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バレリーナ

2006年10月30日 18:02


笑み割れた栗の毬から
誰かの小さなつま先が
のぞいてる

それは夜半の森で
何かの象徴のように
青白く揺れて

いま
うまれるところなのか
かえってきたところなのか
わたしは知らない

チュチュのような
白い羽根がはみ出している
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たましい

2006年10月27日 19:24



成長しきった身体を
いっぱいに拡げて
疾駆しようとしたら
不意につまづいて

たましいが抜けた

たましいはこつつん
転がって
前方の葱畑に突っ込んだ

わたしは
たましいの抜けた身体で
力無く匍伏前進し
泥だらけのたましいを
身体に戻した
喉に泥の味が落ちてく

だから
疾駆はもうやめて
着実に歩いてゆく事にしたのだが
戻すときにたましいが
裏返しだったのだろうか

以前より格段に
天の邪鬼になってしまって
だから何時まで経っても
目的地には辿り着けない

反対向きに歩くから

すみちゃんのセーター

2006年10月27日 12:40



泥棒のような前傾姿勢で
妹の洋服を
箪笥から引っ張りだして纏った
ふわわ、と甘いにおいが漂った

わたしは服を持って居なくて
だから何時も裸で暮らして居るのだが
この頃はとみに寒いし
それに
最低限度の人間らしい生活を営むには
冬に裸では駄目だと思ったのだ

わたしと妹とは
その昔
随分と体型に
隔たりがあったような気がしたが
その横縞のセーターは
まるでわたしの為に誂えたように
肩や鎖骨やおっぱいの膨らみに
過不足無く貼り付いた
ぺそん、と云う感じ

其の侭
妹のパンツとかズボンとかも履いて
すっかり人間みたいな形に成ってから
一年振りくらいに表へ出た
町の外観は
整形でもしたかのように
劇的な変化を遂げていた

信号待ちをしているとき
ブティックのショーウィンドーに
妹がうつって此方を見ていたので
あれ、すみちゃん、何時かえってきたの
と言って触れた
妹は硬くて冷たかった
変な顔をしていた

あれ、すみちゃんかたいねえ
つめたいねえ
具合でもわるいの

五分くらい触りつづけてから漸く
それは妹では無くて
自分である事に気がついた
居たたまれなくなったので
逃げるように横断歩道を渡った
青信号は点滅し
鳩が笑うみたいな音が追いかけてくる

息を切らしながら妹に電話を掛けてみたら
今からバイトだから
と言って切られた
後に残ったのは
通話時間三秒と云う画面表示

一体
何時から妹は
あんなにちゃんとした人になったのだろうか
わたしたちは
シャム双生児のようなものだと
思っていたのだが
切り離されたのだろうか
こんなにも徹底的に

セーターを嗅ぐと
わたしの臭いがついてしまっていた
ズボンにもパンツにも多分
わたしの体臭がついてしまっていた

帰り際にもっかい
ショーウィンドーを覗いた
一瞬妹がうつり
それから直ぐわたしに変わった

ぺそん、と云う感じのセーターは
今の季節には少し薄いのだろうか
上を向くと三回
くしゃみがでた
三回のくしゃみのうち三回目だけは
妹とそっくりな声だと思った


昨日と今日と明日の話

2006年10月26日 18:25


助手席に見慣れない人が乗っているな
と思ったら
それは昨日、と云う名の女らしかった

でも一応
どなたですか
と前を向いたまま聞いたら
知ってるでしょう
と香水みたいな声で答えた
高速を降りる辺りで
昨日は
すふ、と笑いながら掻き消えた
何だか馬鹿にされたみたい

ダッシュボードには
昨日の置いていったらしい
赤い付け爪がひかって居た
落葉みたいだった


白いスニーカーで
水溜まりにうつった太陽を
ばりんばりん、
踏み付けながら歩いていると
迎えに来たよ
って
今日がわたしに絡み付いて来た
今日は冷え症らしく
体全体が骨みたいに冷たかった
その冷たい手で
わたしを
全然行きたくない方向に
連れていこうとするから
厭、と言ったら
思ったより切迫した声が出た
今日は心から不思議そうな顔で
すく、と鼻を啜った
すく、と同時に
夕陽がぼたっ、
垂直に落ちた


