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夢の国

2006年08月31日 17:15


人工降雨機が
雨を降らしている
わたしは嘘みたいに綺麗な路地裏で
ぼんやりと雨宿りをしていた

この町には人間がいない
樹も生えていない
あるのは鉄や
コンクリート
セラミックス
それだけだ

あまり寂しいので
先月
わたしは人間の代わりに
犬の縫いぐるみと婚約した
にせものの指輪を
一人芝居で交換した

両親は逃げてしまった
どこにいるのかは知らない
だからわたしは一人だ

一人で
造花を庭に植え
プラスティックで出来たパンを
食卓に並べる生活をしている

縫いぐるみには
イル・デッロと名前を付けた
イル・デッロ
美男子という意味だが
滑稽な顔の犬は
だきしめても頼りないし

雨が強まってきた
外灯に火が入る
いったい誰の為だろう

わたしは路地裏から表通りへ
雨はただの水ではなくて
七色に着色された砂糖水だった
意味が無いな

そこいらに可愛い動物たちが
風船を持ってうろうろしている
ひとつ
押し付けられた
妖精に扮した着ぐるみは
わたしが握っていた五百円を
まるごと持って行ってしまった

煙草を買おうと思っていたのに
まあ自販機は無いんだけど

遠くにお城が見えた
あそこには
午前九時に来て
午後五時に帰る
王様たちが住んでいる

どこから来て
どこへ帰るんだろう
外のことはわからない

ポッケットをさぐると
百円
見つかったので
道ばたの屋台で
お菓子を買おうとした

売り子は魔女だった
魔女はわたしにそっくりな顔をしていた
おずおずと百円を出すと
百円じゃ足りません
と言ってお辞儀をした
よく見たらこれも機械だった

わたしは帰ろうと思う
美男子が待つ家に
うまくいけばこのさき
子供が出来るかもしれない
玄関先に小さい子犬の縫いぐるみが
届くかもしれない
愉快だな

外に出たら多分
傷つくんだろう

今は貧血気味だから
なるべく血は流したくない

城の辺りで
炎が上がるのが見えた
わたしはイル・デッロを膝に乗せて
今夜は派手なショーをやっているな
と思った
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ZooKeeper、っていうげえむ

2006年08月30日 03:51


ぞうもきりんもさるもわにも
わなわなふるえて
おこりはじめる

さんびき
おなじのを
かさねればいいから

だいじょうぶ

ちゃんと
ころしてあげるから

でんしおん、が
ひびいて

せいじゃく、が
おとずれる

なんれんさ、したかな

じゅうけつした、め

せいれつした
かわいいどうぶつたち

ころされちゃうんでしょう
ころされちゃって
すこあ、に
かわるんでしょう

どこかで
ないている
あれは
めざまし、でしょう

あの
しんだどうぶつの
おはか、つくっても
いいですか

しがい、が
ないから

だめでしょうか

通学風景(散文風)

2006年08月30日 03:24


ぴん、と張り詰めた心臓が、小刻みにロックンロールして、その熱が、皮膚の隅々にまでいきわたる。
ふわり、と纏われた、やわらかな繊維は、もどかしそうに、
どきどきと、動いている。

樹脂製の携帯電話は、武器のようにひかって、

ぴたり、と濡れた両眼は、何を求めているだろう。
まだ、夢を見ているみたいだ。

むきだしの手首から、あるいは脚から、自尊心と自意識とが、同時に匂いたつ。
それは、エイトフォーやギャッツビーとまざりあい、複雑に変化して、最終的には解らなくなる。

よく解らなくなる。

そのようにして毎朝、やわらかな髪質を持った人達が、未熟な骨組織を持った人達が、
革靴を軽やかに踏み鳴らし、わたしの前を行進して行く。

膨らんだ胸をかくすように、とびだした喉仏をごまかすように、荒々しく、
だけれども、繊細に。

踏み荒らされた路上には、まだしばらくは、ロックンロールの余韻が流れ、それは、簡単には消えないから、消えるわけが無いから、

わたしは思わず、笑ってしまうよ。

くく、という声は、青空に反響する。反響して、
やがて、戻ってくる。

アキコさんととーる君(連詩)

2006年08月30日 01:30



【サイドA:とーる君】

窓から吹く風に
オーロラみたくカーテンがはためいて
白いカーテンに写し出された
アキコさんの影法師が
黒く
小さく
揺れる

アキコさんは
騒がしい俗世のよしな事とは無縁と言った風情で
いつも一人
窓の外から遠くを見ている

大声で騒ぐクラスの女子たちとはまるで違うクールで大人びた、どこか神秘的な雰囲気の女の人だった

僕はずっと前から
そんなアキコさんに興味を持っていて
彼女と一緒に日直当番をする前日などは
遠足に行くのが待ちきれない子供のように
ソワソワしした心もちになり
どうにも眠れないよるをすごした

一緒に日直の仕事をこなすさいも、相変わらずアキコさんは、俗世との関わりを避ける浮き世人のような塩梅で、僕がとりつくひまなど微塵もなく、ただ時折、他人行儀で事務的な会話が
よれよれの紙ヒコーキみたいに
力なく二人の間を飛び交うだけだった。

日誌を先生に提出すれば日直の作業も終わりである。
僕がお湯でゆがきすぎたホウレン草よりももっとしなびた心持ちで、日誌にてを伸ばすと、同じように日誌を手にしようとしてしていたアキコさんの手に触れてしまった。

ごめん。僕がそういうより前に座っていたアキコさんがまるでからくりで出来た自動人形みたいにピョコンと立ち上がり

「ご、ご、ご、ご、ご」

などと漫画に出て来る人間みたいにわかりやすく狼狽してみせたので、こちらのほうがびっくりしてしまう、

ご?

