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せかいをいきる

2008年09月29日 05:35


一か月が
余りに速く過ぎ去るような気がして
どうしようもない
服を着替える間もなく
あっという間に秋である
外ではまるで軍隊のように
流行なのか
同じ型の服を身につけた女子が
勇ましく砂煙をあげて歩いてゆく
夏服のままでいるわたしは
とりあえず4Bの鉛筆を尖らせて
カレンダーに日にちを書き入れた

一か月を百日にすることとしたのだ

書き終えると安心した
暑さも戻ってきたように思う
冷凍庫からパピコを出して
かじりながら空を見上げた
まるで動脈を一気に切り裂いたみたいな
痛いほど真っ赤な夕暮れだ

わたしの
がらんどうの胸郭で
じんじんじんじん蝉が鳴く
切なさのような感覚である


米を研ぐときが
一日のうちで
もっともさみしい時間のように感じる
台所でひとり背中を曲げて
ここにはいない誰かのことを考えながら
指先に はかない感触

さくさくという音は
壁に反響することなく消え
自分の影ばかりが
塗りつぶしたように真っ黒だ
なんだか絶望してしまう
永遠ということについて考える

すこし寒い

とても寒い


何もすることがないので
掃除のようなことをしている
何かを一生懸命やっている振りでもしないと
体から空気が抜けて
ただのみすぼらしい残骸に
なってしまうような気がするのである
床に直に積んである本を動かし
別の位置へ移動したり
くしゃくしゃに落ちている服をひろって
たたんでまた置いたり
そんなことをしているうちに
部屋のあちこちから幾つも幾つも
使い捨てライターが出てきた
腹のあたりにどこかの店名が印刷されている
見覚えのない店名ばかりで
なんだかぼんやりしてしまう

この家には
実は何人ものわたしが
ひしめきあって
存在しているのではないだろうか
ただお互いに見えないから
独りだと思っているだけで

考えながらフリントを回す
ぢっと音がして
意外なほど綺麗な火がついた

ぼんやりと照らし出された部屋は
どこか別の
まるで知らない場所のように見える
カーテンの後ろに
誰か隠れているような気がする


世界が広すぎるような気がして
不安な夜は
箪笥の引出しに入って眠ることにしている
引き出しの中の洋服に埋もれ
体をぐっと丸めて
止め処なくさびしがりながら
この
どこか高い山の頂上から吹きおりてくるような
さびしいという感覚は何なのだろう
心臓を一瞬止めるような
心を真っ青に染めるような

すっかり引出しを
閉めてしまえば安心である
まったくの闇の中には
暖かい
とても親しい感じの
何か大きいものが
いるような気がする
その大きいものに抱かれて眠る
眼を閉じると
洗剤のにおいと
皮脂のにおいがまじりあった
人間のにおいがして嬉しい

そしてわたしはもう一度
朝に生まれなおすのだ
ぎっぎと内側から引出しを開けて
あたりを見回しにやにや笑う

そうして
何も知らない子供のように

新しい世界にお辞儀する
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暑がりと寒がりの夫婦の最期

2008年09月29日 02:29

暑がりの女と
寒がりの男の夫婦だった
二人がどこでどうして出会ったのかは誰も知らない

ただ
靴がやがて汚れてしまうように
春がいつしか冬になるように
そうした当然の営みのような感じで
いつの間にか二人は一緒に居た

妻が表で生活できるのは
夏を除く季節の早朝と深夜
それ以外の時間は冷蔵庫に正座をして
ひとりで氷を齧るのだ
冷蔵庫はビルのように巨大なもので
中には赤い座布団がひとつと
黒い座卓が置かれていた
食料は入れられない
買ってきたものはすべて
腐るものは腐り
常温で保存できるものは包装のまま
べどんと積まれ置かれていた
妻は少しでも長く外へいると
一秒間に身長が三センチ縮む
透明な水を出して
氷のように溶けてしまうのだ

