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指を折って五まで数える

2006年12月31日 23:39


おとうさんが
うずくまると
腰の上に
おかあさんが乗ります
背中の上に
おにいさんが乗ります
一番先端には
おねえさんが乗ります

だけど
ぼくはちびなので
まだ乗せてもらえません
隅っこの方で
体をまるめるしか
ないのです

やすらかに体を折り曲げる
ぼく以外のみんなは
三日月をいだいて
ねむっています

知っています
ぼくは多分
永遠におおきくなれない

知っています

ぼくは
小指です
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就職支援センターのこと

2006年12月30日 15:02

就職支援センター
と云うところに
毎月行っている
無職だからである

就職支援センターは
仕事を紹介してくれる訳ではない
担当の人と
色々お話をして
最後ににこにこと
頑張ってくださいね
と言われるだけのところである

仕組みとしては
キャバクラに似ている
と思うがどうだろう

そんなでも結構
人は沢山来るらしい
多分
税金で運営されているからだろう

こないだ何時ものように
担当の人に
自分なんかもう駄目すよ
みどりむし以下っすよ
と独白していたら
隣のブースにいた若者が
自分
泥棒になりたいんすよ
と言っているのが聞こえた


と思って聞き耳を立てると
その若者はひきこもりで
ねずみ小僧の大ファンだと言う

義賊と云うか
そうゆうのに憧れるんすよね
まじそれって
かっこいいじゃないですか
だから自分
泥棒になりたくて

口調が似ていた為か
だんだん
喋っているのが
若者なのかわたしなのか
判然としなくなってきた

夜空に飛び上がり
盗んだ宝石をばらまくわたしは
それなりにさまになっているような
そんな気がしてきた

もしかして
わたしは泥棒になるべきだろうか

そのとき
担当の人がにこにこと
頑張ってくださいね
と言ったので我に返った

ありがとうございますと
席を立つ

ちらりと隣を覗いたが
そこにはもう誰も居なくて

以来わたしは
泥棒になるにはどうしたらいいか
職業研究を進めている

どうやら泥棒には
手先が器用でなくては
なれないらしいので
先日から編み物を始めた

疲れた眼で
窓の外を見やると
そこには
盗まれた宝石みたいな
街灯がばらばらと光っていて

もうすぐマフラーが編み上がる
次は
手袋に挑戦しようかなと思っている

海鳴り

2006年12月30日 14:36


君の睫毛が
酸素などを
引っ掻いて上下するのを
ただ見ていた

切れ目からは
海が流れ出したから

わたしたちは
眼を閉じて
アスファルト上で
魚になった

そしてから
帰りたくないと言い合って
海藻のかげで
しょんぼりとした

わがままを言うのは
よしなさいと
通りすがった海老が言う

変わらないものなんて
ないのだよと
横たわった牡蠣が言う

だから
わたしたちは
しょんぼりしたまま
ゆるゆると海面まで浮上して
びしょびしょのまま手をつなぎ
駅まで行って
さよならをした

わたしのコートに
巻貝がくっついてた

君の額にはまだ
提灯が灯っていた

夜が始まる時間だった

二千六年の終わりによせて

2006年12月30日 14:12


月を歪めるのは
コックさんの仕事です

北極星が光る頃
かれらは仕事に取り掛かります

かれらの歩いた跡には
点々と
たべられることのなかった
くりすますけーきや
ばーすでいけーきが
夜露と共に
とつとつと凍ってゆきます

かれらは少し笑います
帰ることのない
兵隊のように


女の子が泣いています
鳥のような啼き声です
大人になりたくないのです
さまざまなものを
棄てることが出来ずに
泣くのでしょうか

足元にばらまかれた
プラスティックのピルケースには
小さい子供が入っています
時々は
男の子が入っています


新しい年が始まります

風が吹き
きれいなものが
きたないものが
まだ
呼吸を知らないものたちが
すくわれもせず
過去になってゆきます


朝陽を成形するのは
わたしたちの仕事です

似ているもの

2006年12月25日 14:52

・cigar(葉巻)とsugar(砂糖)

あ、
煙草をやめようかな
と思った
手を伸ばしたとき
箱の中に一本しか残っていなくて
でも寒くて
買いにゆくのが面倒だったから
五分間
逡巡して
だけど結局
さらりと纏うには
重過ぎるコートを着こんで
早朝の町へ踏み出した
吐いた息が
珈琲にとけてゆく砂糖
または陽炎
のように
そこいらの空気を揺るがしてゆく

空になったシュガーポットの
底から見上げたような形の月が
まだ
ふよふよと木に引っ掛かっていた


・breath(息)とbrass(真鍮)