僕が尋ねると、リンゴのような真っ赤な顔でうつむいて、とても小さな声で何やらゴニョゴニョと呟く

どうやら手が触れた事に付いて謝っているらしい。
あれ?
と僕は思う。

それから僕はアキコさんと色々な事を話すようになった。といってもほとんど僕が一方的に喋り、アキコさんは興味なさげな顔で例の力ない紙ヒコーキのような相槌を返す。というような事が多かったのだけれど。

時折、(例えばアキコさんは好きな人はいないのか?等と僕が尋ねると)アキコさんはあの日直の日のように真っ赤になってうつむいててしまった。
僕はそんなアキコさんを見るのが楽しくて暇があればアキコさんに話しかけるようになった。

昼休み誰もいない屋上。アキコさんがポケットから煙草を取り出したので僕はびっくりする

煙草なんて吸うのか?
と僕が尋ねると「まあね」と何でもない事のようにアキコアキコさんは答えた。さすがアキコさんだ。と変な感心の仕方をして、僕も一本だけ分けてもらう。
煙を一回肺の中にまで吸い込んでから吐き出すのだとアキコさんが教えてくれるので言うとおり煙を吸い込んだら、むせて、思いっきり咳き込んでしまった。みっともないところを見せてしまったと恥ずかしくなって隣りを見るとアキコさんも僕と同じようにケホケホと咳き込んでいた。
呆れた様子で僕がアキコさんを眺めているのに気付くと。
ね?
と、照れた顔でわけの分からない同意を求めて来たので、僕はおかしくって大笑いをしてしまう。

相変わらずアキコさんは一人っきり
窓の外を眺めている事が多い
雪のような白い肌に
夜の闇を集めたような黒髪
どこか人を寄せ付けない憂いを帯びた後ろ姿

表立ってちょっかいを出す事はなかったけど、決して自分から回りに溶けこもうとしないアキコさんをこころよく思ってない女の子達はたくさんいた
そうしてそれ以上にミステリアスな彼女にひかれる男子はたくさんいたらしく、僕の知るだけで10人以上の男が彼女に告白し、あえなく玉砕したらしい。
口さがない女の子達の噂話いわく、
「年上の大学生と付き合ってて、高校生などガキっぽくて相手にしない」だの
「大人しい顔して、大人の男性と遊びまくってる」
だの。
それは悪意に満ちた中傷に過ぎないけど、アキコさんに好きな人がいるというのはきっと本当なんだろう。

「好きな人はいないのか」と僕に問われて真っ赤になってしまったアキコさん。それはつまりそうゆう事なんだろう。

アキコさんが思いを寄せる男の事を思うと
胸の中が真っ黒に染まっていく

退屈な授業中。
背中に誰かの視線を感じて振り向くとアキコさんと目が合う。
僕と目が合うとアキコさんはすぐに目を逸らして真っ赤になってうつむいてしまう

アキコさんは
クールではないし
大人びてもいないし
ましてや神秘的でも何でもない

クラスの誰も知らない

子供っぽく
真っ赤になって照れる
可愛らしい
アキコさん

それが僕だけのものにならないのがどうしてこんなに辛く苦しいのか判らない。

アキコさんは笑う。
無防備に。
照れたように。

僕も笑う
少しだけこわ張って
叶う事も、
報われる事もない
暗黒の気持ちを抱えたまま

「あいしてる」

決して届かない気持ちを抱えたままで

作者:秋島さん
http://m-pe.tv/u/page.php?uid=aki5031&id=1&PHPSESSID=e58a31bf545252cb876

【サイドB:アキコさん】

ラズベリーの匂いがした
いや
ブルーベリーだったかもしれない

教室に入ってきたとーる君のシャツは真っ白で
ホモジナイズされた牛乳のようで
わたしはくらくらしてしまう
フェロモン
ドーパミン
過剰分泌

とーる君は魚のように引き締まった体と
黒真珠みたいな眼を持っていた
一緒に日直をやると
わたしはいつも黒焦げになった
精神的に

とーる君の身体からはきっと
レーザー・ビームが出ていたんだろう

放課後の教室で
廊下で
階段で
とーる君はよく喋った
たまに煙草をすった
二人で
同じライターで

保健体育で
発毛について習ったとき
わたしは斜め前のとーる君を
どきどきしながら見つめてしまった
とーる君の
柔らかに発毛している場所を触りたい
という狂おしい切望
とーる君が振り向いたから
慌てて眼を伏せた

じゅ、
と額が焦げた

あれは
二学期の終わり
夕暮れの土手だったろうか
生理痛に耐えながら帰宅していたわたしは
とーる君の気配を感じて振り返った
実際
あの頃のわたしには
一キロ先からでも
とーる君の気配を
察知できる能力があった