夫はいつの季節でも
毛糸の帽子マフラー手袋を付けて
寒い寒いと震えていた
どうしてか夫の吐く息はいつでも白いのだ
体内に雪が降り積もっているみたいに
夫は帰宅するとまず
ストーブをかんかんに焚いて
その前にしゃがんで手や尻を炙った
異様な光景と云えばそうであった
夫の顔は蒼白で
ストーブに当たった時だけは橙色である

二人が顔を合わせる時は殆ど無かった
セックスの時くらいだ
それすらも
ひっそりと静かに
すぐ終わった

そんな或る日
夫が何の気なしに冷蔵庫を開けると
妻はくの字に体を折って
体中に霜をつけて倒れていた
あわてた夫はうっかり妻を外へ出して
それから救急車を電話で呼んだ

受話器を置いて振り返ると
妻は
少しの水と白濁した液体になってしまっていて
跡形もなく溶けてしまっていて
真ん中に眼球が二つ
融けずにゆらゆら残っていた

夫はすこし躊躇ってから
静かに服を脱ぎ
全裸になってその場に倒れ

ドアが叩かれている
救急隊員が来たのであろう
力強い音であり
切迫した音である
家じゅうに鳴り響くドンドンドンは
応えるものがいないので
夫が最期の息をつくまで
鳴りっぱなしになっていた

救急隊員の話によると
冷蔵庫の前で
全裸の男が掌に眼球を握りしめ
かちかちに固まって死んでいたそうだ

きっとあの男は変質者ですね
にこりとも笑わずに隊員は
新聞の取材にそう答えた





閉鎖的な子供たちの為のうた

2008年09月25日 21:29

(軽快なピアノ前奏)

(徐々に短調へ転じる)

(ルールーとコーラス)


(女声ソプラノ)

おんなしクラスの
りんちゃんは
売られて狐になっちった
狐になったりんちゃんは
殺されて土に埋められだ
墓場に持っつこ
あぶらあげ
りんちゃん毎晩夢に出る


(男性テノール)

隣のうぢのねえちゃんは
東京さ行って子を産んだ
子供は黒い肌をした
化け物だったちいうこどだ
その子あ
二階の屋根がら落ちて
泡みでんなって消えたとさ


(女声アルト)

向かいの年寄りじいさんは
風呂場で眠ってそのまんま
眠ったまんま起ぎねくて
今でも風呂場で息してる

おっかさん
おいおい泣き通し

すみれの花でもやろうかな

じいさん
何時まで寝でんだが
呼ばえど呼ばえど
すうやすや
夢みで時々笑うどな


(男性バス)

うちは前から貧乏で
庭もね風呂もねぼろの家で
家族ろくにん暮らしてる

おっかもおども
人ではねぐて
鬼とか妖怪の顔してら
ばさまは
人のものあ見で
欲しい欲しいち言ってんだ

おらだつ子供は
下向いて
毎日カネを探してる
カネがなげれば
生ぎらえね
ろくにん家族の
我利我利亡者

たまに石だの投げらえで
えただの
ひにんだの言われんだ
なんだち聞いでも
教えつくんね
おらだつ
人間じゃねえんかな


(混声)

かなしいかなしい
月みで笑え
生きるちこどは
なんとつらい

ほだけど
生まれできちまって
足も手もあり親もある

逃げるわげには
いかねえし
おっ死ぬこども
めんどくせ

さびしいさびしい
月みで笑え
木いさのぼって
歌うだえ
涙あ出だら
踊りさおどろ

おらだつ
いつもここにいる

おらだつ
こっから出らんない

(拍手)

(暗転)

わたしは黙ってじっと見ている

2008年09月24日 23:05



雑居ビルの二階
キャバクラ前の
うすぐらい階段の片隅に
制服を着た女の子が
ぺたんと座っていた
長いコードがのびていて
何をしているのかと思ったら
電気を盗んでいるのだった
何か分からない電気器具のコンセントが
ソケットの
闇の
奥深くに押し込められている

