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泥棒ハムニ

2006年09月30日 08:27

・兄の話

ハムニは泥棒だった
成りたくて成った訳ではなかったらしいが
まるで天職みたいに
何だって堂々と盗んでみせた
ハムニの部屋には何でもあった
新品のラジオ
ポスター
高い服
文学全集
それら全てを
ハムニが盗んだのか如何かは知らないが

或冬の寒い晩だった
ハムニが事故に遭ったという連絡があった
車に轢かれて
右手首が千切れてしまったらしい
右手首は余程勢いよく飛んだのか
何処にも見つからなかった
その右手に
ハムニは
何か大切なものを握っていたらしく
泣きそうな顔をしていた
ハムニは其の儘入院した
やがて病院から脱走して
以後ハムニを見た人は誰も居ない

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五歳時分の記憶

2006年09月29日 22:06


薄荷飴のように揺れる
白い靴
紺ソックス
午睡から覚めたばかりの眼には
少し眩しかった

或いは
大きいお姉さんが回す
自転車の車輪
銀色の音が
ちかちかして
見惚れて
ぶらんこから落ちた

太陽は
直接見てはいけないと
教えられてきたのに
あの時に
よそ見した所為かな

今でも
眼は
よく見えない

ごめんなさい、ありがとう、さようなら。

2006年09月28日 08:25


ごめんなさい
という言葉が効力を喪失して
空中で浮かんでいる少しの間
わたしは只そのごめんなさいを見ていた
ごめんなさいは少し濁っているから
向こう側の景色が歪んで見える

ありがとう
をバッグに詰めて
友人の家へ向かった
剥き出しのありがとうを出すと
早速お茶菓子として出してくれたが
わたしのありがとうはどうも味が薄くて
もさもさして
飲み込めない
友人は引き攣った笑いを浮かべて
神経質そうに
ありがとうを飲み込んだ
緑茶のにおいがする

さようなら
を読みかけの本の間に挟んで
しばし外出して
帰ってきたら
さようならが消えていた
どこへいったのかな
と探すと
おみそしるの中に紛れ込んでいた
ゆっくり椀に注いで
おみそしるをのんでみたら
さようなら
は舌に冷たすぎて
どうやらお腹を壊してしまった

嘘しか書けない

2006年09月28日 08:16

アンダーラインを引いても
覚えられない事があるように
※で強調しても
見向きもされない事柄があるように
教科書と言う名の紙の束が
誰からも疎ましがられるように
大事なことはいつも
掌からこぼれてゆき
床に小さな砂山を作る

砂山は隙間風で吹き飛ばされて
後には何も残らない
水拭きされた木の床には
ダイイングメッセージすら残されていなくて
バケツの中で発光するのは
汚れた水だから
どうしようも無いから

何年も長い間
ずっと生きてきたけれど
覚えている事はほんの少しだ
掃除の仕方とか
日記の書き方とか
空虚な場所は年とともに増加していく
人口減少とは反比例して
空虚な場所は寂しがる
口笛のように誰かを呼んでいる

履歴書の反故ばかりが溜まってゆく
嘘しか書けない

当たり前だ
わたしは嘘しか書けない


遠い国

2006年09月28日 05:58



遠い国から
のろいに満ちた手紙が届いた
開くと燃えてしまったから
何と書いてあったかは知らない

遠い国から
いかりに満ちた電話がきた
電波状態が悪いらしく
途切れ途切れしか聞こえなくて
聞き返しているうちに
切れてしまった
だから電話線を抜いて寝た

遠い国から
憤慨した使者がやって来た
ドアーの向こうで何だか
喚いていたけれど
警察に電話したら捕まって
連れて行かれてしまった
わたしは警察に頭を下げて
ドアーにチェーンを掛けて
毛布をかぶった

わたしはまだ何処へも行きたく無くて
だから言えば良かった
遠い国へは未だ行けないと
だけどもう遅かった
遠い国からは二度と
何の連絡も来なかった

鶏肉について

2006年09月26日 10:35


鶏肉をたべると
健やかに育つ
という迷信が
わたしの生まれた地方にはあって
だからわたしは
ぶたにくとかぎゅうにくの味を知らない
鶏肉
は漢字で書けるし
捌くことも可能だけど
ぶたにくとかぎゅうにくとかは
赤すぎて
なまぐさすぎて
なんだか気が遠くなる

ぶたにくは腐ると
セメダインの臭いがすると言う

鶏肉は血の味がしないから
本当は植物なのじゃないかな
と思って
空き地や野原で
鶏肉の種を探してみた
けれど鶏肉の種も茎も芽も
何も見当たらなかったから
わたしは
健やかに育った身体で
健やかなため息をひとつ漏らして
スーパーマーケットで
鶏のもも肉を買って帰った