確かに
とーる君は歩いていた
長い睫毛を伏せて
少々 前傾気味の姿勢で

ずいぶん綺麗な花束を持っているな
と思ったら
それは華奢な可愛い女の子なのだった
脊の低い白銀色の雛菊
みたいな

とーる君の骨張った左手は
彼女のまろく膨らんだ肩に回されていた

とーる君の真っ白いシャツは
彼女のほそうい腰と密着していた

込み上げてくるものを感じたので
二人が顔を上げる前に
わたしは土手を駆け降り
川べりにしゃがんで吐いた
何度も

涙が止まらなかったが
それはきっと嘔吐のためだろう

二人が後ろを通りすぎるとき

ラズベリーの匂いがした
いや
ブルーベリーだったかもしれない

すべてが完全に終わったとき
わたしはブレザーのポケットから
よじれたマルメンの箱を取り出して
立て続けに五本すって

あいしてる
三回呟いてみる

二回は心のなかで
一回は口にだして

わたしの
あいしてる
は空中に暫く漂ったのち
跡形もなく消えていった

苦笑しながら土手をあがると
子宮がぎゅ、
と音を立てて縮んだ

※ホモジナイズ

均質化すること
特に、乳成分の粗い粒子を砕いて消化しやすくすること

作者:吉田群青

美味しいパスタのつくりかた

2006年08月28日 21:54


高まってゆく水道水には
塩をたっぷり
海と同じ濃度にしてください

これは
なるべく悲しいことを
思い出しながらする仕事です

海がじゅうぶんに熱くなり
お箸をもつ手がふるえだしたら
一気にぱらぱらと
放射線状に麺を沈めます
それはきっと
よくよく乾いた
冬の光線みたいに見えるでしょう

お箸は
百円のやつで大丈夫です
百円の
鮭の絵が描いてあるやつで
安物のお箸は軽薄だから
海には軽薄なものがよく似合うから

ごくかろく
掻き回してください

やがて
銀の海の底からは
小さな音楽が聞こえるでしょう

よく乾いた緬が
りゃんりゃん
やわくなってきた証拠です

それはお箸と共鳴します

ちょうど弦楽器のように

音楽はだんだん大きくなります
気泡がワルツを踊ります

それは短調と決まっています
マイナーコードの
鬱々としたワルツ

そのとききっと感極まって
あなたは泣いてしまうでしょう

流した涙の一粒が
ほたり
と下に落ちたとき
それがアルデンテの頃合いですから

慎重にざるにあけてください

シンクが
ごぼっ
というかもわかりませんが
心配は要りません

それは下水管にすむ魚が
降ってきた海に狂喜して
踊り狂っている音

いったいパスタという料理は
寂しい人に似合う料理です

恋人が帰ってこない人や
飼っていた文鳥が死んだ人
誰かに怒られたばかりの人
なんかが
しゅんとしてしゅるしゅる食べる料理です

幸せな人に美味しいパスタは作れません

フォークを見つめる網膜が
すこし青みがかっているような
凪いでいる人に
ふさわしいんです

夏の終わり

2006年08月28日 14:00


秋が
小さな箱に入れられて
公園の真ん中に落ちていた
箱は少し茶色がかった
ごくやわらかな
びろうど

箱のまわりにだけ
つめたいつむじ風が渦巻いている

待っているのだろう

誰かの指で開かれるのを

夏が
嫉妬のようにじりじりと
最後の攻撃を仕掛けてくる
ひふが
どうしようもなく妬けて

わすれないでね
毎日
おもいだしてね
と囁く声

わたしはそっと箱をひらって
細い指で蓋を押し上げた
何だか
ぐみの匂いがしたようだ

背後では
夏が
悲鳴をあげて流れ去ってく
すみやかに
かつ
確実に

ばいばい
なかないでね

向こうの森で
蝉が
豪雨みたいに死んでゆく

信長

2006年08月28日 09:15


地下鉄千代田線
北千住駅で
線路をみつめて立っていたら
ふと血のにおいがした

振り返ると
背広を着て
髪を後ろに撫で付けた
織田信長が
おろおろしながら立っていた

一人ぼっちで

つい溜め息をついてしまう

信長

いまはもう2006年で
濃姫も猿も死んでしまったよ
弟を殺すなんて当たり前で
誰も彼もがいつ死ぬか解らないから
怯えて暮らすしか無いんだ

住宅は密集して
土地なんか無くなってしまったよ
人はみな
小さな城を持ってはいるが
居場所がないんだよ

目茶苦茶だよ
なにもかもが

信長

飛行機がどんどん墜落して
毎日何十人も人が死ぬよ

墜落しなくても何百人も死んでいく

飢えで
病気で
絶望で

信長はあたりを見回して
ただぶるぶると小さくなっている

さびしいんだろうか

轟、と音を立てて
電車が来たので乗り込んだ
車内は中程まで詰めた人で満員だったので
ドアー前のわずかな余白に
無理矢理体を押し込んだ

発車ベル

解らないんだろうか

信長は
電車に乗らなかった

動き出すとき一瞬
眼が合った

よく見たら信長の両手には血がついていて

また誰かを殺したんだろうか

わたしは
真っ暗なドアーにもたれ掛かって
後ろに去ってゆく信長を
見送った

それから眼を閉じて
忘れた

おや
どこからか
サイレンの音が聞こえる

明日は缶の日だ

海辺にて

2006年08月27日 11:27


海辺で
君に似た貝をみつけた
うまく言えないけれど
ぎざぎざしているところや
わづかに緑色なところが
似ているな、と

わたしはそれを
しばらく掌で弄んでいたが
不意に疎ましくなって
海に向かって投げ捨てた
放物線を描いて
死んでいったよ
波が洗ってくれた
跡形も無く
心配は要らないだろう