中学生の頃
トロンボーンを吹いていたことがある
吹奏楽部に入っていたのだ
頭が悪かったのか
わたしはずっと
「吹奏」を「水槽」だと思っていた

ブラスバンド部
と言われるのが厭だった
暑苦しい青春の表徴
みたいな言葉に聞こえたから

音を耳に閉じ込めなさい
と先生はよく言った
すうっと真ん中を通るような音が
必ず見つかるから
それを聞いたら
耳に閉じ込めて
指で覚えておきなさい


あの頃と同じ形の耳で
わたしは自分の深呼吸を耳に閉じ込める
いとしい人たちの声を耳に閉じ込める
自分の感情を右手で微調整する
誰もいない
音楽準備室でやったように
ひっそりと
すこしだけ眼を閉じて
何かを思い出しながら


・love(愛)とrib(肋骨)

神様は男の肋骨から女を造った
とか一部で言われているのは
非常にセンセーショナルなことであると思う
男の人は自分の肋骨を愛するのだ
自分の肋骨とクリスマスを過ごしたいと思い
自分の肋骨からチョコレートを貰い
自分の肋骨に指輪をはめる
改めて考えると
とても不思議なことのように思える

では女の人の肋骨は
何になったんだろう
肋骨の肋骨
そして
その法則が成り立つならば
女の人の肋骨からは
また何かが派生するはずだ
肋骨の肋骨の肋骨の
肋骨の肋骨の肋骨の肋骨

若しかしたら
そうして宇宙というのは
出来上がってゆくのかもしれない
と嘯いて
煙草を一本吸ってから携帯電話を開いた
夜中の部屋に光る液晶は
どこへでも行けるが
決して通り抜けられない窓
のようにも見える

そういえば携帯電話は肋骨に似ている

小田急線で行方不明

2006年12月25日 13:49

二ヶ月ぶりに小田急線に乗った
眼がよく見えないと思ったら
乗客が全員保護色を着用している為
座席に溶け込んでしまっているのだった
水気の多い黒眼だけが幾つも
こちらを向いてぎろぎろ動いている

停車から発車までの間は
じっと車窓の外を眺めることにした
下北沢駅前のラブホテル
登戸駅のでかい居酒屋
成城学園前駅の近代的なプラットフォーム
流れてゆく幾つもの病院
入った事も無いファッションビルや
そんなものものが
車窓にべたりと貼り付いて
すぐに剥がれてゆく
そうだった
こんなところだったな
こんなところに五年間も住んだんだな
一々確認してから文庫本を開く
たたんたたん
と云う振動がお尻からつま先までを揺らす
それすらどこか懐かしい感じがして
何故か涙ぐんだりしている
開いたドアから流れ込むにおいは
紛うかたなき小田急のにおいである

ごうと音がして
電車は地下を抜けた
その明るさに喚起されたのか
五年分の記憶が
胸の内側からずうずうと
何時までも湧き出て
止まらなくなってしまった

それからわたしは
千八百二十五日分の旅に出てしまったのだろうか
そしてまだ帰れずにいるのだろうか
三十分後に着いた筈の目的地に
降りたのか降りなかったのか
何をしたのかしなかったのか
まるで思い出せないままなのである
そうして気付けば
何時か来たような気のする
ごみごみした裏路地に立ちつくしている

見上げると
からの牛乳パックみたいな団地が
そらへ向かってぽかっと口をあいていた
そのままふらふら歩き出すと
保護色の人に突き飛ばされ

そのままわたしは
何処か彼方へ飛んでしまいました

誰か探してください


癖のある男女

2006年12月22日 20:44


友人に
擬態する癖のある女がいる

よく家の中で
かくれんぼうをする
二人で
わたしが鬼で

十数えて振り返ると
家の中はしいんとして
空気がうす青い
百年前からこうして
一人で暮らしていたような気持ちになる

何時もそこで
たまらなくなって
わたしは
わあわあ泣き出してしまう

すると友人は
二つ並んだ
蛍光灯の
柱時計の
ごみ箱の
ありとあらゆるものの
どちらか片方から
むくむくと起き上がって
黙って鼻紙で涙を拭いてくれる
馬鹿だねえ
と言いながら
ばつが悪そうな顔をしながら