今日はカレーにしようと思います

資本主義と社会主義

2006年09月26日 07:33


あいた屋の息子の会田くんは
白身魚を食べただけで
その名前を当てる事が出来る
というのが特技だ

あいた屋は駄菓子屋だったけど
店が立ち行かなくなったので
今は同じ店舗で
クリーニング屋をしている
慣れないから大変だよ
と笑う会田くんは
虚無主義者みたいに見える

会田くんは小学校からの同級生だ
小学校ではちょっと足りないんじゃないかと
思われていて
特別学級とか云う所にいた
中学になったら普通になった
演技をしていたのかも知れないと思う

普通って何
とよく会田くんは言う
おれ普通って何のことか解らないよ

虚無主義者みたいに笑う
会田くんが魚好きなのは
同じ白身でも
全部違う名前が付いているからだそうだ
おれらも出世魚みたいに
成長の段階で名前が変わったらいいな
とこの前言っていた
だけどあたしは
出世魚ってなんだか知らないし
名前とか性格とかは
みんな同じほうが安心すると思う
と言ったら
五十嵐さんは社会主義の国に行った方が
精神的に安定するんじゃないかな
だって
社会主義の国ってどこ
と訊いたら
キューバとかブルガリアとかさ
と言ってた
だからあたしは将来
キューバとかブルガリアへ行こうと思う

会田くんとわたしは
世間的に言うと付き合ってる
って形になってるみたいだけど
会田くんには他にも三人彼女がいる
まるで独裁者みたいだ
だけどあたしは
独裁者の会田くんって結構きらいじゃない



五十嵐さんは
遠いところから転校してきた
おれが小学校三年生くらいのときに
仕立てのいい服を着て
髪をかっちりとかして来た

五十嵐さんの下の名前は

と言うらしい
だけど手紙とか
電子メールとかの署名は
平仮名でゆみと書く
どうして漢字で書かないのか
と訊いたら
弓、って一文字で書くと
崩れそうだから不安になるの
と言った
変わった人だと思う

五十嵐さんにとって
此の世で一番重要なものは
精神的安定なのだと聞いた
個性という言葉が嫌いなのだそうだ
五十嵐さんと言う人は
優秀な人で
親の言いつけも教師の言いつけも
校則もちゃんと守って
前髪なんか定規で測ったみたいに揃っている
自由にやった方がいいと思うな
と言ったら
会田くんがそう言うなら
と言って
以後スカートの長さが
すこしだけ短くなった

おれが名字で呼んでいるのは
知っている女の子たちの中で
五十嵐さんだけだ
なんとなく
五十嵐さんって
名前で呼ぶと怒るような気がする

この前社会主義の話をしたら
五十嵐さんは
会田くんと一緒なら
社会主義の国へ行ってもいいな
とか言うようになった
おれは資本主義の国にいたいよ
と言ったら
じゃあ会田くんが
社会主義の国をつくって
その国の独裁者になればいいよ
と言った

おれはこの頃
五十嵐さんがすこし怖い

五十嵐さんは
おれの話すことの意味を
理解していないと思う
きょとんとして聞いているだけだ

ざく、

2006年09月26日 06:49


学校へ行くと
廊下ですれ違う人たちは
みんな胸に穴があいてる
生徒会長も
学級委員長も
先生も
用務員さんも

トイレの鏡で
化粧直しをしている娘たちは
特に悲惨だ
胸にも耳にも穴があいて
鎖でつながれてるように見える
笑い声は空洞に反響して
増幅する
いつまでも
多分
満たされていないんだろうと思う

わたしは上履きの踵もつぶさないし
髪も染めて無いし
ピアスもあけてないし
親ともうまくいっているし
反抗期は終わったし
生理は毎月くるし
彼氏もできそうだし
前途多望な少女なのだけど
でもやっぱり
胸には穴があいてる
どうしてか知らない
閉じ込められている所為かも知れない

不意に涙が止まらなくなる時がある
胸の穴が冷えて
痛くてたまらないのだ
極寒の日に
手袋をしていない手の痛さ
それと同義

蓋か何かあればいいんだけど
と思って
机の中を探ると
教科書があった
古典の教科書だ
いずれのおんときにか
そんなの何の役に立つんだろう
だからわたしは
カッターを取り出して
教科書を胸の形に成形して
セロ・テープで
穴を塞ぐ事にした

放課後の教室で
カッターの音だけが響いている

ざく、

四季(恋愛編)

2006年09月24日 10:24

「ハル」

さよなら
二度と交わらないのに
空は青くて

「ナツ」

揺らいでいたのは
わたしではなくて
君との境界線だろう

「アキ」

紅葉を一枚
封筒に入れて
切手だけ貼って投函した

「フユ」

冬眠しようと思う
多分一人でも
もう大丈夫だと思う

昨日、戦争が

2006年09月23日 15:59

昨日戦争がはじまった
だけど僕はまだ
自分の世界を掘り下げる事に精一杯の
年齢だから
戦争がはじまったことにすら
気付かなかった

金木犀の香りがする
早朝の空気の中で
マシンガンの音がしている
それをBGMにして
僕はヘミングウェイを読んでいる

僕が戦争に気付いたのは
それから三日後で
何故気付いたかと云うと
僕のぼろアパートに
女の子が訪ねてきたからだった
女の子は一人では無かった
子供を抱っこしていた
子供は血まみれだった
頭がかち割れて
きれいにかち割れて
そこから宇宙のような
宇宙のような