君はまだ暗い瞳で
うろうろ徘徊してるだろうか
裏路地
十字路
あの汚い街を

君にいい人が見つかりますように
祈ったが
神様くらいの人でなきゃ
君には合わないだろうな
と解っていた
何となく笑える

夕日に八重歯が光ったよ

悲しい悲しいお話です

妻の話

2006年08月27日 06:36



最近
妻が出来た
嫁を娶ったのではない
わたしは女であるから

正確にいえば
嫁の方から勝手に来たんである

或る夜のことだった
四百円を手にちゃらちゃらさせながら
煙草を買いに行った帰り道
ついてくる女があるな
と思った
女は角を曲がっても曲がってもついてきて
とうとう家にまで上がり込んで来た
それが妻であった

妻は玄関口で礼儀正しく腰を曲げ

わたくしはあなたの妻です
何なりとお申し付け下さい

と言った

正直
白痴かと思った

一応
言葉を尽くして
わたしは女だし
とか
恋人があるから
とか
法律的には
とか
色々言ったのだが

いいえ
わたくしはあなたの妻です

の一点張りで
埒があかぬので諦めた

好きにしろ

と言い捨てたら
妻は嬉しそうな顔をして

はい

と靴を脱いだ

ぴかぴかとよく光る
きれいな靴だった



妻とわたしは毎晩おなじ布団で眠る
望んでそうしているわけでは無い
布団が一組しかないからだ
毎晩
妻は洗いものを済ませてから
するりと横にすべりこんでくる
黙っていると変なことになりそうだから
妻が眠るまでは
お話をしてやる
わらしべ長者とか
ジャックとまめのきとか

一度
宮沢賢治の『猫の事務所』を読み聞かせたら
涙をこぼして

かまねこがかわいそう

と言ったので
なるべく愉快な話をするようにしている

妻がわたしに
性欲を感じているかどうかは知らない

妻の体からは何か甘い匂いがする

ときどき
意味もなく胸が騒いだりもする



恋人が遊びに来た
妻を見て呆然としていた

三人で仲良くやっていこうよ

と言ってみたら
腑に落ちないような顔をしながらも

うん

と頷いた

妻は鼻歌をうたいながら
シュークリームを焼いていた

らら
とららら

恋人は黙りがちで
妻がわたしを

あなた

と呼ぶたびにびくっとしていた

妻は朗らかに恋人に話しかけ
珈琲をすすめた
変な光景だった

恋人が帰ったあと
二人で洗いものをしていたら

楽しい方ね
また来て下さるといいわね

と妻が言った

横顔が一瞬
鬼のように見えたが
見間違いだったろうか

嫉妬をしていたんだろうか



恋人から電話がかかってきた
妻は夕食の買い物に出ていて
わたしは太宰か何かを読んでいるところだった

電話は四十五分に及んだが
恋人が主張したのは一点のみだった
すなわち
妻と別れて欲しい
何故なら俺には君達が理解できないから


『斜陽』では弟が自殺したところで
山場だった
早く読み進めたかったので
折り返し電話することにして切った

枕に顔を埋めると
妻が柔軟剤を変えたようで
ふかふかと花の匂いがした
恋人にはそれきり電話しなかった

夕飯は厚揚げだった



妻がわたしを呼んでいる
行ってやらなければならないので
このお話はここまでにしよう

妻はとても小さいので
棚の上のものを取るのに
いちいちわたしを呼ぶのだ

顔について書くのを忘れたが
特に重要ではないだろう

妻は今日
花柄の浴衣を着ている
一緒に花火大会に行くのだ

あなたは脊が高いから
男ものを着てください

等と言っていたが

そうだ
りんご飴を買ってやろうかな

呼び声が一段と高くなる

わかったよ

今行くから

ミッ●ーとミ●ー(合作)

2006年08月25日 04:06


【ミッ●ー】

くだらない本文で
件名がやる気を失せるように

並べられた煮魚の口癖に
あらゆるものの不完全さを知るように

死ねと言った口先で
愛していると言うように

人のもつ価値観は
人それぞれ違うようだ

当たり前すぎて
面白みが無くて

ミッ●ーが喋る度に
とてつもない吐き気がしたようだ

FROM
遥さん
http://01.xmbs.jp/kuroiguitar/

【ミ●ー】

熟れてゆく水玉の
薄い生地の向こうに
夜がくる

禁煙なんて
つまらないな

無機質なふりるでターン
ポップ・ミュージック
エナメルの靴が光る
わらってよ
セックス・アピール
なんて
しなくていいから

あまあい
メープルシロップの香り
胸が悪くなりそうだ

ミ●ーが
手を振っているが
幻覚みたいだった

FROM
吉田群青

肋骨の利用方法

2006年08月24日 03:57


君の
わづかに湾曲している
右側の肋骨
上から三本目
其れはわたしのものだ
そう決めた
昨日

君を
人間を
かんぜんに所有するのはかなわないから
肋骨一本ならバッグに入るから

叶うなら
わたしは其のカルシウム組織の上に
王国を築きたい
高い城壁に囲まれた
堅牢なやつを
そして裸足で寝そべって
いつまでも血管や筋肉の空を
見つめ続け
さみしくなったら
要らなくなった赤血球を
持ってきて玩具にして
あそぶんだ