友人の鼻紙は
陽射しとミルクのにおいがして
なんだか安心してしまう

思わずうとうとすると
友人は
すかさず羽毛布団に擬態して
ふうわり覆いかぶさってくれた


直線なら何でも
結んでしまう男がいる

知り合ったとき
縦結びじゃ駄目なんです
と言いながら
わたしの髪を一本一本
蝶々結びにし始めたのにはおどろいた

安い居酒屋で
サワーに入っていたさくらんぼの茎や
煙草の吸い殻は全て
ぴちんと結んでしまった後で

髪を蝶々結びにされるのは
けして悪い気分じゃなかったから
結びやすいように
首を傾げてやったら
家までついてきた

髪は
真夜中になっても
結び終わらず

月光を浴びて
対峙したわたしたちは
たいそう美しかったと思う

明け方
もういいよ
とわたしが言うと
男は案外あっさりと
そうですか
結んでほしくなったら
何時でも呼んでください
と電話番号を書いてくれた
やたらと8が多い番号だった

あれから
特に結ばれたくもならなかったので
男に連絡はしていない

しかし先日
通り掛かった見知らぬ町で
横断歩道が蝶々結びになっているのを見つけた

多分
あの男の仕業だと思う

イヤフォンはくらげに似ている

2006年12月21日 18:54


ゼリー色のイヤフォンで
両耳を塞ぐ
空虚だった内側に
音が流れ込んできて
同時にわたしは少し浮く
足音が遠くなってゆく

深呼吸を五回する間に
A面が終わってしまったので
B面にひっくりかえす
カセットテープは
塗り潰されたマークシートに似ている

ざらついたノイズの中へ
わたしの名前が
少しずつ沈んでいった

完璧に沈んでしまうまえに
ばしん
と宣告のように
再生ボタンが上がって

わたしは地面に着地する
信号は青だったと思う

イヤフォンがくらげのように
耳から流れ出してゆく

救急車のサイレンが響く
パレードでも始まるのだろうか

振り返ると
零れ落ちた音符たちが
ばらばらと
行進を始めたところで

サヨナラばかりの夜

2006年12月20日 12:29


わたしが夜に望んだのは
空のような広さでもなく
海のような深さでもなく
ただ隙間を埋めてくれるような
恋人のような優しさであったのに

このところの夜と来たら
サヨナラばかりが充満していて
非常に息が吸いにくい
街灯が翳る
群れを成した小魚たちが
はるか上空を泳いでゆく

わたしは公園のブランコに座って
小さな声でハロー
自分の靴に向かってハロー

だけど
サヨナラは止め処なくて

靴下売りと指人形

2006年12月20日 12:18

つまさきが冷えるので
靴下を買おうと思って
鳥の格好をして表へ出た
別に態とではない
暖かそうな上着を着て
マフラーをきちきちに巻いたら
鳥の格好になってしまったのである
ためしに玄関マットの上で羽ばたいてみたが
勿論飛べなかった
着地するとき足をひねった
しょぼくれたような冬の太陽は
しにゆくもののまなざしに似ている

靴下は靴下売りが売りに来る
靴下売りは行商なので
電柱の陰などで
通りかかるのをじっと待っているしかない
来るときもあるし来ないときもあるが
今日は来そうな予感がした
空気が毛羽立っているような感じがしたからだ

電柱の陰に立っていると
くまの格好をした人が幾人も通った
今冬の流行はくまの格好なのかもしれない
鳥の格好をしたわたしは
見つかって捕食されないように
息を潜めて電柱とブロック塀の隙間に挟まっていた
ごく近くに
何度か温かな息遣いを感じたが
どうにか捕食もされずにやり過ごした
やがて三時のチャイムが鳴ったのでおやつを食べた
その辺に死んでいた虫を食べた

靴下売りは結局来なかった
日没になっても来なかったので
諦めて家へ帰った
門のところで誰かが落としたらしい指人形を
幾つか拾った
指付きだったら厭なので
逆さにして何度か振った
爪は幾枚か滑り落ちてきたが
指は入っていないようだったので
安心してポケットに入れた
指人形は好きだ
例外なく笑っている
その不気味さがいい

玄関マットの上で羽ばたいてみたら
今度は二センチ浮いた

家へ入って鳥の扮装をすっかり解いて
裸になってから
足の指に指人形をはめると
なんだか無闇に歩きたいような
うれしいような気分になったので
ストーブの周りをほうほうと踊りながら
数十回廻った
気が済んだら疲れたのでストーブを消して寝た

恋人とのわかれ

2006年12月19日 13:33


どんなに長く電子メールを送信しても
恋人は七文字程度しか
返信してくれないのである
業を煮やしてメールを送信するのを止めると
次の日から
矢文が届くようになった
頬を掠めてすこん
何処にいてもすこん
と傍らに刺さってくるのである
一体
何処から射出しているのだろうか

