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夜みる夢

2007年01月31日 08:46


とてもいい夢を見て
目覚めたくないと思った
翌朝
まぶたをひらくと
眼球がなくなっていた
あんまりだと思った


ねむっている人の髪が
みるみるうちに
黒猫に変わって
にゃあと鳴いた

ねむっている人が目覚めたとき
黒猫はちょうど
郵便受けから
出てゆくところだったそうだ


眼をあけてねむる人の
眼球には
そのとき見ている夢が
映ると云う
ためしに
半眼をあけてねむっている
飼い猫の眼を覗き込むと
魚の群れが右から左へ
さああと走ってゆくのが見えた


夜ねる前
目覚ましをあわせながら
もう誰にも会えないかも
知れないと思う
こわいこわいと言いながら
わたしは毎晩死んでゆく


朝めざめたとき
すっぽり
布団に潜り込んでいた
一体
わたしは何から
身を守ろうとしていたのだろう

抜け出したあとの布団は
無力なトーチカのように
明るすぎる部屋に
盛り上がっている
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拷問具

2007年01月30日 18:03

公園の遊具は
拷問具に似ている
曲がりくねった不可解な形状は
月あかりを浴びて
昼間の優しさを失っている

不意にどこからか
幾人ものこどもらが
やってきて
小さな小さなトンネルへ
笑いながら入っていった

もう二度と
元には戻らないかのように
折り曲げられた可愛い背中

夜の公園は静まって
いよいよ暗くなってゆき

幾ら待ってもこどもらは
一人も出てくることはなかった

公園とG

2007年01月29日 13:42

―公園の芝生の上を歩いていると
なんだか人間の小腸の上を
歩いているような気分になるよ―

とGが言った

―雨上がりだと特に
ほら、芝生の一本一本が
柔らかくて水気を含んでいるだろう
柔毛みたいに―

わたしは何も答えなかった
Gは普段から
家屋がロケットの形をしているだの
人ごみがテレビの砂嵐に似ているだの
そういう妙なことばかり言うのである

―柔毛って栄養を吸収するひだのことなんだけどね
だからだろうか、芝生を歩いていると
足の裏から栄養を取られてゆく気がするんだよな―

Gは少し青ざめている
疲れてきたのかも知れない
脚があまりよくないくせに
歩き回るからだ
自業自得である

わたしたちは並んで
ひとしきり公園を歩き回って
Gの気が済んだところで
一人に戻った

Gは今日こそ詩が書けそうな気がすると
暗い目をしたまま言った
その声は頭蓋骨に反響して消えた

Gの小腸は緑色なのかもしれない

深夜、家出に似た事を

2007年01月29日 13:27

雨が降っていた
彼方には赤信号が幾つも滲んで
まるで夜空全体が
こちらを見ている
巨大なうさぎみたいだった

わたしは
握っていた掌を少しひらいた
家を出る前に聞いていた音楽の
一小節がぽろりとこぼれて
それっきり
他には何も出てこなかった
もっと何かいいものを持っていたような
気がするのだけれども
いいにおいのするきれいな何かを
しっかりと握り締めてきたような気が
するのだけれども

しばらく歩くと
路傍に
打ち捨てられている廃車を見つけた
きちんと白線に沿って停まり
そのままの姿で朽ち果てた廃車は
夏の終わりの
かぶとむしみたいな形をしていた

鍵がかかっていなかったので
そっと潜り込んで
運転席に座ってみると
まだ温かい
自分がさっきまでここに
座っていたみたいだ
俄かにこわくなる

このまま勝手に巻き戻されて
気づいたらまた
握っていた掌を開くところから
始まるんじゃないかと

わたしはドアに鍵を掛けて
シートベルトを締める
その行為に意味は無かった
せいぜい自分を閉じ込めて
その場に静止させるだけの行為だった
その場に静止することと
その場から逃げないことは
イコールではない

