
七分以上洗っても落ちない汚れは
何をしてももう二度と落ちない
というようなことが書いてあって
頭を殴られたような衝撃だった
努力しても出来ないことは絶対に出来ない
と宣告されたように思ったのだ
家庭科の先生は優しい女の先生で
聞けばなんでも教えてくれた
だけどわたしは
そのことについて聞かなかったと思う
困らせるような気がしたからだ
その先生が好きだったから
家庭科の授業はいっしょうけんめい聞いていた
いっしょうけんめい聞いていたはずなのに
今のわたしは釦付けひとつきり
それだけしかうまく出来ない
やっぱり
努力しても
出来ないことは
出来ないのかも知れないと思う
絶対に


国語は好きだったが
テストの点数はいつも悪かった
このときの主人公の気持ちを40字以内で答えよ
という問題なんかに
私は主人公でないのでわかりません。
でも、かなしかったかもしれません。
とか書いていたからかもしれない
国語の先生は萩原朔太郎が好きで
息子に朔太郎という名前をつけたと言っていた
すべて書き終えたテストの余白に
よくわたしは
さくたろうちゃん
という題名で男の子の顔を描いていた
その顔にいつも先生は花丸をつけてくれた
もうすこしまじめにもんだいをとこうね
というメッセージ付きで
一度 作太郎ちゃん という文字を当てたら
×がしてあって
朔太郎です
と訂正してあったこともある

今でも
陽のあたる午後
萩原朔太郎の詩集を
読んでいるときなんかに思い出すのだ
あの国語の先生と
見たこともないさくたろうちゃんのことを
思い出しながら微笑んで
あれから二十年くらい経つんだと思う
想像の中の先生はいつまでもとしをとらない
先生がもしわたしを覚えていたら
きっと先生の想像の中でも
わたしは永遠に六歳の
ぶすくれた顔をした女の子のまんまだろうと思う



※月刊未詳24/12月号投稿作品



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