だから其の一本はわたしに頂戴

其れ以外の肋骨なら
みんな誰かにくれちまっても構わないから

君がわたしを
路傍に捨て去るときがきたとしても
脇腹から抜き取って貰ってゆく
わたしのだからね

そのときは
犬のようにいつまでも
腹の下に埋めておくよ
ときどきは取り出して
舐めるかもしれない

そうしているよ
死ぬまでずっと

狂っているのは
もう随分まへからだよ

やさしい人とわるい人

2006年08月24日 02:57


やさしい人は淘汰されてゆき
やがてみな
居なくなってしまう
魚がひっそり
海底で死を迎えるのにも似て
波がゆわゆわ
干いてゆくのにも似て

電線が空を分割し
切れ端のそれから弱く雨
わたしは道端で濡れてゆく
全く泳げないが為

外灯のテレビジョンがまた
やさしい人が殺されたことを告げる

通りすがりのわるい人が
わたしの腰椎を抱き
接吻を繰り返し
わたしの体内には
剥離したわるい人の細胞が
流入して

やさしい人は
たすけてくれない
最初からずっと

わたしは口をぱくぱくしながら
溺れてゆくしか能が無い

夜が始まるから
わたしはわるい人に進化する
しか無い

不可解な熱帯夜

2006年08月23日 02:21


靴を履いていたら
うしろから恋人が
眠たげな声で
何処へ行くの、
と尋ねてきた

わたしは鍵を握りながら
すっかりどぎまぎしてしまう
さあ何処へ行くのだろうね、
わたしは
こんな夜に何をしに行くのだろうね、

俄かにこわくなった

ドアをあけたら
外は湿気と性欲で満ちている
踏み出すと嫌なにおい
白いワゴンが止まっている

わたしは
何処へ行くんだろうね、
性欲をまつわりつかせたまま
心持ち上を向いて呟いたが
ちっとも解らなくて
星も出ていやしない

どこかで猫か
赤ちゃんが泣いてた
ひどい熱帯夜だった

リアルのめろんぱん

2006年08月22日 10:57

夏の夜
アスファルト
息絶えた世界

わたしはコンビニ帰りだった
ビニル袋は蝉の抜け殻じみた音を立て
中にはめろんぱんが入っていた

白線を辿りながら歩いてゆくと
おんなのひとのソプラノ
が聞こえた
耳を立てて聴き入ったら
それはソプラノ
ではなくて
オルガン
の音だった
誰かがG線上のアリアを弾いているんだ

まるい濃密な音が
夜空にしゃぼんのように
完全な円形をたもってのぼってゆく

円形を追い掛けてゆくと
駅のちかくのぼろアパートの前に出た
一階の右端の部屋
カアテンが少しひらいていた
覗き込むと
長方形の身体をした男の人が
オルガンのまえに坐っていた
かれが窮屈そうに鍵盤を押すと
海の香りとともに
透明な音符が生まれ出ずる
瞳がうす青く見えた
悲しんでいたのかもしれない
蛍光灯の
大きいほうの輪っかが切れていた

その部屋には
何か息苦しいものが充満していた

リアル
だったのかもしれない
生々しい程の

わたしは
そっと窓から離れて
三十歩ちょうど歩いた

三十歩ちょうど歩いた地点で
立ったままめろんぱんの
プラスティックの袋を
ひっちゃぶいて噛った
ほろほろと唇で崩れた生地は
全然めろんの味じゃなかった
もっとにがい味だ

リアルと化学反応したのかもしれなかった

オルガンは続いている

恋をしているのかもしれなかった
わたしもかれも

前進したら
敷石につまづいた
転倒した瞬間
ぴたりとオルガンは止んだ
柔らかなおなかのしたで
リアルのめろんぱんは
しゅくっ
つぶれてしまって

やわらかな樹

2006年08月22日 10:09


太陽は燃え盛り
半ばとろけて
蜜柑味の水飴のようです

しかし
それはすべての動物を殺傷します
殺傷し滅菌し漂白するのです
甘いべとべとした光のシロップで

わたしはびしょ濡れた
重い身体を晒します
鎖骨がきらり
光りました

皮膚は瞬く間に乾ききって
薄皮のしたの繊細な細胞は
とめどなく光合成してゆきます

葉脈が静かに波打って
わたしは酸素を排出します
意思とは裏腹に

つめたい
清浄な
指先から
つまさきから

とほくに
死んだ動物が見えます
累々と重なった死骸は
混凝土の一部と化し
やがて真夜中に蘇生するのでしょう
月の光をあびて

二酸化炭素は苦く舌先を焦がし
わたしはついに樹へと進化します
やわらかな樹です
瞼をとじた

蜜柑のにおいは
風鈴の音とあいまって
なんだか冗談みたいにうつくしいのです

ぷらねたりゅうむ(改訂)