中身は
相変わらず七文字程度しか書かれていないが
愛されているのだと
慄然とする


恋人が米を炊いた
と言うので見に行ったら
炊飯器の中に
大量のしらすが入って
ほこほこしていた
こらっ
と叱咤すると
首をすくめて
床の上に平たくなってしまった


恋人は何時も
塩あめを舐めている
そうして硝子じみたそれを
舌で色々な形に細工して吐き出す
服の釦が取れたときなどは
本当に便利だ
二つ穴でも四つ穴でもカフスでも
きちんきちんと作ってくれる
ただ難点は
少しべたべたするところである


恋人が最近
唸るようになった
威嚇するように
ううううと唸る
放っておいたら
或る日の真夜中
みるみるうちに湾曲して
犬のような獣になって
走り去ってしまった

あとには水晶体のように
まるくなった塩あめだけが
残されて

口に含んで
舐めてみたが
存外さみしい味のあめである
そんなにさみしかったなら
言ってくれればよかったものを

ルアーフィッシング

2006年12月18日 12:32

若い女が
左腕に三
時計を嵌めた右腕に二
合計五人の男を提げて
眼前をふらふら行き過ぎてゆく

余りしっかり固定されているので
細工でもあるのかと
見せてもらったら
男たちは上顎に
フックのようなものを引っ掛けられているのだった

痛くないのかと尋ねると
右上腕部の男が
男の上顎には
フックを引っ掛ける為の窪みが
予めあるから大丈夫
とちゃらちゃら笑った
擬似餌みたいだと思った

スーパーのビニールは
案外と重くて
男の方が余程
軽いのかも知れない

女は器用に平衡を保ち
烏賊のように
町へと滑り込んでゆく

明太子と核兵器

2006年12月18日 11:51


明るい昼間
戯れにラジオを付けてみると
通販が明太子を紹介していた
煽情的な文句で

サービス
なんて言葉は
性的ですらある

始終明太子のことばかり想っている人なら
きっと購入するのだろう
そして明太子のプールを拵え
そのなかを泳いだりすると思う
鮮やかなクロール
眼に見えるようだ

ふと
通販で核兵器が紹介されたら
みんな買うだろうか
と夢想してみる
結論はでない

ラジオは渋滞情報に切り替わり
申し訳なさそうな声のアナウンサーが
日本中どこへ行ったって
深呼吸できる場所など無いことを
告げる

バス停

2006年12月18日 10:56


湿った畑の
真ん中あたりに
うちひしがれた人のように
バス停の標識が立っている

そうしてその横に腐れたキャベジが
ぽつんと横たわって
バスを待っている

わたしもキャベジのうしろで
待とうかとも思ったが
連れ去られたりしたら堪らない
眺めるだけで止しておいた

コートのポケットに手を突っ込むと
あめが入っていたので
寄って来た犬にやったが
喰わなかった

モノクロームの思考集

2006年12月17日 23:34


君が口にだした
ハロー。
と云う文句の
最後の。に
鎖をとおして
ネックレスにしてしまおう


街でつかまえたかなりやは
余り色が鮮やかすぎて
どうも悲しくなってしまう
壊さないうちに空に逃がし
代わりに路傍の青果店で
同じくらいの蜜柑を買った
鮮やかさに相違はないが
やはりこちらのほうが
少々つめたい


牛乳石鹸を見ると
泣く子がいる
牛が小さな檻に
閉じ込められているように見えるらしい
閉じ込められた方が
安心するときだってあるのにと
わたしなんかは思ってしまうが

銭湯は蒸気で煙っているので
その子の顔は
一度も見たことが無い


カセットテープを裏返すように
この頃はいとも簡単に
誰もが恋に落ちてしまう
ならばまた裏返せば
別れた恋人と
オモテ面に戻れるかと云えば
それがそうでもないらしく

絶えず録音しているようなものである
新しいうたが
上書きされ続け
古いメロディは失われてゆく

古いメロディは失われてゆく


対向車と自分の車のライトが
同時に当たることにより
道路中央付近の歩行者や自転車が
見えなくなる現象を
蒸発現象と云う
これは錯覚であり

先生
それは錯覚ではなく
本当に
蒸発しているんじゃないんですか

挙手してきちんと質問したのに
教官は面妖な顔をしただけだった
自動車学校の教室は
湿った毛糸のにおいがする

朝焼けの鮭(あるいはいくら)