電柱の陰で
明日を待っている
電柱はほのかに温かく
生きているみたいだ
ぎゅう、と抱きしめた
わたしにはほかに
抱きしめられるものが何も
無いから

明日が来る筈の方向に
眼を凝らしたけど
近頃めっきり視力が落ちたせいだろうか
瞳孔が僅かにひらいただけで
何ひとつ
見えなかった

いつの間にか真夜中で
外灯が
ち、とスパークし
生温いものが
背後で立ち止まった
気配を感じた

裁縫

2006年10月26日 11:17


端然と正座し
釦を縫い付けている
暮夜
或いは早朝に

樹脂性の穴から
すう、すう、あらわれる
白銀の針は
其の都度
見たくもないような
懐かしいようなもの
に変化する

昔の恋人や
死んだ同級生や
通学路に死んでいた毛虫や
あの時吸ったサルビヤ
たちが
糸を引いて
二つの穴に出入り
刻み込まれてゆく

玉結び
糸を裁つと
針は細長く畳に突き刺さり
それは三日月に似ていた

ふと
膝のうらが結露する
そこから海が拡がってゆく

骨盤も釦も大事なところも
一緒くたに濡れて

足の裏から魚が侵入した
背骨をたどって
つむじ辺りに漂って
その感覚が
すこし悲しくて

ファミリーレストラン

2006年10月23日 17:22


壊すことと
懐かしむことは
何処か似ている

ファミリーレストランの
暈りとしたアルバイトは
何時かの父に似ていた

端に置かれたお冷やは
無為に濡れていくばっかりで
外は黄昏れている
道行く人がみな
幽霊に見える

父が離れて逝くことを
未だ諦めきれない儘
アルバイトに
和風ハンバーグ
と告げ

ワフーハンバーグ
と復唱したアルバイトは
何もかも
識っているように笑い

和風ハンバーグ
父の好物だった

半分もたべきれない

皿の端にソースで
父の似顔絵を描いて
でもちっとも似てなくて
ナフキンで拭った

壊すことも
懐かしむことも
所詮は一緒だろう
わたしは
きっと
諦めるんだろう

こうやって
稚拙な詩だけ
置き去りにして

ぴんぽん
押したのに
アルバイトは二度と
来てくれない

ドリンクバー
単品で
お願いしたいのに

或る午後

2006年10月23日 16:51


自転車は
薄荷の色をしている
通り過ぎるとき
僅かに夢を見た

振動が伝わって

死骸だったかな
あの冷たいものは

軋轢音に似た笑いを
漏らして
車が此方を見ている

冷たいものが体に満ちて
だけど満腹にはなれない
生まれてからずっと

雨が降ってきて
犬が歩いてる
街は午後
何を失う事もなく
ポルノにも似た注意書き
ばかり
乱立して

薄荷の香りを撒き散らして
わたしは全てを
通り過ぎるつもりだったのに

どこかの学校から
硬質なチャイムが
流れ出してわたしを阻んだ
雨か涙が
頬を伝った

何も知らない癖に

父やその他の皆の為に

2006年10月22日 11:08


秒針が/ちくともちくとも何かを刻む/焦燥をこぼす君の眼差し

自死を希う/君の髪からフレッシュベリー/毎晩シャンプーしている癖に

此の世には/奇跡もドラマも無いけれど/幻覚や妄想ならあるよって哄う

白い錠を/みつぶも飲めば楽になる/ポケットに収まるわたしの神様

死ぬことが/当たり前すぎて少し恐い/さよならの練習など/したくもないのに

眼鏡とり/浴室に座り込む深夜/鏡の中に父が霞んで

優しいのはもう/懲り懲りです/秋の陽あびて/渇きゆく背骨に

単純に/解決する事ならいいのに/朝起きたら/十年前ならいいのに

昼花火/薄荷のように拡がりて/あとには何も残らぬのだろ

洗車する/父の手首が痩せている/車は綺麗になった/けれども

遊ぼうよ/日暮れまでずっと遊ぼうよ/エンジンふかして/父が去ってく

知人にも/友人・恋人にも逢えぬ侭/一晩寝たら百年経ってた

(無題、)