時折小さな放電が起こるのか
青い電気の灯が
一瞬だけ辺りを照らしだし
その間女の子は
空とも天井ともつかぬ
どこかはるか上空を
口を半分あけて見ているのだった

手を伸ばしてコンセントを抜いてみると
途端に女の子は横倒しに倒れて

きらきらしたものを
たくさんばらまいたような気がするのだが

あれは
自分自身を充電していたのだろうか
見開いた女の子の眼の中には
!!という絵文字が表示されていて

それが
いつまでも消えない


恋人たちが
夕暮れの浜辺を
手をつないで歩いてゆく
その足取りは
夜に目覚める生き物のように
ひかひかしたものである

二人の顔はよく似ていて
とてもよく似ていて
どちらが男でどちらが女なのか
まるで判別ができない
そんなことは
どうでもいいのかも知れない

やがて彼らは
波打ち際にしゃがむと
そのまま魚に姿を変えて
沖の方まで泳いでいった
二足のエナメル靴だけが
砂浜に取り残されて

海面は凪いでいて
ノイズのような波音が響く
月光だけが
行くべき道を照らすように
静かに降り注いでいた


明け方の町で
上半身裸になって
飛ぶ練習をしている人を見た
たぶん彼は肩甲骨が
昔あった翼の名残と思っているのだろう
腕を変な風に動かして
いくつも開けているピアスを
じゃらじゃら云わせながら
そこいらじゅうを走り回っている

人はみな
海から進化したと
教えてあげた方がよかっただろうか

だけどあの眼は
曇りの日なのに真っ青な空が
べったりと映っているあの眼は
壊してしまったらきっと
二度と戻らないだろうから

羽ばたく青年の背中から
羽毛が幾枚か舞ったような気がした
もちろんそれは
眼の錯覚
だったのだけれど

きおく

2008年09月22日 01:49



いじめられたり
仲間外れにされて
悲しいときには
必ず文房具店へ行った
陳列されている
機能的なボールペンや
流線形の絵筆に指先で触れる
このような小さいものを
手先を汚しながら作って
必死で生活をしている人たちがいる
ということは
わたしの心を少なからず慰めた
文房具屋の店主は
もう人間の形には見えないほどの
すさまじい年寄り方をしていたが
お釣りを間違えたことは一度もなかった

文房具屋の外へ出ると
きまって噂話をしている人たちがいて
あのじいさんはせいよくがつよいから
とか いつも同じことを言っていた
せいよくって何だろう
たべられるものかしら
噂話をしている人たちは
いつも黒い服を着て
帽子を目深にかむっているから
悪い鳥みたいに見える


昼間の半透明に明るい浴室で
空の浴槽にしゃがむ癖があった
裸になって三角に膝を折って
人知れず変態したり
小さな声でうたをうたったりした
何かが厭だと思っていて
でもそれが何かは分からなかった

長時間同じ姿勢でしゃがんでいると
体から夥しい水が流れ出してくる
その水は瓜のにおいをたてていて
尿とは違うようだった
膨らんで
もうすぐ咲くような予感がしていた
昨日床屋で刈り上げた襟足がちくちくして


甘いものを好んで食べ続けた為だろうか
家の庭へ出てしゃがんでいると
蟻にたかられることが多かった
わたしは知らぬ間に
夥しい糖分を分泌しているらしい
しちしち音を立てながら
体中の穴という穴から侵入してくる
規則ただしく列を成して
まるで鋼鉄で出来ているようだ
振り払っても逃げないし
閉じようと思っても意に反して
体は開いてゆくばかり
自分の体が隙間だらけだと知るときの
なんとなく張りつめたような気持ち
とか

