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夫withわたし

2008年11月28日 02:16


夫と結婚したのは
簡単に言うと
隣に夫しか居なかったからである
いつどうしてわれわれが出会ったのか
詳細はわたしも覚えてはいないが
夫はいつの間にかわたしの正面に座り
カシミヤの重いコートを翻して
わたしの手を引いていた
としの割によく転ぶわたしの為に
夫はいつでもコートのポケットに
消毒薬を入れていた


夫は
何年も前から
何をしているのかよく分からない人だった
外へ出ると知らない人たちに
違う名前で呼ばれていた
その一々に丁寧に応対する夫の後ろで
わたしはいつでも寝そべって
つげ義春なんかを読んでいた
としをとるごとに
直立するのが難しくなってゆく
わたしの体は
重力というものに
耐えられるようには
出来ていないのだと思う


部屋での夫は
大体裸で
それはセックスをするためではなく
ただその方が
自然な感じがするからだと言っていた
夫はよく
同じように裸のわたしの胸に
耳を当てて音をきき
生きてる
と驚いたように言った
眼前の人が
生きてるのか死んでるのか
よく分からないらしかった


わたしが夫の傍から離れて
電車で二時間もかかる
生地へ引っ越したとき
夫はすぐに荷物をまとめて
後からついて引っ越してきた
行動を起こす時は
いつも唐突な人だった
持ち物はほとんどなくて
ただ大量の古本と
カシミヤのコートだけを持ってきた
しかしあまり嬉しそうではなかった
夫が嬉しそうにすることは殆どなかった
ちょうど今くらいの時季だったと思う
同棲するにあたって
わたしの両親は忠告めいたことを
呪詛のように永遠に吐き散らしていたが
夫の両親は何も言わなかった
会ったことすらなかった
両親はおれにとっくに興味を失っている
星の綺麗な夜
散歩した帰り道で
ぼそっと呟いた夫の顔は
街灯に照らされて
他人のようだった


夫が
眠ると透明になる体質だということを
一緒に暮らすようになって初めて知った
すうっと呼吸が寝息に変わる時
いつの間にか消えてしまう
夜という大きなものを
受け入れかねるというような感じだ
夫はいつでも
わからないことはきっぱりと拒否した
朝になると
寝るときよりわずかに傾いた姿勢で
いつの間にか横にあらわれている


夫が何を好きで何を嫌いか
はっきりしたことはわたしも知らない
ただ夫がそこに居て
わたしと一緒に暮らしている
そのことだけは
他の誰よりも知っている

こうしてこれを書きながら
背後で消えていく夫の気配を
なんとなく感じている


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妹との旅行記

2008年11月28日 01:27


巨体の割には玩具めいた動作をする
白い飛行機が
赤い土の露出した空港へ
ぽとりという感じで降り立ったとき
わたしは家から持ってきた
英会話集を読んでいた
隣に座っていた妹が
おねえちゃん
ここはニッポンだよ
と言うのでようやく
その西の果てのようにも思われる地が
ニッポンに属していることを知った
ナリタから飛んで三時間ほど経っていて
あまり何百も雲を飛び越したので
妙に年をとってしまった気分だった


空港へ降りると
変に天井が低い気がした
寒いかと思って
北極へ行くみたいな
厚手のジャケットを着てきた
わたしと妹は
物凄いよそ者の感じだった
そんな厚い上着を着ている人は
他にいなかった
重いバッグを右手に提げて
馬鹿みたいに立ち尽くすわたしたちは
最初すこしきょとんとして
それから確かめるみたいに手をつないだ
妹の指は細くて冷たい

わたしたち
とても遠くから来たよね
そして
どこまで行くんだろうね


町をふらついていると
雨が降ってきた
花のにおいがする
女の人は綺麗
でも
言葉の通じそうな人は一人もいない


商店街のようなところで
バッグを買った
そのバッグは留め金や材質が
非常にちゃちな作りで
持ち歩いているうちに
すぐ壊れた
だいぶ歩いてからだ
取っ手しか握っていないことに
気づいたのは


ビジネス・ホテルにチェック・インすると
妹は精液にも似たいろいろの化粧品で
顔を撫でくって
すぐに寝てしまった
わたしはベッドに横たわって
付けぱなしのテレビから流れる
衛星放送の
外国のアニメを観ていた
様々の色が行き来するアニメだったが
言ってることはひとつも分からなかった
何でこんなことしてるんだろう
その前に
何でわたし
こんなところに居るんだろう


明け方近くに
妹が寝ながら何か言おうとした
無理に何か言わなくていいよ
と言うと
安心してまた深く眠った
バラ色の頬をしている
少し微笑んでいる
この妹もわたしや他の人たちと同じように
誰かを愛したり
憎んだりしているんだろうか


