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思春期

2008年08月26日 12:33

浴室に
少女がしゃがんで下着を洗っている
石鹸のにおいが
細く開いた窓から
夢のように漂ってゆく

襟足で揃えられた真っ黒い髪は
かすかにふるえて
くるぶしが濡れている

うす曇りの陽が射し込んで
午後の浴室はふしぎに明るい



少年の部屋の窓はいつも開いている
夜になると電灯がともされるので
破壊されたものが
床じゅうに散乱しているのが
外からでもよく見える

破片や螺旋状のねじや金属が光に反射して
まるで一面の光る野原みたいだ
その無数の破片の上に
少年は静かに腰を下ろしている

飛びだした喉仏
その下からかすかに洩れる唸り声

レースのカーテンが夜風に揺れていて
そこだけが
現実みたいに見えた

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夏の終わり

2008年08月26日 10:03




飲みさしのコーヒーの中に
砕けた夏を発見した
掬い上げようとしたら
逃げるみたいに砕けて沈み
底の方で銀色に光っている
人差指でかき回すと
跡形もなく溶けてしまった

ベランダに出て
夏の溶けた後のコーヒーを飲む
風と植物と雨の味がした


八月も終わりに近づくと
薄荷飴をすべて舐めてしまわなければ
という一種の強迫観念に襲われる
寒くなってから薄荷飴を舐めても
さみしくなるばかりであるから

部屋じゅう探すと
靴の中や戸棚の裏や部屋の隅なんかに
夥しく落ちている
それらを拾って口に入れる

薄荷飴の楕円形は足跡に似ている
もしかしたら夏の間じゅう
何か透明なものがこの家で
遊びまわっていたのではないかと思う


夜歩きをするときは棒を持つことにしている
路上を歩くと必ずどこかに
西瓜が置いてあるからだ
周囲に誰も居なくとも
わたしはきちんと棒を軸にして十回まわり
はんかちで目を覆ってからそれを割る
そして歪な破片を食べる
あまり静かなので
まるで人を食べているような気持ちにもなる
街灯の下に浮かび上がる真赤な果肉は
グロテスクだが不思議と綺麗である

きょうはすいかわりをしました
なつのおもいでができました
と呟いて少し笑う
見上げると満天の星空だった
どこか遠くで
風鈴が りいん と鳴ったような気がした

短歌のようなもの「豆」

2008年08月19日 06:04

蚕豆の匂いをずっと嗅いでいる人の匂いがするからである

炒り大豆ひとつぶ齧り雨を見る遠くに鬼が逃げ去ってゆく

小豆あん口いっぱいに頬張ってへらへら笑うまた明日が来る

枝豆の色のインキではがき書く無意味に日々が過ぎ去ってゆく

寂しさは夜中にひとりキッチンで落花生を割る時に来る

スガイのこと

2008年08月19日 04:49

スガイは或る貧しい村の生まれである
彼は五人兄弟の長男で
下は四人とも妹であった

スガイは十歳のときに夢を見た
光り輝く犬が お前は医者になれ と言う夢であった

スガイには両親が居なかった
最近まで生きていたのだが
流行り病にかかって
村から決して出てはいけない
外はおそろしい世界だから
と口をそろえて言い遺し
あっけなく死んでしまった

そういう環境からみた幻影であったのかも知れない

しかしスガイはそれを正夢だと信じた

そんな或る日
両親の遺した畑で豆を収穫した帰りに
古い医学書を道で拾った
スガイはそれをいっしんに読んで
薬は自分で調合しながら
医学の知識を学んでいった

それから何年か経って
一番上の妹が病にかかった
何を見ても笑わないという病であった
スガイは医学書に書いてあるとおり
山から薬草を採ってきて
それを魚の鱗と練って丸薬をつくって飲ませた
飲んだ途端に
一番上の妹はけたたましく笑いだして
そのまま狂い死にしてしまった
薬が効きすぎた所為だ とスガイは思った

その翌年に
二番目の妹が山で毒虫に刺されて
足が倍くらいに腫れてしまった
スガイは医学書に書いてあるとおり
冷水を注いで毒を吸い出した
しかしスガイの吸い出し方が不十分だったため
二番目の妹は体中に毒が回って
熱い熱い と言いながら
走って行ってしまった
それきり戻ってこない
もっと勉強しなければ とスガイは思った

その三年あまり後
三番目と四番目の妹が毒茸を食べてしまった
スガイは医学書に書いてあるとおり
水をたらふく飲ませて毒を吐かせた
しかしあんまり飲ませたために
二人とも
風船のようにぱちんとはじけてしまった
スガイはとうとう一人ぼっちになってしまった

それから何十年も経ってスガイは死んだ
もう他の町では二十一世紀になって
医学だって発達していたのに
村から出なかったばかりに何も知らずに死んだ
スガイの持っていた医学書は江戸時代のもので
迷信や呪いによる治療法しか書いていなかったのだ