2006年08月22日 04:18


漂白されたかのような
真っ白いドームです
機械がこはく色の星を
次々にうつします

どうも変なんです
だって誰もいないんです
こんなのは厭なんです
せめて誰かいてくれないと

とことこ
心臓が振動し
星座はこぐま座です
わずかに笑ったこぐまが
偽の夜空いっぱいに開きます

手が行き場をうしなって汗ばみ
骨が順当に重力に引っ張られ
ぽきぽき
吐息を漏らします

厭なんです
係員も警備員も
どうして誰もいないんでしょうか
ねじが軋む音
ぐるり
こぐま座
ぱちん

ああ
きっと此処は
わたしの頭蓋のなかなんです
呟いた途端に電気が消え
闇です
厭です

座席はさっきから
あんまり冷たすぎるのです

露出した銅線

2006年08月22日 01:36


わたしの中の
幾本ものほそい銅線が
咽頭から飛び出して
熱くなっている
それは
赤銅色の
鈍い火花を散らし

くるくる
人差し指で
蝶々結びにしてしまうと
咽頭に可愛いアクセント
何回やっても縦結びになってしまうから
結局ほどいてしまったけれど

家庭の医学をひらくと

―まれに咽頭から銅線が露出する場合があるが、それは病気ではなく本心のあらわれ。

と載っていた
その箇所に赤鉛筆で
ゆるやかなアンダー・ラインを引いた
手がふるえていたから
線は血管みたいに
曲がったけど

本心のあらわれか
銅線はふあふあ揺れている

強く引っ張ったら
痛みもせずに
ずるりと抜けてしまった
それはあんまりにも
あっけない手応えだった

数えたら銅線は四本で
赤と黒と黄色と白
一メートルくらいだろうか
先端に何か付いていたので見ると
小さい小さい姫林檎だった

わたしの本心は
姫林檎から成っていたのか
はは


すこし笑ってから
燃えないごみに捨てた

燃えないごみの日は
いつだったかな
考えたが
思い出せなかった

からだが冷えてゆくのがわかる

いや

わからない

何も

ろまさん(改訂版)

2006年08月22日 00:48


ろまんちすとの、ろまさん
という人が居た

ろまさんとわたしは
高校生のときに知り合った
夢想しているような人が窓際にいるなあ
とわたしは思い
それと同時にろまさんも
詩人のような人が廊下側にいるなあ
と思っていたらしい

実際に
ろまさんはよく夢想した
箸を可哀相な恋人達
机を茶色い王国
学生鞄を氷の牢屋
教科書を温かなバウムクーヘン
とそれぞれ呼んだ

しかし何故か
女の子の上に夢は描かなかった
ろまさんは勉強が物凄くできたが
女の子にはもてなかった

しかし高校二年の春
そんなろまさんにも恋人ができた
彼は恋人を
まだ青いうちに摘まれた苺ちゃん
と呼んで得意げに笑った

ろまさんと苺ちゃんは
ぴったりの組み合せに見えたのだが
どうしてか
どこかが痛々しくて正視できなかった

それを指摘しても
ろまさんは

そりゃあそうだ
僕たちは言わばまだ光らない一番星だからね

等と解らないことを言うばかりで
ろくに耳を貸してくれなかった

ろまさんの夢想は
その頃にはもう
現実に即さない
意味不明のものになってしまっていた

余程うれしかったんだろう

それから半年ばかりして
苺ちゃんが妊娠した

ろまさんは眼を充血させ
どんどん痩せていった

多分おれの子供じゃないんだ
とだけ言って

ろまさんは
最早ろまさんではなかった
ただの狼狽する男の人だった

それから苺ちゃんは
高校に来なくなった
ろまさんも
早退ばかりするようになって

いよいよ臨月だった

それは神無月
ろまさんとわたしが初めて会ったときのような
すかん、と晴れた日だった

ろまさんが死んだ

屋上から飛び降りたのだ
くつをきちんとそろえて

遺書は無かったそうだ

わたしはお葬式に行かなかった
そのかわり
ろまさんが飛び降りたのと同じ高さのビルに上がってみた

神様はみんな
どこかへ行ってしまったから
今ここには居ない
ということが何故だか強烈に実感できた

わたしは
ろまさんのことを考えなきゃならないのに

だけど思い出せなかった
ろまさんがどんな男の人だったか
においもかたちも声すらも
もう随分とおいところへ行ってしまったんだろう

そりゃあそうだ
僕たちは言わばまだ光らない一番星だからね

呟いてみたら
とほくから
赤ん坊の泣き声がした
苺ちゃんだろうか
呼応したんだろうか

風がひゅ、と吹き抜けて
ろまさんの面影を完全に持ち去っていった

夢想だなんだ
言っても
ろまさんは結局
性欲のある普通の男の子だったなあ
思って
唾液を一度吐き捨てた
唾液は足元に
幽霊
みたいな形を取って広がり
やがて揮発した

ろまさん

2006年08月20日 08:18


ろまんちすとの、ろまさん
という人が居た

ろまさんとわたしは
高校生のときに知り合った
夢想しているような人が窓際にいるなあ
とわたしは思い
それと同時にろまさんも
詩人のような人が廊下側にいるなあ
と思っていたらしい