やがて朝になって荷物をまとめると
一日でずいぶん増えている気がした
買った覚えのない生きたひよこや
何百本もの鉛筆や
目覚まし時計なんかが
バッグに入りきらず床に広がってゆく
妹はボストン・バッグに
三匹目の子猫を入れている途中で
でもあんまり無理に詰めると死んじゃうな
とか呟いていた
バッグに入りきらなかったひよこが
わたしのジャケットのポッケットで鳴いている


ナリタへ戻って
わたしと妹は
手を振りあって
あっけなく別れた
明日も会えるような気持ちで

けれどもあの旅行以来
わたしは一度も妹に会わない
あの子猫をどうしたのか
聞いてみたい気もするけれど
持ち帰ったひよこは
アパートの部屋で驚くほど成長し
ときをつくるようになったので
親戚の農家へ貰ってもらったのだが
それから食べきれないほどの卵が
アパートへ箱で届くようになり
処理に困っている




※今年の一月、妹と福岡へ一泊二日で旅行した時、旅先で書いたものを加筆・修正。

せっくす

2008年11月26日 01:34


緑茶の葉を急須へ入れて
熱湯を注いでいるときに
ふと君が欲情した
急須の
先細ってゆく流線形に
触発されたのかも知れなかった
電気を消した時いっしゅんだけ
光るものが眼の端にうつって
あれは君の心臓が
燃えはじめる瞬間だったのだろうか
さみどり色のお茶が
何か親しいもののように
暗闇に湯気を立てている


その動きは
トランペット奏者が
ファンファーレを吹くときの
せわしない動きに似ていると思う
いぐさのにおいがする和室にて
君は体ぜんたいを遣い
ひそやかにファンファーレを演奏する


一方のわたしは
冷たい指先を軽く握って
なるべく関係のないことを考えていた
関係のないことと云っても
たいていは
鯖という字の魚偏の横にある
青に似た形を見つめていると
世界がずれていくような感じがすることとか
今日の占いでてんびん座が最下位だったこととか
そういうたあいもないことだ
その方がより他人になれる気がする
天井に映る影が大きく伸びて
なんだかわたしたち
鳥のようだった


疲れきった体を傾けて
最後の一滴まで
いのちをこぼした直後
君は少しの間死んでしまう
点々とこぼれたしみのひとつひとつから
まっ白い花が咲いている
生命の神秘
せいめいのしんぴ
と呟いて
わたしはその花をむしり取る
いつの間にか
生きたい
と思っていた


やがて息を吹き返した君が
うすめをあけてわたしを呼んだ
なんだか遠い感じがした
日々
遠ざかっていっているみたいだ
そのうちひとつの点となって
えいえんに
消えてしまうような感じだ


食卓へ戻って緑茶を飲むと
ちっとも冷めていなかった
きっと時間が止まっていたんだと思う
緑茶を飲みながら花を食べる
苦いような味がして

もう一度
生きたい
と思ってからすぐに
焼けつく様な熱さで
死にたいと思った

手品のおっさん

2008年11月25日 02:07

子供のころ
いつも近所に来る
手品のおっさん
という人がいた

名字や名前は誰も知らなかった
大人たちでさえ
手品のおっさんは
どこに住んでるんだべな
と噂し合っていて
だけどそれはおっさんに聞いても
けして教えてくれないのだ
おっさんはいつもシルクハットに白手袋
びろうどのようなマントをなびかせて
ふらりとその辺の路上にあらわれた
そして
よってらっしゃいみてらっしゃあい
と気の抜けたように言うのだ
わたしたち子供はいち早くそれを聞きつけて
手品のおっさんに
お金を出してよとかお菓子を出してよとか
いろいろなものをせがんで
あらゆるものを出してもらった
おっさんのシルクハットからは
本当にみんなの言うものが
いつでもぽかぽか出てくるのだった
おっさんの芸はそれ一つだった
人体切断とかテレポーテーションとカ
そういう派手なことはできないみたいだった

或る日
いつものようにシルクハットから
飴だのひよこだの出すおっさんに向かって
ひとりの子供が
よう おっさんの帽子かぶしてくろよ
と言った
おっさんは始めのうち困ったように笑っていたが
あんまりその子がせがむので
しまいには怒ったような顔になって
ほら
と言いながらその子に
すぽっとシルクハットをかぶせてしまった
子供がひとりすっぽりと入ったのだから
ずいぶん大きいシルクハットだったんだと思う