2006年12月17日 22:43


硝子窓に額をつけて
もうすぐですか
と聞いてみる

何がもうすぐなのかは知らないが
だけどとにかく聞いてみる

やがて
もうすぐですよ
と答える声が聞こえて
眼前の夜を
おおきい魚が横切っていった

多分さけの雌だと思う
こぼしていった赤い卵が
警告表示灯のように
わっと広がり
底に沈澱していったから

もうすぐですか
となおも反問してみると
吐息が精液みたいに
地平線をしろく濁らせてしまって
何も見えない
もう聞こえない

また朝がくる

お母さんとママ

2006年12月17日 19:59


お母さん
と呼んでも
来てくれなかったから
ママ
と呼んだら
知らない人が来た

その人は
ママはお仕事ですよ
と言った
嘘だと叫ぼうとした瞬間
香水のにおいが
鼻先をかすめたから
虚を衝かれて思わず黙った

お母さんでもママでもなく
では一体何と呼べば
母は来てくれたのだろう

未だに解らない

あの夜そばに居てくれたのは
従姉妹でもなく
お隣さんでもない
あの赤いくちべにの女は
誰だったか
あの香水は
シャネルではなかったか

今でも真夜中に
眼を覚ましたときには
小声でママと呼んでみる

ママはお仕事なのに
多分二度と来てくれないのに

肝心なときに黙る癖は
あのときから一向
治っていない

空き地のイーガさん

2006年12月16日 15:54

空き地に何時も居る身元不明の老人は、イーガさん、と云う名前だ。
若しかしたらイガさん、と云うのかも知れないが、イーガさん、ときちんと発音しないと怒る。
イーガさんは乞食では無い。家はちゃんとあるのだ。
それなのに態々隣町の空き地にまで毎日遠征してくるのはどうしたわけだろう。
訊いても答えては呉れない。と云うかイーガさんは少し惚けているので、質問をちゃんと把握できないのである。
「どうして空き地に何時も居るの」
と訊いても、返ってくるのは
「ウメ子はいい女だった、そう云えば」
みたいな益体も無い台詞ばかりだ。
ならばウメ子、と云うのはイーガさんの妻なのかと云えば、そうではない。
イーガさんの妻は、まつ、と云うのだ。
その辺りの錯綜した人間関係と云うか、そう云う複雑な三角関係みたいなものなら渋谷あたりに行けば幾つも転がっているので、殊更に知りたいとも思わない。

わたしの家は空き地の隣にある。
落ち込んだときにはぬいぐるみやMDなどが散乱している自分の部屋よりも、この殺風景な空き地に来た方が心落ち着く。
ある日、何時ものように深く落ち込んで、空き地の象徴とでも云うべき土管に寄りかかって煙草をふかしているときに、
「何をしておる」
と声を掛けてきたのがイーガさんだった。
「いや、別に、ちょっと」
何故か焦燥感を感じて煙を吐き出すと、イーガさんは
「貴様、もしやサイトーではないか」
と言ってきた。
わたしの名前はサイトーではなくヨシダであるが、訂正すると面倒なことになりそうだったので、
「はい、サイトーです」
と答えた。けどイーガさんはわたしに質問したことなど忘れたように、ぼんやりと空を眺めていた。
そりゃねーべ、と思った。
そのうちイーガさんとは、仲良くもないが敵対しているわけでもない、日向でまどろんでいる二匹の猫のような間柄となった。

「おれは釣りが好きでな」
イーガさんは何時もそこから話に入る。
「しかしこの辺りはあゆどころかめだかすら釣れない」
しわしわの手が指差すのは用水路である。
「イーガさん、それ川じゃなくて用水路だよ」
と訂正するのだが、イーガさんは人の話を聞かぬこと夥しい老人なので、もう次の話に入ってしまう。
「サイトー、貴様、何だか若返ったように見えるが気のせいか」

サイトー、と云うのは齋藤のことである。
イーガさんの小学校時代の友人であるらしい。一緒に戦争にも行ったらしい。
けど齋藤は、戦死した。イーガさんは年数を経て、親友が死んだことは忘れてしまった。
これは父に聞いた話だ。
「伊賀さんも可哀想な人だよな」
と父は云った。
伊賀さんじゃなくてイーガさんだよ、と訂正しようと思ったが、伊賀でもイーガでも大した差異はないと思ったのでやめた。
それより問題はわたしがサイトーと云う男性に間違えられていることだ。
確かにわたしは背が大きいし、髪もあまり長くないが、それにしても間違えるならウメ子と間違えてくれればよかったものを。

「おれは釣りが好きでな」
今日もイーガさんはそこから話を始めた。
「しかし獲物にはいつも逃げられた。サイシにも逃げられた。だが釣りとは楽しいものである」
「へえ、サイシっていう魚がいるの。珍しいね」
わたしが適当に答えると、イーガさんは顔を紅潮させて怒鳴った。
「馬鹿者、サイシとは妻と子のことに決まっておるではないかっ。まつとゼンタローのことだっ。サイトー貴様、馬鹿だ馬鹿だとは思っていたが、そこまで馬鹿だとは思わなんだぞっ」
珍しく人の返答を聞き取ったらしい。
それにしてもサイトーは随分な言われようでちょっと可哀想である。
「御免御免」
軽い口調で謝ってみる。だがイーガさんはそのときにはもう、人の話を聞かないモードに入ってしまっていた。濁った斜視気味の眼を、空に向けて黙っている。
こういう人っているよな、と思った。小学校のとき、いたよな、クラスに一人は。
そう思いながらわたしも黙る。