女の子は錯乱しているようで
この子を助けてください
あたしの妹なんです
と何度も何度も叫んだ
どう見たってもう死んでいるのに
僕は女の子を適当になだめながら
外に押し出そうとした
煩わしいことには関わりたくなかった
だって僕はまだ若いし
とたわけた事を考えた刹那
どこからか飛んできた大砲の弾が
女の子を吹き飛ばした
宇宙のような
宇宙のような
塵・芥が雨のように

僕はヘミングウェイを
テーブルの上に伏せて
トイレで吐いた
戦争は僕らの国の負けだと思った
だって
女の子を吹き飛ばすような国に
あんなに無慈悲に消してしまうような国に
勝てるわけ無いものね

夜ともなれば灯火管制か何かで
電気もつきやしない
僕は無神論者だったんだけど
その夜から神様を信じる事にした
祈る事にした
バスタブの中におさまって
両手を握り締めて
神様もうたくさんです
と何度も

バスタブの中で夢を見た
エヴァンゲリオンがやってきて
僕の国と相手の国を
叩き潰す夢だった
でも
夢は夢だった
目覚めたとき
泣いてた

さびしんぼうとしょーふ

2006年09月21日 10:39


誰かが殺虫剤でも噴射したのか
天蓋付きベッド
の中には霧がかっていた

脱ぎ捨てられたズボンは
骸骨のようにくしゃ、と
丸められたレエスの下着は
死骸のようにくた、と
成ってた

確か
昼下がりだった

女子と向き合って
座っている男子は
さびしんぼう、と呼ばれていた
他に名前はなかった

女子はしょーふ、だった

この世界には
正しい重さと然るべき発音で
娼婦
と彼女を呼び止める人は居なかった
居たとしても
もう死んでいた
それが為に
男子も女子も
娼婦
という言葉の意味を知らなかった

さびしんぼうとしょーふは
とにかく密着していた
密着すれば
なにかが生まれそうだった
隙間風が未だ止まないのは
二人の身体の間に
まだ隙間がある所為に違いなかったのだが
どう頑張っても二人は
これ以上密着することが出来なかった

ねえ
大人はこういうとき如何するのかな

さびしんぼうが言った

絶望するだけよ

しょーふは答えた

寒いね
僕等
解り合えないのかな

解り合うなんて
幻想に過ぎないわ

だけど
僕等は存在しているのに

存在というものは
解り合う為に使う道具じゃ無いわ
道具は身体だけで沢山よ

ご覧よ、しょーふ
窓硝子の色は
なんて寂しいんだろう

あなただってよ
さびしんぼう

僕はあんなに透明じゃないよ

いいえ同じよ
中央が
手垢で汚れているところまでそっくり

君は僕が好きではないの

好きと云う感情は
一過性の熱でしか無いのよ
見送る事は出来ても
切り取る事は出来ないわ

君は物知りなんだね、しょーふ

パパに教わったの

パパはどうしたの

いなくなったわ

だって今までいたんだろう

いたはずの人間が消えるのは
この世界では珍しくないわ
あなたのパパは、さびしんぼう

初めからいないよ

ではあなたは何から生まれたの

土から
林檎のにおいがする土からさ

じゃあママは

ママは雨だよ
なまあったかい五月の雨さ
君のママは、しょーふ

あたしのママは
あの空、とでも言っておくわ

本当は如何なの

本当なんて言葉
軽々しく遣わないで頂戴

ごめんよ、しょーふ

いいのよ、さびしんぼう

二人は裸で
密着した儘
時にはつねり合ったり
くすぐり合ったり
もしてみたが
どうもぼんやりとするばかりで

日が暮れても
風は止まなかった

どうしたらいいんだろうね、しょーふ

諦めるしか無いんじゃないかしら

諦めて如何するの

知らないわ
今までと同じように歩くだけよ

疲れてしまうよ

当たり前よ
あたしたちは皆
いつかくたくたになって死ぬのよ

そんなの寂しいよ

あなたは駄々っ子みたいね、さびしんぼう
本当は知っている癖に

君は老人みたいだね、しょーふ
君みたいな人にも
将来の夢はあるの

あるわ
あたしは哲学者に成るの
もっと遠い国へ行ってね
そうして
美しい顔の秘書を雇うわ
あなたは、さびしんぼう

僕は旅人になるよ
世界中へ行って
気に入ったところに家を建てて住むさ

叶うと良いわね

そうだね、いつか

死ぬ前にね

そうだね、くたびれる前に

二人の笑い声は
ベッドに反響し
いつまでも消えなかった
身体と身体が触れ合っている場所は
すでに汗で蒸れて
人間くさいにおいを立てていた

二人は密着した儘
シャワーを浴びた
それから身支度をして
礼儀正しく握手をして別れた

もう二度と
会う事は無いだろう

さびしんぼうは
しょーふと別れて一歩踏み出した瞬間
突如として
あのやり方を思い出し
振り返ってみたのだが
既にしょーふは消えていた
会話などするべきでは無かったのに