次におっさんがシルクハットを持ち上げた時
その子は消えてしまっていた
それを見た瞬間
あの子はこの世界から永遠に
跡形もなく消えてしまったんだ
ということが
何故だかすごくよくわかって

一斉に泣いて逃げ出すわたしたちに向かって
手品のおっさんは
手品はこれでおしまい
と怒鳴るように叫んで
くるっとマントを翻して消えた
それきり
手品のおっさんを見ることはなかった

あのおっさんは何だったんだろう
大人たちに聞いても誰も覚えていない
人間ではなかったのだろうか

確かおっさんからわたしは
ひとつだけ手品を教えてもらったことがあって
それはハンカチから牛乳が出てくる手品なんだけど
いつまで練習しても
一度も成功したことはない


パソコンと自分との相関関係

2008年11月25日 02:02



パソコンを起動すると
かりかりかりと誰かが中から
爪で引っ掻いているような音がする
あわてて画面の前に座るのだけど
そのときにはもう
草原の風景の壁紙が
人が通ったあとのように
わずかに揺れているだけだ
また間に合わなかったと思う
絶対に
パソコンの中には
誰か居るはずなんだ
こんこん とノックをしてみると
少し遅れて
こんこん という音が返ってくる


キーボードを打つと
指が真っ黒に汚れることがよくある
インクが染みだしているのだろうか
というかわたしは未だに
キーボードを打つとどうして
画面に文字が表示されるのか
ちっとも分からないのだけど
椅子から立ち上がって
洗面所で手を洗う時
ひどく疲れていることを感じる
キーボードを打つ時
わたしは無意識に
何かをたくさん消費しているのかもしれない


仕事から帰宅したら
家の中が妙にさみしい感じだった
居間に入るとパソコンがついていた
あのひそやかなふおーんという音を聞くと
何も音がしない時より遥かに強く
静けさというものを実感する
画面の中は真っ暗で
ウィンドウズのロゴが
行き場のないような動きで
うろうろしていて
マウスをダブルクリックすると
その音が何かとても大きく響いた
受信箱にメールがきていたけれど
すべて迷惑メールだった
真っ暗な部屋でなんとなくわたしも
行き場がないみたいにうろうろしてみる

誰かが窓をノックするから
少し遅れてノックを返した

家族のこと

2008年11月18日 01:06


まるのままの白菜の芯の近くを
全体重をのせてざきんと切ると
その断面は薔薇の花に似ている
酒で煮込むと水がたくさん出るから
出し汁などは入れなくてよいと
教えてくれたのは祖母であった
彼女は白菜に
異常なほどの愛着を持っていて
それはごろりとしたその野菜が
ちょうど子供の大きさだったからかもしれない
白菜を抱いて
その辺を散歩してくることもあった
きれいな景色を見せてやるとうまくなるんだ
と言って
そのせいかどうかは知らないが
祖母が油揚げと煮付けた白菜は
りんごのように甘かった


庭の隅に枯れかけて
ひょろひょろと根付いている柿の木は
兄が六歳の頃に
小学校への入学祝いとして
親戚からもらったものであった
それを植えるための穴を
驚くほど素早く
錆びたすこっぷで掘ったのは兄だ
五歳だったわたしは
その光景を見て
この兄は
人を殺す方法を知っているのかも知れない
とぼんやり思った
あれからもう二十年になる
秋になると思いだしたように
たくさんの実を生らせるその幹には

兄が彫刻刀で彫った
呪詛のような文字が連なっている
ああ
あの頃から言葉が通じなかったんだなあ
なまっちろい体の兄は
成長することを拒否しているので
わたしより一つ年上のはずなのに
今でも小学生のように小さい


妹は
細い指と透明なつめを持った
たいへんに美しい子供だった
彼女は
人の畑からもぎってきたきうりに
しこたま味噌をつけて食べるのが好きであった
そんな妹は
美しいまま成長し
トウキョウの
イチブジョウジョウの企業に就職した
東京土産を携えて
時々こっちへ帰ってくる
まるで大人の女の人みたいだ
しかし帰省した妹と一緒に風呂に入って
鼻をつけて背中を嗅ぐと
洗っても落ちないほど強い
きうりの青臭いにおいがする
なんだかとても安心する


深夜
家族のうちの誰かが
そこにいるような気がして
ふと振り返るけど誰もいない
家のどこかに
隠れているんじゃないかと思って
カーテンの裏や
台所の収納や
いろんなところを探すけど誰もいない
随分遠くまで来てしまったんだな
わたしは
たった一人で
こんなところで
何をしているんだろう
と思う
血縁というのは呪いにも似て
そんな風にしていつまでも
わたしの体をざわざわ揺らす

