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悩ましい朝

2007年05月24日 17:27

朝起きて冷蔵庫を開けたら
祖母が入っていた

さみくてさみくてなんだがも
生ぎてぐのがいやんなっちま
なんて言うので
そんなに寒いのなら
もう死んでしまったっていいんじゃない
と思った
言わなかったけど

すっかり冷えて堅くなってしまった祖母を
やわらかく
手のひらで丸め込んでやったら
うれしがってにゃあにゃあ鳴いた
にゃあにゃあ鳴きながら
だんだん白く丸くなっていって
最後には卵に戻ってしまった

わたしはそれで
目玉焼きをつくっていいものかどうか
思い悩んでいるところである
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初夏

2007年05月16日 16:39


初夏の山は
いいにおいをしたものを
たくさん体の中に詰めて
まるで女のように圧倒的な姿で
眼の前に立ちはだかってくる
たまに野良仕事をしている百姓が
山に見惚れていることがあるが
あれは欲情しているのだろうか


わたしの生家は山のふもとにあって
四方を水田に囲まれている
その為に
陸にあるのに孤島のように見える
ちょうど今頃の時期になると
水田には水が入り
休日に青空が植えられるので
晴れた日には空も周囲もみんな青くなる
まるで浮かんでいるみたいな気持ちである


夜になると水田からは
蛙の泣く声がきこえる

初夏に泣く蛙はご先祖様の生まれ変わりで
帰りたい
帰りたい
と泣いているんだよ

と教えてくれたのは祖母だったろうか
それを聞いて以来
あまりに蛙が泣く夜は
切ないような泣きたいような気持ちになってしまう


初夏に生い茂る草は
なぜかみんなⅤの形をしている
ヴィクトリーのⅤだろうか
一体何に勝ったのだろう
それはわたしにはわからないが
夕暮れに一斉にゆれるⅤの群れは
確かにこの世で
もっとも強く美しいものに見える

Ⅴの群れが
ざざざ
とゆれる音は
まるで激しい夕立か
さびしいときの心臓の音のようだ


子供が幾人も駆けてきて
てんでに飛び上がりながら
夕空を千切って食べはじめた
ここらの子供の頬がいつも
滑稽なくらい赤くてぴかぴかしているのは
こうして毎日
夕空を食べている為であろう

飛び上がる子供たちは
夕日を背に
骨が透けて見えるような儚さで笑っている


初夏はさびしい
くちいっぱいに広がる風は
薄荷の味がして

初夏はさびしい




悪夢

2007年05月14日 17:11



眼を閉じると
決まって見る情景がある
それは終電の車内
たたんたたん
と揺れる静かなベージュの箱の中で
わたしはお行儀のよい振りをして座っている

向かい側の座席の端っこには
ミッキー・マウスが座っている
ここで言うミッキー・マウスは
アニメーションとしてのミッキー・マウスのことではなく
意思を持たない外殻
つまり着ぐるみとしてのミッキ-・マウスのことである

ミッキー・マウスには誰も入っていないらしい
頭部が不自然にだらんと垂れ
まるで自堕落な若者のような格好だ
そうして
うすく笑ったままの顔で
たたんたたん
に合わせてぐらぐら揺れている


不意に電車はカーブに差し掛かり
ほとんど車内が真横に傾く
その所為で
ミッキー・マウスはうつぶせに床に落ちてしまう

背中のチャックが少し開いているのが見える
背中のチャックが少し開いていて
そうしてその中には
宇宙よりももっと暗い闇が広がっているのが見える

そこでいつもわたしは
叫び声をあげて飛び起きる
見開いた眼や口からは夜が流れ出して
ひどく冷たい

人が殺される映画を見ていた恋人が
不思議そうに振り返り
どうしたの
と訊く
どうもしない
と答えるわたしの顔には
確かにミッキー・マウスと同質の笑みが
うすく浮かんでいたようだった

町歩き

2007年05月10日 18:19

町はいつの間にか看板だらけで
禁止事項ばかりが書かれている
許されていることなんて
何一つないみたいだ

立ち止まって
指定された場所で喫煙しているわたしの前を
靴がいくつも横切っていく
あれは自信を無くして
ついには
自分自身を見えなくしてしまった人たちだ
中にはまったく動かない靴もある
きっと立ったまま現実逃避して
そのまま戻ってこられなくなったのだろう
呼び戻すにも
何せ透明だから
どうしようも無いのである

駅からは
耳から充電を行う人たちが吐き出されて
コードにつながったままぞろぞろ歩いてゆく
なんでもアイポッドとかいう充電器らしい
その眼は虚ろで
きっと何も見えてはいない
その証拠に
信号を無視して横断歩道を渡ったが為に
跳ね飛ばされた人たちが
道路脇に折り重なってる
家でおとなしく充電していればいいのに
彼らの歩いたあとには
何故か音符がたくさん落ちている

その後から行進してくるのは
途方もなく大きな掃除機だ
音符を吸うだけでは飽き足らず
道まで吸い込んでしまうので
油断すると
帰り道がわからなくなってしまう
わたしの周りには
そうして帰り道がわからなくなった人たちが
泣きながらうろうろ歩いている

煙草を一本吸い終えて
わたしはまた歩き出した
通りかかったショーウィンドーには
流行に群がる小さな可愛い猿たちが
きゃーきゃー騒いでジャンプしている
あの猿たちは
流行のものを買わないと
死んでしまう習性を持つらしい
わたしは一番可愛い白い猿を抱き上げて
くちづけをしてやった
猿は
やだー
ときゃーきゃーしながらわたしから離れ
勢いあまってショーウィンドーに激突した
可愛いなと思う