運転席から見えるのは道路だけだ
車を運転する人は
こんな淋しい景色を見ながら
停まったり動いたり曲がったりしていると思うと
なんだか可哀想になる
かじかんだ人差し指で
適当な釦を押してみると
硬質な音がして
カセット・テープが飛び出してきた
抜き取って眺めてみる
両方のリールに
同じくらいの分量のテープが巻きついていた
B面の途中で止めたみたいだった

雨がやんだ

鍵を開けて車から降りると
何だか何キロも走った後のような気分で

わたしはカセット・テープを握り締める
彼方の信号は青に変わっていた
少し歩いて深呼吸をすると
ようやく目的を思い出した

わたしはスーパー・マーケットへ
りんごを買いにゆく途中だった

祈ることに関する情景

2007年01月16日 17:12


夕暮れの遠くに霞む
四台のクレーン車は
輪を描くように向かい合って
なんだか
太古の昔に滅んだ恐竜の
弔いをしているように見える


朝に洗濯物を干す母親は
太陽に両腕を広げて
大きな十字架に
なってしまった
敬虔な気持ちでそれを見つめる
わたしの前に置かれた牛乳は
もう冷めてしまっている


深夜のガードレールに寄りかかり
うつむいて
メールを打つ若い女の子は
聖書を読む宣教師のように
背中を曲げている
彼女が巻いているバーバリーは
何かしら神聖なものを思い起こさせるような
きっぱりとした色で
はたはたと風に揺れながら
やわらかに彼女を守っている


悲しくなりたいときには
セルフ洗車をすることにしている
五百円でワックスまで掛けてくれるコースで
窓もドアもぴっちり閉めて
ミラーも折りたたんでしまって

待っているとそのうち
モップのお化けみたいなのが
豪雨を降らせながら通過し
車内は夜になってゆく
世界の終わりがきたような感じだ
ハンドルにもたれて嗚咽してみる
豪雨は止まない
少しだけ祈ってみる
おなかがぐうと鳴った
多分まだ
わたしは生きたがっている
そのことが何となく嬉しい