ろまさんはよく夢想した
箸を可哀相な恋人達
机を茶色い王国
学生鞄を氷の牢屋
教科書を温かなバウムクーヘン
とそれぞれ呼んだ

しかし何故か
女の子の上に夢は描かなかった
ろまさんは勉強が物凄くできたが
女の子にはもてなかった

しかし高校二年の春
そんなろまさんにも恋人ができた
彼は恋人を
まだ青いうちに摘まれた苺ちゃん
と呼んで得意げに笑った

ろまさんと苺ちゃんは
ぴったりの組み合せに見えたのだが
どうしてか
どこかが痛々しくて正視できなかった

それを指摘しても
ろまさんは

そりゃあそうだ
僕たちは言わばまだ光らない一番星だからね

等と解らないことを言うばかりで
ろくに耳を貸してくれなかった

ろまさんの夢想は
その頃にはもう
現実に即さない
意味不明のものになってしまっていた

余程うれしかったんだろう

それから半年ばかりして
苺ちゃんが妊娠した

ろまさんは眼を充血させ
どんどん痩せていった

多分おれの子供じゃないんだ
とだけ言って

ろまさんは
最早ろまさんではなかった
ただの狼狽する男の人だった

それから苺ちゃんは
高校に来なくなった
ろまさんも
早退ばかりするようになって

いよいよ臨月だった

それは神無月
ろまさんとわたしが初めて会ったときのような
すかん、と晴れた日だった

ろまさんが死んだ

屋上から飛び降りたのだ
くつをきちんとそろえて

遺書は無かったそうだ

わたしはお葬式に行かなかった
そのかわり
ろまさんが飛び降りたのと同じ高さのビルに上がってみた

神様はみんな
どこかへ行ってしまったから
今ここには居ない
ということが何故だか強烈に実感できた

わたしは
ろまさんのことを考えなきゃならないのに

だけど思い出せなかった
ろまさんがどんな男の人だったか
においもかたちも声すらも
もう随分とおいところへ行ってしまったんだろう

その日は結局
うまいこと泣けなかった

それから幾年も経って
ろまさんが昔話になった頃に
わたしは街で偶然
苺ちゃんを見た
苺ちゃんはもうすっかり完熟していて
ろまさんにどことなく似た旦那さんと
小さいろまさんを連れて
楽しそうに歩いていた

なんという悲劇だろう
あれは
ろまさんの子だったんだ

その夜わたしは
ろまさんの為に初めて泣いた

死ぬことなかったじゃないか

とか

ろまさんが
りありすと、ならよかったんだ

とか思いながら

ろまさんの墓は母方の実家がある
島根に建てられているらしい
十月になったら
神様と一緒に
会いに行こう

そう思って
泣き腫らした眼で
手を合わせた

煮魚

2006年08月20日 02:12


生姜をたくさん入れてしまおう
お葱もたくさん刻んでしまおう
お酒と醤油を注ぎ入れ
玉杓子でぐるぐる
かきまわす
沸騰する世界

ぎらりと光るでしょう
ステンレス色した
あれは魚です

尾鰭や背鰭をむしり取られた
可哀相な
あれは魚です

煮汁に溶け出すあぶら
最期に何を見たんでしょうか
流線型のからだを翻して
涙をためた眼で

もうもうとあがる湯気は
海の匂い
わたしは黒い前掛けをつけて
魚の葬式をやっているんです
シンクに落ちた骨は
くずかごに埋葬してやるんです

ぱちんと瓦斯を止めて
煮魚はいま
出来上がりました

健康な歯で
むちむちと
いただきましょうか

にんげんのかなしみ

2006年08月20日 01:42


誰かが、紙飛行機を飛ばしたのだろう
道に白銀色の鳥が
いっぱいに落ちて、いる
直角に尖った角が、かさかさして

そのうちの、ひとつを
戯れにひらくと
零点の答案用紙だった

問十、
この作者は何を言いたかったのでしょう
解答、
『にんげんのかなしみ』
の上には、ばつ印がついて

赤い鉛筆で
『じんせいへのきぼう』
と訂正されていた
のを見て
わたしは頭がくらくらして

あたりは、もう
琥珀色の夕暮れだった

どこからか
こどもが、しくしく哭く声がしたよ
気のせいだったろうか

うまれなかった弟の話

2006年08月19日 01:06


日曜日
うまれなかった弟が訪ねてきて
透き通った声で
おねえちゃん
と言った
わたしは胸がどきどきして
うまれなかった弟を部屋に入れ
おみそ汁やごはんをあげた
食べなかったけど

ラヂオからはFMが流れ
住宅街からお布団を叩く音
光が射していて
空はシックな青色だった

うまれなかった弟は
そのうち消えて風になり
白いうずをまいて
窓の隙間から去った

わずかに甘いにおいがした
産院のにおいだろうか
死産だったらしいから

お茶碗を片付けながら
わたしは眼を細めてしまう

ぜんぜん似てなかったな
と思いながら

沈む携帯電話

2006年08月18日 08:36


三本が二本になり
二本が一本になり
ついには何も無くなったとき
わたしは夜に押し込められます

月は出ていません
淋しくて窓ばかり見ているのです
月は出ていません

床は固く背骨を冷やし
頭だけ妙にはっきりして
秒針の音がする
いや
それはソラミミです

そこここで寝息が氾濫し
いつのまにかあたりは海です
寝息の海
安らかでどこか心許ない

わたしは流されないように
しっかり何かを掴みました
手にかちりと馴染んだそれは
壊れた携帯電話でした

わたしは沈んでゆきます
右手から徐々に
月は出ていません、
でした

漂泊剤の痕跡

2006年08月18日 02:57


指先がいつまでも
ぬるぬるしているから
漂泊剤によって皮膚が溶けている
ってことに気がついた

皮膚とは簡単に溶けるものだね
まるで砂糖のようで

でもちっとも甘くないのは知っている

今夜わたしが触ったものには
きっとわたしの痕跡が
べとりと付着しているはずだ

おちゃわんにも
ふきんにも
どあーにも
君のくびすじにも

中指と人差し指の
丸い痕跡が
べとりと

部屋中が苦く香るのは
多分そのためだろうよ

今日と明日と細胞分裂

2006年08月18日 00:12


東から西へ太陽が動いてゆく
その一瞬のあいだに

今日は粉々に拡散し
わたしの頭蓋へ
すっ、と吸い込まれ
やわらかに
おさまってしまう

明日があの森の中から
或いは
遠く離れた井戸の中から
濃霧のように
じょ、と拡がって
それは
きらきらした粒子のように見え
呪いなのか救いなのかは知らない
ただ
じょ、と

