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日常

2008年05月13日 23:13




わたしの家の郵便受けには
朝になるといつも
赤い花がいっぱいに届けられる
露を含んでぽったりと
流れ出しそうな赤い花だ
どこかにわたしを好きな人でもいるのだろうか
捨てるに捨てられないので
たまにお風呂に浮かべたりしているが
しばらくすると溶け出して
浴槽の中は血のようになる
真っ赤なお湯のなかでわたしは
どうしていいかわからない
好かれているのではなくて
嫌われているのかもしれない


真昼の太陽は
レースのカーテン越しに
ひらりひらりと光を落として
その一枚ずつが
床の上で可愛い包装紙になる

それをこっそり職場へ持っていき
女の子や男の子がレジに差し出した
鉛筆や消しごむや定規なんかを
時間をかけてつつんでやった
不器用なわたしが作った不恰好な包みは
春の陽のにおいがして
子供たちは笑う
真っ白い光のようだ


ぐったりと疲れて車に乗り込み
国道を八十キロで走る
頭の中の八割は
もう死んでもいいのではないか
という考えでいっぱいだ
残りの二割は
君のことや職場のことや
エロいことで占められている

信号で止まったときに
バッグの中にいつも入れている
マシュマロの袋を開け
ひとつふたつ掴みだして口に入れた
甘くて柔らかいマシュマロは
なんだか女の人のようで
女の人を噛んでいるようで
ちょっとだけ欲情する
それで
死んでもいいのではないか
という気持ちを紛らわしている
いつも



月刊未詳24に投稿したもの。

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お台所の話

2008年05月03日 04:22


小さい頃
コーヒーとは
空色ののみものだと思っていた
すくなくとも
母親が眠れない夜にいつも作ってくれた
ミルクコーヒーは
曇りの日にふと覗く
青空の色をしていた

それなのにどうして今
わたしが一人でいれるコーヒーは
真っ黒い夜の色をしているんだろう

口に含むとさびしい味がする
六月の日曜日に漂う空気の
しめった冷たい味がする


雨の日に
包丁をひとりで研いでいる
砥石は規則正しい擦過音を立て
昔話の山姥のようだ
すっかり研ぎ終わった包丁は
あんまり切れ味がよすぎるので
なんでも切れるようになってしまった
空にかざして振り回してみると
灰色の雲に切れ目ができて
そこから太陽の光が射した


明け方に冷蔵庫をあけると
夜のうちに繁茂した色々な野菜の芽が
オレンジの光の中に絡まりあっている
プラスティックの棚なんか
すっかり無くなってしまって
小さな四角い空間には
どこまでも草原が広がっている
まるで楽園のようである

わたしはそれを見ていたいがために
つい冷蔵庫を開け放してしまう
ついでにハムやりんごも食べる
荒い息を吐きながら

そうしてわたしは冷蔵庫の前で
どんどん大きくなってゆく
下着なんか脱ぎ捨ててしまって
肌色のけもののようになる

女の子のスカートの中

2008年05月02日 23:19

男の子は
女の子のスカートの中に
美しい楽園を見るという

まだ発達していない太ももの間には
生い茂ったジャングルがあって
少し霧がかった樹のうえには
名も知らぬきれいな鳥が鳴いている
それらが渾然一体となって
存在するのを見るという

遠くのほうから笛の音がきこえる
校庭に集まった男の子は
細い腕を曲げたり伸ばしたりして
ひよひよと体操をしている

磨き上げられた廊下は
さっきまで騒がしかったのが
嘘のように静まって

月経の仕組みについて
教わっている女の子たちはみんな
赤いスカートのなかに
むっと濡れた緑のにおいを隠している


君を思い出している

2008年05月02日 05:35


眼を閉じるとそこは
金木犀の香る秋のベンチで
横には
もう何度も思い出しているから
びりびりの紙のようになってしまった
いつかの君が
黙って座って煙草をすっている
周囲がいやにうるさいので
ここは大学だと気づく

うどんのにおいがする
学食で君はいつもうどんを食べてた
君のめがねは
うどんの湯気で曇っていて
まるで本心が見えなかった

眼を開くと
汚い部屋の中で
わたしは仰向けに寝そべっている
それがあんまり毎晩続くから
何かの病気かも知れないと思っている



町の人がみんな君に見えるので
なんだか怖くて
外出できないようになった
家の中で君を思い出すと
部屋の中は君でいっぱいになり
そのうち息ができなくなってしまう
気散じに鉛筆を持って
その辺の紙に君の顔を描いてみるが
まるで似ていないので
ますます苦しくなってしまう



君 君 君

半紙に墨汁で書きなぐってみたい
百回書くころになればきっと
君が墨汁の文字からむくむく生えてきて
わたしの前で微笑むかも知れない



花びらを弱くむしるように
毎日毎日何かを忘れていく
花びらは道に点々と落ちて
まるで道しるべのようだ

こんなに遠くまで来てしまった
と後ろを振り返ったら
あんまり遠くまで歩いてしまったから
多分もう戻ることができない
海鳴りのような音が聞こえる

肩を落として歩いてゆく
もうすぐわたしは森に入るところ
森の奥まで進んでいって
思い出なんかみんな落として
からっぽになって死んでゆくところ
多分もう戻ることができない
海鳴りのような音が聞こえる

肩を落として歩いてゆく
もうすぐわたしは森に入るところ
森の奥まで進んでいって
思い出なんかみんな落として
からっぽになって死んでゆくところ

頭がおかしいと人は言う

2008年05月02日 05:34



先日から
パソコンの液晶の中に
極彩色の蛾が入り込み
出し抜けにを散らしたり
うるさく騒いだりするので
なんだか気が散ってしようがない
この頃ははえたたきを構えたまんま
右手だけでキイを打ったり
うっかり殺虫剤を画面に吹きつけて
パソコンを壊してしまったりしている
蛾は相変わらず元気よく
ふぁさふぁさ柔らかい羽音をたてて
画面を自在に動き回る

蛾は巧妙に隠れるから
他の人には見えないみたいだ
君は病気だと人は言うが
あんなに大きいなきれいな蛾が
ほんとうに全然見えないのだろうか

最近の蛾はますます元気で
もう画面いっぱいに大きくなった
わたしはにこにこ笑いながら
蛾の羽根にそっと手を触れる
すると指先は粉っぽくなって
たちまち極彩色に染まる

それは埃だと人は言うが
おびえたように人は言うが



夜にドアを開け放っていると
君のようなにおいのする
生暖かい風が入ってくる
わたしは風が入ってくるたび
おかえり
と言うのだけれど
一晩で おかえり を百回言っても
何度ご飯をよそっても
ほんものの君が帰ってきたことはない

そろそろ気候はあたたかくなって
ご飯のいたみもずいぶん早い
一日ごとに腐ってゆく
ご飯とおかずを前にして
わたしは君を待っているのだけど
ちゃんと正座をしているのだけど


夜に外出していると
頭上を何機もの紙飛行機が
ひゅるひゅる飛び交っているのが見える
あれはメールが送信されてゆくところ
わたしは思わず立ち止まって
しばらく空を見てしまう
まるで頭の狂った鳥が
せわしく飛んでゆくようだ

そこから
あまり速くない一機をつかまえ
こっそり盗み見てみると
すきとかきらいとか書いてあって
どうして直接言わないのだろう

元通りたたんで飛ばしたが
わたしは飛ばし方が下手なので
あらぬ方向へ飛んでいった
あらぬ方向へ飛んで行って
流れ星のようにどこかへ消えた




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