お腹の中や食道や耳に入り込んだ蟻は
そのまま死んでしまうらしかった
痛さも苦しみも感じなかった
動くと死骸がぶつかりあって
小雨のような音を立てた

苛立たしくて
足もとの蟻を渾身の力で踏みつぶす
しゅくっ と音を立ててつぶれた

縁側で陽に当たりながら
祖母がしずかに眠っている




総天然色

2008年09月19日 12:06



朝起きると、いやに空の青が鮮やかだった。
あまりに鮮やかなので、直視できない程だ。
町に出ると、道行く人たちが、ヴィヴィッドな蛍光色の洋服を着ているように見える。
眼がちかちかして耐えがたい。
公衆便所に入って息を整えた。少し汗をかいている。
髪を整えようと古い鏡に眼をやったときに、あ。と思った。
わたしは、色を失っていた。
いや正確には、わたしの肌から爪から服まで、すべてが白黒になっていた。
あ。あ。あ。と、あ。を何回も繰り返して鏡の前から走り去る。
昨日まで色付きだったはずなのに。
道路によろよろとまろびでると、色が無いからであろうか。非常に所在ない。
誰とも分かり合えないみたいな気持である。
しょぼしょぼと歩いて帰った。
帰宅して押入れの中を探したら、水彩絵の具を見つけた。
色を混ぜ合わせて、元の通りになるように、自分の表面に塗ってみる。
うまくいったかのように思えたが、すぐに汗でどろどろに流れた。
洗面所の前に立ってみる。
鏡の中には化け物のような生き物が、泣きそうな顔をして立ち尽くしている。



※月刊未詳24「散文・エッセイ板」中の「吉田群青短編集」へ投稿した作品

植物と不確かな存在の感覚

2008年09月19日 11:49



或る日
裏の畑に
変なものが咲いているのを見た
絡まりくねった橙色の植物
動物的なにおいを発し
触手のようなものを
ひよひよと動かしている
ルーペでよくよく観察してみたら
それは
愛し合う男女の
なれの果ての姿であった

また或る日
古民家の庭の柿の木に
実がなっていた
ちょうど何か食べたい気分だったので
少しおすそわけしてもらおうと
その古民家の戸を叩いたが
しんと静まり返って
誰も出てこない
青い空気の中に埃が舞っている
ずいぶん前から空き家なのだろうか

ならば黙って戴いていこうと
実に手をかけた瞬間
どこからか誰かの怒鳴る声が聞こえた
周囲を見回しても誰も居ぬ
手の中を見てぎょっとした
怒鳴っているのは柿の実で
その表皮には人面が浮き出している
どの実もどの実もそうであった
かっと口をあけたその顔は
なんだか少しかわいそうだ
何もかもが
いつか必ず消滅することを
知らずに執着しているようで

家に帰ると飼い猫が
空の植木鉢に入っていた
なぜ猫というものは
狭いところへ入りたがるのか
自分の限界を知りたいのだろうか
どう呼んでも出てこないので
鉢を逆さにして振ってみる
しかしそれでも出てこない
つまみだそうと手を入れると
思いがけない
かさかさした感触が伝わってきて
どきりとして中を覗く

鉢の中にあったのは
夥しい枯葉の折り重なったもので
そこに猫はいなかった
どこにも猫はいなかった

わたしは今までずっと
これを猫だと思っていたのだろうか
何もかも不確かに思えて目眩がする

風も無いのに枯葉が舞いあがって
ああ仰向けに倒れてねむりたい
腐り果てるまでねむっていたい



黄昏る、紅葉

2008年09月18日 18:20


黄昏に
ぞよりと燃え立つ紅葉を
路上に立ち止まって
一人 見ている
町はくるくるとうごめき
目まぐるしく変化し
凡庸な人間である私には
とても
ついてゆけない

日々は
呆気なく
なんて呆気なく
過ぎてゆくのだろう

わたしは
つられて赤くなった
路傍のポストを両腕で抱き
ご覧
あれがほんとうの命
と小さな声で囁いた

太古、わたしは土だった

2008年09月17日 16:54


わたしの昔居た場所は
遠い南の国でした
地面の下に重なる地層の
生暖かい汚泥の底
肉も思想も捨て去って
安らかに夢を見てました

百年も千年も万年も億年も
ずっと独りで 独りだけで
それでも大変安らかだった
自分の遥か上方で
生物が栄えている事を
地に足を踏ん張って
笑いながら生きている事を
おぼろげに感じていたからだと思います