洗車が終わったら
ぴかぴかの車で
何か温かいものでも
食いに行こうと思った

わたしの恋愛観と願望

2007年01月13日 23:19


横たわってずっと
呼び出し音を聞いている
人が優しく唇をすぼめて
発音しているかのような半濁音が
ぷるぷる
耳を叩いては消えてゆく

電話の電と云う字は
どう考えても電話の
(それも黒電話の)
形状を知っている人が
考えたとしか思われないのだが
どうだかは知らない

そのうちわたしは眠り込んでしまう
床の上で
髪をびしゃりと広げたまま
怠惰に口をひらいたまま

とうに電話は切れているはずなのに
わたしは夢の片隅で
君の声を聞くだろう

そして多分
でんのおせえよばか
と叫んで笑う

浅く目を覚ましたなら
きっと時間帯は夕暮れだろう
わたしは一度
寝返りをうち
今度は本格的に深く眠る

そう云う恋愛がしたいと思う


トレモロにも似た痙攣が
つむじから足の小指にかけて
ぱっと突き抜けてゆく

それは身体的反応で
反射
と呼ばれるものによく似ていた

何回もそれが続くと
さすがに厭になってしまって
わたしは君の肩にひらりと着地し
そこで体を丸めた
そうして

一生をここで過ごす
とは言えないが
子供を産むくらいなら出来る

と右耳に囁くと
君は笑って
わたしを左肩に移し替え
温かい牛乳を
その場でくれた


逢いたいを息と共に吐き出す
そうやって毎日生きている
月末に
血を流すように自然に

逢いたいはどこにでも現れる
例えば剥きかけた蜜柑の中に
例えば学習机の引き出しの中に
例えば開いた掌の上に

わたしはその都度
逢いたいをつまんで
窓から空へ放ってやる
わたしだけではなくて
世界中の人の逢いたいが
びっしりと満遍なく
浮かんだ空へ

何時か
逢いたいが飽和したら
その時こそ戦争は無くなるだろうか
とか馬鹿なことを考えて

ひゅ、と息を吸い込むと
逢いたいがくちびるにくっついてきたので
かみ砕いて吸収して
輪っかにしてまた
吐き出してやった

おめでとうの仕方

2007年01月12日 11:07

二十三年間生きてきたのに
おめでとうのひとつも
満足に言えない
そのことについて
頬杖をついて考える
一人で
室内で吐く息は白い
ストーブは足元ばかりを熱くする

家族宛てに届いた年賀状は
なんだか生まれたての鳩に似ている
わたし宛に届いた不採用通知は
死んだ蛇に少し似ている

午後三時
中途半端な切れ端をごみ箱に沈めて
わたしは新しい履歴書を買いに出る
歩きながら
御免ねと思う
何に対してでもなく
又は何もかもに対して

最寄のコンビ二へ入って直ぐ
高校時代にここで
アルバイトをしていたことを思い出す
店長は六年前と同じで
懐かしくて声をかけようとしたが
おでんに夢中の店長は
ただそっけなくいらっしゃいませと言うばかり
癪に障ったので履歴書と一緒に
レモン味のアルコール飲料を購入した
そうして近くのたんぼのあぜ道に座って
それを飲んだ

正月の町は
モノクロのサイレント映画のようだ

俯いて小声で
おめでとう、と練習してみたが
わたしの軽薄なおめでとうは
あっというまに風にさらわれ
鼻先にレモンのにおいだけが残った

午前十時のクリームシチュー

2007年01月11日 11:20


たまねぎを刻むと涙が出る
それにかこつけて
少し本気で泣いてみる
そうして
矢張りわたしは
要らない子かも知れないと思う
だけど午前の台所は
悲劇ごっこをするには明るすぎるし
誰かを想うには静かすぎる

にんじんはまないたの上で
スペインの太陽みたいに笑う
余り陽気な色だから
切るときについ
笑い声をあげてしまう
大昔にもこうして多分
にんじんを
銀杏切りにしていたことを思い出す

じゃがいもの表面に
家みたいなものが生えていたので
包丁でざっくり切り捨てた
その家には毒がある
全ての家には毒がある
石油ストーブのにおいが鼻先をかすめる

鶏肉は空を見上げていた頃の記憶を
肉の中に閉じ込めておとなしい
皮に切れ目を入れたとき
わずかに夜空のにおいがした
気のせいだったのかどうか
冷え性のわたしの指先は
死んだものを扱うのに丁度いい温度だ

あぶらで炒めると
どんなものでも最終的には
優しい味になってしまうことが不思議だ
今日は南瓜が余っていたので
南瓜も入れた

ささやかな寒さへの反抗として
大蒜をほんの一かけらだけ入れた
ステンレスの鍋が
陽光を受けて輝いている

小さい頃
こう云う風に
一人で料理できるようになりたいと
切望していた事を思い出した
包丁も火も野菜もお肉も全部意のままにしてしまう
かっこいいお姉ちゃんになりたかった事を
夢はかなったはずなのに
おたまを持ったわたしはひどくかっこ悪い
猫背だしジャージだし裸足に動物スリッパだし
これを見た幼い自分が
こんな筈ではなかったのに

記憶の中で声を上げる

わたしは弁解するように
かっこ悪いけど一応お姉ちゃんだぜ
と呟きながら
シチューをひとくち口に含んだ

家族制度(又は宇宙旅行)

2007年01月09日 17:54



そろそろ着陸する
と云うので
五人の宇宙飛行士たちは
めいめい
色鉛筆や携帯電話や文庫本やマニキュアなどをしまい
いやいやながらも手をつないで
着陸に備えた

しかしそれは長続きしない
つながった円は
五分もせずに
ばらばらにこわれてしまう



丸い窓から見える地球を
長女が携帯電話で撮影する
長男は眼鏡を外した
泣き出した末の妹を
母親が困ったように抱く
父親は苦々しげに禁煙パイポをくわえる
この一家がとりわけ不仲なわけではなく
知っての通り
家族なんて大体こんなものである
血縁と云うものは
結束バンドみたいに頼りない
何時だって

