2009.06.29
短歌くさい
☆自然編
・
へたへたとあるいていますさんだるで
まなつ、みどりのくうき、じゃすみん
・
がいとうのしたでみどりがさわぐよい
やはりおまえも、よるはこわいか
・
なんごくのごくらくちょうよきみたちは
こんなよるにはなにをうたうの?
・
ろじょうにてらっぱのおとをきいたので
ふりかえったらゆりがさいてた
・
ほしぞらに ぎんがてつどう はしるよる
ちら、とだれかがよんだきがした
☆自分編
・
わたくしのあたまのおくにかくれてる、すぱなをもったきょうぼうなひと
・
ねえきみをたべちゃいたいよあたまからほねまでぜんぶのこさずぜんぶ
・
かみのけがはらりはらりとぬけおちる、ああわたくしも老いている、いま
・
えんぴつでなまえじゅうしょとたんじょうびかきかべにはるわすれないため
・
わたくしは、ここでうまれていきていて、そしてさいごはどこへゆくのか
コメント0
2009.06.26
詩と呼べるのかどうか。
6月×日
すれ違う女子の肌の露出具合に夏を感じる。
中でも白く細く長く、全く以ってすばらしい脚をした女子に暫時つきまとってみる。通報されそうになりやめる。
そのあとふらふら歩いていたら、さっきのすばらしい脚の子がぺとんと転んでいるのが見えた。
あ、と思って眺めていると、すばらしい脚の子は、どこからかわらわら駆け寄って来た男子たちに、脚から何から全部持っていかれてあっという間になくなってしまった。
あとにはその子がつけていた、蝶の形の髪留めが落ちていて、風に吹かれてかろかろ云っている。
男子たちはあれをどうするのだろう。夢中になって食べるのかも知れない。あれはたしかにすばらしい脚で、お菓子みたいにおいしそうだったものなあ。
6月〇日
サンショウウオから電話がかかってきた。
電話が鳴ったので、受話器をとって耳に当てたら、
わたくし、サンショウウオと申します。
と言ったのだ。本物かどうかはわからないけれど、とてもいい声をしていた。
何の御用でしょうかと尋ねると、どうかわたくしの棲みかに来てほしいのです。あなたはまったく魅力的な雌の顔をしております。と言う。
はあ、わたくしは人間でありますが、と言うと、ええええ、まあそうでしょうとも、大概はね、と言う。わたくしは泳げませんので、水の中には行かれませんと言うと、私は陸の上にあがることもできます。わずかな時間ですが。と、どうも諦める様子がない。
とにかくわたくしは異種と交際するつもりはありませんので、ときっぱりと断わりの口上を言って電話を切った。
以来、サンショウウオからは、三日に一度の頻度で電話がかかってくる。わたしに交際する気が全然ないのを知ってか、今日はいいお天気で大変結構でございました、とか、池の水は澄んでおります、とか、当たり障りのない世間話を、いい声で少し喋って、電話を切るのである。
国語辞書で調べたら、サンショウウオは一般には百年生きると云われているらしい。困った。もしそうだとしたら、死ぬまで見守られてしまう。
電話が鳴る。どきんとする。
この頃では、サンショウウオの棲みかに行って、あのぬめりとした肌を触ってみたいような気もするのである。
全く以て、世知にたけているなあ。さすがは両生類である。暑い日だ。空を見上げる。池の水は澄んでいるらしい。
6月△日
すっかり熟したトマトやはち切れそうに水を含んだ胡瓜やつぶつぶと骨の色をした玉蜀黍など、この頃の野菜類はむっちりとした人の手足のような形をしている。
気持ちの凶悪な夜などに、台所に立ち、すこんすこんと切り刻むと、切り口から透明な液がたくさんにじみだしてきて、包丁もまないたも指も、みんな濡れてしまう。まるでひどいことをしているような気持ちになる。ふ、ふ、と息を荒げながら続ける。気持ちが穏やかになるまで続ける。
そのあと、切り刻んだ野菜をぶきぶきと噛み砕く。青臭いにおいがくちいっぱいに拡がる。塩もドレッシングもかけずに、これはあのひと、これはあのひと、と呟きながら、そのまま全部食べてしまう。
台所の薄暗い灯りの中で、歯がいつもよりとがったわたしは、獣の顔をしているに違いない。
どうせならそのまま獣になれたらどんなにか楽だろう。溜息をつく。
月が蒼い。夜明けはまだ遠いらしい。
月刊 未詳24 2009年7月第28号 投稿
コメント0
2009.06.26
一応ごーしちごー
・
死にたがる君の頭上に夏きたる
・
青葉闇ふとみずからを見失う
・
向日葵のぶきりぶきりと咲き誇る
・
物憂げにひらいちゃってる百合の蕊
・
果物が人の顔して熟れている
・
体液のぬるさで浸みる夏の雨
・
発条式の翅ふるわせて夏の蝶
・
何処へとかえるつもりか灯取虫
※青葉闇―木が茂ってその木陰が暗いこと。 木立闇。木の下闇。
※灯取虫―夏の夜、灯火や誘蛾灯に集まってくる蛾をはじめとした虫のこと。火取虫。火入虫。灯虫。火虫。燈蛾。火蛾。火取蛾。燭蛾。夜盗蛾。夜蛾。
コメント0
2009.06.19
詩と呼べるのかどうか。
・
夜九時
知らない香水のにおいをさせて
夫が帰宅した
なんだか疲弊している様子である