わたしの
耳の横あたりでは
種が芽吹き根を張って
美しい花を咲かせる香り
モグラや虫や幼虫が
秘密の話を囁きます

それからまた百年千年
万年ほども経った頃
わたしはこの地に生まれました
初めは泥の中がなつかしく
安眠できずによく泣きましたが
言語や思想を学ぶうちに
泥の中のことは
すっかり忘れた
すっかり忘れた
と思っていました

そしてわたしは

生まれ落ちてから
二十四年経ちました
この頃は
ぼんやりしていることが多いです
夜も眠れぬようになりました
眠ったら眠ったで夢をみる
あの温かく湿った泥の
暗闇の中で横たわる記憶

ハローハロー
こんにちは
わたしは以前 土でした
あなた方を胸の上で
揺らしながら
育てていました

ハロー
こんにちは
はじめまして

一体あなたはどなたですか
わたしを知っている方ですか

今のうち言っておきますが

それでも死ぬのは怖いです

親愛なる トリスタン・ツァラ

2008年09月17日 16:10

うつむく君の瞳の中に
さびしい灯りの ぽつりとともる

よく見るとそれは街灯で
真っ黒黒の瞳の中には
色のない灰色の小さな町が
うずくまっているのであった
時折あざやかに光るのは
宵にあらわる星だろうか
それとも
八百屋の灯りかな
果物のにおいが漂うような

君の瞳の灰色の町には
通行人は誰もいず
ただゆっくりゆっくりと
でくのぼうみたいな影が
たった一人でうらうらうらうら
行ったり来たりしているのみ

さびしい人よ
キャバレーへ行こうか
紫煙の
もうもうと立ち込める場所で
叫び 歌い 呑み 踊り
反抗期の終わらぬ子供みたいに
ぼろの服を着て笑っていようか

(かの苦い時代を生きた)
(トリスタン・ツァラの如くに)

迷信  (※筆者注・長文)

2008年09月16日 03:31



【パンばかり食べていると外国人になる】



こぐま印のしょくパン
という名称の食パンが
近所のスーパーで売られていた
近所の小さい食品工場で
おばさんたちが手作りしているパンだった
時々
高さが揃わなかったり
味が違ったりすることがあったらしいけれど
それは手作りの醍醐味ということで
教育熱心なお父さんお母さんたちが
自らの子に
体にいいからと食べさせていた
確かに おいしそうだったのだ
わたしは しかし いくら強請っても
それを買ってもらえず
いつでもサンロイヤルとかいう名称の
包みの色が
青と赤とあったそれの青い方に
トマトやきうりをはさんでしぺしぺ食べていた

それから少しして
学校で異変が起こり始めた

友達に言葉が通じなくなってしまったのだ
遊ぼう と言っても
ホワットとか言って全然分かっていない
よく見ると目も薄青くなったみたいだ
何も見えていないような色だ
先生も原因が分からず
仕方なく
おかしくなってしまった子たちを
特別学級へ入れた
見えないところへ追いやるようにして

あとでわかったのだけど
手作りということは
作る過程で何でも混入できるということだ
食品工場のおばさんたちはみんな独身で
子供もいなかったらしい
あのおばさんたちが
何か入れたんじゃないかと思うけれど
母に言ったら叱られてしまったので
変な気持のまま サンロイヤルに
ケチャップをぶちかけて食らった


【しゃっくりを百回すると死ぬ】


妹のしゃっくりが止まらなくなった時
兄とわたしはそれを指さして笑っていた
いつまでも止まらないのでますます大きく笑ったが
ふと笑いが途切れたときに
しいんと二人で怖くなった

妹はうつぶせに倒れて
いつまでも ひっく ひっく と体を震わせている
だんだんふさふさと毛が生えて
鋭い爪がぎらりと尖り
知らない動物になっていくようだ

体の中央がきいんと冷えて
妹を残して思わず逃げた

気の済むまで走り回ってから
夕飯どきに帰宅すると
いつ帰ったものやら
妹も自分の席におさまって
ちんまりと納豆などかき回していたが
なんだか一回り大きくなったようで
声も太く低くなったようで
それはもう妹ではなかった