2006年10月19日 19:21


指の間から
見えてしまうよ
漏れてしまう
弁解が宙に舞う

大切なところを
人差し指で撫ぜて

明日も生きてゆけそうです
って嘯いて笑う

君が好きだよ
メールは定型文だよ
ボールペンのインクが
切れそうだよ

何も言い切れなくて
両手の平は案外小さくて
闇夜に瞳孔が光る
見えてしまうよ
漏れてしまう
わかってるよ

よわよわと呟いて
止めておいた自転車に
跨がった

イヤフォンを捩込んでも
聞こえるものはあるよ
でも
どっからかは知らない

紛れない痛み
って
ありきたりすぎて
退屈だと思うな

一抹の不安

2006年10月19日 17:01

抑えようもないのかな
と思います

ライターは一個で足りるし
指は十本で用を為すし
米飯は茶碗一杯で充分です

それでも物足りないのは
抑えようもないのかな
と思います
時々
メールをください
窓から
市役所が見えます

靴下に
穴があいています

うばすてやま

2006年10月18日 11:00


うばすてやまについて考えている
祖母をそこへ連れてゆきたい
訳ではない
昼下がり
冷えた湯呑みが二つ
並んでいる

祖母が歩くと
割烹着のポッケットから
何かがこすれ合う音がする
祖母はいつもポッケットに
ティシューと飴を入れている
若しわたしが転んでも
血を拭いてやれるように
飴を口に含ませてやれるように

洗濯をするとき
祖母は自分の分を
皆のと一緒に洗わない
あとでこっそり洗っている
一緒に洗うのはいやだっぺ
と笑っている
そんなことないよ
とわたしは呟くが
その声は
祖母には届かないみたいだ

手を洗っていると
祖母は
わたしの腰を抱いて
細い身体だな
と言う
でも
体重は祖母の方が軽い
そのくらいわたしは知っている
石鹸をあわ立て
腰をかがめたまま
祖母に抱かれたまま
段々背中が痛くなってくるのを
じっと我慢する

さびしいと言う声が聞こえる

うばすてやまについて考えている
祖母をそこへ連れてゆきたい
訳ではない
ただ考えているだけである

電気ポットの湯が沸いたので
わたしは祖母のために
お茶を入れ替えに立つ

図書館に通う

2006年10月17日 12:05


身分証明書を
と言われて財布を探ったが
パン屋のレシートがぱらりと落ちただけ
カード入れにはブックオフのカードだけ
午後の図書館だった

カウンターのミセスは
住所と名前が記されている
国が認めた公的な書類
を見せて戴かないと
身分確認をしたことにならないのです

息継ぎ無しで
「す」の余韻の最後まで
きちんと発音した
彼女はきっと
昔は素晴らしい水泳選手だったのじゃないかな
美しいクロールで何処までも行けたんだろう
今もそうなのかもしれないけれど
ミセスの呼吸はわずかにカルキのにおいがした

図書館の床は不思議な材質だと思う
確か週末に行った病院の床も
こんな材質だった
そくそく という足音
何か無性に歯がゆいような
居ても立っても居られなくなる

病院のときは血圧を測定したんだった
無駄に何回も
そんな事したって何もならないのに
父はあんなにも静かに
あの時あそこで眼をつぶっていたのに

ふと泣き出しそうになったので
そこいらにあった本を抜き出して開いた
それは猟奇殺人事件のレポートだったが
構わず読んだ
隣に立っている女の子は
手芸の本を読んでいた