ウメ子の謎が解けた。
ウメ子はサイトーの婚約者で、イーガさんが横恋慕をして奪ってしまった女性のことらしい。
そのウメ子が原因でまつに逃げられたらしい。つまり、不倫である。
ある日イーガさんがぽつりと言ったのだ。
「サイトー、おれを許してくれるか」
何時になく弱々しい口調だったのでイーガさんを振り向くと、イーガさんは眼をうるませていた。
「おれはあんなつもりじゃなかったのだ。人の婚約者をとる考えなど毛ほども無かった。だが、ウメ子とて思わせぶりな態度をとったのだ。つい魔がさしたのである。貴様はあのあと結婚したのか。それともウメ子を忘れられずに独身でいたのか。どうだ」
どうだ、と言われてもわたしはヨシダだからサイトーの人生など全く知らない。
黙っているとイーガさんは、がば、と抱きついてきた。
「済まなかったサイトー」
とか言っている。
掛けるべき言葉を思いつかなかったので背中をぽんぽん叩いて、
「いいよいいよ」
と言ってみた。
体を離したイーガさんは怪訝そうな顔をして言った。
「サイトー貴様、おなごのように柔らかいが、どうしたことだ」

そのうちわたしは空き地には行かないようになった。
イーガさんが厭になったわけではない。恋人が出来たのである。
つまらないことで落ち込んで、煙草をふかしながらイーガさんと並んで言葉を交わす生活から、うきうきお洒落をして、空き地の前を素通りし、恋人の元へ走るような、そんな生活に変わってしまったのである。
最後にイーガさんに会ったのは年末だった。
久しぶりに空き地で煙草をふかしていると、イーガさんがぶらりとやってきたのである。
「イーガさん、久しぶり」
と言ってみるとイーガさんは未知の生物を見るような眼をして、
「どちらさまですか」
と答えた。

イーガさんは伊賀さん、と云うごく普通の老人になってしまったような感じがした。
と同時にサイトーもウメ子もまつも、みんな架空の登場人物だったように思えた。
わたしは「イーガさん」という題名の物語の中に、ほんの少しだけ登場した脇役だったのかも知れない。

「いえ、人違いでした」
少しだけわたしは悲しそうな顔をしたと思う。
イーガさんは一瞬だけ、わたしを見つめると、何時ものように視線を宙に彷徨わせた。

空き地から立ち去り際、わたしはイーガさんにもう一度声を掛けてみた。
「あのわたし、吉田と云います。」
イーガさんはゆっくり頭をめぐらし、吐息を漏らすような音を立てて
「よしださん、ごきげんよう」
と言ってかすかに頭を下げた。

家に戻る途中、着信音が鳴り響いた。
液晶を確認すると恋人からだった。
「はい、サイトーです」
そう言って出てみようかと思いながら、わたしは携帯をぱちんと開く。

うみ(はろうけいほう)

2006年12月16日 14:36


じめんにせんをひいて
そのなかにすわってみる

おきのほうから
よびごえがきこえる
うみねこか
それとも

なみがかきけしてゆく

さとうのようなすなを
つかんでくちにいれる
いのあたりで
さんごがからからという

きょうかいせんはまもなく
なくなるであろう

さびしいという
ちんぷなせりふさえ
くちにだせなくなったのは
おおきくなったからだろうか

なみがかきけしてゆく
ぱらそるがとんでゆく

ふくらんでゆくのは
ちぶさだけではなかった

ピクニック

2006年12月15日 18:51


君の賢さを
手巾に包んで
ワンツースリー
を唱えればきっと
それは白い鳩になり
丘の向こうへ飛んでゆく

机のうえの
ポケットティッシュよ
古ぼけた文庫本よ
かわいらしい携帯電話よ
乾いた黒のボールペンよ
いっそ
みんな連れてゆこう

ビニールシートを
薔薇の形にひろげて
枯れ木で地面に詩を書こう
そうして賢くなくなった君を
膝に抱えてなぜていよう

家出

2006年12月15日 18:36


呼吸の仕方を
忘れてしまった人が
月あかりを浴びて
縮んでゆく

そのさまは
行き場を無くした
猫みたいに見える

トタン屋根から
びりびりと
引き裂かれたような空を
人工衛星が横切り

くらくらとしたのは
目眩だったか
無人の公園の砂場は
死んだ象の墓みたいに
盛り上がっている

ずいぶん遠くへ来てしまった

缶コーヒーのタブを
勢いよく押し上げると
猫の鳴き声が響き渡り
夜が肺に満ち満ちる

分離不可能だと思った
世界からも現実からも
自分自身からも

三日月が
いやあれは
瞳孔だ
見ている

家族(短歌)