しょーふは今日も
不特定多数に買われて
天井を見つめながら
時々さびしんぼうを思い出すかも知れない

為す術も無く
眼を閉じるかも知れない
もう何も見ないように
知らない振りをする為に

こんなことは
ありふれている

お伽話にすら
ならない程に

全ての結末は
何時だって
そんなものだから

わざわざ書く事も
無かったんだけれども

牛乳

2006年09月20日 19:50

成人してから
牛乳を毎日のむようになった
さすがに
もう脊は伸びないだろうと
思っていたのだが

牛乳を飲み始めて一日目
重力に負けて
くしゃんとしていた背骨が
一気にぴんと起立した

二日目
コップ一杯で三十センチ伸びた

三日目
身長を計ったら二メートルになっていた

とかそんな感じで

脊は大体真夜中に伸びる
伸びるときには
熱湯の底で
貝が次々と口をひらくような音がする
ぱちぱちぱちん
という音

今わたしの身長は五メートル三十センチだ
これからどんどん伸びるだろうと思う
緑色の錆びたフェンスも
有刺鉄線も
わたしにとっては
まるで役には立たなくて

好きな人はどんどん小さくなっていく
猫は手のひらで飼えるほど
にゃあと鳴いたってもう聴こえない

家に治まりきらなくなったので
わたしはどこへも帰れない

合う服が無くなったので
ヨミウリ新聞をつなぎ合わせて羽織っている
いつか何もかも
踏み潰す日がくるんだろうか

今日もあっという間に日が暮れて
わたしの身長は七メートルを超えた
山へ分け入って
山姥にでも成ろうか

いつか地球から
はみ出す日がくるんだろうか
それならわたしは
地球を抱きしめて眠ろう
そうして
星を取ってきて
かつての恋人に贈ろう

大人に成れない

2006年09月20日 04:14


向こうのお部屋には
電気が点いている
けれど
わたしは脊がちいさいので
ドアノブに手がかからない

向こうのお部屋からは
とてもいいにおいがする
けれど
わたしはあたまがわるいから
ドアーの開け方がわからない

寝返りを三回打つと
パイプベッドはひどく軋み
いや
軋んだのは背骨だったかな

わずかに汗をかいた脚が
行き場を失って

失っている
のは
それだけでは済まないだろうが

向こうのお部屋から
声が聞こえる
笑うのは誰だろう
悲しむのは誰だろうか

あと何歳年を取れば
わたしは
あちら側へ行けるんだろうか

某アパートの話

2006年09月18日 20:00


また階下で和音が聴こえる
鳴らしているのは弱気な青年で
ピアニスト志望なんだそうだが
彼が弾いているのはピアノではなくて
羽を広げた黒い蝶々で
どこから捕まえてきたのか知らないが
こんな深夜に鳴らされても困るのだ


ごむ草履をつっかけて
注意をしに行くと
階段の途中で人妻に会った
人妻はこの春
赤ん坊を産んだそうで
だからいつも赤ん坊を小脇に抱えているのだが
顔を見たことは一度も無い
泣き声すら一度も聞かない
死んでいるのじゃないかと思うが
人妻は幸せそうで
非常階段は救急病院のようで


更に降りてゆくと
一階の
郵便受けが並んでいるあたりで
ベスに会った
ベスというのは人語を話す犬のことで
野良なのだが
その昔
町で九官鳥を見て
自分もあんな風に成りたいと思ったらしい

こんばんは
と言うので
そろそろ九官鳥に成れそうかい
と訊くと
成れそうに見えますか
と悲しそうな顔をした
ベスの毛はぺそぺそで
古い絨毯の毛羽立ったところみたいで
どう見ても鳥に成れそうではないが
がんばれば夢は叶うよ
とか励ましておいた
ベスは単純なので
はい
といい返事をして
ごみを漁りに行ってしまった


音は
鍾乳洞のように真っ暗で寒い
一階の左端から聞こえてきていた
壁を伝いながらおそるおそる踏み出すと
何かにつまづいて転んだ
何につまづいたのかなと思ったら
怠惰な管理人さんだった
管理人さんはあまりに怠惰すぎて
もう部屋に帰るのも億劫で
横たわったまま這い回って暮らしている
こんばんは
と言うと
やあ何か困り事かね
と言うので
青年のピアノの音が煩いのですが
と答えると
あの青年はもう他所へ引っ越したよ
と言われた
え、