不意に
アイネ・クライネ・ナハトムジークが響き渡り
長女が彼氏と電話を始めた
これは長くなりそうだ
長男がため息をつく



着陸するのは火星である



末の妹が泣き止まないので
たまりかねた父親が手を上げる
母親は父親を非難する

長男はそんな二人を軽蔑する
そして早く自立したいと呟く
長女は愛を囁き続けている
アモーレ
アモーレ
アモーレ
ベイビー
とかなんとか



それでも宇宙船は着陸する
どうしようもなく
五人を閉じ込めて
だんだん酸素は無くなってゆく
共存するのは辛い
ただ辛い
アモーレ



家族たちは
ひとまず火星に踏み出すが
もうとっくにばらばらになっていることを
実はみんなが知っていた
末の妹でさえも

真っ暗な宇宙空間の
遥か向こうに
大昔に打ち上げられた
犬の死骸が
永遠に回り続けている



父親は四人から遠く離れた地点で
環境が変わっても
事態は急変しないことを
必死で解ろうとしていた



火星上に立ち尽くす五人は
まるでちっぽけな
子供のように見えた

そして屹立するロケットは
家の形に少し似ていた

恋あるいは衰弱について

2007年01月09日 11:45


年明けからこっち
どうも調子がよろしくない
いったん種子から出たやわらかな芽が
地上の冷気を恐れて
土の中でぐずぐず躊躇うような感じで
段々衰弱してきたのである

それは君に逢わなかったから
と云うよりも多分
君に逢ってしまったからだと思う
小動物のように弱くなって
守られたがっているのだと思う
だけどそれはわざとではなくて
何と云うか本能的なものなので
どうしても止め処がなくて困っている


君から着信したメールは
意味がわからなかった
日本語が書いてあるのだけど
わたしじゃない人の名前ではじまっていた
返信はしてないけど一応
保護はしてある
送信箱は君の名前で埋め尽くされて
まるで呪っているみたいだ

わたしはブーツにつま先を差し入れ
矢張り思い直してスニーカを履いた
紺色のリーボック
今からハローワークへ行かなくてはならない
携帯をひらいて君へのメールに
返信をしようとしたものの
どうがんばっても
論理的な文章は書けそうに無かったので
あとまわしにすることにした

深呼吸をして一歩踏み出す
掻き卵みたいに心臓が痛んだ

急行電車/瞳孔行

2007年01月08日 19:18


ふと陽射しが眩しくて
立ち止まると
右眼に
ぎらぎらした
レールが突き刺さってきた
ざらざらした感触は
何故か夏を思い出させる

その
ぎらぎら色のレール上を
急行電車が止まらずに
何本も駆け抜けていった

わたしは瞳孔から後頭部へ
眼前から背後の空へ
斜めに突き抜けてゆく
電車の振動を感じながら

こんな世界で
いつまでも
生き残っていたくはないな
と確信に近い強さで思う

空は白黒に褪色してゆき
左眼で石炭が
ぼうぼうと燃える

わたしはひとつ
くしゃみをしてから
そっと
まぶたの遮断機をおろした

焦燥感

2007年01月08日 18:03


どうやら焦燥感
と云う一種の熱病にかかってしまったらしい
くるったように息を切らしながら
朝から晩まで自転車で
ぐるぐると円を描きつづけている
進むのは
まっすぐでなければ
どこにも行き着けないのに
目的を紛失した為か
一向に止まれないのである

次第次第に
スピードは速くなってゆく
わたくしの通った跡は燃えて
ぢりぢりと冬に陽炎をたてる

走りつづけるわたくしの
汗ばむ背中を
抱きすくめて
止めてくれたのは誰だったろう
若しかして
自分の影だったのかもしれない
なつかしいにおいがしたから

お医者で処方された薬は
途方も無く冷たくてまずいので
内緒でカプセルをひらいて
中の粉薬を排水溝に
全部捨ててから
噛み砕くことにしている
薬の入っていないカプセルは
なんだかはかない味がする

