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タイムセールのスーパーの寿司

2007年10月31日 01:37


引越祝いに
と父が
タッパーにきっちり詰めて
持たせてくれたスーパーのお寿司は
どうしたって食べられなかった

わたしに出来たのは
鮭の薄紅色や
烏賊の白や
厚焼き玉子の黄色を
なにか美しいもののように見つめてから
腐る前に捨ててしまうことだけで

ただそれだけで
なすすべもなく

ぼしゃっとビニールに落ちる
安い寿司の背中を見つめながら
年々縮んで
しまいには点になって消えてしまうであろう
父や母や祖母や兄や
友達や妹や恋人のことを想い
ほんのすこしだけ泣いた

それからビニールを
ごみ集積場に置いて
今度は本格的に泣いた

優しいものはいつだって切ない
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借りたものを返さない主義

2007年10月26日 18:00



人混みのなかにいるとき
急に誰かを抱きしめて
接吻したくなるときがある

それはどうしようもなく強力な欲求であるので
抑えるのに大変苦労する
という相談をしたら
君がくちびるを貸してくれた

僕は元来無口であるし
それに君の接吻で
誰かが窒息したら可哀相だろう
と言って

以来わたしはポケットに
君のくちびるを必ず入れて
歩き回るようにしている

君は今頃くちの無い顔で
あの鋭い眼ばかりぎょろぎょろさせて
どうしているんだろう
仕事をしたり
セックスしたり
何か色々してるんだろうか

考えたら何だかむかむかしたので
ぐみのような君のくちびるを
指でつまみ
三回ほど接吻を繰り返してみた

君のくちびるは
君を離れてなお
あたたかくて限りなくやわらかで
三回めの接吻のときに
一度だけやさしく息を吐いた



朝どうしても起きられないわたしに
友人が蝉を貸してくれた
なんでも
夏に死ななかった蝉は
寒くなるほど焦って鳴くから
ちょうど今くらいの季節は
目覚まし時計の何倍もうるさいそうだ

貸してもらった蝉はあぶらぜみで
セーターの中程に前肢を引っ掛けてやると
鳴きも逃げもしないで
ただぼんやりとくっついてきた
なんにも解らないみたいに

その晩は
あぶらぜみを枕元に置いて
一応おやすみを言ってから寝た

翌日の明け方に一瞬だけ
ものすごく大きな音を聞いたように思ったのだが

起きるといつものように昼過ぎで
わたしはこぶしを握っていた

いやな予感がしてこぶしを開くと
多分昨日まであぶらぜみだったものが
さらさらさらと畳に落ちた

わたしはほうきとちりとりで粉を集め
裏の畑に埋めてやった

少しばかり泣きながら



高校のときの同級生が
とつぜん家に訪ねてきて
勇気を貸してください
と言った

その子は確か
わたしの席の斜め前に座っていた子で
あまり仲良くなかったのだけど

断るのも酷なので
わたしの中の少ない勇気を
ありったけ持たせてやった

何ヶ月かあとになって
その子は川の下流で発見された
わたしの勇気をしっかり持って
あおじろく膨れ上がって

以来わたしは極端に臆病になり
何をするにもおどおどしている

思えば
あの子に貸してやった勇気が
わたしの全てだったのだ

そういうわけで
今日もわたしはうろうろと
服屋の店員から逃げ出したり
街のアンケートを断りきれなかったり
何十回も振り返りながら夜道を歩いたりと
なかなかに難儀をしながら生きてる