ではあのピアノの音は何ですか
と尋ねた瞬間
奥から黒い蝶々が
群れを成して飛んできた

かすかにピアノの音がしたようだ

どこへ行くのか知らないが
蝶の大群は
夜空に溶けて

もう何処にも見えなかった

遊園地

2006年09月16日 18:41

「観覧車」

勝手にからだが浮き上がって
そのまま遥か上空へいってしまうから
あ、
死んでしまったのかな
と思った
死んだ私は虚空を一周し
成仏出来ないまま
また地上へ戻ってきた
無機質な顔の係員が
早く降りてください
と言った


「ジェットコースター」

頼みもしないのに
精神が勝手に荒れていく
がさがさになった精神で
沈んだり走ったりしていると
なんだか
獣になってしまいそうだ
風を切るわたしの耳は
いつの間にかふさふさしてきて

落ちてしまう前に
てっぺんから月が見えたから
遠くへ向かって吠えた
犬歯はますます尖っていた


「メリーゴーラウンド」

馬車ではなくて
馬を選んだ
つるつるした馬は
牧歌的にふあんふあん揺れて
何ていうのだろう
この音楽は

途方に暮れているうちに
運動は止まった
そのまま乗っていると
また始まった
そうか
永遠とは
こんなところにあったんだ
と思いながら
そのまま
いつまでも死なないような気持ちで
ずっとまわりつづけた

太郎のこと

2006年09月16日 18:31


部屋に蜘蛛が居た
殺さずに離した
太郎
という名前をつけた

太郎は本棚の隅を横切ったり
天井にじっと貼りついたり
読みかけの本の
ひらいたページにうずくまったりして
なかなかに本が好きなようなのだが
何をたべて生きているんだろうか

太郎がよろこぶように
もうずっと
部屋の掃除をしていない
がらくたのように
毎日消費されるものが
山と化して
その中にうずくまっていると
もうわたし自体がそろそろ
蜘蛛に成ってしまったようなのだが

うすぐらい部屋で
テレビをつける
肩に太郎がくっついている
太郎
と呼ばる
返事はない

テレビはもう砂嵐なのだが
それにも気付かずにわたしたちは
ずっと二人で座っていた
頭の上には
青いカーデガンが置いてあって
まるで
晴れた日の戸外のようだった


つめきり

2006年09月16日 17:33

つめきりが
ものがなしい音を立てて
成長した蛋白質を
摘み取ってゆく

散らばったつめは
お行儀よく丸まって
やがて
つめたくなってしまう

月が
瞳孔みたいに光って
わたしを見ていた

口をつぐんで
一心につめを切る
ぱちんぱちん
と云うその音は
消え入りそうで
忘れてしまいそうで

うずくまったわたしに
部屋は少しばかり
広すぎて

何一つ
つながりはしないのだった


死んだ秋刀魚の葬送

2006年09月15日 17:56

冷蔵庫をあけると
海水があふれてきた
夕べ買った秋刀魚が
帰りたくて泣いていたものらしい

わたしは裸足のまま
どんどんうもれてしまう
辛うじて洗面器を抱えたから
窒息せずにはすんだ

洗面器をうつぶせにして
掴まっているうちに
海水は冷蔵庫の高さも
電子レンジの高さも超え

思い切ってもぐってみた
海草を掻き分けて底までいくと
砂の上に死んだ秋刀魚が
ゆらんと横たわっているのを見つけた
わたしは秋刀魚の尻尾を掴んで
とちゅうで浮かんだりしながら
洗面器で砂を掘り
なんとかきちんと埋葬した
そしてそこらにあった石をどこんと載せ

そうすると海水は抜けるのだ
これは家庭科の時間に
先生から教わった
覚えていて良かった

ようやっと海水の抜けた台所で
海草の名残を首に巻きつけたままで
しゃがみこんでいると
ドアーが開いて
恋人が顔を出した
夕飯はまだかと言うのだ

海草を投げつけると
それは恋人の足首に
きれいにくるくる巻きついた


夕暮れとくずかご

2006年09月15日 17:38



手を持っていくと
おなかの中に夕焼けが
広がっているのがわかった
指はどんどんおなかの中へ沈み
とうとう二の腕まで入ってしまったとき
夕焼けのまっただ中で
何かがつめに引っ掛かった
それは生温かく
蒸気か体液かで湿っていたが
握り締めてゆっくり引き抜くと
空き缶だった

空き缶の中には
今までわたしが飲み込んだもの
太陽の光や
夏の残骸や
蝉の死骸のイメージや
空想や
秘密
なんかが
いっぱいまで詰まっていて

人差し指が汚れてしまった

中身をくずかごの中へあけてみると
乾いた音を立てて
それらのがらくたが
吸い込まれていく
くずかごには底が無いみたいだ
ちっともいっぱいにならない
覗き込むと
異国よりももっと遠いところから
かすかな水音が聞こえた
きっと井戸になってしまったんだ
アルミの小さいくずかご

おなかが寒い
きっと中で日が暮れてしまったんだろう
床に転がっていた携帯電話を巻きつけると
わずかに温まったが
あっけない感じで冷えてしまった
携帯電話が逆に折れて
死んでしまった所為だ
もともと二つ折りだったんだから
別に構いはしないのだが