日暮れてから家に帰り
おせんべいの缶にとっておいた
思い出の手紙や葉書やダイレクトメールを床に積み
国が認めた公的な書類を探した
わずかに偉そうな感じを受けるものを選り分けてみた

残ったのは年賀状だった
その年賀状は国から届いたわけではない
遠くに住んでいる伯母さんからもらった
年始に投函する葉書として
広く認められ使用されているものなのだから
国の偉い人だって年賀状は使うと思うから
大丈夫だろうと思ってそれをバッグに入れた
伯母さんの字はとても綺麗だった

翌日の昼
水泳選手のミセスにそれを見せると
彼女はすこし笑った
魚が気泡を吐き出すときみたいだった
それを見て
ああ何時かこの人の泳ぐさまを見てみたいな
と思った

身分証明が出来ないわたしは
半透明のプランクトンのようだ
いっそこのミセスに連れられて
深海で小海老にでも食べられてしまいたい

ミセスは笑い止んだ後
伯母さんは字が綺麗でらっしゃいますね
と言ってくれた

品詞の活用法

2006年10月16日 20:36


品詞の群れが
淡青く固まって
規則正しく
埋まっている

あの砂浜の
崩れたお城のあたりに

それらは
風化し
擦り切れて
最早
意味など成さないのに
皆が使いたがるのは
如何してなのか

錆びたシャベルで
深く掘ると
すきです
が出土した
すきです
は香水の匂いがした
誰かが遣って棄てたのだろうか
小さい歯型と
くちべにが付着していた

すきです
すきです
すきです
三回呟いても
合言葉じゃないから
何も起きない
ぱちっと割ってまた埋めた
すきです

いやです
に変わって
ゆっくりゆっくり見えなくなった

駅構内の

2006年10月15日 17:22


座るところが空いていなくて
仕方なくしゃがんだ
光る突起をさわれば
流れるみたいだ

壁一面に十一桁ずつの
番号が書いてあって
お呪いかと思ったらそれは
悪戯なのだった
なめくじが這ったみたいに淡い筆致だ

手をついた所為で
頭脳線の辺りに
090
がうつってしまった
払っても落ちない
このまま皮膚から吸収されて
血液中に090が溶けてしまったらどうしよう
すこし泣いた

害毒そのもの
と云う色の石鹸は
意に反して
いいにおいがする

濡らした手で髪を撫でて
何となく悄然としてしまう
世界中がこんなだったら
戦争なんて起こらない筈なのにな
とか
考えながら
ぱたぱたと歩いて改札を抜けた

『ルクス、』

2006年10月15日 16:39

電車は学芸大学を過ぎた
橙の薄日が
くすくすと眼を射り
わたしは数年前に
逃がしてしまった犬の事を
茫洋と考えていた

毛並みの良い犬だった
ルクスと云う名で呼んでいた
或る日鎖をひきづって
夕日を噛りに出掛けたんだろうか
とても食いしん坊だったから

ぴんぽ、とか云って扉が開く
得意げに降りてゆく人達にはきっと
愛する人が在るのだろう
野原や路上や海などに
そうやって帰ってゆくのだろう

流れ去る希薄な青色のさなかに
白い柔らかな月が見えた
だからわたしは
ルクス、と呼んだ

大丈夫だと
解ってはいたけど

物の怪

2006年10月14日 19:31


一本喫ったら
帰ろうと思った
銀の雲が頭上高くから
わたしを呼んでる

前方で
未だ歩けるよ
と叫んでる
子供みたいな動物がいる
そうだね
まだあるけるのにね
と答えて傍らで哄笑する
あれは
何科のけものだろう

どこかで見たような人達が
眼鏡を光らせて
行進してゆく

一番後ろの人に
いっしょにいきますか
と問われたが
答えなかった
手が震えていたから

銀の雲から
ほたほたと
灰色が落ちてきて

煙草が消えてしまった
前髪が濡れてしまった
くちびるが乾いて
もう

たどたどしく
べろを使って
小さい口を湿らせて
わたしは何か言ったようだ

いっしょにいきたかったな
とか
そんなようなことを

銀の灰皿が
ちたん
と光って

多分
それっきり

見えたのは
背中だけだったと思う

熱移動

2006年10月13日 17:33

十月の昼下がり
ガードレールに寄りかかって
ゆっくり喫煙をすると
内側にある熱いものが
とろけるように放出されてゆく

確か理科の時間に習った
高温のものと低温のものを並べると
熱は移動していくって
わたしは白い煙を吐いてしまって
かすれた声で笑う
高温のものが失った熱量は
低温のものが得た熱量と等しい