今でもなんだかそんな気がする
妹の家に遊びに行くと
生肉のパックばかりがゴミ箱に
血のついたまま山と積まれている


【十一月十一日に鏡に映りながら、「入りたい、入りたい」と念じると鏡の中の世界に入ってしまう
ちなみに翌年の十一月十一日に「出たい、出たい」と中から念じると元の世界に戻れる】




夜中に鏡を見ると
知らない人が映る時があった
鏡の向こうの人はわたしと同じように
こころもち右に傾いて
ぼかんと口を開けている

もしかしたら笑うだろうかと思って
知らない人が映るたびに変な顔をしたり
笑いかけたりしてみるけれど無表情なままだ
やわらかそうな瞳には何も映っていない
諦めて立ち去るのだけれど
わたしが立ち去った後もずっと
知らない人だけ鏡に残っている

また本当に時たまだけれど
鏡の中の左右反転した世界の片隅に
昔たいせつにしていたがらくたが
ぽちんと転がっているときもあった
しん、と取り残されたがらくた
なんだかかわいそうだった

あまり鏡を見つめていると父か母がやってきて
わたしをそこから引き離した
もしかしたら知っていたのかもしれないと思う
父も母もときどき鏡を
じっとのぞきこんでいるときがあったから

今では鏡をのぞいても
自分しか映ることはない
それが少しさみしいと思うこともある




※わたしの住む、茨城県に言い伝えられる迷信です。

家事

2008年09月12日 08:10


掃除をすると
部屋の四隅から
無限に白い米粒が出てくる
表面は乾いて
埃にまみれて
まるで
昔わたしが産み落として
そのまま捨てた卵のようだ


遠くに見えるラブ・ホテルの灯りを
ぼんやり眺めながら肉を切る
あの四角い
鉄錆のにおいのする部屋で
どんなプレイがなされているのか
想像しながら脂身を丁寧に取り除く
うすぐらい電灯が
どんな汚いことも押し隠してくれるように
白々しくともっている


買い物の帰りに
ふと消えてしまいそうな感覚に襲われる
つまさきから揺らいで
掻き消されて
あとには
夕暮れしか残らないような
不安だから
お豆腐のパックなんか握りしめて立ちすくむ
現実感のあるものを
少しでも現実感のあるものを
自分が確かに居ると分かるように


洗濯物を
取り込んでいる夕暮れ
放課後の中学校から
練習中の鼓笛隊の
勇ましいマーチが
間の抜けたように
漂っている

2008年09月02日 20:15


電車の中に雨が降っている
どこからか漏れているというのではないらしい
天井全体から
灰色の雨粒が間断なく降ってくるのである
みんな透明のビニール傘を差して
何事もなかったかのように読書をしたり
ぼんやりと風景を見つめたりしている
傘を持っていないわたしは
びしょ濡れで手摺をつかんでいる
外は抜けるような青空で
空っぽの本棚みたいなかたちのビルと
そこから飛び立つ練習をしている人が見える


喫茶店の片隅の席で
女の子が手首を切っていた
どうしてそんなことをするのか聞いたら
生きるためにやっていると
生きていることを実感するためにやっていると
うつむいたままでそう答えた
女の子の手首は陶器のようになめらかで
切り裂かれた傷口から
夕焼け空が覗いている


帰宅途中の夜半
繁華街を通りかかった時
青白い 疲れたような顔の人たちが
黒々とした頭をゆらゆらさせて
行列を成しているのに行きあたった
よく見てみると並んでいる人々は
夜空色をした切符のような紙を持っている

行列の最後尾の人に
ねえこれはなんですか
と尋ねてみると
朝へ向かう行列だよ
と言われた

その切符はどこで買うのですか
君 持っていないの
これは買うものではなくて
いつの間にかポケットに入っているものなのだよ

ポケットを探ってみたが
くしゃくしゃに丸まったレシートしか出てこない
ふうん とさみしくなる
周囲には空疎なネオンがまたたくばかり
町にはだあれもいないみたいだ

空は何時の間にか
白々と明けかけて
朝へ向かう行列は
諦めたようにぞよぞよと動き始める


※月刊未詳24 9月号 投稿作



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