わたしはひゅるひゅるに壊れてしまった
携帯電話を一応巻いたまま
ごみ捨て場にくずかごを置いた
くずかごは黙ったまま
運ばれていってしまった
つめたくてしょうがなかった

おなかの夕空は未だに閉じない
もしかしたら
生まれつき持っていたのかもしれない
気付かなかっただけで

わたしの体内はいつでも夕暮れで
蛍光灯を消しても
穴から光が漏れるから
みつかってしまう

逃げても
かんたんにみつかってしまう

毛布か何かを
詰め込んだほうが良さそうだ

夕刊

2006年09月15日 17:22


洗濯物を取り込んでいると
夕刊が空から降ってきた
わたしはうす青く染まった
その薄い紙の鳥を捕まえてひらく
中には
まだ固まっていないゼラチンのような
やわらかいニュースがたくさん挟まっている

ヴェランダに沈んでいる
わたしの姿は
遠くから見るときっと
家の無い子のようであろう

やがて夜がくるので
わたしは夕刊をヴェランダに出したまま
わたしの肋骨の中のような
広い部屋に戻ってゆく

夕刊は翌朝になると
すっかり乾ききり
新鮮だったニュースももう
かさかさの死骸みたくなっている
ニュースは薄れて蒸発し
新聞紙は只の紙くずになってしまう

わたしはそれを千切って焚き火にくべる
すると紙くずは空を昇っていき
また夕方に降ってくるのだ
あたらしくうまれかわって

最近は陰惨なニュースばかりで
まったくもって厭になってしまうが
それでも空気が乾いて
火がよく燃えるので
わたしは上機嫌である
膨らんでいく火はおそらく
いつか
わたしを呑みこんでしまうだろう
そんな気がする