わたしの熱はどこへ移動したのだろう
わからない

携帯灰皿に吸殻を落とした
乗ってきた自転車にまたがると
サドルがわずかばかり熱くなっていた

それからきちんと角を曲がり
きちんと道路を横断して
冷凍食品を買って帰った
家に着いたときには
みんなとろけてしまっていたけど


深層心理の怪物

2006年10月13日 11:06

母が二階で
掃除機をかけている
天井が振動
する度に埃が落ちる

右側の窓を
あけておくのを忘れてしまった
閉めっぱなしでは祖母が
家の中に入ってこられないのに

あら
右側の窓を
誰かが叩いている
祖母だろうか
立って行くと
箱に仕舞われたままの
掃除機につまづいた

おや
では母は如何にして
掃除機をかけたんだろうか

窓の向こうには誰も居なかった
掃除機の音は止んでいて

調子が狂うな
と思いながら元通り
ちゃぶ台の前に正座した

本当は気づいているのだが
気づかない振りをしているのだ

わたしは今までに一度も
母と祖母を見たことが無い
だから掃除機をかけるのも
窓を叩くのも
母や祖母ではない
きっともっと恐ろしいものだと思う
深層心理の怪物とか
何かそんなのだと思う

此処が何処であっても不思議ではない
名前や理由を付けて解決するのは簡単だが
わたしはもう少し此の侭が良い
呆然として沈黙していたい

表象や表徴や表層
眼に見える分わかりやすくて宜しい

焦げ臭いにおいがする
火なんか使っていないのだけど
コンロを見に行くと
鍋の中で恋愛感情か何かが
煮えたぎっていた
もうところどころが真っ黒だ
切ないな
と思いながらかき回して蓋をした

それから右側の窓を開けて
はだしで庭へ降りてみた

太陽は多分一年前から
同じ位置の侭
不自然なくらい明るくて

誰かが内側から鍵を閉めてしまったようだ
わたしは途方にくれながら
右側の窓をほとほとと叩いた

わたしが草むらに入らない理由

2006年10月12日 22:13

草むらの土は大抵湿っている
湿った土は
女のようなにおいがする

それは身の内に
種子を受け入れるもの特有の
気が遠くなるような甘いにおいで

足を汚しながら
その中に立っていると
俄かに恐くなる

いま立っているのが
母の身体の上だったらどうしよう
とか


母は未だ生きているのだが
生きていて
家で緑茶など飲んでいるのだが
それでも
考え出すともう駄目で
周りの草が
今まで母の身体に入った精子
が発芽したもの
のように見えてしまったりして

くらくらになりながら
アスファルト上に飛び出す

声を上げて泣きたくなる

いつかわたしも何処かで倒れて
死骸の上に
草を発芽させたりするんだろうか

途方も無い気持ちである

だからわたしは
草むらに入らない
何時か母親になって
うんと年寄ったら
或いは入れるように
なるかもしれないが

洗濯物と海

2006年10月12日 21:41


乾きたてのネグリジェーは柔らかく
僅かに生臭いにおいがした
貝のぼたんが付いている
それを
人差し指で
上から順にさわってゆくと
真ん中のぼたんだけ
緑色の丸いぼたんに
付け替えられていた
さりさりした丸いぼたんは
海にしずんだ宝物みたいで
なんだか
盗掘をしているような気分になる