昨晩から電柱の陰で
わたくしと同じように
くるったように回りつづけていた猫が
今朝死んだ
と確か
近所のおばさんが言ってた


かまいたちを一匹。

2007年01月07日 17:45


どうやら先日から
天井裏に
ねずみよりも大きくて
鳥よりも小さい何かの動物が住みついたらしい
夜になるとばたばたと走り回って
うるさいことこの上ない
ただ不思議なのは
わたしの真上で必ず一度は
ぴたりと止まる事である
天井の隙間からじっと
わたしを見ているのだろうか
負けずに見返してみる
木目がだんだん眼のように見えてくる



三日も経つとばたばたは治まった
代わりに静かな足音が
てち、てち、とゆっくり響いてくる
それでもやはりわたしの真上で
ぴたりと止まるのは相変わらずで
何の欲求を感じているのか知らないが
お前にしてやれることなど何もないよ
毎晩そう念じて
布団の底にもぐりこむ
布団は随分小さいので
完全にもぐりこむ前に
向こう側から足が出てしまう
つまさきは夜に飲み込まれてゆく
急に心細くなる
どんどん足がなくなって
しまいには
幽霊になってしまうんじゃないか
それでも一応もぐることはやめない



一週間を過ぎると
動物は滅多に歩き回らなくなった
わたしの真上に居を定めたのかもしれない
仰向けに寝転がって
へそなどを掻くのはもうやめにした
例え何であろうと
見られているのはいい気がしない
どうしてもへそを掻きたいときには
うつ伏せで掻くようにしている
指先は思いの外つめたくて
どんなにそっとおなかに触れても
毎回びっくりしてしまう



二週間後
朝起きたら手が切れていた
これで漸く合点がいった
天井裏にいるのはかまいたちであろう
随分ちいさい傷だったので
まだ赤ちゃんのかまいたちかも知れない
眠りに落ちる直前に
木目に向かって
かまいたち
かまいたち
と優しく呼ぶと
ばたばたばたっと駆けてゆく音がした



以来わたしは
何を飼っているのか聞かれたら
かまいたちを一匹飼っている
と言う事にしている
この頃は大分慣れてきて
ひゅうひゅうと風が吹く晩には
喜んでいるのかきしきしと
鳴き声らしきものを立てるようになった

いつかかまいたちがなついたら
肩にでも乗せて
その辺を散歩するのがわたしの夢だ

種々の理由

2007年01月06日 17:36


左手しかポッケットに入れられないのは
右手で傘を持っているためで
少し泣きそうな顔をしているのは
暗くなると君を思い出すからである

急ぎ足なのにけして駆け出さないのは
帰り道の途中に墓場があって
墓の前を走ると呪われる
と云う小学校のとき聞いたジンクスを
今もって信じているからだし
時折たちどまって眼をとじるのは
自分の名前を思い出すためだ
そんなに長くはたちどまれない
世界が消えてしまいそうでこわい

わたしは一度だけ振り返り
自分の名前をポッケットで握る
そうして
傘をさしたまま喫煙するのにはどうしたらいいか
思案しながらまた歩き出す
足音が空気に刻み付けられ
眼の前が白く濁ってゆく

しばらくしたら
やっぱり君を思い出して
涙が出たので指でぬぐった
こういうときのために
普段から手袋はつけないようにしている

散逸してゆく日々の記録を(短歌)