ならないで

2006年09月15日 05:41


鳴らない
携帯電話
鳴らないで

つめたい夜に
忘れられた鳥が鳴いている
遠くの方の遺跡で

知らない人が来て
両腕でわたしを
掻き抱く
個人情報が漏洩していく

わたしの額のバーコードは
もう擦り切れて
何も読み取れない筈なのに
どうして知るんだろう

どうして知っているんだろう

透明なビニール袋に
塵芥と大切な筆記用具を添えて
右手で確りと握り締めていよう
犯されないのは其れしか無くて

鳥が鳴いている
忘れ去られた鳥
劣化していく遺跡

右耳だけが感知している

わたしは
成らない
そんな風に
成らないで

携帯電話も
ならないで


痩せ馬ロシナンテ

2006年09月14日 01:48

例えば
やわらかな光が差し込む
午後の喫茶店で
わたしが
だんだん気化してしまっても

或いは
夕闇の一本道で
わたしが
妖怪に変化してしまっても

きみはまもってくれない

若しくは
四角い部屋の隅で
わたしが
壁と同化してしまっても

または
深夜の砂浜で
わたしの足跡が
とつじょ途絶えてしまっても

きみはまもってくれない

洗われなかった食器は
山と積まれた儘

沈黙は

であらわされた儘

紙の上に書かれた文字は
ふうかしてゆく

そして
てのひらで
ちいさい
ほのおがゆれる

それだけ

昼間アレルギー

2006年09月14日 01:30


赤ん坊は
夜を見たことが無いから
夜泣きするのだと
誰かが言っていた

ではわたしが
夜に泣くのも
夜を知らないからか知ら

眼の前の誰かに
反問すると
誰かはよく見えない顔で
いいえ
と言った

いいえ
あなたが夜に泣くのは
昼間を知らないからです
昼間を知らないから
何時までも
寂しいのです

そうかい
有難う

誰かは会釈して
去っていった
名前を
最後まで
思い出せなかった

おそらく
誰でもなかったんだろう

ためしに
へなへなした真昼の月を
背後に貼り付けて
歩きだしてみると

一人分の隙間しかない
狭い路上にたどり着いた

そこでは
言葉がいくつも飛び立って
意味を成さないまま
いつかのロケットみたいに
空中分解してゆき


真実
空気
独白
などが化学反応を起こし
周囲を青く染めてしまう

手を伸ばすと
手が何処かへいってしまった

脚を伸ばすと
つまさきが消えてしまった

動くと身体ぜんぶが
消滅してしまいそうで
なんだか
まるで暗い海のようで

泳げないわたしは
昼間の底に沈澱したまま
ゆらゆら
路上で立ち尽くすほか無かった

その後わたしは
くしゃみが止まらなくなり
夕暮れどきに
内科を受診したら
昼間アレルギーだと言われた

だからわたしは
未だに昼間を知らない

午前の光をあびながら
眠るわたしは
わずかばかり
幸福そうな顔をしていると
誰かが言っていた

あれは
誰だったろうか

赤ん坊が
夜を知るのは
いったい何時のこと
なんだろう

子供

2006年09月13日 04:28


昨日の朝
新しい子供を買ってきた
ホームセンターで売っていたのだ
財布の中にあった
銀貨とアルミ貨を全部出せば
足りる程度の値段であった

ビニールの覆いを外すと
子供はぴかっと眼を開いた
幾つかの言葉を言い聞かせると
すぐに覚えた

名前はどうしようか
と考えたが
いい名前も思い浮かばなかったので
子供
と呼んでいる

子供は冷蔵庫に好んで入る
夕飯の支度をしようと
冷蔵庫をあけると
牛乳パックを抱きしめて
すやすや眠っていたりする

ある日
子供と一緒に外出したら
風船を売っている人があった
何度も見ているので
欲しいのかと思って
買ってやると
嬉しそうに笑った
子供は赤い風船を三日間手放さなかった
三日目に風船がしぼんでしまうと
ひどく残念そうな顔をして
また買ってやる
と言うと
わーいわーいと跳ね回った

その翌日に子供は
冷凍庫の中でつめたくなっていた
入るべきところを間違えたらしい
わたしは泣きながら
子供を火葬場へ持っていった
風船の残骸と一緒に焼いてもらった
子供の骨はごく少量で
はらはらと風に
吹き飛ばされるほどだった

箱をかかえて
悄然と歩いていると
風船売りがいた
わたしは風船売りから
赤い風船を買って
箱に結びつけた

箱はふわりと浮き上がり
上空へ飛んでいってしまった
だから子供の墓はどこにもない
強いて言うなれば
あの青空
または夕空
または夜空
が子供の墓である

今日
ホームセンターへ行ったが
もう子供は買ってこないことにした
同じ値段で同じような子供が
まだ売られていたのだが

どうも胸が痛くて
しょうがないのである

筆跡

2006年09月13日 04:12



鉛の這ったあとが
紙にながく残り
そのかたわらで
沈黙している目覚まし時計

夜も明けないうちから
今日は雨であるから
これから靴を履いて
蝸牛の速度で
わたしはどこかへ
行こうと思う

カーテンがゆれるのは
涙の風圧ではなく
それは
雷鳴のため

わたしの白目は
筆跡のように乾いて

ひゅうひゅう言うだけだ

運命の恋人

2006年09月12日 07:27


すてんれす
或いは
びにーる傘
みたいな色合いで波打った
今にも夕立がきそうな空

その空の下に
世界中で生き残ったのは
自分一人だ
みたいな顔をした
少年が立っていた
少年は眼を閉じていた
こまかな睫毛が震えていた

何をしていたのかと云うと
呼んでいたのだ
誰をかと云うと

実は
思春期の少年には
誰にでも
みんな超能力があるのだ
だが
その超能力は
十五歳になると自動的に消滅してしまう

そして少年は今年十五歳だった
だから手遅れになる前に
地球の真裏にきっといるはずの
自分と感覚のかっちり合う少女を
てれぱしー
で呼んでいたのである

すらすらっと風が吹いた
少年の前髪が揺れた

さて同じ頃
地球の真裏に住む少女が
どこからか自分を呼ぶ声を聞いた
少女は乗っていた牛から降りて
耳をすました
どうやら遠いところから
呼んでいるようだった

少女には超能力がなかったが
その代わり
賢い頭と
きらきらした眼と
よく聞こえる耳とがあった

少女は暫く耳をすましていたが
空耳だと思った
神様なんていない
とわかっていたから
やがて牛が焦れたように鳴いたので
少女は慌ててまた牛に乗り
ゆっくりゆっくりと帰っていった

少女が通り過ぎたあともなお
そのあたりの空には
少女を呼ぶ声が
暮れ残ったように
漂っていた

すらすらっと風が吹いた
少女は一度だけ振り返った
だが
引き返すことはしなかった

二人は俗に言う
運命の恋人同士
だったのだが
結局出会うことは無かった
世界中には
そんな風に
出会わなかった恋人達が
無数に存在するのだ

だからどうということもないけれど

少年は
何事もなく十五歳を迎え
超能力を無くし
ほどほどに好きな女の子と
円滑に
恋愛とその行為とを済ませた

少女も同様に
何の支障もなく
成長しやがて子を成した

二人は
あれからずいぶん経って
空港ですれ違った

眼と眼が一瞬合い
火花が散った
だが
それだけだった

あのときのような
夕立がきそうな空だった

風は吹かなかった

ざわざわした空港の中で
二人はそれぞれの行く先へ溶け込み
そうしてもう
死ぬまで出会うことは無かった

火星とテロル

2006年09月12日 04:11


老人がひとり
テロルの巻き添えになって
死んだ
というニュースが
ラヂオから流れてきた
FMのさーさー云うノイズが
泣いているみたいで

テロルは許せないな
と思って
家にあった鍋をかぶり
とりあえず
テロルがあった現場へ急行すると
途中で
つよい風が吹いてきて
わたしは吹き飛ばされてしまった
台風だろうか
熱帯低気圧だろうか
ほんのり温かい風の中で
ワルツみたいにぐるぐる回りながら
わたしは火星に着陸した
ふわふわしながら立ち上がると
つちふまずの下で
赤い土が揺れる
心臓みたいに
どきどきしている