しばらく歩いてから振り返ると
歩いた後に点々と
消しゴムのかすが落ちていることに気がついた

ああきっとこうして
人は消耗しながら生きてゆくのだろう
なんとなくにやりと笑ったら
少し小さくなった心臓が
さっきより幾分早く脈打って
なんだか苦しいような気分になったよ



おまえをみごもる

2007年05月10日 17:02



君をもっと見たい
等とおまえが言うので
体をさっくり切り開いて
体内を隅々まで見せてやった

そうしたらわたしの中には
内臓など詰まっていなかったのだ

ただ五十音が
ぽろぽろぽろ
とこぼれ落ちてきただけで
あとはまったくの空っぽで

こんなに隙間があるのなら
おまえも入れるかも知れないね
と言ったのは冗談だったのに
おまえときたら
本当にわたしの中へ入ってしまった

意外とあったかい
とか言ってる

だからわたしは
おまえを入れたまま
元通りに体を塞いでやったのだ
そうしてその後はいつものように
飛んだり跳ねたりして遊んでいる

最初のうちは
やたらと腹が減って困ったが
最近はそんなことも無くなってきて
きっと馴化したのだろう

お前を産み落とすのはきっと
月のきれいな晩になると思う
そのときは
きちんと産まれておくれよ
と話しかけると
おまえはごそごそと動いて
どうやら頷いたらしかった

みよちゃん入りピーマンの肉詰め

2007年05月09日 17:42

ある日
夕食の支度をしていると
縦に切って
種子を取り除いたピーマンの
右心室のような形の空間の中に
小さいみよちゃんがおさまって
にこにこ笑っていた

みよちゃん久し振り
ずいぶん小さくなったのね
そういえば
みよちゃんは小学生のときから
きれいなおうちに住みたいって
言っていたよね
と包丁を握ったまま語りかけたら
ますますにこにこして
ぎゅっと猫のように縮こまってしまった
スプーンで掻きだそうとしたけれど
いや
いや
とか言ってる

どうあってもみよちゃんは
動くつもりは無いらしい
仕方がないので
わたしはみよちゃんの上からお肉を詰めて
フライパンで焼いた
そうするしか無かったからだ

しかしどうやら
作りすぎてしまったらしい
夕食後のお皿の上には
みよちゃん入りピーマンの肉詰めだけが
ぽつんと余った

わたしは固くつめたくなってしまった
みよちゃん入りピーマンの肉詰めを
勝手口から夜空へ投げる

うまく土の上へ着地してくれたらいい
そうすれば何時かは
どこかの庭の片隅で
新しいピーマンが芽を出して
そのつややかで可愛い実のひとつひとつに
みよちゃんがおさまって
笑っているかもしれないから

空にメモして

2007年05月08日 20:41


この頃わたしは
なんでも直ぐに忘れてしまうので
晴れた日には
よく削った鉛筆を一本
持って出掛けることにしている

何かあったら急いで
空に走り書きをして
破ってポケットに突っ込む為である

だからわたしのズボンには
いつも空の断片が詰まっていて
洗濯するときにポケットを裏返すと
ぼたぼたと幾つも落ちてくる

ただ少し困るのは
そこに書かれた言葉の意味が
よくわからないことで

何せこの頃のわたしは
なんでも直ぐに忘れてしまうから


これを書いている傍らでは
丸めて捨てた無数の空で
真っ青になったごみ袋が
五月の風に
爽やかに揺れて

二ヵ月前に書いたであろう詩

2007年05月05日 17:50



歩くことによってしか
救われない苦悩もあるし
走ることによってしか
報われない苦労もある


わたくしは毎朝
夜がまだ明けきらないうちに
悩みでぱんぱんになった鞄を抱え
とぼとぼ徒歩で家を出る
すると
二度と帰れないような気がするから不思議だ
振り返ると家の門柱が
墓石みたいに見えた


悩みはどんなに丁寧に詰めても
僅かばかりの振動で
心臓の鼓動で
たちまち
ぼろぼろに崩れてしまう
悩みを完全な形で保つには多分
心臓を止めるしかないのだろう


会社に着いて鞄を開けると
もはや粉末になってしまった悩みが
風に吹かれて舞い上がり
暗雲となって雷雨を降らせる

大事な備品が濡れてしまう
このままでは
重要な書類も台無しである

思わず笑い出してしまった
向かいの席に座った社員が
不気味そうにこちらを見ているが
彼の名前が思い出せない
誰の名前も思い出せない


笑い終えると深夜だった


わたくしはわたくしが出来る唯一の仕事
則ち
出勤簿に芸術的な美しさで社判を捺す事
をする
すぐ終わる
仕事は他になにもない


そしてわたくしは帰宅する
爪は噛みすぎ
髪は掻きむしりすぎ
気は遣いすぎてしまって
いずれも
もう殆ど残っていない


もうすぐ春でよかった
春は再生の季節だから
眠るとき
どんなに傷ついていようが
朝にはどうにか戻っているから


門柱は相変わらず墓石のように
真っ直ぐ立ち尽くして微動だにしない

地中に潜行するように
静かにわたくしは眠りに落ちる

おやすみなさい
永遠に眼が覚めませんように
もうどこへも行けなくなりますように

喧嘩

2007年05月05日 03:26


椅子に座った君の体が
だしぬけに
膨らんだり縮んだりし始めたので
体内で
嵐が吹き荒れていることが分かった

かくいうわたしはと云えば
血管内を
小さなねずみが走り回っているらしく
さっきから姑息な笑いばかり
ちちち
と漏れて止まらない

なかなかうまくいかないものだ

眼を逸らしてため息をついたら
とうとう君が
膨らみ過ぎて破裂した

頭上からひらひら降ってきたのは
あれは
君の切れ端だったろうか
それにしてはなんだか
薄っぺら過ぎるような気がしたけれど



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