立ったままコップ一杯の水道水を飲みほして
すぐさま寝床へ行って横になってしまった
脱ぎ捨てられたシャツをたたんでいるときに
汚れが付着しているのに気づいた
よく見るとそれは汚れではなく
小さな楕円形の卵である
何匹か死んでもいいように
大量にうみつけてあった
なんとなく女の仕業だなと思う
連なった卵のうちのひとつを
爪で削ぎ取ると潰れて
嫌な色の汁が
執着しているみたいに染みを作った
・
昼間
夫が出勤したあとに部屋の掃除をしていると
夫の使っている部屋から
虫の脚がたくさん出てきた
ちりとりで集めて灰皿の中で燃やした
あの人は何に騙されているのだろう
そういえば最近夫からのメールには
いやに句読点が多くて
文章全体が虫に喰われたように見えるのである
考えすぎかもしれない
と思いながら
殺虫剤を部屋中に散布した
・
夫が蜘蛛に抱かれている夢を見て
はっと目を覚ました
手を伸ばすと夫の体はそこにあるのだが
いやにねばねばする
電灯をつけると
夫の体全体が繭につつまれているのだった
そのなかで幸せそうに眠っているのだった
ああ夫は守られている
わたしが守るよりも完璧に
・
その翌日から夫は家に帰らなくなってしまった
電話をすると出るのだが
話している向こう側から
かさかさと
無数の虫の歩きまわる音が聞こえるのである
だんだん人間の言葉も忘れているようで
問いかけると意味のない音を発したり
奇声をあげたりする
子供ができた
と夫は言う
だからもう帰れない
と
うん
とだけ言って電話を切った
そのあと
愛していたのにな
と思ってちょっと泣いた
・
それから
一人でいることにも慣れた
ある雨の降る晩
乱暴にドアーが開けられて
唐突に夫が帰ってきた
無精ひげを生やして
憔悴しきった顔で
玄関口に座った夫は
けっこう好きだったんだけど
やっぱりあれはただの虫だったよ
おれは人間だし
あれは虫だし
なんかもうどうしようもなかった
とつぶやいた
そうか
と答えて黙った
静かに雨が降りしきっている
でもこのまま許すのも癪なので
こんどはわたしが
蝶々とでも浮気をしてやろうと思っている
コメント1
2009.06.16
詩と呼べるのかどうか。
・
陽の差し込む部屋で折り紙を折る
わたしは奴さんしか折れないから
床は色とりどりの奴さんでいっぱいだ
それらは
開いた窓の隙間から吹き込んでくる風で
生きているようにかさかさと
音を立てる
教育おりがみと書かれた折り紙の袋の表には
ヴィヴィッドでいびつな動物が
裏には
鶴の折り方が載っているのだが
どんなにひそやかに折っても
途中でくしゃりと潰れて
首になる筈のところや羽になる筈のところが
不格好に飛び出して
ただの死骸になってしまう
たぶんわたしは
何かを作るというよりかは
壊すために生まれてきたんだろうとおもう
指は細くて不格好な形をしていて
何かを取る時よりも捨てる時の方が素早く動く
その指で折れるのは一番単純な奴さんだけなのだ
折り紙のきれいな色を選り出して
角を合わせて縦横に折る
ふくろになったところを開く
たしか足の折り方も習ったはずなのだが
忘れてしまったから
わたしの折る奴さんはどこにも行けない形をして
ただだまって
友達みたいに横たわっている
・
ナイフで切った傷よりも
紙で切る傷の方が深いらしい
わたしは不器用だったので
学校で使うノートでよく指を切った
2Bの鉛筆で一生懸命書いては
くしくしと消した罫線の
ぼやけた白は暮れてゆく空によく似ている
せんせいは白墨で黒板いっぱいにたくさんの文字を書くから
慌てて写して頁をめくるときにすっと切れる
ひ
と声が漏れるとせんせいがやって来て
木の物差しでたたかれるから
くちびるを噛んで我慢する
学校で覚えて今も役立っているのは
我慢することだけだ
放課後の階段にて
背後から突き落とされたあのときを除き
わたしは一度も泣かなかった
精緻な直線ですっと切り込まれた傷から
わたしのうすぴんく色の中身が露出している
傷ついていることを誰にも知られないように
すばやく机の中に隠した
・
棺という言葉を知ったのは新聞でだった
葬式や惨殺や遺棄なんかも同様で
そのときわたしは
新聞の切り抜きをする宿題をやっていたのだった
子供用の鋏は先が丸いから
裁ち鋏のように
素早くまっすぐに切ることができないのが不満だ
裁ち鋏は大人のいるところでは使わせてもらえなかったから
留守番をしているときなどに母親の裁縫箱から持ち出して
こっそり部屋の隅っこの空気をしょきしょき切った
早く大人になりたいと願いながら
息を止めて新聞紙に鋏を入れる
案外容易く切れるのが面白くて
新聞紙をこまかな断片にするまで止められなかった
幾つもの切り抜きは
まっすぐ切ったつもりなのに
ふよふよと縁が曲がっている
畳の上に散らばった灰色の断片には
そこだけ陰鬱な景色が見える窓みたいだった
太い明朝体の文字は真っ黒くて
檻のような形の
難しい漢字ばかりが並んでいる
なんだか世界が生きにくい場所だということを
おぼろげながら理解できたような気がした
コメント0
FC2ブログ 専門学校