スーパーにて

2008年11月17日 17:13


空が晴れていると
どこへ行ってもいいような気がして
ふらふらと遠出をしてしまいたくなる
そんな時はスーパーへ行って
掌にちょうどおさまるくらいの大きさの
果物をふたつ買って帰る
右と左にそれぞれ持つと
ちょうどいいおもりになるのだ
どんな果物でもよいのだけど
できればなるべく鮮やかな色がいい
ぴかぴか光っているともっといい
先頃まではよく檸檬を買っていたのだけど
今時分しっくりくるのは蜜柑である
鮮やかな橙を掌に閉じ込めて
大きく両手を振ると
ここで生きていてもよいような
そんなにおいがして
なんとなく嬉しい
遠くで雪の降っている気配がする


在庫一掃!
と書かれた透明なプラスティックケースの中に
夏に売れ残ったカブトムシが
山ほど詰め込まれて売られていた
しなびたようなきうりを与えられて
のろのろと動いている
しばらく立ち止まって見ていた
わたしが
カブトムシについて知っていることと云えば
あまり霧吹きで
湿らせすぎると死んでしまうこと
晩秋には冬眠の準備のために
あまり餌を食べなくなることくらいだ
あんまりじっと見ていたせいか
店員さんがやってきて
ひとつどうですかこんなに元気ですよ
と言いながら一匹取り出してわたしに持たせた
ちっとも元気ではなかった
とても軽くて全然動かなかった
死んでいるのかも知れない
やっぱいいです
と返そうとしたら床に落としてしまった
ちょうど駆けてきた男の子がそれを踏み殺し
うわきったねえ
とか言っている
店員さんは後始末をしながら
安っぽい同情ならしない方がいいですよ
とひくく呟いた
何か言った方がよかったんだろうか
でも何も言えなかった


スーパーで支払いをしようとして
財布を開くと
隙間から去年のレシートがはらりと落ちた
そこには
モメン トウフ×10 68円
計 680円
とだけ印字されていて
わたしは去年
なにをそんなに悲しがっていたんだろう
思い出そうとしても思い出せないのである
脳裏には
みっしりとした木綿豆腐を
パックのままあぷあぷと
立て続けに食べる
自分の背中がありありと浮かぶ
しかしわたしは自分の背中を
いつどこでどうして見たんだろう
記憶の中の自分の背中は心持ち猫背で
思っていたよりもずっと小さかった

電器屋の店長

2008年11月14日 01:33

電器屋の店長は
電池で動いている
店長を始めてから
もう十年くらい経っているらしいが
最近
よくフリーズするので
きのう修理に出されてしまった

代理の店長は充電式で
新しい機能がたくさん付いている
額にはカレンダーと時計が表示されていて
それは滅多に狂わないし
耐水性だから雨にも強い
電子レンジ機能もあるので
簡単なものなら温めてくれる
それから電卓機能も目覚まし機能も
ファックス機能も辞書機能も
カメラ機能すらついている

つまりなんでもできるのだ
なんにもできないみたいに
なんでもできるのだ

修理屋からはその後
音沙汰がない
古い型だから直せないんだろう
とみんな言っている
そのうち誰も前の店長のことは
言わなくなった
代理の店長は新しい店長になり

前の店長はどうしているんだろう
もう解体されて
スクラップになっちゃったのかも知れない

いつか
もうおれはボロボロだから
と点滅しながら言っていたことや
錆だらけの掌で
自分の電池を
交換していたときのことなどを思い出す
せつない

時間が経てば
どんなものでも古びるし
壊れたら捨てられてしまう
ということを
わたしはわかっていたつもりなのだけど

向こうの方で新しい店長が
誤ってデータを初期化してしまったらしく
きょとんとしたように座って
コンニチハ
と言っているのが見える






パラノイア/偏執病の日々

2008年11月08日 03:19


雨が降ると
部屋中の鍵が開いている気がして
不安になる
ばたばた走り回って窓の鍵もドアの鍵も
すべて閉まっていることを確認しても
まだ落ち着かない
あらゆる隙間から
青い風のようなもの
液体状になったさみしさのようなもの
が入り込んでくるような気がする

雨はさあさあ降り続き
わたしは部屋の隅で膝を抱える
体はもう
青く透き通ってしまって
或いは既に
さみしさで満たされているのかも知れないが


夜 電灯を消した瞬間に
四隅から虫が這うような
かさかさかさという音が聞こえてくる
気になってまた電灯をつけて
部屋の四隅をようく箒で掃く
電灯を消す
かさかさかさ
つける
掃く
その繰り返しだ
もうずいぶん長いこと
眠っていないような気がする
病的な熱心さで箒を動かしている
わたしの背後では
永遠に洗われることのない汚れた皿が
不規則に積まれて山となっている