夜の魔物

2007年10月23日 17:11

夜に出歩く若者たちは
目立たないような色の服を着て
こそりこそりと歩いている
だけれども
若者というのは
否応なく発光してしまう生き物だから

いくら目立たないように隠れても
結局は見つかって
夜の魔物に食べられてしまう

路上には
ばりばりばり
という音が響いて
そうして誰もいなくなってしまう

コンビニのビニール袋が
魔物の魔法で猫に変えられ
風に吹かれて遊んでいる

夜に食べられた若者は
もう二度とは戻ってこない

擬音マン

2007年10月21日 17:19


しいん
とした窓辺に立って
外を見ていた


わたしがまだ健康で
素粒子みたいに小さかった頃の話だ

ふと振り返ると
人のような犬のような男が立っていて
わたしの耳元で
しいん
と言った

それ以来
人のような犬のような男は
わたしの背後にぴったりついてきて
ぽっかり空いた穴を見ていれば
ぽっかり
と言ったし

すきっと晴れた青空を見上げたときは
すきっ
と半ば怒鳴るように言った

いま思えば
なかなか親切な人だったのだと思う

見ているものの状態を
的確に擬音で表現してくれたのだから

それから何年も
人のような犬のような男はわたしと一緒にいた
わたしは歳を重ねるごとに
色んなところを膨らませたり
膨らませすぎて爆発したり
冷めきって硬くなってしまったりと
色々な変化を遂げたのだが
男は最初に会ったときからずっと
犬みたいなままだった
歳をとらないみたいだった