宇宙は真っ暗だった
宇宙人なんてどこにも居ないし
きゅう、として寂しい

老人はもうお墓にうめられただろうか
FMラヂオが聞きたいな
台風はやんだろうか
色々かんがえて涙をこぼすと
球体になってそのまま飛んでいった

今夜地球で雨が降ったなら
そのなかにはたぶん
数パーセント
わたしの涙が含まれているはずだ

わたしは鍋をかぶったままで
地球から見ると
さぞかし滑稽に見えることであろうな





<追記>

未開拓詩区九月テーマ「老人」「テロ」「台風」「風」「心臓」「火星」「赤」を全部つかってみました。やらかしましたすいません。


吉田群青

JOY

2006年09月12日 02:43

雨上がりの
やわらかな土の上に
使いかけの
中性洗剤がひとつ
ぽつんと置いてあった
おそらく
食器を洗うのにもう飽きて
台所から
逃げ出してきたのだろう

中性洗剤は無言のまま
青空に向かって屹立している
それはとても
潔い姿勢で

敬意を表して
新しいスポンジをひとつ
買ってきて
中性洗剤の前に置いた
うすべにのスポンジと
中性洗剤は
なかなかお似合いのように
見えた

翌日
気になって
もういちど見に行ってみたら
中性洗剤もスポンジもなくなっていた
おそらく
食器の無い国へでも
旅立っていったのだろう
手をつないで行ったのかも
知れない

家に帰って
そんな空想をしながら
皿を洗った

以来
うちの中性洗剤には
紐がつけてある

逃げ出されては
かなわないから

うでどけい

2006年09月12日 01:20


闇夜の街灯に
腕時計は光って
何だか
宝石を身に付けているような
そんな気がする

つめたい藍色の宝石は
深夜二時をさして
なんだか
不眠症のわたしを
責めるかのようで

寝息をたてはじめたのは
それは
誰だったろうか

画面の向こう側は
ログアウトしました
ログアウトしました
そればっかりで

コンビニエンスストアは
いつまでも明るかった
わたしはどうすればいいのか
さっぱり解らなかった

その感慨は
寂しい
というのにも似て

似て

いきもの図鑑

2006年09月10日 18:06


鳥類図鑑を見ていたら
「ねたみ鳥」
というのを見つけた
その名の通り
人をねたむ鳥で
都会に棲息し
決して鳴かない鳥らしいが
どんな鳥なのだろうか
気になって
渋谷の交差点に行ってみた
すると前から男女が
もつれ合いながら歩いてきた
一瞬ののち
遥か上空から
黒色の飛行機みたいな
大きな鳥が無音で飛来し
男女をくわえて飛び去ってしまった
一体どこへ連れて行かれたのだろう
あの嫉妬のような黒色の
雛の餌にでもなってしまうのかもしれないな


道を歩いていたら
首に小さな虫が取り付いてきた
そっとつまんで観察すると
それはどうやら
「泣き虫」という虫で
刺されると
涙がとまらなくなってしまうらしいが
もう刺されただろうか
痛くも痒くもないのでわからなかった
指を離すと
泣き虫は遠くへ飛んでいったが
それと同時に
涙があふれて
とまらなくなった
指でさわると
スイッチみたいな刺され痕だ
泣き虫に刺されたらどうすればいいのか
背嚢から
虫類図鑑を取り出して調べたが
ぜんぜん載っていなくて
仕方が無いのでムヒを首に塗布し
それ以上毒が回らない様に
おとなしく
路上に正座していた
すうすうして寂しかった


友人と
喫茶店で談笑しているときに
ふと彼女の髪の中に
小さい動物がいるのを見つけた
それは何か尋ねてみると
これは哺乳類の一種で
「ようせい」という動物だ
と教えてくれた
ようせいは主に街路樹に住み
人の髪に寄生するらしい
毒は無く
宿主の思考や思想を食べて生きる
宿主はそのうち
一切の思想や思考をなくすが
その代わり願いは何でもかなえてもらえる
んだそうだ
確かに友人は
高い服を着て
超いけめんの彼氏をとっ捕まえ
ふぇんでぃ
だか何だかのバッグを持っていたが
それだけだった
ただ笑うだけだった
帰り際
ようせいが要るか
と聞かれたが
いらないと答えた
そのあとユニクロに寄ったが
案外高かったので
何も買わずに帰った

シャワーを浴びているとき
髪から
いつの間に寄生したのか
ようせいがぽとっと落ちて
排水溝に流れていった

泣き虫に刺されたあとはまだ直らない
なんだか変色してきて
本当にスイッチ
みたいになっている

ムヒを買い足そうと思い
濡れた髪のままで
薬局へ行った
道々
派出所の前を通りかかった
行方不明の男女
の貼り紙が貼られていた
見つかることはないだろうと思うが



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