冷蔵庫の少し開いた隙間から
長い女の腕が伸びてくる
爪があんまり赤いから
もうこの世のものではないのかも知れない
わたしはまだそちらへは行かないよ
笑ったつもりだったのに
なぜか泣きたいみたいな声が出た


押入れの奥に
祖母をしまってしまったような気がして
いつも
暇があると探してしまう
セルロイド人形は幾つも出てくるのだけど
祖母は見つからない
悲しい


何を拭いたか分からないティッシュで
ゴミ袋が満杯になる
買ってきても買ってきても
箱ティッシュはすぐ無くなってしまって
だからわたしは
いつも体から何かこぼしながら
生きているのかも知れないと思う
そうしているうちに
一年が終わってしまう


雨が降ってきて
また最初から繰り返しだ

AとBとCの話

2008年11月08日 02:15

Aという男がいて
自分をもてる人間だと思っている
おれの視線に女はみんなやけどするのさ
と言いながら
最新流行のファッションに身を包み
洗練されたしぐさで物事をこなす

Aは気づいていないようだが
彼の視線はレーザー光線だ

彼と眼を合わせた女は
その場からあっという間に焼失してしまう
だからAはいつまでもひとりぼっち
かわいそうと思わないでもないが
焼失してしまうのは嫌なので
彼と話す時は眼を見ない
今年のAの誕生日には
遮光性の高いサングラスを贈るつもりだ
きっと喜んでくれるだろう

鼻の高いBという女がいる
彼女の鼻は日によって高低差があるので
みんなからはピノキオと呼ばれている
ピノキオと違うところは
木でできているわけではないところだ
あとはそのままそっくり同じ
嘘をつけば鼻が高くなる
だからBは嘘をつけない
なかなか辛い人生だわ
と言いながら
Bは綺麗な色のカクテルをあおった
そしてわたしに
あなたって可愛いわね
と言った
するとBの鼻が伸びてわたしの肩に突き刺さった
ショックである

Cという男は穴恐怖症である
普段は冗談の好きな気のいい男なのだが
穴のひとつでもあるもの
たとえば四つ穴のボタンとか蓋をあけたペットボトルとか
を見せると
とたんに発狂したような高い声で叫んで逃げてしまう
Cの悩みは女と付き合えないことだ

ある日
町で浮浪者のような格好をしているCを
偶然みかけた
声をかけると
家の鍵穴が怖くて家に入れない
と泣きそうな顔で言っていた
それきり音信不通である
いま現在Cがどこにいるのか
相変わらず外をさまよっているのか
どこかの建物の屋内にいるのか
わたしにもまったくわからない

この三人はわたしの大切な友達である
人は彼らを変人と呼ぶらしいが
彼らには人間の持つ様々な特色が
少し顕著にあらわれてしまっているだけで
付き合うにあたっての支障は特にない

かくいうわたしも
うっかりすると
二人に分裂してしまうという特徴を持っているし
変でない人間なんて一人もいないのだ
多分

学校は動物園に似ている

2008年11月08日 02:03



数学を教えていた先生は
少年のような薔薇色の頬をしていた
ねずみ、というあだ名で呼ばれていたのは
ポッケットに三角チーズを
銀紙のまま
幾つも入れていたからだ
少し卑猥なことを言ってからかうと
顔を赤らめたから
きっと童貞だったと思う

πや√などの数字を
掌で慈しむように
丁寧に書いていたのを覚えている
チョークの粉がいつも
ふけのように髪に降り積もっていた

田舎の学校だった
わたしたち生徒は
毎日が檻に入れられているみたいに退屈で
誰かを貶めることくらいしか楽しみがなくて
ねずみが後ろを向いているときなどに
ねずみ、ねずみ、ばか、と囃しながら
消しゴムなんかをぶつけては笑っていたものだ

ねずみは何も言わなかった
いつも涙がたまっているみたいに
目をうるうるさせていただけで

そのうちねずみは
他の学校へ異動になることが決まった
最後の日に
宝物をいじくるみたいに手わすらをしながら
あのみんなどうもありがとう
と言ったきりいつまでも下を向いていた

みんなはしいんと黙りこんだ
恥ずかしいような後ろめたいような気分で
胸がどくどく云っている
そのとき感じていたのはたぶん
優しさという宇宙のようなもの
罪悪感という海のようなもの
それから少しの期待はずれ
ねずみは永久にねずみで
わたしたちは永遠に学生で
誰も何も変わらないまま
ずっと生きるものだと思っていたのに