ある日
思春期の真っ只中にいたわたしは
朝食の席で男がずっと
むしゃむしゃ
むしゃむしゃ
むしゃむしゃ
と言い続けていることに腹を立て

もういいですから
あっちへいってください

と言ってしまった

男はしばらく表情を変えずに立ち尽くしていたが
やがて小さな声で
しゅん
と呟くと
くるりと背を向け
とぼとぼ
と言いながらどこかへ行ってしまった

以来二度と見かけない

しかし今でも
すきっと晴れた空なんか見ていると
すきっ
と言ったあの男の
犬みたいな顔を思い出してしまう

今も元気でいるんだろうか
相変わらずどこかで誰かの為に
しょんぼり
とか
きいん
とか
言っていてくれたらいいのに

本当に
そうだったらいいのに

たった一人で立ち尽くしていると
ひゅるう
と高らかに叫びながら
風がわたしの足元を吹き抜けていった

昔の君と再会した話

2007年10月20日 00:45


今日職場に
昔の君が来た
君はあの頃と同じように
後ろで髪をひっつめて結び
埃と抜け毛だらけの制服を着て
コミック棚の奥の方を
不服げにうろうろ歩いていた

傲慢な眼差しをした君は
ちっとも変わっていなかった
化粧気のない一重瞼も
少し長すぎるスカートも

あたし以外のものはすべて間違ってる

怒ってばかりいたあの頃と

君はまだ
拒否するものが多すぎて
だから大人にはなれないんだろう

わたしだけ勝手に
大人になってしまってごめんね

囁いて背中から抱きしめると
君は少しひんやりとして
じょじょに動かなくなってゆくみたいだった

2007年10月15日 00:39


ある日わたしが
呼吸困難で喘いでいた時
君は目の前に
美しい森を作り出してくれた
わたしはたやすく救われて
君の森の中で
深呼吸をして笑った

あのときのあそこは
霧にけぶる
針葉樹のようなにおいがしたね

そのことを今でも
懐かしく思い出す

すべてまぼろしだったのに

残酷なこども

2007年10月09日 12:39


今日は授業参観だというので
先生に言われた通り
ランドセルに母を入れてきたのだが
ちゃんと座っていろだの
その答えは間違っているだのと
机の横でいちいちうるさい

あんまりうるさいので
給食で使うお箸箱に
母を無理矢理詰めて
机の奥に押し込んでしまった

僕は根っからのものぐさなので
それっきり
お箸箱は開けていない

そのうち
冬休みがきて
春休みがきて
夏休みが終わったけど
母を出すことは忘れていた

学校を卒業するときになってようやく
机の奥からお箸箱を見つけて
慌てて蓋をあけたのだけど

中には闇があるばかりで
母もお箸も見えなくなってた

ああ悪いことをしちゃったなあ
と思って
お箸箱を逆さにして振ってみたけど
干からびた花柄のエプロンが一枚
はらりと落ちてきただけで

僕は根っからのものぐさなので
それっきり
何もなかったような振りをして
家に帰ってきてしまった

家にはすでにどこからか
新しい母がちゃんと来ていて
ドーナツを揚げたり
ホットケーキを焼いたりしてて
だから別にいいのかなあと思う

新しい母には顔が無くて
だから僕は母の顔を知らない

幸せな誕生日をわたしに

2007年10月08日 18:09


誕生日に
枯れない花と
食べられないケーキを貰った

花はアクリル樹脂で
ケーキはボール紙だった

その二つを抱えて
町をとぼとぼ歩いていると
眼前でいきなり
クラッカーを破裂させられたり
馬鹿げたぺなぺなの
三角帽子を被らされたり
幸せな誕生日を君に
というような意味の歌を
混声二部合唱で聞かされたりと

どうにも油断がならない

おめでとうと言われるほどに
わたしの背中は曲がってゆき
ありがとうと答える口元の笑みは
どんどん曖昧になってゆく

歳をとることに
希望など見いだせなかった



人のいない方を選って歩いていくと
細い知らない路地に着いた

わたしは三角帽子を被ったまま
立ち止まる

どこかからピアノの音が
聞こえてきていた



路傍には
ビールを飲んでいる若い女と
泣いている子供がいた

子供はかつてのわたしのように
ちいちゃくてきたなくて
みすぼらしかった

子供があんまりにも泣き止まないから
女はうるさがって
子供をポケットに押し込んでしまった

きゅむ
という音がして泣き声は止んだが

一瞬ののちに女の股からは
新しい子供がぽとりと出てきた

女は忌ま忌ましそうな顔をして

新しいビールの缶を開けた



ちゃぶ台で
忙しそうにしている主婦がいた
雑多なお茶碗や何かを
くるくるっと楽しげに並べて
そのうえに大根をおろしている

見ているうちに
お茶碗や醤油さしは
ちゃぶ台の上で家やビルになり
大根おろしは雪になった

小さな町に冬がくる

主婦は自分の作り出した世界で
静かに遊んでいるのだった



そのずっと向こうの方に
ピアノを弾いている老婆がいた

老婆は居眠りをしていたが
手は鮮やかに動き続けている

よく見ると老婆の手首は
勝手に動いて
鍵盤を叩き続けているのだった

それは
とても美しい旋律で

こんなことが出来るようになるのなら
年をとるのもそんなに悪くないと思った



路地を抜けるとき
一度だけ振り返った

そのとき初めて
若い女も主婦も老婆も
わたしの顔をしていることに気付いたのだが
さりとて何を
どうしようもない

わたしはぺなぺなの三角帽子と
食べられないケーキと
枯れない花を
路地の出口にそっと置いて

自分の為に歌をうたった

幸せな誕生日をわたしに
という意味の歌

それは細い頼りない声と共に

秋のつめたい空へと消えた

からすの話

2007年10月02日 16:33


その子は
頭がよくありませんでした
見た目もそんなによくありませんでした

休み時間には図書室へ行き
ひとりで黙って本を読んでおりました
その為クラスの誰一人
その子の声を
聞いたことのあるものはいませんでした

その子の髪は真っ黒で
なんとなく陰気な感じを漂わせていたので
みんなからは
からす
と呼ばれていました

からすは二学期の途中で
いなくなりました

先生が言うには
からすは読書をしているうちに
物語の向こう側へ行ってしまったのだ
ということでした

そのうち校内で妙な噂が立ちました
図書室にある本のどれかを開くと
挿絵の中にからすがいる
というものでした
挿絵の中のからすは笑っているそうです
きっと幸せなんだろう
とみんなはひそひそ話しました

先生は何でも知っているはずなのに
そのことについては何も教えてくれません

からすがいなくなったのは
本当は人さらいに連れて行かれたのだ
と言う者もあります

だけどみんなには
本当のところはよくわかりません

ただ
こんなに子供がたくさんいる場所では
一人くらい誰かがいなくなってしまっても
不思議はないというものです



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