2006年12月14日 21:43


『癌と云う/漢字が書けるようになりました』/外科医に向かいて父が笑う

『お父さんの/腎臓を見たよ』と呟いて/遠くを見つめる母の背中

『治るよね?』/テレビを見つめて兄が聞く/誰も答えずみそ汁が冷めてく

早口で/『年末に帰る』と言う妹/ノイズの向こうに男声が混じる

おそらくは/祖母にも見えている筈だ/息子の背後に立ち込める闇

『風邪ひくな』と/布団の中から父が言う/『なら死ぬな』と言いたい解ってる言えない

女であることの再認識(トイレ編)

2006年12月14日 15:53


ファミレスのトイレは
どこもラベンダーのにおいがして
前に入った人の抜け殻が
まだ残っているような気がする

隣の個室から
ライターを点火する音が聞こえる

後ろの壁に描かれているのは
多分女性器だと思う
そんなにも
女でいることが悔しかったのだろうか
線がかすれている

水は勝手に流れてゆく
隣の女はまだ出てこない
変態の途中なのかもしれない

バージニアスリムの煙が
幽霊のようにゆっくり漂って

手を洗って振り返ると
さっきの個室には
色の薄いわたしが
ズボンも上げずに
まだ座っていた

確かに女だった

飼育係、或は荒廃

2006年12月14日 15:25



魚は酸素を知らぬだろうか
暗い水辺に輪を描いて
あんなにも深く潜ってゆく


飼育係は放課後に
飼っていためだかを流してしまった
閉じ込められてるのが
可哀相だったって
めだかは排水溝から
かすかに笑い声を漏らしたって


からっぽになった水槽には
みどりがめが入れられた
みどりがめは不思議そうに
四角く区切られた天井を
何時までもぼんやり眺めていた


そのうち
足と首を引っ込めさせた
みどりがめで
蹴球のまね事をするのが流行った
みどりがめは黙ったまま
かちかちと教室を往復した


みどりがめは
埃まみれになって
教室の隅で死んだ
誰かが甲羅をあけようと言ったが
飼育係が泣いて止めた
みどりがめは名前の無いまんま
ごみと一緒に
焼却炉に放り込まれて
終わった


からっぽになった水槽には
ハムスターが入れられた
男子がふざけて踏み殺した
飼い始めてから
三日しか経ってなかった


からっぽになった水槽には

からっぽになった水槽には


飼育係は時折
息を止めてみる
授業中に
休み時間に

魚は酸素を知らぬだろうか
息を止めて一分もすると
空が段々縮んでゆく

死んでいった小さい生き物を
飼育係はそうして悼む

水槽は何時しか忘れ物入れになり
いまは誰かの上履きが
故障したジェット機のように
無造作に突っ込まれている

家計簿と戦場

2006年12月12日 17:19


ミサイルが発射される音が聞こえる
母が
台所で家計簿をつけているのである

インキは戦車のキャタピラのように
勇ましく前線を進み
赤い数字が攻撃目標みたいに
点々と書き込まれてゆく
エプロン色の背中が
荒涼とした草原のようだ
硝煙のにおいが漂って