その日の放課後
日直だったわたしは
職員室へ日誌を返しに行った
陽がすごく早く暮れたから冬だったと思う
暗い廊下を駆けて職員室へ入ると
ねずみも他の先生も誰もいなくて
ねずみの机の上には
わら半紙が広げられていた
そこには2Hの薄さの文字で
なにかくちゃくちゃの計算式
のようなものが書き散らされていた

何故だかわからないが
絶望したような気持ちになったのだ
真っ暗な窓ガラスには
立ち尽くすわたしの姿だけが
消えずに映っていて
そのときわたしは十四歳だったけど
さびしさについておぼろげに
理解したような気持ちになったのだった
確か
石油ストーブにかけられたやかんが
飛行機が空を切り裂くときのように
きいんと音を立てていて
あのとき


体罰をよく加える先生がいて
顔はもう思い出せないが
確かタヌキと呼ばれていたはずだ
不健康な茶色い顔色をしていた
たまに鼻歌を歌っていたと思う
よれよれの背広を着て
社会科を教えていた

職員室にあるタヌキの椅子には
赤い絣模様の座布団がくくりつけられていた
几帳面にミシンで縫ってあるその座布団は
独身のタヌキが作ったのだ
土曜日にはきっちり三色にそぼろがかけられた
綺麗なお弁当を持ってきていた
潔癖すぎて逆に不潔であった
それに
タヌキの爪は変に綺麗で
いつもぴかぴか光っていたんだ
もうどうしたって
タヌキが人間の筈はなかった
人間のふりをしている怪物にちがいなかった

タヌキは家からラップの芯を
何本も持ってきていて
それで頭を叩くのだ
そのためだけに
ラップを買っているのかも知れなかった
それ以外にも様々な
人を叩く道具を持っていて
それらはみんな教卓に入っていた
怖くて誰も教卓には近寄れなかったが
そのうち
タヌキの教卓の中には大きい肉切り包丁が入っていて
本気で怒らせたら殺される
という噂がたった
タヌキはそれを知ってか知らずか
素知らぬ顔で
相変わらず生徒を殴り続けていた

それから少し経ったとき
帰りの会の最中に騒いでいた女子を
いつものようにタヌキは殴りとばしたのだが
その女の子はちょうど生理中だったらしく
床に倒れたスカートの下から
わわわ というような感じで鮮血が広がった
みんなざわざわした
タヌキは無表情だったけれども
瞳孔が完全に開いていた
顎に冷や汗が何滴か伝っていた
タヌキがあの肉切り包丁で
とうとう女子を殺してしまった
みんなそう思ったのだ

ほどなくしてタヌキは
いなくなってしまった
異動したわけでもなく死んだという話も聞かないから
どこかにはいるんだろうけれども
少なくともここからはいなくなってしまった
教頭先生が困ったような顔で
代わりのせんせいがくるまで私が教えます
と言いながら
保健体育の授業をしていたのを覚えている

やがてタヌキのことが完全にみんなの頭から消えた頃
どこからか新しい噂が立った
お化けが出ると云う噂の学校裏の雑木林に
赤い絣の座布団を持った
変質者が出るという噂だった
誰もたいして驚かなかったのは
予想していたからだったんだろうか
生きるということはそういうことだと
みんな心の奥底で分かっていたんだろうか

あれから何年も経ったけれども
タヌキのことを思い出すと
なんだか心にあいた真っ黒な穴を
独りで覗いているみたいな
妙に寒々しい気持ちになるのだ
今も


セイウチと呼ばれている家庭科の先生は
その名の通りセイウチのように肥って
いつも居眠りばかりしていたし
ウサギと呼ばれていた古文のおんな先生は
いつも首に真っ白な包帯を巻いて
定まらない視線で夕焼け空を見ていた
ぶた、という音楽の先生は
奇跡的にアコーディオンがうまくて
教えるよりも
アコーディオンを弾いているほうが多かった
さるは学校の用務員で
血の出るような真っ赤なバラを
いとも容易く育てたし
校長先生はアリクイで
集会のときには昨日どんな夢を見ましたか
と舌なめずりをしながら聴いてきた
それはもう実に様々な先生たちを見てきた

わたしたちはあらゆるものを批判したけれど
先生たちは鷹揚に笑って
わたしたちが反抗するそのたびに
掌をひらいて
切り取った世界の一片を見せてくれるのだった

授業中は死んでるみたいで
チャイムが鳴るたび生き返った
廊下で交換される秘密の話や
同級生の髪から香るラックススーパーリッチ
いつか失われる日々は
いつも色鮮やかに記憶に残る

