スポンサーサイト

--年--月--日 --:--

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

砂になった好きな人

2008年04月23日 05:15


わたしの好きなひとの眼の中には
いつでも空がひろがっている
外が雨でも嵐でも
すこんと晴れた青空の眼だ
することが何もない
曇った日曜日なんかには
一日中好きな人の眼を見ている
そうしてそのままねむってしまう
そんな日は必ず夢を見る
鳥になった夢を見る
海だか空だか分からない
ただ一面に青い場所を
どこまでも一人で飛んでゆく
そんな寂しい夢をみる


好きな人はお風呂に入ると
少し膨張した身体で出てくる
身体が水を吸ってしまう体質なのだろう
足首とこめかみを握ってぎゅっとしぼった
そのとき力を入れすぎたようだ
以後 三日経っても一週間経っても
好きな人は薄っぺらでしわしわなまんま
元には戻らないのであった
風に吹かれてふらふらと
出勤してゆく好きな人の背中は
あまりに薄すぎて
背景の電柱や街路樹が透けて見える


好きな人には
一日百回好きと言う
けれどもわたしの好きは
いつもうまく命中しない
好きな人の頬や肩を抜けて
窓ガラスや壁に付着する
そうして
付着した周辺をあとかたもなく溶かす
たぶんわたしの好きは強い酸性なんだと思う
好きな人は
溶けた壁や窓ガラスを見ながら
おびえた顔でわたしを見る


ふと好きな人に飽きたので
何も告げずに旅に出てみた
三日経って帰宅すると
好きな人はさらさらに乾燥して
細かい砂になっていた
ボウルに入れて水で練り
形を整えてただいまと言う
もちろん何も答えない

文句も嘘も言わないから
ますます好きになって困る
スポンサーサイト

街の女たち

2008年04月23日 03:01


街の女たちは
春になるといそいそと
裏山や土手や工場で
鉄屑やプラスティックなどを集めてくる
それで頑丈な巣を作るのだ
春になると とんてんかんかん
女たちが巣を組み立てる音が
そこらじゅうから響いてくる
そうしてだんだん街中は
錆びた釘や包丁が
そこら中から突き出ている
基地のような巣でいっぱいになる


やがて巣が出来上がると
女たちは自分の持っている中で
一番丈夫でいい着物を着て
いそいそと巣へ入っていく

巣にこもる直前の女たちの唇は
養分を蓄えて奇妙に真っ赤だ
それを子供が吸うのである
他にたべものはないのである


薄暗い巣の中で
女はたった一人きり
両手をせわしく震わせながら
子供を育てなくてはならない

女は子供に唇をあたえる
遠い異国の儀式のように
または花が散るように
子供と母親はひらりひらりと
とても静かに唇を交わす


ちなみに子供はみんな女だ
きっとそういう生態なのだ
間違って男が生まれたりすると
母親はその子を巣から捨てる
男の子供は強いので
地面に落ちる前に両腕を広げ
うっすら青くわらいながら
らひらひどこかへ飛んでゆく


やがて母親が死ぬ頃に
娘はやっと成人し
初めてはっきり眼を開ける
最初に見るのは死んだ母親
次に母親の着ている着物
娘は自然に手を伸ばし
その着物を奪いとる
何しろ丈夫な着物だから
めったなことでは破れない
そうして娘はそれを身につけ
たふたふ巣から這い出てくる

あたりには
同じように巣から出てきた
他の女たちでいっぱいだ
やがて女たちは示し合わせたように
同じ方へ向かって歩き出し
生まれ育った街を捨てる

そのときの女たちの顔は
当たり前のように無表情だ


残されたのは朽ち果てた巣と
唇のない死骸だけだった

音という音はなりをひそめ
色という色は褪せてゆく

まるでいたわるかのように
そよそよと風が吹き抜ける
誰もいないアスファルトの上を
黄色い風が吹き抜けてゆく

横断歩道

2008年04月16日 02:39

ある日
ぼんやり横断歩道を渡っていると
横断歩道の黒い部分に
人が落ち込んで
たすけて
と言っているのに出くわした
たすけてあげたいけれど
信号はもう赤になってしまうし
わたしにはどうすることもできないので
こころもち会釈をしながら通り過ぎた
やがて信号は赤になり
車がすごい勢いで
横断歩道を踏み潰してゆく

落ちた人はそのまま沈んだんだろう
歩行者用信号が青になったときには
もうどこにも見えなかった

ときたま
たとえば人気のない夜とか
風がゆるやかに吹く日なんかは
横断歩道の黒い部分が揺らいで
深い海のようになることがある
落ち込んだら暗い暗い底に沈んで
多分永久に浮かび上がれない
だからそんな日には白線上を
はみ出さないように踏んで渡るのがいい

子供はそれを知っているのだろうか
みんな白線の上を歩いてゆく
すれ違うと洗剤のにおいがした
笑い声が近くではじけて
なんだかとても
それはとても


祖母の葬式

2008年04月11日 01:03

ふかふかの椅子に身を埋めて
小人のように硬くなり
年中夢ばかり見ている祖母を
背中にそうっと背負い上げて
どこまでもずっと歩いてゆきたい

紺色の夜を越えて
名も知らない川を渡り
スニーカーなんか途中で脱ぎ捨てて
たまに果物をとってやろう
柔らかい熟したやつを手でつぶし
祖母と一緒にわらいながら舐めよう

そうして歩いていくうちに
やがて花が蛍のように
てんてんてんと足元を照らし
空から虹の雨が降るような
美しい場所に着くだろう
そしたらそこに立ち止まり
祖母を地面にやさしく横たえ
温かい土をかけてやろう

祖母は無言でこちらを見上げ
高音で少し鳴くかもしれない
そのとき祖母はすでにもう
人でない者になっているかもしれない

すっかり祖母が埋まったら
上で数回ジャンプして
地面が平らになるように
かたくかたく踏んでやろう
それからうなだれて涙を流し
振り返りながら去ってゆく

しばらくしたら忘れるだろう
祖母のことも光る花のことも
そのうちわからなくなると思う

そうなってもなお無意識のうちに
泣いたり祈ったりするかもしれない
祖母の椅子で祖母そっくりに
うとうと眠ったりするかもしれない

それがわたしの祖母に対する
ささやかな葬式のつもりである




上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。