2007年01月06日 14:59


街灯の
周囲に孤独が群れる夜
耳をすませば犬、遠吠える

鳥たちが
十字架のように羽根ひろげ
薄暮の空に貼りついている

雨天こそ
こころ華やぐべきでしょう
赤い傘さしスキップターン

公園の
ベンチで履歴書書いている
机に向かうと悲しくなるから

何時までも
不器用なままでは厭だから
取り敢えず折り紙はじめてみました

ブーツ履き
必死で大人の振りして歩く
二十三歳まだ子供です

訳も無く
逢いたい逢いたい逢いたいと
十回言って疲れてねむる日

駅ビルの初売り

2007年01月04日 19:15


若い人たちが
からすみたいに
ヒカリモノに群がって
遊んでいるのです

駅ビルは暖房が効きすぎて
すこし暑いくらいです

目的を持たないわたくしは
無為にエスカレーターで
上下しながら笑っておりましたが
何時の間にやらどうしたものか
右手に年賀状を十枚と
左手にシャチハタの印鑑を持っていました
盗んだものではなさそうですが
何とはなしに途方に暮れて
けれども
きちんと袋に包まれたそれらは
ヒカリモノやエスカレーターや駅ビルよりも
余程
きちんと実在している感じがしました

帰宅してから
年賀状を書きました
あけましておめでとうにせんなな
と書いて
左下に捺印をします
しかし重大なことを忘れていました
わたしは今年
誰からも年賀状を貰っていないのです
一体誰に出せばよいのでしょう

よくよく考えたその末に
年賀状は投函しました
宛名を書かずに投函しました
郵便局の人がどうにかしてくれそうな気がします
気がするだけで確証はありません
昔からこうやって逃げてばかりです

見上げるとしょんぼりした空でした
人差し指でつつけば直ぐに
破れて落っこちそうな空でした

木枯らしが胸を吹き抜けて
枯れ葉と淋しさを運んでゆきます

鳥の死骸

2007年01月04日 16:25



道端に
鳥の死骸が落ちていた
それは
不時着した飛行船に似ていた

埋めてやろうかと思ったが
埋められるような場所などどこにもなくて
お祈りをしてもしょうがないが
思わず手を合わせてしまった

そうして
手を合わせながら
お願いごとなどしてしまった
世界平和やその他諸々
叶うわけのない事ばかり

近くで見ると
鳥の骨は
揺りかごのような形をしている

その晩
鳥に抱かれて泣く夢を見た
怒っているのかも知れなかった

朝起きたとき
泣き腫らした眼で
一応
すいませんでした
と謝っておいた

かりんとう

2007年01月04日 16:25


何もやることがない朝に
かりんとうを三つ並べてみたら
まるで茶色い犬が三匹
親しげにこちらを見上げているようで
何だか無性に嬉しくなった

ざらざらしたかりんとうを
犬と仮定し
指先でくすぐったりして遊んでいると
食べ物を粗末にするんじゃない
と怒られたので
仕方なく食べた
三口で食べた

犬たちは例外なく甘かった

今度からはせめて名前をつけてやろう

わたしの茶色い犬たちは
まだ袋にいっぱい詰まって
おとなしく順番を待っている

電車に乗って

2007年01月03日 14:38

久しぶりに
常総線に乗ろうと
思い立ったのは
速くもなく安くもない
あの電車が持つ
独特の安らかさが
恋しくなったためだった

無人駅の待ち合い室で
大人しく座っていると
頼んでもいないのに
陽射しがまるく
わたしの首を焼きあげてゆく
僅かにホットケーキのにおいがした

深呼吸をすると
冬の蝶々がひらひら
食道に迷い込んできて
そのままべたりと貼り付いて
喉元にりんぷんを撒き散らしてくる

さみしくて堪らない

ため息はるり色だった

電車の座席に座ると
乗客たちは
てんでばらばらの方向を見つめている
共有できるものなんて
ありはしないことを
端的にあらわしている光景だと思う

斜め前のカップルが
口移しであめをなめあっていた

その隣の子供は
見えないお友達と遊んでいる

ねむっている人の頭のうえに
いま見ているであろう夢が
ぼんやり浮かんでは消えてゆく

わたしは黙ってまばたきをして
ときどき
不埒なことを考えていた

どこまで電車は走るのか知らん
走行音に反応して
蝶々がばたばた騒ぐから
何回も咳込んでしまう
呼吸を知らない魚のように

結局
知らない駅で降りてしまった
すとん
と降り立ったときに気付いたのだが
網棚に目的を忘れてきたらしい
電車を見送って
これからどこへ行こうかなと思う
とりあえず自動販売機で
玄米茶を買った