教科書は新しいのにいつも古びていて
三角定規セットは使われないまま
机の中にしまわれ
いつ絶望してもいいように
みんな鞄には包丁を入れて登校していた
誰にでもそんな経験があるだろう

死んでしまったハムスターのこと
嘘みたいに青いプールから漂う塩素のにおい
ポプラの木の下の掲揚台には
日本国旗が風雨にさらされ項垂れていて
しまわれることのないサッカーボール
掘り返されたままの砂場の砂のことや

放課後
あらゆる怪談と謎を内包して
立ちふさがる校舎
誰もいなくなった教室から
手を振っている子どもがいる

人生が不純物のない精製水のように
透明だったあの頃
少し不安をおぼえながらも
前方に立ちふさがる黒雲の方へ
決心して歩きだし始めた
あの頃の話


日々ふと浮かぶおうた集

2008年11月05日 00:52

ふと冬の気配を感じるスーパーに 並ぶ白菜 芯のあたりに

ぼんぼんと柱時計が鳴る居間で 昔の恋文 ひきさいている

窓外で紅葉の散る音を聞き 宇宙色した こおひいを飲む

ちらちらと落ち葉が散るから うるさくて 眠れぬ日々がつづいています

湧き上がる罪悪感に眼を伏せて 夕暮れを背に 未来へ逃げる

君おもいすこし股間へ手を伸ばす ヒトってとても アサマシイです


つくりかた

2008年11月03日 03:29


・冬のつくりかた

まずマグカップを用意します
次にスプーンで
一番さむいと思うところの空気をすくって
マグカップの中に落とします
何も入っていないように見えますが
そこには冬が入っています
目を凝らせば冬の部分だけが
半透明なのが分かるでしょう
あとは一日に何滴か水をやれば
冬はすくすく育ちます
マグカップいっぱいになったら
水槽に移してあげましょう
ただし容器の大きさは水槽までが適当です
あまり大きすぎる容器で育てると
冬は地球全体を覆ってしまい
この世界は氷河期になります
すると私たちは容易く滅びます
世界が滅んでもいいと思うのなら
やってもよいでしょう
冬は死ぬと透明になり空気へ還ります
上手に育てれば一年中
冬の姿を楽しむことができることでしょう

・理想の恋人のつくりかた

自分に適する性別の人形を買ってきます
理想の恋人だと思う人が実在すれば
その人がどんなに素晴らしいかを
情熱が続く限り熱弁します
理想の恋人だと思う人が実在しないのであれば
どんな人が理想なのか
またそれはなぜかを言い聞かせてあげましょう
その作業を一日三時間
三か月続けなければなりません
根気良く三か月続けたら
冷暗所で五日間熟成させます
五日後になればあなたは
人形が理想の恋人に変わり
自ら動き出すのを見るでしょう
これを人は 幻覚 と呼びます

※この方法でしか
理想の彼女は得られないと思う方のみ
お試しください
少なくともあなただけは幸せになれます
また今の生活を
すべて放棄する覚悟のある方以外は
やらない方がよいでしょう

・ゆうれいのつくりかた

あなたの思うゆうれいを紙に描きます
そのゆうれいを線に沿って切り取り名前を付けましょう
より怖いゆうれいをお望みなら
外国名ではなく日本名にした方が無難です
名前をつけたら
暗くてじめじめした場所に置いておきます
これで準備は完了です
あとは暗い夜
トイレに起きたときなどに
そのゆうれいの名前を呼ぶと
紙に描いたとおりのゆうれいが
あなたの前に現れるでしょう
ただしこのやり方は簡易式なので
ゆうれいが確実にあらわれるとは言い切れません
確実にゆうれいが見たいのであれば
ゆうれいの出る場所へ行って
一体連れて帰ってくるとよいでしょう
ゆうれいはあなたの思うほど怖い存在ではありません
ゆうれいももともとは人間なのですから
接し方次第では友達にもなれます
ぜひ一度おためしください

※ただし祟りや呪い等の弊害に関しては
当社は一切関与いたしません
ご了承ください
※またご希望であればお清め用の塩を
一グラムより販売しております

ちなみに当社はこの世に存在しておりません
ご注文の商品に関しましては
恐れ入りますが地獄入口そば・黒い家まで取りにいらしてください

日々の視点

2008年11月03日 01:55


空が年々狭くなっているような気がする
たぶんメモ用紙を持っていない人たちが
咄嗟に空にメモをして
端からちぎり取っていくためだ
と思うわたしの目の前を
さっそくスーツ姿の会社員が
ペンで空に字を書いて
そこをちぎり取り歩き去っていった