気付かない内に
海そっくりの色をした風が
家じゅうを
青い冷たさで満たしたようだ

細かな波が広がり
眼を凝らすと直ぐに
消えていったから

両脚の間を
小さな蟹が
通り過ぎたようだから

単純な留守番

2006年10月12日 13:03

りんごは優しく指を濡らし
珈琲は
のどぼとけを笑わせながら
そっとすべりこんでくる

隣のうちのベランダに
タオルケットが干してある
いつから干してあるのだろう
もうずっと前からかも知れない

りんごを噛み砕いたあとに
ふと一人であることに気づいた

留守番をしているだけだと
思い直そうとするのだけど
徹底的に
一人であることに気づいてしまった
何だか取り残されたようだ

窓から見ると
道行く人たちはみんな傍らに
「ともだち」とか云う小さい生き物を
侍らせている
ああいうのは
どこで見つけてくるのだろう
山の中だろうか

柱時計がひとつ鳴るごとに
どんどん不安になっていく
りんごの果汁を
たくさん口に含んだままで
わたしは
何も止められなかった

止むを得ないと思った

そう云えば元々
馬鹿のように単純なんだった

きつねつき

2006年10月11日 13:34

大きい声を出すと
ずぼんがゆるくなって困る
とお兄ちゃんは言う
あたりまえだ
大きい声を出しても何にもならないと
承知の上でまだ怒鳴るから
そういう羽目になるのだ

お兄ちゃんは
人でも動物でも無く
夜に対して怒鳴る
暗すぎて理不尽だ
と怒鳴る
そのたびに痩せていく

確か
身内に二人ほど
痩せて死んだ人がいたはずだ
その人たちは普通のお墓には入っていない
きつねつき
だったらしいから
一緒のお墓には
入れてもらえなかったんだそうだ

お兄ちゃんの顔色は
一週間でみるみる青ざめた
怒鳴り声も弱弱しくなってきた
普通のずぼんは履けなくなって
専らジャージーを履くようになった
矢張り きつねつき なのかな
お墓に入れないんだろうか

ある日
寒い寒い

お兄ちゃんが震えるから
布団を敷いてやったら
そそくさと潜り込み

あれから二年経つが
一度も顔を見ていない
布団は敷きっぱなしで
時折思い出したように上下している

自転車の乗り方

2006年10月11日 11:40

今日は行くところがあって
自転車に乗ろうと思った
けど
何度やっても倒れてしまうので
押して行くことにした
途中で乗り方を思い出すかと期待した
けど
どれだけ歩いても
わたしにとっては
自転車はうすべったい金属でしか
無くなっていて
淋しいというよりは
虚しい感じだった

ずいぶん遠くまできた時に
ふと風が吹いて
畦道で
自転車もろとも倒れた
空が見えた
青かった
腕を伸ばした
背骨が軋んだ
どこかが濡れていた
何かのにおいがした

咄嗟に
ああ到達できなかったな
と思った
何処へかは知らないけど

車輪が無為に回っている
乾いた音がする
カルシウムみたいな

起き上がろうとした
けど
中々上手くはいかなかった
けど
少しだけ
思い出したような気がした

ポストカード

2006年10月10日 21:49


表側の白い場所には
必要事項を記入して下さい
上手い具合に順序よく
番号で整理して

裏側の黒い場所には
残して戴きたいんです
何でも良い
跡かなにかを

間違えたら
修正液
若しくは
コンデンス・ミルク

乾いたら
正しいやり方で
訂正して欲しいのです

終えたら
くるくると
四つ折にでもして
期日までに投函して下さい

切手は貼らなくて平気です
斯う云う風に
歩いていけます

慈悲は不要です

投函されるとき
わたしはすこし
笑うだろう
と思いますから

わすれていくこと

2006年10月08日 16:11


日を追う毎に
わたしの頭は
軽くなってゆくようです
わすれていくのだろうか
こんなにも容易く

赤信号が青に変わり
裏路地は繁華街になり
たった今あったものが
次々と消えてゆき
世界はずれてゆきます
一秒ごとに一ミリ
或いはもっと早く

さっきよりも
ずっと軽くなった頭で
くらくらっと歩いてみると
流れ星が流れました
お願い事をしようと
思いました
だけど
わすれてしまっていました
お願い事すらも