なまあったかい玄米茶と共に
冬の蝶々が
ゆっくり溶けてゆく

次の電車は
一時間後だと云う

新年早々の話

2007年01月02日 19:22


帰り道
巨人が追いかけてくるので困った
新年早々
巨人に追いかけられるとは
何と因果なことであろうか
先が思いやられる

とりあえず
通りがかった神社に入って
巨人が通り過ぎるのを待った
背後でどしんどしんと
色々なものが倒れてゆく音が聞こえたが
世界の終わりとか滅亡とかこわいとか
そういうことは一切思いつかなかった
そういうことは1999年に考え尽くしてしまったのだ

さて
折角神社に入ったのだからお参りでもするか
と思い
賽銭箱の前に進み出た
生憎とポッケットの中には
サクマドロップスの缶しかなかったので
嫌いな薄荷ドロップを中心に
五つばかり選び出して
賽銭箱に投げ入れた
しかしながら
枠に当たってしまったのだろうか
幾つかは外にこぼれ出してしまって
でも
それはそれで花火のようできれいだった

煤けたような鈴をじらじらと鳴らす
特に決めていたお願い事も無かったので
よくよく考えた挙句
今夜のごはんはおでんがいいです
とお願いした
こんな簡単なお願いなら
すぐに叶うだろう
なんとなくすっきりとしたしよかった
振り返ると
信号機も横断歩道も自動販売機も
くちゃくちゃになってしまった道が見えた
こわいとかは思わなかった
歩きにくそうだとは思ったが

車は一切通っていなくて
信号ばかりが
律儀な小学生のようにぱちんぱちんと変わって
愉快な気分で
車道の真ん中を通って家へ帰った

帰ってから手を洗っていると
神社から付いてきたのだろうか
小人がきゃあきゃあ言いながら
洗面台に落ちてきて
ばしゃばしゃと水遊びを始めた
一人一人つまみあげて
よくよく諭してから表へ離した
巨人がまだそこらを歩いているのか
地鳴りのように家が揺れる

晩御飯はカレーだった
すこし埃っぽい味がした
やっぱ世の中うまくいかないなと思った


断片集

2007年01月02日 19:04



ずいぶん昔
わたしたちは恋人同士だった
あんなにも完璧に
理想的な形で
つながっていたのに
満月の夜だっただろうか
わたしが
あの柔らかな部屋から
いとも容易く
追放されてしまったのは
一緒に流れ出した羊水は
外気にふれると
途端に厭なにおいをたてたから
もう
何だか
泣くしかなかった


男の人は
抱きしめると
掌くらいの大きさの
さびしい林檎になってしまう

女の人は
くちづけると
六月くらいの大きさの
青い水たまりになってしまう


君のスリッパが
学校の焼却炉の前に
ぽとんと脱ぎ捨てられていた
まだ温かい炉の中には
少しだけ白い灰が残っていた
空を見上げて笑っているような
それは
マイルドセブンのにおいがした

言葉について

2007年01月01日 02:30


親指が
邪魔をしたから
伝えることが
出来なかった

愛より夢より希望より
多分もっと
大事なことがある筈だったが
十二個の釦ではとても
表現することが出来なくて


ハンカチを忘れたり
鍵を無くしたり
硬貨を落としたりして
おろおろしているうちに
一年が過ぎてしまった
寡黙だったような気がする
と同時に
随分饒舌だったような気もするが

多分
十年も百年も
同じようにして
過ぎてゆくのだと思う

伝える為の技術は日々進歩して
だけど
伝える為の言葉はもう
消費され尽くしてしまって

きっと
こども銀行のお金みたく
どんどん単純に
どんどん軽く
だんだん使えなくなって
ゆくのだろうな


あのときも今も同様に
届かなかった文章は
冷めてしまったトーストの横
つけあわせの野菜と共に
ぐったりと疲弊している



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