訂正線のような飛行機雲が
まっすぐ二本伸びていて

眼前を指で突いてみると
容易く穴があいて夜が覗く
何もかもが不確かである


鏡を見ながら化粧をしていると
鏡の中の自分自身に
貴様の人生はそれでいいのか
と問われた
なかなか難しい問題だ
言葉に詰まると嘲笑されてしまった
その日以来
鏡を見るのが苦痛で仕方ない
わたしの人生が
これでいいのかどうかも
まだ明確には答えられないし

鏡の前を通り過ぎるとき
ちらちら映るわたしが
いつもこちらを見ている気がして厭になる


本を読んでいてふと立ちあがったとき
その衝撃でかどうか分からないが
頁から「る」という文字が一つ取れて
かつんと床に転がった
拾い上げて舐めると存外冷たい
そのまま飲み込んでしまったのだが
それからというもの
目に映る人々がみんな
「る」の形に見えるようになってしまって
大変困惑している

早朝
るるるるるるるるるるる
と列を成して
子供らが学校へ登校してゆく
それを眺めるわたし自身も
背骨がだんだん歪曲し
るになってゆくような気がす
るるるる

くま夫人

2008年11月03日 00:36

とてもよく晴れたある日
わたしは隣家のくま夫人を誘って森へ出かけた
くま夫人はその名の通り茶色い熊で
彼女によればコディアックヒグマという種類である
夫は日本人の青白い男で
もと動物園の飼育係だったそうだ
飼育し飼育されているうちに
恋愛感情が芽生えたらしい

ちなみにくま夫妻の間には
ブルーベリーのようなつぶらな瞳と
ふさふさした茶色の髪の毛を持つ
かわいい坊やが一人いる
半分くまだからだろうか
血の滴るような生肉を好んで食べるそうだ
あまり生肉ばかり食べさせると
夫が生野菜も食べさせるようにと怒るのが
目下 喧嘩の火種となっているそうである
―あたしは生肉ばかり食べてきたけどこんなに健康よ
或る日くま夫人の家でお茶を飲んでいた時
紅茶と豚バラ肉(生)を食べながら
憤慨したようにくま夫人は言った
くま夫人のいれるお茶はとても美味しい
イギリスから檻に入れられて日本へ輸送されてきたそうだから
イギリス仕込みなのだろう

その日
くま夫人と森へ行ったのは
鮭を獲るためであった
それと家の蛇口から出る水道水が
古いなま海老のような味がして不愉快だから
水を汲みに行くつもりでもあった
道中くま夫人は
―人間って水を殺菌する技術を持っているのに
わざわざ雑菌だらけの水を遠くから汲んできて
おいしいって飲むのね
と不思議そうに言った
くま夫人は牛乳しか飲まないそうだ
―それはわたしもそう思うけれど
と言葉を濁すと
―けれど何
と追及してくる
何事も明確に結論付けるのがくま夫人の癖だ

やがて森の奥深くに流れる細い川に着いた
ここは鮭の産卵する場所であり
おいしい水の汲めるところでもある
わたしとくま夫人はまずお弁当にした
くま夫人はサンドイッチ
わたしはおにぎりである
きちんと座って
鋭いかぎ爪と牙を駆使し
パンを噛み砕くくま夫人をふと眺めて
くまって美味しいのかな
と思った
くま夫人はわたしを食べようともしないのに
わたしはくま夫人の味を想像している
動物より人間の方がよっぽど野蛮だと思った

食事を終えるとくま夫人は川に入り
わたしは釣竿を垂れて釣りをした
銀に輝く鮭が四尾も獲れた
二尾ずつ分けたのち
くま夫人に背を向けて
わたしは水筒に水を汲む
その時うっかりしていたのだが
夫人がくまであることを忘れていたのだ
わたしは容易く背中から襲われて
そのまま失神してしまった

気がついた時
くま夫人は四つん這いになって
わたしの顔や傷口を舐めてくれていた
―気にしなくていいよ 本能だから
と言うとくま夫人は
―ごめんなさいね
と申し訳なさそうに答え
―少し頭を冷やしてくるわ
と森の奥にのしのし歩いて行ってしまった

その日以来くま夫人を見ない

くま夫人の夫は
冬ごもりでも始めているんでしょう
と極めてのん気に言いながら
坊やに生野菜を食べさせている
坊やは成長が人より早くて
生まれて三年だというのに
もう大人のようになってしまっている

このところ毎日夜になると
森の遠くから咆哮が聞こえる
それがくま夫人の声ではないかと思うと
わたしはなんだか悲しくなる
もうくま夫人には二度と
会えないような気がしてならないのだ




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