わたしは何を泣くんだろう
太陽はまんまるのカステイラみたいだし
夏草の熟れてゆくにおい
木は枯渇に向かい疾走し
煙草だってまだたっぷりある
すべてが揺るぎないのに
何を泣くんだろう

細胞が
ぷち、
爆ぜる音がして
泣きながらわたしは
そこをおさえた

思いの外
指は頼りなくって
細胞分裂が止まらない

おさまった今日が
頭蓋でどきどき
している

幽霊のこども

2006年08月16日 09:12


この頃は
なんだかずっと雨続きで
死んだ人のことばかり思い出すのです

死んだ人は
堅く冷たい灰色のお墓の中から
夜な夜なわたしを抱きしめに来ます

液晶画面が
半永久的に明滅しているわたしの部屋で
死んだ人の顔は安らかに見えます
指がやさしく前髪をかきあげて

どうやら妊娠してしまったようなのですが

わたしは幽霊のこども等うみたくありません

雨のためか
庭の木々は怖いくらいに育ちました

死んだ人はただにっこりして
わたしを抱きしめます

透き通った腕
静脈
クリオネに似て

なんだかわたしまで
幽霊になっていくようで

携帯電話をひらくと
びーびーえす
何を書き込めば良いのでしょう

もうじきわたしは消えてゆくのに

文字はジャスミンのにおい

2006年08月16日 03:39


てのひらを丸めると
そこには闇が満ちて
冷たい

外出すると
靴のうらや背中や鎖骨のあいだに
言葉がいっぱいに貼りついてくるから
一文字ずつ丁寧に剥がして
てのひらに握るのだ
ひくひくと動く文字は
生きているみたい
生きて
わらっているみたい

わたしは文字をほぐして
紙に配置して詩にしたり
かみ砕いて食べてしまったり
においをかいだりする

充分たのしんだらトイレに流してしまう

トイレにはしばらく
ジャスミンのにおいが漂い
やがて消える

余韻

てのひらの闇は
相変わらずそこにあって

それは膨張しつづけ
やがて収束するのだろうか
それともだんだんに皮膚を侵してしまうのだろうか

鼻をちかづけると
ジャスミンにまじって
苦いにおいがした

多分それは
死の
あるいは
宇宙の

においでしょうね

たすけてほしいだけだった

2006年08月16日 02:57


笑顔がかわいい
とか
いいにおいがする
とか
真面目
とか
かしこい
とか

どうしてこの人は
嘘ばかり言うんだろう
と思った

冷蔵庫にはプリンがひとつ
淋しそうにうずくまって

強烈なさみしさが
ゆっくり肺に浸水してゆく

けど

どうしようもない
って知ってた

すーぱーまーけっと

2006年08月15日 23:49


さざ波のように
そわそわと
長方形の面積いったいに
人が広がり
寄り添い離れてゆく

さまざまな形の手
腕が伸びて浮遊する
まるで風に吹かれる稲みたいだ
まだ青い、フレッシュな稲

子供が走って来て
わたしの腰を抱きしめ
オカーサン、
と言った
つむじのあたりから
シッカロールの匂い

わたしはなるべく優しく
違うよ、
と言ったが
露呈してしまったかも知れない
子供嫌いだということが
その証拠に子供は
つまらなそうに
ぷい、と去ったから

あの年齢でもう
性欲がめばえているのかな
すげぇな、
と思って見送った

藍や青や白の布きれが揺れて
すこしだけ生暖かい風が起こる
笑い声や怒声が響き
まるで縁日だった

わたしはぼんやりとしながら
荒い息で恋人を思う

硝子越しに橙の大きな月
夏みかんみたいに

自我のめばえ

2006年08月13日 20:21


むかし
保健体育か何かで
【自我のめばえ】について習ったことがある
何でもそれは
思春期に必要不可欠なものなんだそうだが
わたしは授業のあいだずっと
唇を噛み締めるのに精一杯で

内側で戦っていたんだった
確か
凶暴な自分と
あたり一面は荒野だった

もうとっくにめばえていたのだ
あれを【自我】と呼べるなら

実際のめばえは
【自我】なんて易しい言葉で表現できるほど
甘いものじゃございません

って
あのとき先生は
どうして
教えてくれなかったのかな
大人は忘れてしまうのかな

唇は柔らかかった
わずかに甘かった
血の味だったかもしれない

あれから何年も経って
ふと
朝起きると
自分が二人に分裂していた
わたしの隣で眠るわたし

ほんのすこし笑っていて
傷だらけだった

わたしは
わたしを
起こさないようにそっと身支度をし
軽くわたしに口づけた
相変わらず唇は
柔らかくて

それから迷わず靴を履いて
まっすぐ家を出た

そうしてそれっきり
二度と
帰らなかった

どのみち相入れないのなら
どちらかが消えるしか
ありません

でしょう?



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