わたしはなるべく静かに歩いた
つもりだったのだが
どうやらその足音が
戦場に影響を与えてしまったらしい

母は
作戦を告げる上官のような顔で
おごそかに振り向くと
節制
と呟いて
わたしにペンを突きつけた
銃剣のように光る
黒と赤の二色ボールペン

小さい兵隊たちが
レシートの合間に隠れて
こちらをそっと
窺っている

宇宙飛行士

2006年12月12日 15:13

特定保健機能栄養食品
と云う
宇宙食みたいな固形のものを
小さい前歯で噛りながら
夕闇を見つめている

冬用のコートは
少し重く
酸素がうまく吸えないみたいだ
脈拍ばかりが早くなって

前々から
地に足が着いていないのは知っていた
ドアノブを回すとき
体まで回転してしまうのが
すこし困る

ともり始めた街灯は
惑星みたいだ
手を伸ばすと
ポケットに入れてた鉛筆が
小さいロケットみたいに
ゆっくり落下していった

熱帯魚

2006年12月12日 14:55

路傍に捨てられた
熱帯魚用水槽の中に
一人の男が住み着いた
と云う噂を聞いた

見に行ってみたらそれは
昔交際していた男で

背骨も骨盤も上手に曲げて
きちきちにおさまっている

右側面に顔があったので
叩いてみると
眼を開いて
久しぶり
とか言った
山椒魚みたいだ

なにがあったかは知らないが
そこは狭いだろう
と言うと
底に敷かれた砂利をぱらぱら落としながら
立ち上がった

骨が気泡を吐き出す音が聞こえる

男は
なまぐさい体臭を振りまきながら
君も一緒に暮らそうよ
とへらへら笑いながら
わたしを抱きしめた
指先から鱗のようなものが
落ちて
ああ

一瞬だけ
一緒に暮らすのもいいかな
と思った
隙間なく体をZ状に折り畳み
男と限りなく密着し
ただ外を見つめる
時々空を見上げる
そんな暮らし方も
それなりに幸福かな


しかし済んでのところで
思い止まったのは
男を愛していないからだった

わたしは
御免被る
と体を離し
そのまま
水槽より少し大きめの
ワンルームアパートに帰った
なんだか皮膚がぬるぬるしていたか
構わず
体をS状に折り畳んで眠った

数日後
トラックに突っ込まれ
水槽もろとも男が大破した
と云うニュースを聞いた

現場は
硝子片が散乱し
魚を捌いたあとのまな板みたいで

わたしは
持参した水草を供え
しゃがんで空を見つめる
ビルに邪魔されて
空なんか一ミリも見えなかったけれど
構わず凝視した
何だか悔しくて

立ち去るとき
空中に熱帯魚のまぼろしが
見えたような
見えなかったような

背後で
水草が揺れる

後藤くんのこと

2006年12月10日 19:28


今日もまた
放課後
シーソーの片側に座って
浮き上がれる瞬間を
待っている後藤くんは
自分を宇宙人だと思っているらしい

グラウンドには長く
影が伸びて

僕の生まれた星にも
こんな景色はあったかな
等と呟いている
スニーカの先端で
下手な土星の絵を描きながら

黒いランドセルには
修正ペンで
しね
と書かれてる
多分高橋くんがやったんだろう
高橋くんは僕のこと嫌いだから
って後藤くんはせわしなく指を動かし
しね をなぞる
マッチを擦るみたいにして
何回も

だけど しね は
救いようも無く
乾ききって
後藤くんの指先が
白くなるばかりだ

後藤くんは待っているのだと思う
自分が開放されるのを
眉をしかめて
眼鏡を上げながら

ほっとけば何年でも待ち続けるだろう

もう帰ろう
と言ったとき
後藤くんの眼から
星屑のような涙が零れて
土星の横に着地した

後藤くんの生まれた星にも
学校はあったんだろうか

五時のチャイムが鳴る


路上の蜃気楼

2006年12月10日 19:07

路上のあの黄色いものは
残骸かも知れない
数え切れない程の人達が
星空をふと
見上げたときに落とす
喜びや悲しみの

自転車は遠くまで進めない
けれど
スピードを上げれば
灯火が夢のように
白線を浮かばせるから

それはまるで天国への
道しるべのようだから

吐く息が
夜空に蜃気楼を描いてく

左に曲がるまで
もう少しだけ

神様

習作(12/7~12/9)

2006年12月09日 20:33


・かなしみ

かさかさ
白紙が触れ合う音がして
水分がうしなわれてゆく
呼吸しても
でてゆかないのなら
せめて
鳩にでも変わって
鳴いてくれたらよいのに

・人工呼吸

生体反応の無いひとがたに
口づけたとき
胸がしんねりとした

息を吹き込むと
肋骨に模したふくらみから
酸素も何も
全部もれてしまって

消毒用のエタノールのにおいが
つんつんと鼻孔にささる

ああ
包帯があんなに白くて

・カフェ

誰にも飲まれることのなかった
コーヒーが
カップの底にわだかまって
黒耀石のように
凝固している

昼間の笑い声が
砂糖の代わりに
流れ込んでゆくのを
煙を吐いて
ただ見ていた

陽はもうすぐに
陰るだろうし

・さびしさ

この頃
父が優しくなったのを
考えないようにしている

冷蔵庫に
解らないように隠してある
抗がん剤のアンプルを
見ないようにしている

朝方
判を押したように苦しげに
トイレに駆け込んでゆく
父の足音を聞かないよう
目覚ましをわざと
遅らせている

泣かないと決めたのだ

けど
バックミラーに映る両眼は
不吉なくらい
父に似ていて



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