わたしは煙草を一本
くわえます
何年経っても
煙草の吸い方だけは
わすれないような気がしました

石と旅する

2006年10月08日 14:45


ひとあし歩くごとに
わたしの身体からは石が落ちます
からからに乾いた石は
薄い色をしています
わたしはそれを
さらさらかちかち と踏みしだき
疲労し続けましょう
名前を忘れるまで
それはとても素敵なことです


川は昨夜の雨で増水しています
洗濯物が揺れています
女の人が
幸福について思索しながら
旦那さんの夕食を作っています


時計が止まったので
今が何時かわかりません
でも構いやしないのです
元々時間なんて
信用していませんから
金属製の腕時計を外して
遠投したつもりだったのですが
遠くどころか
わたしのかかと辺りに
さくっと着地しました


風が吹いてきました
野性的なにおいがしました
鞄が吹き飛ばされたので
わたしは手のひらに石を盛り
それを運ぶことにしたのです
何か持っていないと
不安なのです


眼が見えているうちは
何も終わりません
断続的ではありますが
続いているのです
未だ終わってはいないのです


さらさらかちかち
こんなにも零れ落ちるものを
わたしは何処に隠していたのか知らん




音と言葉

2006年10月07日 05:18


雨のような音がしていた
始終ずっと
雨のような音がしていた

よくよく考えてみると
それは雨の音ではなくて
誰かの足音だったのかもしれない
雨の音は段々近づいてきて
うちの玄関の前で止まった


留守番電話が
三件溜まっていたので
確認したら
全て無言電話だった
さー
というノイズに混じって
温かい呼吸の音が聴こえた
きっと言葉を知らないんだろう
野生動物と
知り合いになった覚えは無いのだが


一度だけでも
わかってよ
と言いたかった
厭な臭いのする言葉だとは
知っていたけれど

なんとなく独りで
わかってよ
と呟いてみたら
ウエハースみたいに軽くて
だから
苦笑しながら
握りつぶした

めざましとけい

2006年10月07日 03:44

目覚まし時計の電池を抜いて
針を止めてはみたものの
時間が止まるわけでは無くて
時間が戻るわけでも無くて
ぴかぴか光る文字盤を見ている
わたしはきっと
何かを後悔してるのかもしれない

送信釦を押すと
一分後には着信する
そういう世の中の仕組みや
自動的に修復されるエラーや
電柱に貼られた性欲等
そういう単純なものに
憧れているのかも知れない

柱時計が十二時を打った
明日は早起きをしなければならないのだった
わたしは
電池を元通り入れて
こくこく動く秒針を見ながら

時間を少しだけ早めに
合わせてはみたものの
早く死ねるわけではなくて
長く生きられるわけでもなくて
解らなきゃいけない年齢だと思った
もう
そろそろ

やっぱり
絶対に


引越し作業

2006年10月07日 03:16

電気スタンドに照らされて
わたしの影が
おおきくなってる
そこだけ
深い夜の色をしている

段ボール箱には
辞書だけ入れた
封をして持ち上げると
人の命よりは軽く
だけど
わたしよりは重い
そんな重さだった

収納をひらくと
ぺらり、と何かが落ちてきて
それは三年前に
好きだった人と撮った写真で
遺影みたいに笑った顔だった
はさみで切り捨てると
どこかしら冷たい気分になりました

ごみ袋から
おしろいばなの匂いがしている

部屋はじょじょに
暗くなってく

ひかり

2006年10月05日 01:37

20061005013704

国営放送の請求書が
ひらり
と郵便箱に滑り込む頃

誰かの忘れ物が
公園の隅で
しゅか、しゅか
光る

睫毛に引っ掛かる
砕けた陽射しはもう
夏のように
貪欲ではなくて

握り締めた領収書は
たましい
の形を成し
かさかさ
するから
つめたくて



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