スガイを見つけたのは
二十一世紀の大都会から来た若者だった
若者はぼろの着物をまとって髷を結っているスガイを
人間ではなくて犬だと思った
だからスガイの墓には「犬の墓」と書いてある
最後の生き残りだったスガイが死んだので
村も間もなく消滅してしまった

誰にも知られていない村の
誰も知らない男の話である

何回書いても書き足りない、祖母のこと。

2008年08月08日 15:16

自宅で洗濯や掃除などしていたある日
実家の祖母から手紙が届いた
ひらくと便箋の真ん中に震える字で
おばあちゃんさみしいよ
とだけ書いてあった
思わず空を仰ぐ

祖母は漢字を習わなかったらしい
小学校でひらがなを習ってすぐ
機屋に勤めたと言っていた
機を織ったり繕いをしたりする場所だったらしい
そのせいか今でも裁縫がうまい
薄暗い居間でテレビをつけながら
自分を慰めるようにちくちく何かを縫っていたりする

わたしが上京するまでは
とても健康な祖母だったのに
先日実家へ帰った時には
もう足腰が立たなくなっていた
三年くらい前にうどん屋の駐車場で転んで
足首の骨を折ってから急速に衰えた
何を言ってもにこにこ笑って
仏壇にしまっているくしゃくしゃの千円札をくれようとする
いらない と言うと泣きそうな顔をするので
ありがとう と素直にもらうけれど
なんだか祖母から
お金以上に大切なものを奪っているようで
そのせいで祖母が老いてしまうようで切なくなる

祖母は早く孫の顔が見たいと言う
冷蔵庫から卵を出してきて
ほら孫だよ
と言うとおかしそうに笑って
そのまま掌に抱いていた
そして眠って夜まで起きなかった

わたしだって子供は欲しいけれど
子供を産んでしまうと
そのとたんに祖母が死んでしまうような気がして
逆に言えば
それまでは死なないような気がして
いつも避妊をしてしまう
わたしが何も生まないまま百年生きたら
祖母も百年生きるだろうか
百八十五歳と百二十五歳で
向かい合ってお茶を飲めるだろうか

千円はたばこを買ったらすぐになくなってしまった
ごめんなさいごめんなさいと言いながら空を仰ぐ

どれだけ大きい声を出しても
耳の遠い祖母にはきっと何も聞こえやしない
と思うのだけれども

もし 届くのなら


電車についての話

2008年08月07日 18:33



快速の電車に乗ってすごい勢いで
風景を走り抜けていく時
停まらない駅のホームに
昔好きだった人や
もう会えない人が
ぼんやり立っているような気がする
別れた時の服装で
別れた時の年齢のままで

行き過ぎる時一瞬だけ
早朝の光のようにちかりと笑う
急いでドアに貼り付いて
通り過ぎた方を見ても
そこには既に誰もいない

なんだかひどく悲しくなる
みんなどこかへ行ってしまって
わたしだけが揺れながら先へと向かっている
どこへ行くのか分からないまま
泣きそうな顔で


プラットフォームの端から端までを
毎日駆け足で往復している子供がいる
場所は特に決まっていない
一番ホームだったり五番ホームだったりする
わあああ と云う声は甲高く白い空へ突き刺さり
粉々になって落ちてくる

わたしはいつも見ているのだけど
他の人には見えないみたいだ

一度 向かい側のホームで
珍しく立ち止まったその子に
手招きをされたことがある

その途端に線路に落ちそうになって

ああ人間ではないんだな と気づく

真夏になってもトレーナーで
最初に見たときからもう何年も経っているのに
ちっとも成長しない
帰る家が無いのだろうか


帰宅するため電車に乗る
外はすっかり日も暮れて
窓は真っ黒く塗りつぶされたようになり
不健康な青白い光が降り注いでいる

その下でひよひよと揺れる乗客たち
みんな吊革につかまって
疲れて細長くなり
身長が普段より伸びている

たたんたたんと揺れながら
眼の前の窓を見つめたら
知らない人が映っていた
眉をしかめた不機嫌そうな老婆である
驚いて見回すと
隣で携帯電話を遣っている人は
窓の中で子供になり
化粧をしている人は大きな蝶々だ

そういうものかと納得して
また正面を見る

電車は街灯をいくつも飛び越して
降りる駅はまだまだ遠い




 ね じ 

2008年08月05日 13:38


誰もいない町の道端で
ねじを売っている人が居て
ひとつ買った

ねじばかり買っているような気がする
バッグの中はさまざまな形のねじでいっぱいで
だけどその中のどれも
わたしには合わないのだ
ぴったりと合ったねじを挿入すれば
だいぶ楽になるのだけれど

さっき買ったねじを
体の空洞に押し込んでみるが
やはり合わない

日ごとに空洞が増えてきている
直径も大きくなってきている

先ほどの道端に戻ってみたけれど
ねじ売りはもうどこにもいなかった
いつもそうだ
気付くと周囲には誰もいない

頭をかきむしると無数のねじが
ばらばら零れ落ちて無性にさみしい
ガソリンが高いので車には乗れない
背中を丸めて歩き出す




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